人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2020-12-6 10:10

奥州宇宙遊学館で行われた「はやぶさ2」カプセル分離の中継放映。手前は、来館者から寄せられた応援メッセージ

 日本の小惑星探査機「はやぶさ2」は日本時間の5日、小惑星で採取した物質が入ったカプセルを地球に向け本体から分離、放出した。「玉手箱」の愛称で呼ばれているこのカプセルは、順調に進めば6日未明にオーストラリア南部のウーメラ砂漠に着地、回収される。探査機本体には、国立天文台水沢キャンパス内にあるRISE月惑星探査プロジェクト(竝木則行室長)などが開発した機器も搭載。キャンパス敷地内の奥州宇宙遊学館(中東重雄館長)は5日、カプセル放出の中継動画を放映した。
(児玉直人)

 同探査機は、2014(平成26)年12月に打ち上げられた。目的地の小惑星「リュウグウ」の名称は、おとぎ話『浦島太郎』にあやかったもので、小惑星表面のクレーターや岩にも「ウラシマ」「オトヒメ」といった名前が付けられている。
 地球から約3億km離れた「リュウグウ」に到達した同探査機は、表面や内部の物質を採取。「玉手箱」カプセルに取り入れた。
 探査機本体には、水沢に本拠地を置くRISEなどが開発したレーザー高度計(LIDAR)が搭載されている。レーザー光を小惑星表面に照射し、反射してくる時間から高度を割り出す装置で、物質採取の成功を支えた。
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、同探査機は5日午後2時半、地球まで22万3000kmの地点で衛星本体から予定通りカプセルが分離された。問題がなければ6日午前2時半ごろ、大気圏に突入し、同2時分ごろに着地する。カプセル内に収められた物質は、太陽系の進化や生命誕生の謎を解く研究に活用される。
 一方、探査機本体はカプセルが大気圏に突入する様子を撮影するため、国際宇宙ステーションの軌道よりも低い高度約200〜300kmまで降下。その後、別の小惑星探査に向けて再び地球から離れる。
 宇宙遊学館では、JAXAが提供する中継映像を放映。来館者に「はやぶさ2」への応援メッセージ記入の協力も求めた。茨城県つくば市のJAXA筑波宇宙センターを見学したこともある金ケ崎町立第一小学校6年の稲邑瑛人君(11)は、カプセル分離成功を喜ぶJAXAスタッフの姿を見届け、「無事に成功してとてもうれしかった」と笑顔を浮かべていた。
 同館での応援メッセージの記入は今月25日まで受け付け、画像にしてJAXAに後日届ける。18日から来年1月10日までは、同探査機の運用エピソードをまとめた漫画「こちら『はやぶさ2』運用室」のパネル巡回展を開催する。
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tanko 2020-12-4 10:20
 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)誘致について小沢昌記市長は3日、研究者界や関係する国内外の動向を「大きく進展していると感じられる」と評価。県や誘致組織などと連携し、施設受け入れに向けた準備を進めるとともに、市民の理解普及につなげるため、丁寧な情報発信を今後もしていくと述べた。
(児玉直人)

 同日の市議会12月定例会一般質問で、佐藤郁夫氏(無会派)と及川春樹氏(新奥会)が、ILC誘致の現状認識、今後の誘致活動について市当局の考えをただした。
 今年策定された新しい欧州素粒子物理戦略には、ILCへの期待が明記。当該分野の研究者コミュニティーで組織する「国際将来加速器委員会(ICFA=イクファ)」は、国際準備研究所(プレラボ)を立ち上げるための「国際推進チーム」設立を提言し8月に発足した。これに同調するように北上山地周辺の自治体などは、施設の受け入れに必要な対応を検討する「東北ILC事業推進センター」も設置した。誘致関係者は着実な進展と受け止めている。
 千葉典弘総務企画部長は、関連答弁で「何より大きいのが、米国のエネルギー省と国務省が、省庁横断的にILCを支持した。経済だけでなく、科学分野でも世界をリードするアメリカの政府が初めて支持したのは大きい」と述べた。
 ILCの国内推進母体である高エネルギー加速器研究機構(KEK)は今年2月、文部科学省が策定する「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ(2020)」に係る審査を申請していた。しかし、ICFAの提言など国際的な体制が大きく進展する動きを見据え、3月下旬、申請を取り下げた。
 小沢市長は「ロードマップ申請の取り下げ経緯や状況がよく分からず、誘致実現を不安視する声もあった。市広報や講演会などを通じ、国際的な協力体制ができつつあることを伝えている。今後も機会を捉え、丁寧な説明をしていく」と述べた。
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tanko 2020-12-2 10:40

写真=子どもたちの絵画や作文が展示されている奥州宇宙遊学館

 「宇宙の日」を記念した「全国小・中学生作文絵画コンテスト」の応募作品展が、水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館で開かれている。作品テーマは「50年後の宇宙生活」。子どもたちの想像力あふれる作文や絵画が来館者の関心を呼んでいる。13日まで。
 「宇宙の日」は、日本科学未来館館長などを務めている毛利衛さんが、スペースシャトル「エンデバー号」で初めて宇宙に旅立った日にちなむ。宇宙を身近に感じてもらおうと、文部科学省や宇宙航空研究開発機構(JAXA)、同遊学館など全国の応募協力科学館などが同コンテストを主催している。
 同館に集まった作品は作文3点、絵画19点。新型コロナウイルス感染症の影響もあって、例年より参加は少なかった。全国審査に回る最優秀賞は作文、絵画とも該当はなかった。
 入賞者への表彰式は展示最終日の13日、同館で行われる。入賞者は次の通り。
 【作文】
 ▽優秀賞…眤捨神検弊臑罅若林小3年)▽佳作…神垣歩美(仙台・八幡小4年)
 【絵画】
 ▽優秀賞…眤捨神検弊臑罅若林小3年)▽佳作…佐々木里空(伊手小3年)▽天文台所長賞…星野友佑(常盤小5年)▽天文台賞…山崎玲央奈(伊手小3年)▽理事長賞…児玉煌茉知(金ケ崎小6年)▽遊学館館長賞…和川智輝(伊手小3年)▽遊学館賞…平雅久(金ケ崎小4年)
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tanko 2020-11-29 10:30

写真=ゲームの問題が構内に掲げられている水沢VLBI観測所

 水沢星ガ丘町の国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)は、30日まで観測所構内を利用した謎解きゲーム「宇宙の危機を救うのは君だ!」を開催している。宇宙の謎と日々向き合っている現役研究員らが発案しただけに、じっくり考えないと解けない高レベルな内容。「分からない……」と頭を抱える大人がいる一方で、子どもたちの反応は上々だという。
 毎年夏に行っている観測所の一般公開イベント「銀河フェスタ」が、新型コロナウイルス感染防止のため中止に。代わりに企画したゲームだが、県内の感染状況の動向などを踏まえ、対策を講じてようやく実現できた。
 ゲームの出題内容やシナリオは二つあり、同観測所の田崎文得・特別客員研究員と蜂須賀一也・特定技術職員がそれぞれ考案。構内の奥州宇宙遊学館で解答用紙を入手し、架空の物語に沿って構内見学コース4カ所に掲げられている問題を解いていく。天文学の専門知識を問う出題はないが、テレビのクイズ番組で求められるような「ひらめき」や柔軟な発想が試される。
 全問正解し、くじ引きでも当たりが出ると、プレゼントが贈られる。
 正答率は3割程度。同観測所広報担当の小沢友彦・特任専門員は「『全員正解』とかではなく、あえて難しいものにした」と説明する。「家族や友人が考えを出し合い答えを導いたり、一つの問題を地道に解いて積み重ねたりする作業は、研究者が常に行っていること。謎を解明する大変さと達成感を味わってもらえたら」と話している。
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tanko 2020-11-26 9:20

画像1=天の川銀河の想像図に重ねた224天体の位置と動きを示す矢印。矢印の長さは速度を表しているが、内側も外側もほぼ同じ長さであることから、場所に関わらず各天体の回転速度がほぼ一定であることが分かる((C)国立天文台)

距離や速度 教科書改訂へ結ぶ成果

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)と鹿児島大学天の川銀河研究センター(半田利弘センター長)を中心とする研究メンバーは26日付で、天の川銀河の精密測量に関する研究成果を発表した。同観測所が運用するVERA(天文広域精測望遠鏡)などを用いた観測で、太陽系から天の川銀河中心部までの距離が、国際天文学連合の推奨値よりも近いことが判明。回転速度も含め、誤差が非常に小さい信頼性の高い結果を示すことができた。天体の距離や速度は、天文学研究を進める上で重要な基本情報。研究者らは「教科書の改訂につながるような成果だ」と強調している。
(児玉直人)

 VERAは水沢など国内4カ所の電波望遠鏡を連動させ、天体の位置をより精密に測ることができる。観測局の一つ、鹿児島県薩摩川内市の「入来局」では、地元の鹿児島大の学生らが望遠鏡の保守や見学者対応に協力。観測や研究にも直接かかわっている。
 今回の成果は日本天文学会欧文研究報告(PASJ)の「VERA特集号」で発表された。VERA4局の観測でこれまでに得られたデータは99天体分。これに世界各地の電波望遠鏡で観測した分を加えた224天体の位置データを使用し解析した。
 その結果、地球がある太陽系から天の川銀河中心までの距離は2万5800光年(1光年=約9.5兆km)であることが判明。1985年に国際天文学連合が定めた推奨値2万7700光年より1900光年近いという。
 各天体の移動速度は平均して秒速227km。銀河中心部に近い場所も、太陽系より外側のエリアもほぼ一定だった。理由として、正体不明の物質「暗黒物質(ダークマター)」の存在が影響していると言われている。
 今回判明した距離や速度の誤差は5%程度で、信頼性の高さを裏付けている。天文学研究では、天体の距離や移動速度は重要な情報。研究の積み重ねが必要ではあるが、今回の成果は天文学関連の教科書改訂に結びつく可能性があるという。
 このほか、星の集団が渦巻きを描く「銀河の腕」の本数が4本であることも判明。天の川銀河の構造がより解き明かされた。



画像2=VERAプロジェクトの最新成果をまとめた論文が掲載されたPASJの表紙。水沢など4カ所の観測局の名称が英字で表記されている


 同観測所は今年、予算削減問題が注目されたが、論文のとりまとめや成果発表はそれとは直接関係なく、もともと予定されていたもの。ただ、25日の記者会見では同問題に絡めた質問も相次いだ。
 本間所長は、市民有志によるVERA存続を求める署名が24日に文部科学省に提出された件に触れながら、「いろいろな方々に支えてもらっているのを感じた。基礎科学研究は地道に成果を積み上げていくもの。そのためにも、安定した研究環境が大切になる」と話している。
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tanko 2020-11-25 9:40

写真=三谷英弘政務官(左から2人目)に署名簿を手渡す、小野優市議(同5人目)ら(VERAサポーターズクラブ提供)

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA)について、文部科学省の三谷英弘政務官(自民党、衆院神奈川8区)は24日、当初計画にある2022(令和4)年度までは、着実に運用できる予算を確保していく考えを示した。同日、同観測所の研究を支援する民間団体「VERAサポーターズクラブ」(木村隆代表)が集めた1万6548筆の署名提出を受けて明言。2022年度以降についても、「研究者コミュニティーでしっかり意見集約し、検討するよう促したい」とした。
(児玉直人)

 この日は本県から、署名呼び掛け人として名を連ねている小野優・奥州市議のほか、署名活動に協力した花巻ロータリークラブの橋川秀治副会長、螳ど製作所=北上市=の阿部紀子専務が上京。さらに、VERA観測網の一つ「石垣局」がある沖縄県石垣市の八重山青年会議所の上地誠・直前理事長も合流した。
 署名簿の提出には、藤原崇氏(自民、衆院比例東北)、文科省研究開発局の生川浩史局長らも同席。小野市議らは「ブラックホールの撮影成功を機に、天文台への興味関心が、子どもから大人まで高まっている」「この先まだ年使える装置。有効活用してもらいたい」などと訴えた。
 小野市議によると、三谷政務官は予算確保にしっかり取り組み、少なくとも当初運用計画で示された2022年度まで、予算削減しない方向で進めたい意向を示したという。
 署名は、提出直前の集計段階で1万6344筆だったが、さらに200筆余り加わった。
 VERAは水沢、石垣、鹿児島、小笠原諸島父島の4カ所に同一仕様の電波望遠鏡を設置。連動させて同じ天体を高い精度で観測している。近年は東アジア観測網の一翼も担っており、特に日本のVERAの存在は観測精度の面からも重要度が高い。
 国立天文台執行部は昨年12月、観測所予算の大幅削減方針を観測所側に通達。今春、市民にも知られるところとなり、署名や寄付などの形で支援する動きが広がっていた。
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tanko 2020-11-18 9:30
 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA)の運用継続を求める署名が、1万6344筆に達した。目標の1万筆をはるかに上回る成果。知らせを受けた本間所長も驚くほどの数で、多くの人たちが同観測所の研究に期待を寄せていることをうかがわせる。署名活動を展開した「VERAサポーターズクラブ」は、24日に東京の文部科学省を訪れ提出する。
(児玉直人)

 署名運動は、同天文台執行部がVERAの運用終了と、観測所予算を半減する方針を打ち出したのがきっかけで始まった。その後、本年度分の運用予算は確保できたが、研究内容の見直しを余儀なくされた。来年度以降の安定運用の保証はなく、不安が残る状況だ。
 120年余りの歴史があり、近年はブラックホール関連の研究などで大きな実績を上げている同観測所。窮地を何とか救おうと、地元天文ファンによる同クラブが、市民有志らの賛同を得ながら署名を集めていた。
 街頭やインターネットのほか、VERA観測網の一つ「石垣局」がある沖縄県石垣市の高校生たちも現地で署名活動を実施。同観測所と縁がある宮沢賢治(童話作家、花巻市出身)や田中舘愛橘(地球物理学者、二戸市出身)の故郷からも協力があった。
 24日は、署名活動に賛同している小野優・奥州市議らが上京。萩生田光一文科相宛てで署名を提出する。
 同クラブの木村隆代表(49)=金ケ崎町三ケ尻中荒巻=は、「目標を達成できたのが何よりうれしい。水沢だけではなく、石垣にまで賛同の広がりがあった。これを終わりとせず天文台と地域との交流のスタートにしていければ」と話す。
 本間所長は、集まった署名の数に驚きながら「これだけ多くの人たちが、われわれを応援してくれていることを表す数字だ。その大きさに感激しており、署名活動に関わったすべての皆さまにお礼を申し上げたい。皆さんの期待に応えられるよう、これからも研究をさらに頑張っていきたい」と気を引き締めている。
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tanko 2020-11-18 9:30
 岩手県が素粒子物理学者と共に北上山地への誘致を進める地下実験施設、国際リニアコライダー(ILC)について、県ILC推進局ILC推進監の植野歩未氏は17日、市役所本庁3階講堂で講演した。国際推進チーム(IDT)や東北ILC事業推進センターの発足、欧米からの支持などを背景に、実現に向けた準備が着々と進められていることをアピール。有力候補地である同山地周辺自治体などによる受け入れ態勢の協議が行われている点などについて、「日本政府の次の意思表示の後押しにもなる」と強調した。
(児玉直人)

 植野氏は、市ILC推進連絡協議会(会長・小沢昌記市長)総会後の講演会で登壇。同協議会会員団体の関係者のほか一般にも公開され、約20人が聴講した。
 ILCの国内推進母体である高エネルギー加速器研究機構(KEK)が、文部科学省に提出した「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ(2020)」に係る申請を取り下げた点について、植野氏は「申請直後にILCの国際協力体制を巡る動きに進展が見られた」とするKEKの見解を紹介した。その上で「3月に取り下げた事実を9月に公表したのが問題となった。一部研究者が謝罪した」と説明した。
 ロードマップへの掲載など文科省がILC実現のために当初示していた「正式プロセス」は、研究者サイドから提示する「ボトムアップ型」と呼ばれる仕組み。だが植野氏は、文科省の公開資料を基にしながら、「ロードマップで取り扱う事業の予算枠は300億円程度。そもそも8000億円という規模のILCは、この枠組みに最初から入らない」と指摘した。
 一方で、昨年日本が参加を決めた米国主導の有人月探査「アルテミス計画」のように、政府が能動的に決めていく「トップダウン型」という手法もあり、「こちらのやり方で進められていくのではないか」との見解も示した。
 アルテミス計画のほか、国際宇宙ステーションや国際熱核融合実験炉などもトップダウンの例だと植野氏。いずれも他国が主体的に行っているプロジェクトに日本が参加してきたが、「ILCは(実現すれば)省庁横断で取り組み、初めて日本がホストするプロジェクトになり得る」とした。
 ILC実現の可能性を感じさせる動向も列挙。新しい欧州素粒子物理戦略では、ILCへの期待が明記された。米国ではエネルギー省を中心としてきたILCの対応に、国務省も加わった。省庁横断的にILCへの強力な支持が打ち出されている。
 北上山地周辺に目を向ければ、東北ILC事業推進センターの発足により岩手県南、宮城県北の市町を交えながらの受け入れ態勢協議が進む。
 「研究者組織や産業界だけでなく、欧米の政府機関、東北の候補地の動きは、着実に日本政府の後押しになっている」と植野氏。「『ILCが正式決定していないのに、なぜこういう組織ばかり作っているのか』という質問をいただくが、『東北はここまで準備しているんだ』という強い意志を示すのも、誘致実現を進める上での一つの戦略だ」と強調した。
 まとめで植野氏は、「8月にIDTが発足し、1年半で次のステップである『ILC準備研究所』の設立に入る。それまでの間に、日本政府からまた新たな意思表示が出ることを期待したい。奥州市は国際交流協会による医療通訳が積極的に行われるほか、国立天文台の存在によるサイエンスへの理解がある土地柄。ILC計画に対しても早い段階からアプローチしていた。まちづくりビジョンの具体化などをぜひ進めてほしい」と呼び掛けた。
 一般聴講者からは、ILCの安全性についての質問が出た。植野氏は「粒子ビームが最終的に到達する『ビームダンプ』と呼ばれる設備で、放射性物質のトリチウムが発生するため、外部に流出しないよう厳格な対策が講じられる。年明けには、安全対策に関する解説セミナーを予定している」と答えた。

写真=ILCの最近の動向について説明する県ILC推進監の植野歩未氏
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tanko 2020-10-28 11:10


左上から右へ、緯度観測所長の木村栄(1899年9月〜1941年4月《臨時緯度観測所時代含む》)、川崎俊一(1941年4月〜1943年1月)、池田徹郎(1943年1月〜1963年5月)、奥田豊三(1963年5月〜1976年6月)、坪川家恒(1976年6月〜1986年3月)。国立天文台地球回転研究系主幹の若生康二郎(1988年7月〜1991年3月)、笹尾哲夫(1991年4月〜1993年3月)、横山紘一(1993年4月〜2000年3月)、河野宣之(2000年4月〜2002年3月)、真鍋盛二(2002年4月〜2004年3月、2004年4月〜2006年3月は国立天文台水沢観測所長)。国立天文台水沢VERA観測所長の小林秀行(2006年4月〜2010年3月)。国立天文台水沢VLBI観測所長の川口則幸(2010年4月〜2014年3月)、本間希樹(2015年4月〜 )=敬称略
★注1…1988年7月から2004年3月は「地球回転研究系」と「水沢観測センター」が併設され、「地球回転研究系主幹」が所長に相当する役割を担った。
★注2…1986年4月〜1988年6月は細山謙之輔、2014年4月〜2014年11月は小林秀行、2014年12月〜2015年3月は高見英樹の各氏が所長事務取扱者を務める。


 木村榮記念館の管理を担当する国立天文台水沢VLBI観測所の亀谷收助教は「木村博士は当時、最も著名な科学者の一人だった」と語る。連載の最終回にあたり、木村博士にまつわるエピソードなどに触れたい。


写真=水沢図書館に保管されている木村栄博士8歳の時の書(原物)

 木村博士は金沢市の篠木家に生まれ、1歳で親戚の木村家の養子となる。塾を開設していた木村家では、朝から晩まで勉強漬けの日々。その一端をうかがわせるものが、奥州市立水沢図書館に保管されている。4歳と8歳の時の書で、子どもが書いたとは思えないほど達筆だ。複製品は同記念館に展示されている。
 臨時緯度観測所長として赴任したのは29歳という若さ。その当時の有名な逸話が「ベロリでがす」だ。
 観測所予定地に足を運んだ木村博士は、案内人の水沢町長(当時)に、どの辺が使える土地なのか尋ねた。町長は「この辺、ベロリでがす」と答えた。木村博士は、町長のなまり言葉が理解できず、「ここはベルリンというのですか!」と驚いたという。観測所の歴史を調査・研究している一橋大学社会科学古典資料センターの馬場幸栄助教は、木村博士の水沢赴任までの時間的経過などから、「ベロリでがす」と語った当人は、第5代町長の柳沢高令氏(在任1899年5月2日―1901年3月13日)と推測している。
 1941(昭和16)年4月、木村博士は緯度観測所を退官。2年後の43年9月26日、東京世田谷の自宅で72年の生涯を閉じた。多磨霊園の木村家墓誌には「理宙院殿釋旻榮大居士」の戒名が刻まれている。


写真=書をしたためる木村栄博士。池田徹郎・3代所長の随筆『めたせこいや』によると、所員や市民から書を求められることが多かった木村博士は、自分の誕生日になると朝から所長官舎でまとめて揮毫していた。奥の間に書き終えた大量の書が見える=(C)馬場幸栄

 退官直後、木村博士は「科学する心」と題し講話。その肉声が残っており、次のようなことを語っている。
 〈「科学する心」は子どものうちから、ちゃんとある。しかし、成長するに従って「科学する心」は減っていく。また「星の研究をしなければ、科学する心じゃない」という人もいるが、それは間違っている。商売一つにしても、何かを作るにしても必ず「科学する心」を持たなければいけない〉
 「今の時代にも通じるものがある」と亀谷助教は、肉声を聞きながらしみじみと語る。
 緯度観測所は88年、東京天文台、名古屋大学空電研究所と統合し、国立天文台に改組される。
 観測対象や手法も時代とともに変化。夜間観測に限られていた光学式望遠鏡から、昼夜問わず観察できる電波望遠鏡が主力に。地球の動きを研究対象にしていたが、現在は地球から遠く離れ自ら姿を見せない「ブラックホール」の謎に迫っている。本間希樹所長はじめ天文台関係者は、木村博士が水沢で花開かせた科学者精神を受け継ぎ、今日も研究にいそしんでいる。
(おわり)
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tanko 2020-10-27 13:40

写真=大きく「×」印が書かれた観測野帳(左)と、きれいに清書された観測野帳(右)

 国立天文台水沢VLBI観測所の敷地内には、緯度観測所開所当時の観測記録や天文学に関する国内外の専門書などを保管する図書館がある。一般には公開していないが、VLBI観測所の亀谷收助教が特別に案内してくれた。
 亀谷助教が最初に見せてくれたのは、黒い表紙の冊子。観測時のデータを記録した観測野帳の原物だ。
 その一冊の最初のページには「Dec.16」とあり、観測データの数字がきれいに記されている。もう一つ、別な野帳には「December 16」と筆記体で記され、同様の数字が並んでいるが、最初の野帳のように整った書き込みではない。記載事項を訂正するかのような線が乱雑に引かれ、さらに大きく「×」と書いてある。
 Decemberは英語で12月。Dec.はその略記。「12月16日とは1899年、明治32年の12月16のことで、木村栄博士が水沢での観測を最初に行った日です」と亀谷助教。「おそらく、観測現場で書き込んだものを後で清書したんでしょう」と語る。木村榮記念館では、整った数字が並ぶ清書された方のコピーを公開している。


写真=国内外の論文集や書籍がぎっしり並ぶ水沢VLBI観測所の図書館

 真冬の水沢で始まった緯度観測。地球の自転軸のふらつき(極運動)によって生じる緯度変化を詳細に研究するのが目的だった。ところが観測開始からしばらくして、ドイツの中央局から「水沢の観測結果は誤差が大きい」と指摘を受けた。
 その指摘内容は論文にまとめられ、1901年7月、ドイツの専門雑誌『アストロノミシェ・ナハリヒテン(Astronomische Nachrichten)』に掲載された。同雑誌は天文学分野初の国際学術雑誌で、創刊から約200年たった現在も発刊され続けている。
 論文を書いたのは、中央局長だったカール・テオドール・アルブレヒト(1843〜1915)。当時の雑誌が図書館に保管されている。「水沢の全観測結果は他の観測局の結果とほとんど一致しておらず、この観測所の外乱が原因だと疑う余地はありません」などと記されている。
 指摘を受けた木村博士は、悩みながらも研究を続けた。その結果、全ての観測地点で季節により緯度が大きくなったり、小さくなったりしているのに気付いた。当初「Δφ = x cosλ + y sinλ」と表されていた緯度変化を表す式に、木村博士は謎の緯度変化を示す値(項)を加えた。すると誤差は小さくなった。
 その加えた項が「Z項」なのだが、最初から「Z」と記されていたわけではない。木村博士は、科学や数学で「未知数」を表すのに用いるギリシャ文字「ξ(グザイ)」を当てていた。
 アルブレヒトの指摘が雑誌に掲載された約半年後の1902年1月、木村博士は『アストロノミシェ・ナハリヒテン』などに、いわゆる「Z項の発見」に関する論文を発表した。記載された式は「φ − φ0 = ξ + x cosλ + y sinλ」となっているが、ほどなくして「Δφ = x cosλ + y sinλ + Z」の式が使われるようになった。


写真=ドイツの専門雑誌に掲載された木村栄博士の論文。謎の緯度変化を示す項には当初「Z」ではなく「ξ」を使っていた

 水沢VLBI観測所の名前を一躍有名した「ブラックホール」は、かつて「崩壊した星」を意味する「collapsar(コラプサー)」などと呼ばれていたという。今、それを知る人は天文学によほど詳しい人ぐらいではないだろうか。
 ギリシャ文字の「ξ」は、「グザイ」のほか「クサイ」「クシー」とも発音するという。現在、水沢地域の至る所で、木村博士の功績にあやかり「Z」の名がついた施設や組織を目にするが、もし「ξ」のままだったら……。
 ※…新聞表記では、木村の名前は常用漢字の「栄」を使用していますが、記念館の正式名称は旧漢字の「榮」を使用しています。

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