人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2022-12-29 9:00
 北上山地が有力候補地とされる素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の実現を目指す素粒子物理学者らは、実験装置の技術開発を行う新組織「ILCテクノロジーネットワーク(ILC TN)」を立ち上げる。国内外の研究所の連携体制を構築し、重要度の高い技術課題の解決などを優先的に進める考えだ。(児玉直人)

 研究者側は当初、早ければ本年度中にも日本誘致を前提とした準備研究所(プレラボ)開設を想定していた。しかし、文部科学省ILC有識者会議は今年1月、日本誘致を前提としたプレラボの設置は「時期尚早」との見解を提示。研究開発戦略の練り直しが求められていた。
 特に施設設計などいわゆる「サイト問題」は、建設場所が定まっている上で進められるもの。研究者側は本県南部の北上山地を有力候補地と位置付けているが、日本政府が正式に認めたものではない。国際的な費用分担などの枠組みが見えない限り、サイト問題には手を付けられない状況にある。
 研究者側は「ILC TN」を立ち上げ、実験装置の技術開発や課題解消など、サイト問題に依らない部分の取り組みに当面は力を入れていく。財政難や新型コロナウイルス、ウクライナ情勢などもあり、政府間協議開始の見通しは不透明。そんな状況の中、当該分野の研究や技術開発の流れを停滞させたくないとの思いもうかがえる。
 「ILC TN」では、プレラボで実施する予定だった作業のうち▽電子と陽電子の粒子を光速状態にまで加速する「超電導加速空洞」▽陽電子の発生装置▽粒子ビームの絞り込み││に関する課題に取り組む。ILCを推進する国内研究者組織「ILC-Japan」、高エネルギー加速器研究機構などが中心となり、世界の研究所が連携して活動していく。
 ILC-Japanで共同研究部門座長を務めている、広島大学大学院の栗木雅夫教授は「本当は立地に関する取り組みも進めたいが、そこにまだ着手できない現状がある。技術開発などやれるところから優先的に進めていこうとなった」と説明している。
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tanko 2022-12-7 18:50


写真=天文台の今昔を感じさせる特集や記事が掲載されている「国立天文台ニュース」の最新号

 国立天文台(常田佐久台長)が発行した最新の情報誌「国立天文台ニュース」第338号(2002秋号)は、「天文台のあるまち水沢」の今昔を知る読み応えある構成となっている。「ブラックホールの謎に迫る」をメイン特集とし、同天文台水沢VLBI観測所が関係するブラックホール(BH)研究の最新情報、観測所敷地内にあるスーパーコンピューター(スパコン)「アテルイII」による研究成果などを紹介。さらに、旧水沢緯度観測所時代に活躍した知られざる所員の功績にも触れており、苦労しながらも自らの進むべき道をひらいた地元出身の若者たちの思いが垣間見られる。(児玉直人)

 BH関連記事は、VLBI観測所の本間希樹所長や秦和弘助教、同観測所で研究業務に従事している東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(株)の田崎文得さんらが担当。「アテルイII」については、同天文台科学研究部の町田真美准教授が執筆し、BH研究でスパコンがどのような役割を果たしているかを解説した。
 最新の研究成果とともに、水沢の過去の功績に関する記事も掲載。国立科学博物館科学技術史グループ研究員の馬場幸栄さんは「白黒写真で見る緯度観測所の所員たち」と題し、VLBI観測所の前身である旧緯度観測所で活躍した人たちを取り上げた。
 同天文台学芸員だった馬場さんは2015年9月、VLBI観測所内の一室で無整理のまま保管されていたガラス乾板写真を発見。以来、復元プリントした写真から得られた情報を一般公開し、地域住民への聞き取りなど地道な調査を実施した。その結果、今まで広く知られていなかった研究分野以外の一般所員の名前や功績に光を当てることができた。
 初代所長の木村栄博士は、組織運営でも優れた才能と先見性を発揮。地元の女性たちを積極的に採用していた。それを裏付けるように、写真には袴姿の女性が多数見られた。
 女性所員の飯坂タミ子さんは14歳の若さで観測所に就職。一度も計算ミスをしたことがなく、同僚から「計算の神様」と呼ばれた。
 飯坂さんの後輩、寺島倭子(しずこ)さんは家計を支えるために観測所に就職。3代目所長の池田徹郎氏が開設していた無料塾「池田教室」で数学を学んだ。
 当時は経済的な理由で進学できなかった人も多く、池田氏は向学心ある若者の育成に尽力した。さらに「結婚や妊娠、子育てのために女性が仕事を辞める必要はない」と、寿退社の慣例を疑問視。寺島さんは結婚後も短い期間ではあったが仕事を続けたという。
 馬場さんは「緯度観測所の存在を風化させないことも大切だし、木村博士以外の所員たちの活躍にも注目し、正当に評価されるべきだ。経済的理由や性別を背景に進学ができなかったり、希望する仕事に付けなかったりした当時の人たちと同じ境遇が、今の時代の若い人たちの中にもある。当時の人たちの姿に触れてもらうことで、自信や希望に少しでもつながれば」と話している。
 最新号の情報誌はPDFデータでも公開されており、同天文台ホームページで閲覧、入手ができる。

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