人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2024-5-21 9:31

写真=米国の向こう10年の素粒子物理戦略が記載されている提言書「P5」

 昨年12月、米国の素粒子物理学戦略「P5(ピーファイブ)」が公表された。本県などが誘致を目指す「国際リニアコライダー(ILC)」は、同様の実験施設として欧州合同原子核研究所(CERN(セルン))が検討している次世代円形衝突型加速器(FCC-ee)との併記が目立つ。「最優先事項」には、米国が既に着手している他プロジェクトの完全なる実現が掲げられている。
(児玉直人)


日本人が委員長
 P5は、素粒子物理学に関する米国の諮問委員会「Particle Physics Project Prioritization Panel」のこと。同時に、同委員会が米国エネルギー省と全米科学財団に示す、向こう10年の戦略をまとめた提言書の通称でもある。
 今年4月22日、県庁で開かれた県ILC推進本部会議で本部長の達増拓也知事は、今回のP5について「米国が貢献するプロジェクトの選択肢として、ILCと欧州のFCC-eeが多額の予算規模とともに掲載された。改めて、ILCが世界的に実現性の高いプロジェクトであると評価され、実現に向けた動きの進展が期待されていると感じた」と所見を述べた。
 では、実際にP5にどのような形でILCが掲載されているのか。P5の原文を入手し内容を読み取るとともに、策定作業の委員長を務めたカリフォルニア大学バークレー校教授の村山斉(ひとし)氏にオンライン取材した。

それぞれに一長一短
 概要を見ると「米国はヒッグスファクトリーの設計研究に積極的な関与をし、実現可能性調査が終了した後は、欧州で稼働している円形加速器『LHC』の参加に見合ったレベルの支出を推奨する」という趣旨の文章が出てくる。ただし、概要に「ILC」の3文字は出てこない。提言全文が約160ページにわたって書かれた詳細版の中ごろに登場する。前回のP5では単独で取り上げられていたILCだが、今回はFCC-eeと共に「海外に造るヒッグスファクトリー」というくくりで記載されている。
 FCC-eeは、CERNが検討している巨大な円形加速器。スイスとフランスの国境をまたぐ周長約100kmの地下施設で、ヒッグス粒子を検出したCERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)より4倍大きい。
 ILCは直線、FCC-eeは円形という違いはあるが、どちらもヒッグスファクトリーの候補施設。物質に重さを与える素粒子「ヒッグス粒子」を工場(ファクトリー)のように大量に生成し、その性質を詳細に研究するのが目的だ。
 村山氏は「前回、FCC-eeは議論の俎上(そじょう)になく、2020年策定の欧州素粒子物理戦略で初めてプロジェクトの認定を受けた。ILCにFCC-eeが追いついてきたとも言える」と語る。
 「ヒッグスファクトリーは、ぜひとも実現させたいプロジェクトだ」と強調する村山氏。だが、ILCは日本政府が動きを見せておらず、世界的に期待が薄まっている。本県の北上山地へ誘致する動きはあるが、グローバル・プロジェクトとして議論が進んでおり、日本に来るかどうかも全く決まっていない。
 FCC-eeは研究者で議論している段階で、CERN加盟国が承認したわけでもない。しかもILCの倍以上の資金が必要。実現できたとしても2040年代の終わりごろだ。村山氏は「どちらにしても不確実な状況があるので並列で扱った」と説明する。



最優先は着手済み事業
 今回のP5で、将来的に取り組む事業の筆頭に記載されたのは、宇宙と物質の成り立ちを探る「CMB-S4」。2番目は、電子よりも軽い素粒子・ニュートリノを解明する実験施設「DUNE(デューン)」のアップグレードで、3番目がヒッグスファクトリーだ。
 村山斉氏は「P5は素粒子物理だけでなく宇宙論的な分野も含め、広範囲の科学プロジェクトを取り扱っている。ヒッグスファクトリーは3番目ではあるが『新しく作る加速器の実験』という区分の中では1番目だ」と語る。
 だが、これら将来的事業よりも前段で“最優先”と強調されたのが、ここ10年以内に米国内外で着手・参画した7事業の完全なる実行だ。「アメリカの場合、常に最優先だと言わないと、政府や議会は『じゃあこれはやめていいね』と解釈する。継続の価値があるかちゃんと判断し、続けるのであれば『最優先』とするのがアメリカのやり方」(村山氏)。
 将来のアップグレードでも優先順位が高いDUNEは、既に第1段階の実験を行うための建設工事が始まっている。つまり着手・参画済み7事業の一つだ。ところが、悩ましい問題に直面している。米国の科学誌「フィジックス・トゥデイ」「サイエンティフィック・アメリカン」によると、当初18〜19億ドルと見込まれた検出器関連のコストは、31億ドルに増加。2026年の実験開始予定も2031年にずれ込む見通しだ。それでも「完全なる実行」を求める背景には、科学史に残る大失敗「超電導超大型加速器(SCC)」のトラウマがあるためとの指摘もある。
 SCCは実現すれば世界最強の素粒子実験施設になっていた。テキサス州の原野に計画され、実験装置を据える地下トンネルの掘削工事が2割以上進んでいた。しかし大幅なコスト増や人材確保難などを引き起こし、1993年に中止が決定。施設の巨大化と高コスト化が進む素粒子物理学界で、SCCの失敗は長く教訓とされている。
 DUNEは国際的な協力も得てゴーサインが出ており、SCCと同じような状況に至れば大惨事の再来を意味するという。

次の手も視野に
 ヒッグスファクトリー建設地の座を他国に譲った米国。一方で新たな衝突型加速器「ミューオン加速器」が今回のP5では目立っていた。一時は見放されたアイデアだったが、ここ最近急激に注目を集めているという。
 ILCは確かに今回策定のP5に掲載はされているが、多種多様にあるプロジェクトの中の一つであり、ライバル計画も存在する。P5はあくまで米国の戦略だが、その他の国や地域も限られた予算、人員の中で、最適な選択を常に求められている。またDUNEやかつてのSCCのように、ゴーサインが出た事業であっても難題にぶつからないとは言い切れない。誘致を期待するILCについても、冷静な視点を保つことが求められるであろう。
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tanko 2024-5-1 18:40

写真=所長室で蜂須賀一也さん(右)の説明を聞くツアー参加者たち

 旧緯度観測所時代の建造物を巡る「今日は特別!天文台お宝ツアー」が、水沢星ガ丘町の国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)で行われている。国登録有形文化財にもなっている建造物を身近に感じてもらう取り組み。次の開催は3日から6日で各日5回、所要時間は30分。奥州宇宙遊学館の入館料(一般300円、高校生以下150円)だけで参加できる。
 緯度観測所はVLBI観測所の前身。天頂を通過する星の位置を観測することで、地球回転のふらつきを調べるのが目的だった。日本が初めて参加した国際研究プロジェクトでもあった。
 ツアーで見学するのは、1899(明治32)年に「臨時緯度観測所」として開設した当時に建てられた眼視天頂儀室と、翌年に完成した初代本館(現・木村栄記念館)。老朽化が著しかった天頂儀室の修復工事が終了したことから、宇宙遊学館とVLBI観測所が連携し、4月27日からの大型連休に合わせ企画した。
 案内役は同観測所特定技術職員の蜂須賀一也さん(52)。同記念館など観測所の文化財管理にも従事している。
 「正確な観測を行うため、冷暖房がない状態で夜間の観測に臨まなければならなかった」と、蜂須賀さんは当時の苦労話を紹介。天頂儀室では、望遠鏡に振動を与えないよう、特殊な構造になっている土台の様子も公開した。群馬県から訪れた中村修さん(64)は「初めて来たがとても楽しめた」と満足そうだった。
 蜂須賀さんは「観光で遠方から来られた方だけでなく、ぜひ地元の皆さんにも見てもらい、木村の偉業や天文台のことを知ってほしい」と話している。
 ツアー実施時間は午前10時、同11時、午後1時、同2時、同3時の各日5回。定員は1回当たり10人(先着順)で、整理券を遊学館で配布している。
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tanko 2024-4-23 9:00

写真=県ILC推進本部会議であいさつする達増拓也知事

 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致を目指す県は本年度、国民的な機運醸成を強力に推進し、ILC誘致実現につながる日本政府の前向きな判断を後押しする。欧州合同原子核研究機構(CERN)が計画している次世代円形衝突型加速器(FCC-ee)の動向を踏まえた対応。22日に県庁で開かれた県ILC推進本部(本部長・達増拓也知事)の本年度第1回会議で、具体的な取り組みなどを確認した。
(児玉直人)

 県は昨年4月に、高エネルギー加速器研究機構の山内正則機構長(当時)が超党派国会議連拡大総会で述べた講演などを基に、ILC実現へ向けた流れを把握。同講演では、日本政府の誘致判断のタイミングとして、FCC-eeの実現可能性調査の結論が出る2025(令和7)年が一つのめどになるとの説明があったという。
 県はこのタイミングを重視。これまで実施してきた機運醸成を拡充させ▽著名人や多様な人脈を活用したイベントの開催▽効果的なメディア展開――などで、普及啓発活動を強化する。具体的には、東京大学で7月上旬に開かれる加速器関連の国際会議の場などを活用し、情報発信を行う。
 同本部会議で達増知事は「ILC実現を見据え、全庁挙げてプロジェクトを推進していく必要があり、各部局が一層連携を図ってほしい」と幹部職員に呼びかけた。
 FCC-eeはILCと同様に電子と陽電子を衝突させ、物質に重さを与える素粒子「ヒッグス粒子」を大量に生成できる大型実験施設。フランスとスイスの国境地域に建設する計画だ。ILCが全長約20kmの直線トンネルの中心に検出器を置いて衝突実験を行うのに対し、FCC-eeは周長約90kmの円形地下トンネルに加速器を配置し、円周の途中に配置した検出器で衝突現象を調べる。
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tanko 2024-4-11 9:20

写真=ピーター・ヒッグス氏 (C)CERN

 物質に質量(重さ)を与えている素粒子「ヒッグス粒子」の存在を予言した理論物理学者ピーター・ヒッグス氏が8日、英国の自宅で死去した。94歳。博士が名誉教授を務める英国エディンバラ大学は9日に発表した。ヒッグス氏は生前、北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)に関する講演に登場したこともあった。
 ヒッグス氏は英国出身。1964年、全ての物質に重さを与える素粒子の存在を理論的に予言。氏の名前から「ヒッグス粒子」と命名された。
 2012年、スイスとフランスの国境にある実験施設「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」でヒッグス粒子の検出に成功。理論の正当性が証明され、ヒッグス氏は翌年、ノーベル物理学賞を受賞した。2020年2月、日本のILC誘致団体などが主催するシンポジウムにビデオ出演。「ILCは日本がリードする立場となっている計画。地元経済にも効果をもたらすだろう」などと述べていた。
 素粒子物理学者の間ではヒッグス粒子の詳細研究を行うため、ヒッグス粒子を大量に発生させる実験施設「ヒッグスファクトリー」の建設を求めている。ILCのほか、LHCの近くへの建設が検討されている「FCC−ee」など複数の計画がある。
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tanko 2024-3-31 11:00

写真=いわてILC加速器科学推進会議総会に合わせて開かれた講演会

 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の民間誘致団体、いわてILC加速器科学推進会議(海鋒守代表幹事)の定期総会と記念講演会が30日、水沢佐倉河のプラザイン水沢で開かれた。県ILC推進局でILCコーディネーターを務める大平尚氏が「地球村創生ビジョンとILC」と題し講演した。一般財団法人国土計画協会が策定した同ビジョンを紹介するとともに、ILCを巡る最近の動向を解説。将来加速器に関する文部科学省と内閣府の省庁横断型連絡会議がつくられたことに触れ、「これを本気でやってくれればと思う。政治による後押しで活発に動いてもらいたい」と期待を込めた。
(児玉直人)

 同会議は本県南部の北上山地にILC誘致を実現し、市民や産業界レベルで科学的な風土醸成を目指そうと、2012(平成24)年1月に発足した民間のILC誘致団体。NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター(大江昌嗣理事長)にILC出前授業の講師派遣や事務処理委託などを行いながら、ILCの理解普及、関係団体と連携した早期実現に向けた活動を展開している。
 記念講演で登壇した大平氏は、県職員の立場で長年ILC誘致に携わってきた一人。講演では同ビジョンの紹介に先立ち、ILC誘致を巡る経過を振り返り、最近の動向を紹介した。
 1980年代に現在のILC計画へと結び付く動きが始動。国際プロジェクトとして、世界中の素粒子物理学者らが実現に向けた技術開発などを進める中、日本では2013年に国内の素粒子物理学者らが国内建設候補地として、本県南部の北上山地を選定した。
 「北上か九州かという構図になり、一番盛り上がった時期。決定を受け、とんとんと物事が進むかと思っていた」と大平氏。その後、日本学術会議や文科省有識者会議から慎重論が相次ぎ、新型コロナウイルス禍の影響もあり、研究者サイドが場所決定をしてから10年以上経過した現在も、誘致を大きく前進させるような動きに至っていないのが実態だ。
 有識者会議等の指摘事項に対し、国際将来加速器委員会(ICFA)などは、ILCは技術的に確固たるものに成熟しており、候補地は日本であると認識している││といった反応を示していると解説。「世界中の研究者は有識者会議の見解に対し『何をいまさら』という見方になっている」と述べた。
 ILC計画とともに、フランスとスイスの国境にある素粒子実験施設「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」の後継施設として、「FCC−ee」と呼ばれる周長90kmの円形加速器計画も検討されている。大平氏は「ILCは技術設計まで出来上がっているが、FCCは概念設計までの段階。建設費もILCが約7800億円であるのに対し、FCCは2.1兆円だ」と説明。その上で「ICFAはヒッグス粒子を精密に調べる『ヒッグスファクトリー』の整備を目指したいため、ILC以外の計画についても言及している。『日本が動かないなら他をやる』という状況でもある。『ILCが一番いいよね』という考えもあり、日本のやる気を見せることが大事だ」と強調した。
 研究者側が進める技術開発の加速に期待を込めるが、それ以上に政府や政治に対する期待が大きいという。今月、国会のILC推進議連総会があり、内閣府と文科省が情報共有する連絡会議が立ち上がったことに触れ、「省庁横断の調整を図る一歩になる。本気でやってほしい」と述べた。ただ国会ILC議連会長が、自民党の政治資金パーティーの裏金問題の渦中にいる塩谷立・元文科相であり、今後の進展に不安をのぞかせた。
 後半で紹介した地球村創生ビジョンは、「世界中からさまざま人々が集い、課題解決に向けて挑戦する場所」を日本国土の中に描こうとするもの。その核となるプロジェクトにILCが位置付けられている。大平氏は「ILCは真理探究のプロジェクト。地域活性化という枠組みだけではなく、人類共有の施設として地球的規模の課題に活用される施設だ」と訴えた。
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tanko 2024-3-15 19:00

写真=酒井栄さんが撮影した「ポン・ブルックス彗星」(7日午後6時40分ごろ、酒井さん提供)

 NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター副理事長の酒井栄さん(71)=水沢東中通り=はこのほど、「ポン・ブルックス彗星」の撮影に成功した。1954年以来の接近となる。
 個人としては史上最多の彗星発見記録(37個)を有するフランスの天文学者ジャン=ルイ・ポンが、1812年に発見した。1883年、米国の天文学者ウィリアム・ロバート・ブルックスが偶然見つけた彗星が、ポンが発見した彗星と同じであることが後に判明した。
 夕方から宵の早い時間帯にかけ、西北西の低い位置(アンドロメダ座付近)に見えるという。双眼鏡でなければ見えない明るさだが、太陽と地球に最接近する4月には明るさが増すという。次に地上から観測できるのは2095年となる。
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tanko 2024-3-11 17:30

写真=「木村栄の書展」最終日の10日、木村の書を鑑賞する大勢の来場者

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の前身、水沢緯度観測所の初代所長で「Z項」の発見者として知られる木村栄(きむら・ひさし、1870〜1943)の書を集めた展示会は10日、閉幕した。水沢星ガ丘町の同観測所敷地内にある奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)を会場に、今月2日から8日間(休館日除く)にわたり開催し、延べ約300人が来場。最終日は水沢佐倉河の書家、松本啓夫巳(まつもと・ひろふみ)さん(46)=雅号・錦龍(きんりゅう)=による書の解説会も開催。来場者は木村の豊かな才能をあらためて認識した。

 特別企画展「木村栄の書展―緯度観測所初代所長、Z項発見者からの贈り物―」と題し、木村の功績や緯度観測所の歴史について調査・研究している国立科学博物館の馬場幸栄(ばば・ゆきえ)研究員と、胆江日日新聞社(小野寺弘行代表取締役社長)が主催。国立天文台(常田佐久台長)とNPO法人イーハトーブ宇宙実践ンセンター(大江昌嗣理事長)などが協力し、市と市教育委員会、水沢書道協会(高橋祥陽会長)の後援を受けた。個人や学校、公共施設などの協力で借用した書と関連品など19点を公開した。



写真=松本啓夫巳さんの解説に聞き入る来場者

 最終日の解説会は、松本さんが木村が揮毫した神社扁額を修繕した縁で実現した。
 松本さんは企画展の告知ポスターに印刷された、書をしたためる木村の写真を示しながら解説。「半紙の大きさに対し、とても大きな筆を使っている点がまず目を引く。穂先だけを使い、リラックスした感じでさらさらと書いたことがうかがえる。1枚の写真からさまざまな情報が読み取れる」などと述べた。
 県立水沢商業高校の校訓「明浄直」を例に、筆遣いの技術の高さを説明。同校で事務職員を務めている及川揚子さん(57)は、「普段は校長室に飾られている書が展示されているのを興味深く見させてもらった。自分も書を習っているが、木村博士は科学だけでなく書をはじめ、さまざまな才能を持ち合わせていたのだと感じた」と感慨深く聞き入っていた。

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木村のひ孫・清水明さんが偶然来館 直筆と対面



写真=書展開催中の奥州宇宙遊学館を訪れた木村栄のひ孫、清水明さん

 「木村栄の書展」最終日の10日、木村のひ孫に当たる清水明さん(58)=東京都在住=が企画展会場に来場した。
 清水さんの母・黎子さんは、木村の長女・伊登子(いとこ)さんの次女に当たる。同日、盛岡市に所用があり来県。曽祖父である木村が人生の半分以上を過ごした水沢を以前から訪れてみたいと、初めて奥州宇宙遊学館がある国立天文台水沢VLBI観測所に足を運んだ。書展が開かれていることは知らず、全くの偶然で曽祖父の直筆を見ることができた。
 清水さんは「これだけの書の達人だとは思わなかった。祖母の伊登子の夫、茅誠司は物理学者として活躍したが、木村さんも含め科学者一家の気骨を感じた」と話していた。
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tanko 2024-3-10 12:20


写真=修復を終え扁額が取り付けられ、笑顔を見せる千葉安里さん

 水沢中上野町の水沢公園内にある正喜(しょうき)稲荷社の扁額が9日、修復や奥州宇宙遊学館で開催している「木村栄の書展」での公開展示を終え、社殿に戻された。緯度観測所初代所長を務め「Z項」を発見した天文学者、木村栄が揮毫したもの。同日、現地で行われた神事には、木村の書であることを発見した高校生も参列した。
 この稲荷社は水沢公園北側の斜面に位置。陸中一宮駒形神社(山下明宮司)によると、創建時期など詳細は不明だが、駒形神社が移設される前の「塩釜神社」の境内社だったとみられる。園内の目立たない場所にあるため、扁額が木村の書であることはもちろん、稲荷社の名前自体、広く知られていなかった。
 昨年末、別件で胆江日日新聞社の取材を受けた県立不来方高校2年の千葉安里さん(17)=水沢真城=が、扁額に「木村栄謹書」と記されていたと証言。美術を学ぶ千葉さんは、公園内をよく散策しており、扁額の小さな文字を注意深く観察していたおかげで、木村の書であることが判明した。
 時を同じくして、稲荷社の鳥居建て替えが持ち上がり、色がくすんでいた扁額も修繕することに。水沢佐倉河の書家・松本啓夫巳さん(46)が汚れや色落ちした部分を手直しした。
 胆江日日新聞社などが主催する同展の開催に合わせ、8日まで修復間もない扁額を特別に展示。普段目の前で見ることができない神社扁額が展示されたとあって、同展来場者の多くが注目した。
 神事には鳥居工事の関係者に加え、松本さんや千葉さんらも参列。新築した鳥居は、花見名所をイメージした桜色に仕上げられた。
 「修復前はモノクロ写真のような印象だった。新品同様ながら自然に溶け込む風合いになった」と松本さん。千葉さんは「桜色の鳥居とともに、迫力ある木村博士の書に光が当たる機会になった。桜が咲く季節には多くの人が参拝してくれたら、木村博士も喜ぶのでは」と話していた。
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tanko 2024-3-4 7:10

写真=大勢の人たちでにぎわう会場

 国立科学博物館の馬場幸栄研究員は3日、奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)で開催中の特別企画展「木村栄の書展」に合わせ講演。展示されている書の概要を紹介しながら、「木村の書は、天文台が地域の支えによって存在し続けてきた証拠。たとえ破れていたり汚損したりしていても、その歴史的価値が衰えることはない。大切に保管し続けてほしい」と呼びかけた。
(児玉直人)



写真=木村栄と謡曲を教わっていた清明女学校(水沢第一高校の前身)の生徒たちの写真を紹介する馬場幸栄研究員。左側に展示されているのが同校が所有する木村の書「温良貞淑」


 同展は2日に開幕。同館休館日を除く10日までの8日間にわたり、馬場研究員と胆江日日新聞社の主催で開催している。開幕2日目に実施した記念講演会には、元所員や書の提供者なども含め市内外から50人余りが足を運んだ。
 馬場研究員は講演冒頭、国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の前身である緯度観測所の歴史、木村の略歴などを紹介した。
 「木村はひたすら研究だけをしていたわけではない。芸術やスポーツが好きな多趣味な人。当時の日本で超有名人だったにもかかわらず、自分だけではなく所員や市民と一緒に楽しむのが好きだった」と馬場研究員。中でも小さなころからたしなんでいた書は特技の一つだったと説明。現存している4歳と8歳の書をスライドに示すと、聴講者からは堂々とした筆跡に驚きの声があがった。
 協和学院水沢第一高校(大内誠光校長)が所有する書「温良貞淑(おんりょうていしゅく)」は「心穏やかに素直に、節操を堅く守り、しとやかなこと」という意味。同校は1926(大正15)年創立の清明女学校を前身としており、木村は趣味の謡曲を生徒たちに教えていた関係にあったという。
 馬場研究員は「緯度観測所の歴史があるからこそ、現在の国立天文台の存在やブラックホールの撮像成功といった実績につながっている。その歴史は観測所単独で築き上げたものではなく、地域の一部として市民と共に刺激を受けてきたからだ」と強調。「書が破れていたり、カビがはえていたりしても木村が書いたという歴史的な価値は失われない。世界に一つしかない歴史的資料として、大切に保管し続けてほしい」と訴えた。
 同展の鑑賞には遊学館の入館料(一般300円、児童生徒150円)が必要。5日は休館日。

10日に書家・松本さんの解説会開催
 特別企画展「木村栄の書展」に展示中の「正喜稲荷社」の扁額を修復した書家・松本啓夫巳(ひろふみ)さん(46)=雅号・錦龍=さんによる解説会は、10日午前10時から同展会場の奥州宇宙遊学館2階セミナー室で開かれる。
 松本さんは小学生のころから書道を始め、大学でも専攻した。教員を経験し、現在は書家として水沢佐倉河に松勢工房を開設。寺社からの書の依頼などに対応している。
 正喜稲荷社を管理している陸中一宮駒形神社の山下明宮司からの依頼で扁額を修復。木村の書の息づかいを間近に触れた時の思いや、書の魅力を伝えたいと急きょ解説会を開くことになった。
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tanko 2024-3-3 17:40

写真=奥州宇宙遊学館で2日に始まった「木村栄の書展」

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の前身、水沢緯度観測所の初代所長を務め「Z項」発見者として知られる木村栄(きむら・ひさし、1870〜1943)の書を集めた展示会が2日、水沢星ガ丘町の同観測所敷地内にある奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)で始まった。天文学者としての実力だけではなく、卓越した書の腕前だった木村の多才ぶりに触れた来場者から感嘆の声が上がっている。10日まで(5日は休館日)。
(児玉直人)

 木村の功績や緯度観測所の歴史について調査・研究している国立科学博物館(科博)の馬場幸栄研究員と、胆江日日新聞社(小野寺弘行代表取締役社長)が主催。国立天文台(常田佐久台長)とNPO法人イーハトーブ宇宙実践センター(大江昌嗣理事長)などが協力し、市と市教育委員会、水沢書道協会(高橋祥陽会長)の後援を受けた。
 掛け軸や額装された状態で個人宅や学校、公共施設などから借用した書や関連品など19点を公開している。いずれも木村が生前に残した貴重な書だ。
 このうち、江刺中町の日本料理店・新茶家(和賀総店主)が所有する書「能周小事然後成大事(しょうじをめぐらし、のちにだいじをなす)」は、古代中国の周王朝時代に生きたと伝えられている思想家・関尹子が残した一文。「小さな事でも周到にできたら、その後、大きな事を成すことができる」との意味がある。
 来場した二戸市福岡の小保内威彦さん(43)は、呑香稲荷神社の宮司。同神社は木村の師に当たる地球物理学者・田中舘愛橘(1856〜1952)にゆかりがある。
 小保内さんはこの日、水沢中上野町の駒形神社に偶然訪れ、境内に掲示されていた書展のポスターを見て立ち寄ったという。「田中舘博士も関係した場所ということで以前から訪れたいと思っていた。木村博士のことは天文学の功績しか知らなかったが、このような書の才能もあったとはすごい人物だと思う」と感心しきりだった。
 3日は午前11時半から、馬場研究員による記念講演会を予定している。書展鑑賞には、同館入館料(一般300円、児童・生徒150円)が必要となる。

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