人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2024-3-15 19:00

写真=酒井栄さんが撮影した「ポン・ブルックス彗星」(7日午後6時40分ごろ、酒井さん提供)

 NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター副理事長の酒井栄さん(71)=水沢東中通り=はこのほど、「ポン・ブルックス彗星」の撮影に成功した。1954年以来の接近となる。
 個人としては史上最多の彗星発見記録(37個)を有するフランスの天文学者ジャン=ルイ・ポンが、1812年に発見した。1883年、米国の天文学者ウィリアム・ロバート・ブルックスが偶然見つけた彗星が、ポンが発見した彗星と同じであることが後に判明した。
 夕方から宵の早い時間帯にかけ、西北西の低い位置(アンドロメダ座付近)に見えるという。双眼鏡でなければ見えない明るさだが、太陽と地球に最接近する4月には明るさが増すという。次に地上から観測できるのは2095年となる。
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tanko 2024-3-11 17:30

写真=「木村栄の書展」最終日の10日、木村の書を鑑賞する大勢の来場者

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の前身、水沢緯度観測所の初代所長で「Z項」の発見者として知られる木村栄(きむら・ひさし、1870〜1943)の書を集めた展示会は10日、閉幕した。水沢星ガ丘町の同観測所敷地内にある奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)を会場に、今月2日から8日間(休館日除く)にわたり開催し、延べ約300人が来場。最終日は水沢佐倉河の書家、松本啓夫巳(まつもと・ひろふみ)さん(46)=雅号・錦龍(きんりゅう)=による書の解説会も開催。来場者は木村の豊かな才能をあらためて認識した。

 特別企画展「木村栄の書展―緯度観測所初代所長、Z項発見者からの贈り物―」と題し、木村の功績や緯度観測所の歴史について調査・研究している国立科学博物館の馬場幸栄(ばば・ゆきえ)研究員と、胆江日日新聞社(小野寺弘行代表取締役社長)が主催。国立天文台(常田佐久台長)とNPO法人イーハトーブ宇宙実践ンセンター(大江昌嗣理事長)などが協力し、市と市教育委員会、水沢書道協会(高橋祥陽会長)の後援を受けた。個人や学校、公共施設などの協力で借用した書と関連品など19点を公開した。



写真=松本啓夫巳さんの解説に聞き入る来場者

 最終日の解説会は、松本さんが木村が揮毫した神社扁額を修繕した縁で実現した。
 松本さんは企画展の告知ポスターに印刷された、書をしたためる木村の写真を示しながら解説。「半紙の大きさに対し、とても大きな筆を使っている点がまず目を引く。穂先だけを使い、リラックスした感じでさらさらと書いたことがうかがえる。1枚の写真からさまざまな情報が読み取れる」などと述べた。
 県立水沢商業高校の校訓「明浄直」を例に、筆遣いの技術の高さを説明。同校で事務職員を務めている及川揚子さん(57)は、「普段は校長室に飾られている書が展示されているのを興味深く見させてもらった。自分も書を習っているが、木村博士は科学だけでなく書をはじめ、さまざまな才能を持ち合わせていたのだと感じた」と感慨深く聞き入っていた。

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木村のひ孫・清水明さんが偶然来館 直筆と対面



写真=書展開催中の奥州宇宙遊学館を訪れた木村栄のひ孫、清水明さん

 「木村栄の書展」最終日の10日、木村のひ孫に当たる清水明さん(58)=東京都在住=が企画展会場に来場した。
 清水さんの母・黎子さんは、木村の長女・伊登子(いとこ)さんの次女に当たる。同日、盛岡市に所用があり来県。曽祖父である木村が人生の半分以上を過ごした水沢を以前から訪れてみたいと、初めて奥州宇宙遊学館がある国立天文台水沢VLBI観測所に足を運んだ。書展が開かれていることは知らず、全くの偶然で曽祖父の直筆を見ることができた。
 清水さんは「これだけの書の達人だとは思わなかった。祖母の伊登子の夫、茅誠司は物理学者として活躍したが、木村さんも含め科学者一家の気骨を感じた」と話していた。
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tanko 2024-3-10 12:20


写真=修復を終え扁額が取り付けられ、笑顔を見せる千葉安里さん

 水沢中上野町の水沢公園内にある正喜(しょうき)稲荷社の扁額が9日、修復や奥州宇宙遊学館で開催している「木村栄の書展」での公開展示を終え、社殿に戻された。緯度観測所初代所長を務め「Z項」を発見した天文学者、木村栄が揮毫したもの。同日、現地で行われた神事には、木村の書であることを発見した高校生も参列した。
 この稲荷社は水沢公園北側の斜面に位置。陸中一宮駒形神社(山下明宮司)によると、創建時期など詳細は不明だが、駒形神社が移設される前の「塩釜神社」の境内社だったとみられる。園内の目立たない場所にあるため、扁額が木村の書であることはもちろん、稲荷社の名前自体、広く知られていなかった。
 昨年末、別件で胆江日日新聞社の取材を受けた県立不来方高校2年の千葉安里さん(17)=水沢真城=が、扁額に「木村栄謹書」と記されていたと証言。美術を学ぶ千葉さんは、公園内をよく散策しており、扁額の小さな文字を注意深く観察していたおかげで、木村の書であることが判明した。
 時を同じくして、稲荷社の鳥居建て替えが持ち上がり、色がくすんでいた扁額も修繕することに。水沢佐倉河の書家・松本啓夫巳さん(46)が汚れや色落ちした部分を手直しした。
 胆江日日新聞社などが主催する同展の開催に合わせ、8日まで修復間もない扁額を特別に展示。普段目の前で見ることができない神社扁額が展示されたとあって、同展来場者の多くが注目した。
 神事には鳥居工事の関係者に加え、松本さんや千葉さんらも参列。新築した鳥居は、花見名所をイメージした桜色に仕上げられた。
 「修復前はモノクロ写真のような印象だった。新品同様ながら自然に溶け込む風合いになった」と松本さん。千葉さんは「桜色の鳥居とともに、迫力ある木村博士の書に光が当たる機会になった。桜が咲く季節には多くの人が参拝してくれたら、木村博士も喜ぶのでは」と話していた。
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tanko 2024-3-4 7:10

写真=大勢の人たちでにぎわう会場

 国立科学博物館の馬場幸栄研究員は3日、奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)で開催中の特別企画展「木村栄の書展」に合わせ講演。展示されている書の概要を紹介しながら、「木村の書は、天文台が地域の支えによって存在し続けてきた証拠。たとえ破れていたり汚損したりしていても、その歴史的価値が衰えることはない。大切に保管し続けてほしい」と呼びかけた。
(児玉直人)



写真=木村栄と謡曲を教わっていた清明女学校(水沢第一高校の前身)の生徒たちの写真を紹介する馬場幸栄研究員。左側に展示されているのが同校が所有する木村の書「温良貞淑」


 同展は2日に開幕。同館休館日を除く10日までの8日間にわたり、馬場研究員と胆江日日新聞社の主催で開催している。開幕2日目に実施した記念講演会には、元所員や書の提供者なども含め市内外から50人余りが足を運んだ。
 馬場研究員は講演冒頭、国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の前身である緯度観測所の歴史、木村の略歴などを紹介した。
 「木村はひたすら研究だけをしていたわけではない。芸術やスポーツが好きな多趣味な人。当時の日本で超有名人だったにもかかわらず、自分だけではなく所員や市民と一緒に楽しむのが好きだった」と馬場研究員。中でも小さなころからたしなんでいた書は特技の一つだったと説明。現存している4歳と8歳の書をスライドに示すと、聴講者からは堂々とした筆跡に驚きの声があがった。
 協和学院水沢第一高校(大内誠光校長)が所有する書「温良貞淑(おんりょうていしゅく)」は「心穏やかに素直に、節操を堅く守り、しとやかなこと」という意味。同校は1926(大正15)年創立の清明女学校を前身としており、木村は趣味の謡曲を生徒たちに教えていた関係にあったという。
 馬場研究員は「緯度観測所の歴史があるからこそ、現在の国立天文台の存在やブラックホールの撮像成功といった実績につながっている。その歴史は観測所単独で築き上げたものではなく、地域の一部として市民と共に刺激を受けてきたからだ」と強調。「書が破れていたり、カビがはえていたりしても木村が書いたという歴史的な価値は失われない。世界に一つしかない歴史的資料として、大切に保管し続けてほしい」と訴えた。
 同展の鑑賞には遊学館の入館料(一般300円、児童生徒150円)が必要。5日は休館日。

10日に書家・松本さんの解説会開催
 特別企画展「木村栄の書展」に展示中の「正喜稲荷社」の扁額を修復した書家・松本啓夫巳(ひろふみ)さん(46)=雅号・錦龍=さんによる解説会は、10日午前10時から同展会場の奥州宇宙遊学館2階セミナー室で開かれる。
 松本さんは小学生のころから書道を始め、大学でも専攻した。教員を経験し、現在は書家として水沢佐倉河に松勢工房を開設。寺社からの書の依頼などに対応している。
 正喜稲荷社を管理している陸中一宮駒形神社の山下明宮司からの依頼で扁額を修復。木村の書の息づかいを間近に触れた時の思いや、書の魅力を伝えたいと急きょ解説会を開くことになった。
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tanko 2024-3-3 17:40

写真=奥州宇宙遊学館で2日に始まった「木村栄の書展」

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の前身、水沢緯度観測所の初代所長を務め「Z項」発見者として知られる木村栄(きむら・ひさし、1870〜1943)の書を集めた展示会が2日、水沢星ガ丘町の同観測所敷地内にある奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)で始まった。天文学者としての実力だけではなく、卓越した書の腕前だった木村の多才ぶりに触れた来場者から感嘆の声が上がっている。10日まで(5日は休館日)。
(児玉直人)

 木村の功績や緯度観測所の歴史について調査・研究している国立科学博物館(科博)の馬場幸栄研究員と、胆江日日新聞社(小野寺弘行代表取締役社長)が主催。国立天文台(常田佐久台長)とNPO法人イーハトーブ宇宙実践センター(大江昌嗣理事長)などが協力し、市と市教育委員会、水沢書道協会(高橋祥陽会長)の後援を受けた。
 掛け軸や額装された状態で個人宅や学校、公共施設などから借用した書や関連品など19点を公開している。いずれも木村が生前に残した貴重な書だ。
 このうち、江刺中町の日本料理店・新茶家(和賀総店主)が所有する書「能周小事然後成大事(しょうじをめぐらし、のちにだいじをなす)」は、古代中国の周王朝時代に生きたと伝えられている思想家・関尹子が残した一文。「小さな事でも周到にできたら、その後、大きな事を成すことができる」との意味がある。
 来場した二戸市福岡の小保内威彦さん(43)は、呑香稲荷神社の宮司。同神社は木村の師に当たる地球物理学者・田中舘愛橘(1856〜1952)にゆかりがある。
 小保内さんはこの日、水沢中上野町の駒形神社に偶然訪れ、境内に掲示されていた書展のポスターを見て立ち寄ったという。「田中舘博士も関係した場所ということで以前から訪れたいと思っていた。木村博士のことは天文学の功績しか知らなかったが、このような書の才能もあったとはすごい人物だと思う」と感心しきりだった。
 3日は午前11時半から、馬場研究員による記念講演会を予定している。書展鑑賞には、同館入館料(一般300円、児童・生徒150円)が必要となる。
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tanko 2024-3-2 8:20
 水沢緯度観測所初代所長を務め「Z項」を発見した木村栄(きむら・ひさし、1870〜1943)の書などを一堂に集めた特別企画展「木村栄の書展」は2日から10日まで、水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)で開かれる。国立科学博物館(科博)の馬場幸栄研究員と胆江日日新聞社が主催。観測所の元所員家族や市内の学校などが所有している書や関連する品々など19点を公開する初の試みとなる。時間は午前9時から午後5時まで。同館入館料(一般300円、児童・生徒150円)が必要となる。5日は休館日。
 緯度観測所の歴史や地域とのかかわりについて調査している馬場研究員の提案で企画。本紙が馬場研究員の寄稿を連載している関係から開催に至った。
 所有者らの情報提供を基に当初は13点程度の展示を見込んでいたが、その後も情報が寄せられた。軸装や額装の書のほか、木村がニューヨークから日本の知人に宛てた手紙、木村の書をデザインした鋳物製文鎮の鋳型、さらには神社の扁額なども展示する。
 開催期間中の3日午前11時半からは、馬場研究員による講演会が同館で開かれる。会場スペースの関係で着座聴講できるのは40人前後となる。
 展示品提供の協力者(所有者)は次の通り。
 ▽軸装…千田永さん(水沢)寺島倭子さん(同)和賀総さん(江刺)五嶋義明さん(胆沢)高橋勉さん(同)
 ▽額装…市立水沢小学校、陸中一宮駒形神社、県立水沢商業高校、協和学院水沢第一高校、平井美根子さん(盛岡市)及川永寿さん(江刺)千田永さん(水沢)ふくわら担い手センター(同)小野伊豫さん(同)高橋勝一さん(同)
 ▽つい立…大宮彦生さん(水沢)
 ▽神社扁額…陸中一宮駒形神社
 ▽手紙…高橋勉さん(胆沢)
 ▽文鎮鋳型…南部鉄器工房及富(水沢)
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tanko 2024-2-29 8:30

写真=修復した扁額を手にする山下明宮司(左)と松本啓夫巳さん。落款は雅号の「千山」ではなく「木村栄」と本名で書かれている

 水沢中上野町の水沢公園内にひっそりとたたずむ正喜(しょうき)稲荷社の扁額が、緯度観測所(現・国立天文台水沢VLBI観測所)初代所長の木村栄(きむら・ひさし)が揮毫したものである可能性が高いことが分かった。きっかけは、かつて稲荷社を訪れた女子高生の記憶。稲荷社を管理する陸中一宮駒形神社の山下明宮司も長年気付かなかったといい、外気にさらされくすんだ色になっていた扁額を修復した。3月2日から奥州宇宙遊学館で開催する特別企画展「木村栄の書展」(胆江日日新聞社など主催)で、急きょ展示することが決まった。
(児玉直人)

 稲荷社は同公園北側、ブランコなどの遊具がある場所に近い斜面にある。山下宮司によると「五穀豊穣、商売繁盛の神様」というが、詳細は不明な点も多い。
 水沢公園に隣接する駒形神社が「塩釜大神社」だった時代、境内は現在の駒形神社より広かったという。やがて境内の一部が水沢公園として市(当時は水沢町)の所有地になったが、境内社だった稲荷社の土地は、個人の所有地(私有地)として引き継ぐことに。現在も私有地だが、実質的な管理は所有者から駒形神社に託されている。
 小さな社殿の正面に掲げられていたのが、木村揮毫と思われる扁額。木村の書跡に沿う形で木版を掘り、緑色で社名などが塗られていた。縁の装飾部分は金色となっていたようだが、外気に長年さらされていたため、ほとんどくすんでしまっていた。

 木村の書であることが分かったのは、本紙が取材した県立不来方高校2年の千葉安里さん(17)=水沢真城=の記憶がきっかけ。昨年12月、新春企画のインタビューの中で千葉さんから「水沢公園の小さな神社に『木村栄』って書いてありましたよ」との証言を受け、現地を調べたのが始まりだった。山下宮司も「扁額があるのは知っていたが、それが木村博士の書だとは全く気付かなかった」という。

 この発見とほぼ同時期に、老朽化で倒壊していた稲荷社の鳥居を修繕し奉納したいという申し出が個人からあり、鳥居の工事に合わせ、稲荷社周辺の環境整備や扁額の修復も行うことに。さらに3月9日の竣工式の前日まで、「木村栄の書展」会場で特別に展示する運びとなった。
 扁額の修復は、水沢佐倉河の書家・松本啓夫巳(まつもと・ひろふみ)さん(46)=雅号・錦龍=さんが対応。「作業をしながら木村博士の息づかいが感じられた。書をたしなんでいる様子の写真も見させてもらったが、向き合っている紙の大きさに対し、非常に大きな筆を手にしている。よほどの腕の持ち主でなければできないこと」と評価する。

 書展には、駒形神社斎館に掲示している「敬神護国」の書も展示する。山下宮司は「若い千葉さんが稲荷社の扁額の細かいところまで注意深く見て、木村博士の名前も含めてしっかり覚えていたこと自体すごい。木村博士が『俺のことを忘れないでくれよ』と言っているかのようだ。北陸・金沢出身の木村博士が、水沢のためにいろいろ尽くしてくれたことを感じる。もっと光を当てるきっかけになれば」と話していた。
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tanko 2024-2-27 9:20

写真=木村栄が飯坂タミ子さんに贈った書を手にする平井美根子さん

 国立科学博物館の馬場幸栄研究員と、胆江日日新聞社が主催する特別企画展「木村栄(きむら・ひさし)の書展」に、“計算の神様”と称賛された飯坂タミ子さん(故人)に木村が贈った書が展示される。飯坂さんの娘で、書を管理している平井美根子さん(78)=盛岡市山王町=は「母は宝物のように、木村先生の書や緯度観測所時代のものを大事に保管していた。馬場さんの研究のおかげで、消えてなくなりそうなものにも価値を見いだすことができた」と喜んでいる。同展は3月2日から10日まで、水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館で開かれる。(児玉直人)


緯度観測所に勤務していた当時の飯坂タミ子さん(平井美根子さん提供)

 昨年12月、盛岡市紺屋町の酒屋「平興(ひらこう)商店」が惜しまれつつ閉店した。2022年に雫石町へ移転した本県最古の造り酒屋「菊の司酒造」の向かいにあり、店で買った酒をその場で飲める「角打ち」というスタイルが人気だった。美根子さんは、30代のころから夫の実家が営む同商店を手伝い始めた。
 “のんべぇ”たちが談笑する様子を静かに見守るように、店の奥に掲げられていたのが、「虚心坦懐(きょしんたんかい)」の書。美根子さんの母、タミ子さんが緯度観測所職員時代、初代所長で「Z項」を発見した木村から贈られた。「心に先入観やわだかまりがない素直な気持ち」という意味がある。
 タミ子さんは1918(大正7)年2月20日に水沢袋町で出生。14歳で観測所に就職した。最初の仕事は庶務課の給仕。いわゆる「お茶くみ」だったが、35人ぐらいの所員全員の湯飲み茶わんの形や色をしっかり覚えていたという。16歳で計算の仕事を任されると、一度もミスをしたことがなく、同僚から付けられたあだ名が“計算の神様”だった。
 優秀な仕事ぶりが評価されたものの、結婚を前に1940(昭和15)年に22歳で退職。翌年、飯坂家の座敷で婚礼の儀が行われたが、そこに掲げられていたのが木村揮毫の「虚心坦懐」だった。
 やがて美根子さんが誕生するが、観測所のことを詳しく知ったのは、タミ子さんが晩年になってから。2010(平成22)年8月5日にタミ子さんが亡くなるまでの間、さまざまな話を聞いた。タミ子さんは木村の書のほか、3代目所長の池田徹郎が書いた絵画、当時観測所で撮影した写真なども大事にしていた。平興商店が閉じた現在、木村が揮毫した書などは、花巻市内の持ち家で保管している。
 美根子さんは「私が小さいころは気に留めなかったが、今はとても大切な宝物だと感じる。緯度観測所時代の仕事が、母の人生を幸せなものにしたと思う」と話している。
 特別企画展「木村栄の書展」の観覧には、宇宙遊学館の入館料(一般300円、児童・生徒150円)が必要。時間は午前9時から午後5時(午後4時半までに入館)。期間中の5日は休館日。
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tanko 2024-2-20 17:40

写真=木村栄が揮毫した水沢商業高校の校訓「明浄直」

 水沢緯度観測所初代所長を務め、「Z項」を発見した天文学者・木村栄(きむら・ひさし、1870〜1943)が揮毫した書を一堂に集めた特別企画展「木村栄の書展」は、3月2日から10日まで水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館で開かれる。国立科学博物館(科博)の馬場幸栄研究員と胆江日日新聞社が主催。元観測所員の家族や神社、学校などに展示・保管されている13点を公開する初の試み。書跡を間近に見ながら、木村と地域とのつながりを感じる機会とする。
(児玉直人)

 馬場研究員は緯度観測所の後身、国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の一室で500枚を超えるガラス乾板写真を発見。復元によって、観測所の歴史や人物関係をひもといている。本紙は昨年4月から「緯度観測所と地域の人々」と題し、馬場さんの研究成果を連載している。
 所員や地元名士などからの求めに応じ、たくさんの書を残した木村。その一部が元所員宅や神社、学校などに現存している。「一堂に集め展覧会を開催したい」との馬場研究員の希望に、本紙が賛同し共同開催する。
 北陸・金沢に生まれた木村は、幼少期から養父の木村民衛が経営する塾で勉学の日々を過ごした。その証しとも言えるのが4歳と8歳の時の書。原物が市立水沢図書館、複製が宇宙遊学館向かいの木村栄記念館に展示されている。
 馬場研究員によると、木村は研究の傍ら、多彩な才能を発揮し、人材育成や地域の文化振興などにも力を注いだ。書道もその一つ。自分の誕生日になると、所長官舎で何枚もの書を揮毫し、所員らにプレゼントしていたという。
 しかし、所有者の子孫や後任の施設管理者が処分したり、破損や所在不明になったりした書も少なくないとみられる。また「木村栄」ではなく「千山(せんざん)」という雅号で名が記されているため、誰が書いたか分からない人もいるという。
 特別企画展で紹介予定の書は13点。このうち「明浄直(めい・じょう・ちょく)」と書かれた作品は県立水沢商業高校の校訓で、校長室に飾られている。市役所本庁付近に校舎があった時代、玄関に掲げられ朝晩に読み上げられていたという。
 盛岡市の平井美根子さん所有の作品は、母親の飯坂タミ子さんに贈られた「虚心坦懐」。タミ子さんは観測所の計算係を務め、抜きんでた正確さから「計算の神様」と呼ばれていた。
 このほか地域の集会施設、個人宅で保管されていたものなども展示。会場へ持ち込むことが不可能なものは写真で紹介する。
 開催期間中、同3日午前11時半から宇宙遊学館で、馬場研究員による講演会を開く。聴講無料で事前申し込み不要。
 作品鑑賞や講演会の聴講には、宇宙遊学館の入館料(一般300円、児童生徒150円)が必要となる。5日は休館日のため鑑賞できない。
 問い合わせは胆江日日新聞社(電話0197・24・2244)へ。
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tanko 2024-2-10 7:50

写真=岩手県立大の鈴木厚人学長が講師を務め、ILCの動向を解説した

 岩手県議会・宮城県議会ILC(国際リニアコライダー)建設実現議員連盟の講演会は8日、盛岡市内のホテルで開かれた。両県の県議、仙台市議ら約60人が参加。岩手県立大の鈴木厚人学長(素粒子物理学)が講師を務め、ILCの概要と最近の動向を解説した。
 鈴木学長は「人類誕生以来の知のフロンティアとして、地球から日本・世界の未来を切り拓く」とILCによる挑戦を示し、人の集積や国によるイノベーションの創出など期待される効果を述べた。
 ILC研究所の建設予定地を中心に、「地域から未来へ、世界に開かれた地方創生ができる。仙台市から盛岡市へ広域でILCのコアゾーンを分担し合う」とコンパクトシティーの構想を述べた。
 「科学に国境はない。国家間で協力がしやすい分野。東北地域が地球村として次世代人材の育成やSDGsの先導を担える」と波及効果を示し、先端テクノロジーと環境施策の両立を強調した。
 ILCの現状については、2022(令和4)年4月に発表された国際将来計画委員会の「工学設計に進むことができるレベル」という報告を紹介。一方で鈴木学長は、一部の研究者によりILC技術開発の現状について誤った見解が流布されているとの認識を示した。
 「ある研究者がILCの技術開発が未熟であると文科省に説明していて、支援・推進に支障を来している。技術要素は確立されていて、建設開始ができる段階にあることに矛盾はない。準備研究所の設立の機は熟している」と指摘。日本誘致の勢いを取り戻すことと、オールジャパン体制の再構築を求めた。
 議員連盟代表の工藤大輔岩手県議会議長は、「両県議会においてILC実現に向け要望活動などさまざまな取り組みを進めてきた。まだまだ大きなハードルもある。一層の取り組みを通じ実現に向けまい進したい」と話していた。

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