人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2023-4-28 14:00

写真=研究成果を説明する秦和弘助教(右)

 ブラックホール(BH)の3要素とされる▽本体▽降着円盤▽ジェット――の同時撮影に関する論文が発表された27日、責任著者の一人である国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘助教らが記者会見し、成果概要などを説明した。秦助教は「今回の撮影成果で、構造解明に向けた新たな“宿題”がまた提示された。まさにBHから抜け出せない、底なし沼のような状況だが、それもまた楽しい」と、ユーモアたっぷりに語った。
 水沢星ガ丘町の同観測所会議室で開かれた会見には、秦助教のほか、同観測所で研究活動している東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(株)東北事業所=江刺岩谷堂=の田崎文得・シニアスペシャリスト、八戸工業高等専門学校の中村雅徳教授、東京大学宇宙線研究所の川島朋尚・特任教授が出席した。
 今回の観測では、ハワイや欧州、グリーンランド、南米・チリなど、広範囲に分散する電波望遠鏡計16局で構成する「GMVA(グローバルミリ波VLBI観測網)」を活用。実際には建設できない、地球直径に匹敵する規模の電波望遠鏡で観測したのと同等の精度で、約5500万光年(1光年=約9.5兆km)かなたにある巨大BHを撮影した。
 これにより今までの観測で唯一撮影できなかった、回転しながらBHに吸い込まれるガスの流れが作り出す構造「降着円盤」を捉えることに成功。BHの影、降着円盤、ジェットの3要素も同時に撮影できた。
 秦助教はこの3要素を「三種の神器」に例え、成果を分かりやすく説明した。「宇宙の研究は魅力的だが、一方で難しいと感じる方も多い。身近な場所でこのような研究をしている人がいることを知っていただくきっかけになればうれしいし、研究者を目指す人が少しでも増えてもらえたら」と話していた。
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tanko 2023-4-28 14:00

開館から15周年の節目を迎えた奥州宇宙遊学館

 100年ほど前に建設された水沢緯度観測所2代目本館の建物を活用している水沢星ガ丘町の「奥州宇宙遊学館」は、開館から15周年の節目を迎えた。NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター(大江昌嗣理事長)が運営を担い、五つのテーマに分かれた常設展示室やシアター室に加え、サンデースクールやサイエンスカフェなど定期開催イベントを通し、「宇宙と人との出合いの場」を提供している。レトロな空間の中で体験的に「宇宙」を身近にでき、幅広い年代の科学的好奇心を刺激する同館の魅力を探る。
 国立天文台の広いキャンパスの一角に立つ同館。このほど開かれたサイエンスカフェで、15年の節目を迎えたことに触れた亀谷收館長は、「国立天文台水沢VLBI観測所とのタイアップで、電波望遠鏡など最新の研究施設や歴史的に重要な建物など本物にも触れられる国内でもユニークな場所として存在価値を高めつつある」と強調。「より充実した展示や催し、イベントを行っていきたい」と意気込んだ。
 遊学館のコンセプトは「又三郎といっしょに奥州の宇宙(そら)に学び、遊ぼう!」。宮沢賢治の童話『風の又三郎』が、緯度観測所を訪れた際の見聞を基に書かれたことにちなんでいる。
 国の有形文化財に登録されている2代目本館は、耐震補強などを行った際に大正時代の部材をなるべく使用しており、レトロな雰囲気を味わうことができる。「大地」「月」「銀河」「風」「星」の五つの常設展示室があり、観測所の歴史や最新の宇宙探査などを紹介している。
 来館者には、実際の体験を通して理解を深められる展示が人気という。「大地」に設置されているブラックホール模型は、スーパーボールを使い、ブラックホールに吸い込まれていく様子を可視化。「銀河」に置かれているパラボラクッションは、どの位置に当たっても中央に跳ね返るパラボラアンテナの仕組みを視覚的に学べる。月や木星の重力を比較体験できるアイテムも配置されており、館内では自分で見て、触って、試してみることを夢中で繰り返す子どもたちの姿が多く見られる。
 各分野の専門家が携わる定期開催行事もファンが多い。サイエンスカフェは、カフェのようなリラックスした雰囲気の中で、研究者が最先端の科学を紹介する。小学生らが多く参加するサンデースクールは、より分かりやすく正しい知識を伝えようと、手作りの教材や模型を駆使し参加者の興味関心を引き出している。
 サンデースクールに通い2年という、市立常盤小4年の大田暖起君と母彩子さん(44)は「専門家からさまざまなことを学ぶことができ、展示では触れて学べる。科学が学べる施設が身近にあるのはうれしい」と、同館の企画や展示を満喫している。


この地にあった幸運 生かしたかった
佐藤一晶さん、保存活用へ思い語る
 1921(大正10)年に建てられた水沢緯度観測所2代目本館は、木造2階建てのドイツ風建築物。1967(昭和42)年まで使用されていたが老朽化が進み、国立天文台は2005(平成17)年10月に取り壊しを決定。翌年2月に解体される予定になっていたが、宮沢賢治が度々訪れた歴史的にも貴重な建造物とあって、保存活用を求める動きが広がった。市民運動が国立天文台や市、市議会を動かし、2007年に国から市へ建物の譲渡が決定。耐震補強や建物位置の変更、展示品の設営が進められ、2008年4月に奥州宇宙遊学館がオープンした。
 当時の様子について、NPO法人イーハトーブ宇宙実践センターの佐藤一晶副理事長は、4月に開催されたサイエンスカフェで「奥州宇宙遊学館誕生物語」と題し講話。「地域開発の大原則は他のまちに無くて、このまちにあるものを使っていくことだと考えている。日本で最初の国際観測施設である緯度観測所がこの地にあった幸運を生かしたかった。県内で唯一の天文台が水沢にあるのだから、子どもたちが科学を学ぶ場が県南にも欲しいと思った。天文台で働く多くの専門家の知恵を借りていけば、より良いまちづくりができると考えた」と活動の背景を説明した。
 「全国的にも珍しい木造の科学館。古い建物は、残そうとしなければ姿を消していく」。市議会への請願や全国に呼びかけた募金活動など市民らが力を合わせ残すことができた施設と強調する。
 「天文台の敷地にあるからこそ、高まる価値がある。登録有形文化財は活用が基本。かつては退官すると水沢を離れる職員が多かったが、今ではこの地で暮らし続ける研究者も増えた。今後も天文台とタッグを組み、広いキャンパスを生かした活動をしていきたい」と力を込めた。
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tanko 2023-4-27 9:10
(C)Lu et al.(2023);composition by F.Tazaki

画像=GMVAで捉えたM87銀河中心部の巨大BH。左上はBH中心部を拡大した画像で、中央の薄暗い部分がBH本体の存在を示す影、周囲の輪が降着円盤を示す。中心部から右方向へ放物線状に見えるのがジェット。色が明るい場所ほど高温で最大1億度以上に達する


 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)などに所属する本県縁の研究者4人を含む国際共同研究チームは、強力な重力を持つ天体「ブラックホール(BH)」の3要素と呼ばれる▽本体▽降着円盤▽ジェット――の同時撮影に世界で初めて成功した。26日付(英国時間)の英国科学雑誌『ネイチャー』に掲載された。論文責任著者の1人で、BHジェット研究の第一人者である同観測所の秦和弘(はだ・かずひろ)助教は「BHからどのようにして高速のジェットが噴き出ているのかなど、構造解明を進める上で非常に重要な成果」と強調。今後、同観測所の電波望遠鏡をグレードアップさせた観測も計画されている。(児玉直人)

 今回の観測対象は、2019年4月に「人類史上初のBH撮影」として話題となった、M87銀河の中心にある巨大ブラックホール。地球から約5500万光年離れた場所に位置する。
 2019年に発表された画像は、国際研究者チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」によるもの。主に南北アメリカ大陸と南極、ハワイにある電波望遠鏡を連動させるVLBI(Very Long Baseline Interferometry=超長基線電波干渉計)によって、BHの影がドーナツの穴のような形で捉えられた。
 EHTの画像は、BH本体にかなり近い部分に焦点を合わせている。BH本体の影や光子リングはくっきり見えても、BHに回転しながら吸い込まれていくガスによって形成される「降着円盤」や、BHから噴き出すジェットが写っていなかった。
 一方、今回の観測はヨーロッパなどの電波望遠鏡も加えた16局でVLBIを形成する「GMVA(グローバルミリ波VLBI観測網)」によって実施。EHTより視力が半減するデメリットはあるが、高い感度を維持したまま広範囲を撮影できるメリットがある。
 観測は2018(平成30)年4月に実施。データの解析や検証、論文作成に5年の歳月を要し公表に至った。得られた画像は、BH中心部の降着円盤や右方向へジェットが噴き出している様子を確認できる。
 今回の研究には、16カ国・地域の65研究機関から100人を超える天文学者らが参加。このうち、水沢観測所の秦助教と本間所長、同観測所で研究活動している東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(東北事業所=江刺岩谷堂=の田崎文得・シニアスペシャリスト、二戸市出身で八戸工業高等専門学校の中村雅徳教授の4人は本県居住や出身者という縁のある研究者だった。
 本間所長は「当初から予測されていたものとはいえ、本体、降着円盤、ジェットの3要素を世界で初めて捉えた大きな成果。さらに詳細なジェットの動きを見ていく上で、水沢や石垣島にある電波望遠鏡(直径20mのVERA望遠鏡)をグレードアップする予定だ」と話している。

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