人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2022-11-24 6:10

写真=沖野大貴さんらの研究チームがとらえた「クエーサー 3C 273」のジェットの姿(左と中央)。右はハッブル宇宙望遠鏡で観察した当該天体の姿 (C)Hiroki Okino and Kazunori Akiyama; GMVA+ALMA and HSA images: Okino et al.; HST Image: ESA/Hubble & NASA

 東京大学大学院理学研究科博士課程3年の沖野大貴さん(28)=広島県出身=は、地球からおよそ億光年の距離に位置する天体「クエーサー 3C 273」から噴き出すジェットの最深部を捉えることに成功。国内外の研究者とチームを組み、宇宙ジェットの生成に関する重要な成果を発表した。沖野さんは東京都三鷹市の国立天文台本部で活動しており、同天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長が指導教官を務めている。
(児玉直人)

 クエーサーは、膨大なエネルギーを放出している天体で、非常に明るく輝いているのが特徴。中心部には巨大ブラックホール(BH)が存在する。中心部からは電気を帯びたプラズマ粒子が高速で噴出するジェットが見られ、他の銀河の進化や周辺宇宙環境にも影響を与えている。
 「3C 273」と名付けられたクエーサーは、地球から見ておとめ座の方向にあり、距離はおよそ25億光年(1光年=9.5兆km)。人類が初めて発見(確認)したクエーサーで、一般の天体望遠鏡でも観察できる。ジェットの長さは100万から200万光年に達するが、その最深部がどうなっているかは明らかになっていなかった。
 沖野さんの国際研究チームは、南北アメリカ大陸やハワイ、ヨーロッパに点在するカ所の電波望遠鏡を連動させ2017年に観測。集めたデータを解析するVLBI(超長基線電波干渉法)によって観測した。使用した電波望遠鏡の中には、日本などが参画してチリに建設したALMA望遠鏡もある。
 観測と解析の結果、クエーサー中心部の巨大BHの重力支配領域を越えた遠方でも、ジェットが細く絞り込まれているのを確認。活動性が高いクエーサーの中心部における、ジェットの構造を初めて明らかにした。
 より広範囲のVLBI観測網を構築したのに加え、さまざまな周波数帯を使って観測したことで、非常に視力の高い観測結果が得られた。データ解析では、人類初のBH撮影に成功した国際プロジェクトで日本チームが開発に貢献したソフトが使用された。
 沖野さんとともに研究チームの中で活動した本間所長は「今後このような観測的研究がますます進み、高い解像度を生かして多種多様な天体のジェットの性質が明らかになっていくことを期待したい」とコメントしている。
 今回の研究成果は、21日付の天体物理学雑誌『アストロフィジカル・ジャーナル』(米国)に掲載された。
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tanko 2022-11-10 10:40

写真=胆江地方でも確認できた皆既月食。月の左側に見える明るい点(矢印部分)が天王星(8日午後8時42分、水沢の酒井栄さん撮影)

 皆既月食の最中に、天王星が月の裏側に入り込む「天王星食」が8日夜、国内ほとんどの地域で確認された。天王星のような太陽系惑星が月の裏側に隠れる「惑星食」が、皆既月食と同時に日本で見られたのは442年ぶり。胆江地区では月が雲に隠れる時間帯もあったが、住民たちは望遠鏡で珍しい天体ショーを眺めたり、撮影した画像を交流サイト(SNS)に投稿したりするなどして楽しんでいた。
 皆既月食は数年おきに見られるが、惑星食が同時に起きるのは非常に珍しい。日本で前回起きたのは1580年のことで、土星が月の裏に隠れる「土星食」が起きた。
 8日の胆江地方は夕方ににわか雨が降るなど、空模様が心配された。晴れたり曇ったりを繰り返す中、午後8時40分過ぎ、月の下に小さく輝く天王星が月の裏側に隠れる天王星食が確認された。
 国立天文台水沢キャンパス敷地内にある奥州宇宙遊学館では観望会を開催。国内の民間天文台や科学館、テレビ局などもネット動画サイトで生中継した。
 次回、皆既月食と惑星食を日本で同時に見られるのは2344年7月26日で、1580年のときと同じ「土星食」が起きる。
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tanko 2022-11-6 10:40
 カタカナ言葉やアルファベットの略語があふれる昨今。記事執筆で悩むのは適切な和訳や言い換えだ。
 その和訳も本当に適切なのかという指摘がある。例えば「カーボンニュートラル」は、二酸化炭素の排出量と吸収量を等しくするのを目指す環境関連用語。その和訳として広まっているのは「脱炭素」だ。行政の公式資料にもそう記載されている。
 だがよくよく考えてみると、人体の重要部分が炭素によってつくられているように、この世から炭素を「脱」することは、どう考えても現実的ではないし、間違った印象や行動にさえつながりかねない。日本化学会では「炭素循環」を正しい用語として使うべきだと提唱している。
(児玉直人)
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tanko 2022-11-6 10:30

写真1=来場者やネット聴講者の質問に答える本間希樹所長

 国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長は5日、東京都江東区のテレコムセンタービルで開かれた大規模イベント「サイエンスアゴラ2022」の会場で、社会と科学の在り方を考える対話企画に登壇した。同観測所が今年実施したクラウドファンディング(CF、資金調達)の取り組みを紹介しながら、基礎科学研究を持続させるための施策や課題について、来場者やネット聴講者と共に考えを巡らせた。
(児玉直人)

 サイエンスアゴラは、社会と科学技術との望ましい関係性を考える参加型イベント。科学技術振興機構(JST、橋本和仁理事長)が主催し、体験型のイベントや対話を重視したトークショーを中心に4日から6日まで開かれている。
 本間所長は、科学コミュニケーション実践グループ「ACADEMIJAN(アカデミジャン)」が提案した対話企画、「皆で紡ぐ!未来のブラックホール研究」にゲストスピーカーとして登壇。同グループのメンバーで水沢出身の会社員、菅原風我さん(27)=都内在住=らが中心となり実施した。
 本間所長は観測所の歴史やブラックホール(BH)に関する研究を紹介しながら、天文学など基礎科学研究全般で、予算が頭打ち状態になっている実情を説明。若手研究者の育成にも支障が出ているとして、さまざまな取り組みを展開しており、その一つとして一般市民や民間企業から資金を募るCFに取り組んだことを伝えた。
 本間所長は「若手研究者を1人雇用でき、研究推進の可能性を得られたことも大きいが、一般市民の方々などから直接の応援を聞けたことが一番大きい」と述べた。
 来場者やネット聴講者との対話では、新たな資金確保手段として、CFの有効性について考えた。CFのような取り組みを支持する声があった一方、人気投票のようになり「怪しい科学研究に対する資金集めの手段にならないか。市民もしっかりとした科学の基礎知識を持つ必要がある」との指摘もあった。
 本間所長は「人気投票というリスクがあるというのもその通りだと思うが、CFの取り組みが広がっていけば、課題解決も進むと思うし、実は有益な無名研究にも支援が行くのではないか」と持論を展開した。
 企画終了後、菅原さんは「多くの人がBH研究に関心を持って、応援していることがあらためて分かった。CFの取り組みについては可能性もあるし、できることの限界もあるが、実践しながら解消していけると思う。何より新しいことに挑戦していく姿勢が大切だと思う」と話していた。


写真2=サイエンスアゴラ会場に設けられたILCのPRブース

 サイエンスアゴラでは、公募により選定した39のステージ企画と73のブース展示が行われている。北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」のコーナーも設けられており、県ILC推進局の職員らがILC計画の概要をPRしていた。
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tanko 2022-11-5 10:30

写真=締結式で合意書を取り交わした金ケ崎町の高橋寛寿町長(右)と岩手銀行の岩山徹頭取(左)ら

 金ケ崎町は4日、脱炭素社会の実現に向け、岩手銀行(本店盛岡市、岩山徹頭取)、ゼロボード(本社東京都、渡慶次道隆代表取締役)との間で基本合意書を締結した。クラウドサービスを利用した温室効果ガス排出量の算定と可視化を進め、環境と経済の好循環を目指した取り組みを発展させていく。
(松川歩基)

 行政が取り組む温室効果ガスの削減活動を可視化することで、町民や町内民間事業者らへの普及啓発を促進。削減計画をより効果的に策定する狙いがある。
 ゼロボードは、排出量を算定・可視化するクラウドサービスを提供しており、昨年月に同銀行が東北で初めて取り扱いを開始。同銀行が調整役を担い、本県では6市町村が導入している。
 町は、25の町営施設と、17の指定管理施設で段階的に活用する考え。
 町や指定管理施設が設備の稼働状況などの情報をインターネット上で入力すると、算定された排出量を確認できる仕組み。情報を一元管理することで、町が課題と捉える町民への周知についても効果が期待されるという。
 早い施設では年内にシステムを導入し、年度内に測定。来年度は測定結果に基づく排出目標算定と計画見直し、2024(令和6)年度以降は継続算定に加え、地球温暖化対策実行計画の策定に生かしていく。
 町はこれまでに、町営25施設を対象に排出量調査を実施。1997(平成9)年の初回調査で年間253万1341kgだった排出量は、2017年には137万6383kgまで削減した。さらに2023年に2017年比で5%削減する目標を掲げている。
 4日、町役場で締結式が行われ、高橋寛寿町長は「町は温室効果ガスの削減のためさまざまな取り組みを行ってきたが、それが町民に効果的に伝わっていなかった。自然と共生するまちづくりを一層進めるためにも、システムを効果的に活用したい」と語った。
 同銀行の岩山頭取は「地球温暖化に対して重要な取り組み。町内の動きに対し、一層力添えしていきたい」とあいさつ。ゼロボードの坂本洋一ビジネス本部長はオンラインで「一人一人が関心を持ち、行動につなげるために情報の可視化は重要。町内の取り組みに役立ててほしい」と話した。
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tanko 2022-11-1 12:10

写真=ACADEMIJANの仲間らと活動する菅原風我さん(左)

 科学と社会との関係について、国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の活動事例から考える対話企画「みんなで紡ぐ!未来のブラックホール研究」が5日、都内で開かれる科学イベント「サイエンスアゴラ2022」の中で繰り広げられる。市出身の会社員、菅原風我さん(27)=都内在住=が参加する科学コミュニケーション実践グループ「ACADEMIJAN(アカデミジャン)」が考案した。当日は本間所長も登壇。ブラックホール(BH)研究を紹介しながら、持続可能な基礎科学研究を実現するためのアイデアを来場者と共に考える。
(児玉直人)

 サイエンスアゴラは、科学技術振興機構(JST、橋本和仁理事長)が主催し、2006年に始まった。今年は東京・台場青海地区のテレコムセンタービルを会場に、4日から3日間開催。公募により選定した39のステージ企画と73のブース展示を実施する。
 ステージ企画に応募したACADEMIJANは、北海道大学の科学コミュニケーター育成講座「CoSTEP(コーステップ)」の第16期修了生有志で結成した。
 都内のIT関連企業に勤務する菅原さんもメンバーの一人。東京大学大学院在学中には科学技術社会論を学ぶなど、科学と社会の在り方を考えるサイエンスアゴラの開催趣旨に近い分野を研究対象にしていた。
 予算や人材の不足による日本の純粋科学、基礎科学が岐路に立たされている状況について、在学中から関心を寄せていた菅原さん。関連するニュースに触れる中で、実家近くの同観測所も例外でないことを知った。史上初のBH撮影に貢献し、社会の脚光を浴びた同観測所であっても、施設運営や人材育成に必要な予算の安定確保に影響が出ているという現実に直面していた。
 そんな苦境の中、観測所の外部にも目を向けた挑戦を続ける本間所長の姿勢に、菅原さんは注目。同観測所の取り組みを事例に、基礎科学全般が抱える重要課題について、サイエンスアゴラの場で問題提起できるのではと考えた。
 仲間と共に構想を練り、提出した企画は無事採用。さらにサイエンスアゴラ2022推進委員会が決める注目企画(12件)にも選ばれた。委員の一人は、研究者と市民が同じ目線で考える上で不可欠な企画だと評価。別の委員からは、施設存続を強調しすぎないようにすれば、より多様な価値観や意見も得やすくなり、結果的に既定概念を超えたより良いアイデアが生まれる――との助言も受けた。
 「一つ一つの取り組みは小さなことであっても、さまざまなことにチャレンジしている本間所長の姿勢がとても大切だと感じる」と菅原さん。本間所長は「予算の話は基礎科学や大型科学の共通課題で、避けては通れない話。基礎科学をどう持続的に支えていくか、市民の皆さんと一緒に考えられる非常に貴重な機会を与えていただきありがたい」と語り、来場者らとの対話や得られる成果に期待を寄せる。
 対話企画「みんなで紡ぐ!未来のブラックホール研究」は午後2時半開始。事前申し込みをすればオンライン配信の視聴もできる。
 サイエンスアゴラには、県ILC推進局もブースを出展。素粒子実験施設、ILC(国際リニアコライダー)計画をPRする。

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