人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2017-3-24 19:40
 岩手県科学ILC推進室の佐々木淳室長は23日、奥州市水沢区星ガ丘町の奥州宇宙遊学館で講演し、国際リニアコライダー(ILC)をめぐる今後の動向などについて説明した。2017(平成29)〜2018年度中にもILC国内誘致の政府判断が出ると予測される中、「この一年はどれだけ受け入れの準備ができるのかが問われるだろう」と述べ、地元関係者とより緊密に連携していく姿勢を示した。
(児玉直人)

 佐々木室長は、同区を拠点とした誘致団体「いわてILC加速器科学推進会議」の総会に合わせ開催した記念講演会に登壇。直近の動向や海外の研究施設におけるILCの取り組み、今後の動きについて解説した。
 政府の誘致判断に影響を与える文部科学省のILC有識者会議の議論は当初、研究意義や技術面に関するものが中心だったが、現在は周辺環境や社会基盤など地域的な分野に入ってきているという。佐々木室長は「完成までに10年かかるILCだが、仮に工事が始まれば2、3年で関係する外国人が徐々に訪れるようになる。地元での受け入れ態勢はそれなりに必要になってくる」と説いた。
 ヨーロッパの研究施設では、加速器空洞を収納する「クライオモジュール」の組み立てテストが繰り返されており、作業スピードも格段に向上。「われわれは誘致活動に重きを置いている観もあるが、海外ではいつでも関連装置を造れる状況にあり、早く日本が誘致に手を挙げてほしいと思っているようだ」と佐々木室長。地元企業の協力を得るなどの製造体制を整えているほか、クライオモジュールの外枠となる円筒状の部材には中国のメーカーも参入しているという。
 佐々木室長は「この一年は、地元がどれだけ受け入れへの準備ができるかが問われる時期。今までは一般論的な話をしていたが、もっと具体的に『こういうことができないか』など突っ込んだ話をしていくことになる。皆さんと一緒になって取り組んでいきたい」と協力を求めた。

写真=ILCの動向について説明する県の佐々木淳・科学ILC推進室長
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tanko 2017-3-24 19:40
 いわてILC加速器科学推進会議は23日、奥州宇宙遊学館で2017年(平成29)年総会を開き、同会議代表幹事で昨年死去した亀卦川富夫氏の後任に、奥州商工会議所会頭の海鋒守氏が就任したことなどを報告した。副代表幹事を新たに設ける議案も提出され、承認された。
 昨年12月の亀卦川氏の死去を受け、同会議は今年1月、緊急の幹事会を開催。今後の対応や役員の選出について協議し、活動の継続や代表幹事を補佐する副代表幹事職を新たに設けることなどを確認していた。
 役員の選出については、総会の承認事項として含まれておらず、幹事会関係者の間で協議し人選。広く胆江地区での誘致に向けた機運醸成を図っていく必要性を踏まえ、地元経済界や行政経験者らを中心に声掛けし、了解を得ていた。
 海鋒代表幹事を除く役員は次の通り。
 ▽副代表幹事…鎌田卓也、佐藤剛、阿部哲幸、遠藤武志、高橋健二、菱谷和栄▽幹事…阿部靖彦、及川敬、及川松男、菊地慶矩、菊地清晴、佐々木利幸、高橋惇夫、高橋十一、高橋政志、千葉政幸、千田伏二夫、那須川伸治、吉田秀三▽監事…及川晃一、高橋悦見▽事務局長…斎藤一▽顧問…大江昌嗣
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tanko 2017-3-23 19:30
 米カリフォルニア州での海外研修を終えた県立水沢高校(安藤泰彦校長)理数科2年生の生徒たちは22日、市役所本庁に小沢昌記市長を訪ね、帰国を報告。現地では、素粒子物理学の実験施設も見学したといい、北上山地への誘致が期待されている国際リニアコライダー(ILC)とイメージを重ねながら「ILCの意義について深く考えることができる貴重な経験だった」と充実した研修を振り返った。
 文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定を受ける同校初の海外研修で、理数科2年生11人が研修に臨んだ。先月20日に出国し、8日間の日程でSLAC(スラック)国立加速器研究所やカリフォルニア工科大学などを訪れ加速器の意義や建設地のまちづくりを身近に体感した。
 帰国報告には生徒5人が訪問。生徒たちは「岩手に住む私たちがILCについて学べたことは、意義のある経験だった」「研究員と間近に話をでき、誇りと楽しさを感じながら研究している人たちが素晴らしいと思った」などと充実した表情で研修を振り返った。
 「ILCは分野の広い研究。強い刺激となったのでは」と小沢市長。「さまざまなことにチャレンジし、諦めない心を持った人間に成長してほしい」とエールを送った。

写真=充実した研修を小沢昌記市長に報告する水沢高校の生徒
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tanko 2017-3-21 19:20

 江刺ふるさと市場そばに本社工場を構える産業装置メーカー、株式会社サンアイ精機。創業以降、大手企業から請け負う金属部品加工を収益源としたが、30年ほど前からイノベーション(技術革新)を旗印に自社製品を次々と開発してきた。その一つは本年度、東北地方発明表彰の中小企業庁長官賞に輝いた。
 菊地晋也社長(44)の父親で会長の寛さん(68)が1973(昭和48)年5月、現在地近くで創業した。それまで奥州市内にある金属加工会社の技術者だったが、「日本の基幹産業である製造業を盛り上げたい」。そう決意し、24歳で独立した。
 創業後、大手企業から受注した部品加工のみで経営を支えてきたが、1989年、自社開発製品を初めて製造したのが節目となった。
 記念すべき自社開発の第1号は、工作機械の縦軸と横軸の動きを精密にするための装置「クロステーブル」。3000台超を売り出すなど顧客の好評を得た。ただ、下請け加工だけでなく、業績へのリスクがより大きい自社開発に乗り出したのには、わけがある。部品加工の仕事の多くがコストの低い中国に移り始めたという、やむにやまれぬ事情もあった。
 しかし、クロステーブル本体も、やがて低価格の中国製品に押されるようになり、注文は激減した。
 新たな活路を見いだそうと、1998年から製造するのが、永久磁石式マグネットチャックだ。切削加工を施す金属材料を磁力で固定するための装置で、今では自社の主力製品に位置付けられる。
 当初は標準タイプのマグネットチャックを生産していたが、試行錯誤を経た2010年。「よりコンパクトで高性能」な製品の開発に成功した。技術協力した岩手県工業技術センターと共に特許も取得。この新製品「強力マグネットチャック」が、中小企業庁長官賞に選ばれた。
 標準品だけでなく、大手が作れない少量生産の特殊な製品を強みとし、マグネットチャックだけでも常に約顴種類を取りそろえる。IoT(モノのインターネット化)を意識した製品づくりも特長という。
 菊地会長ら役員は、宇宙工学や素粒子などの先端技術にも以前から興味があり、北上山地が有力候補地に挙がる国際リニアコライダー(ILC)への関心も高い。菊地社長は「磁力を使う技術など何かの形で対応できれば」と意欲を示す。たとえ思うように参画できなくても、それを呼び水として他分野への技術転用を図るなど、新たな一歩につなげたい考えだ。
(若林正人)

【ひと声】
代表取締役 菊地晋也さん(44)
 「対応力と開発力が経営方針。お客さまのニーズが来てから慌てるのでなく、いかに技術力などのシーズを備えているかで対応力が高まる」
【会社データ】
 江刺区愛宕字金谷127の1。資本金500万円。従業員数13人。1978年に法人化した。マグネットチャックやクロステーブル、電極プリセッターなど自社製品は多彩。金属部品加工の下請けから事業を始めたが、今は自社製品が生産品の9割以上を占める。経営理念に「相互扶助の精神とお客さま第一主義を貫く」などを掲げる。社名はリコー創業者・市村清氏の人や国、勤めを愛するとした「三愛主義」に由来する。

写真上=江刺ふるさと市場そばの交差点前にあるサンアイ精機本社工場
金属を加工する機械設備・マシニングセンターを整える従業員
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tanko 2017-3-18 13:30
 奥州市は17日、2017(平成29)年度定期人事異動を内示した。ILC推進室は、総務企画部政策企画課の課内室だったが、同部の部内室に格上げさせ、専任職員を1人増やし3人体制(1人は部長級)とする。室長=総務企画部参事兼務=には千田良和氏(57)が就く。
 新年度は、奥州市の最上位計画である第2次市総合計画によるまちづくり元年。定期人事異動に当たり、同計画に掲げる2戦略プロジェクト(人口、ILC)の中長期的取り組みに加え、新市立病院建設や空き家対策など新たな取り組みに対応するための組織新設や職員体制の強化を図る。
 ILC(国際リニアコライダー)については新年度、国が誘致に関する方針を決定する時期と想定され、即応できる組織にするとともに、関係機関・団体との連携を強めながら市ILCまちづくりビジョンを確実に推進する。
 ILC推進室長に就任した千田良和氏は、東海大学卒で1982年採用。総合政策部政策企画課東京事務所長、農林部農政課長、都市整備部土木課長、国体推進室長=総務企画部参事兼務=などを歴任している。
 現ILC推進室長の朝日田倫明氏は財務部財政課長兼競馬対策室長となる。

写真=奥州市ILC推進室長に就任する千田良和氏
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tanko 2017-3-15 9:50
 宇宙空間にあるブラックホールから、電気を帯びたプラズマ粒子が勢いよく飛び出し続ける「ジェット噴出」と呼ばれる現象が存在する。何でも吸い込むはずのブラックホールに起きている奇妙な現象の解明に結びつく研究に、水沢区星ガ丘町の国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の秦和弘助教(33)が尽力。研究成果が評価され、本年度日本天文学会の研究奨励賞を授与されることになった。
(児玉直人)

 秦助教が観測したブラックホールは、おとめ座の方向にある「M87銀河」の中心部にあり、地球から約5400万光年の場所に位置する。質量は太陽の約30億倍。強大な重力が発生しているはずだが、それに逆らうようにジェット噴出が起きている。矛盾するような現象が起きる理由について、いくつかの理論が提唱されていたものの、それらを検証する観測成果はこれまでなかった。
 秦助教が観測に使用したのは、アメリカ国立電波天文台が運用している超長基線アレイ(VLBA)。10台の電波望遠鏡を連動させ、高い精度で行った。
 その結果、ジェット噴出がどこから始まっているか精密に測定することができ、同時にブラックホールの位置も把握できた。これまでは、重力が強すぎてプラズマ粒子を観測することができず、噴出の源流部分の詳細が確認できなかった。秦助教は「東京ドームの座席を知りたいのに『東京都文京区にあります』と言われているようなもの。今回の成果は、座席番号までしっかり把握できたのに等しい」と説明する。
 このほか、ジェット噴出の形状を精密に観測することもできた。同天文学会は「長年論争となっていた電波で見えるジェット噴出の構造とブラックホールの位置関係に明確な回答を与えた」「今後の研究に大きな影響を与える」と功績をたたえる。
 島根県出身の秦助教は総合研究大学院大学を卒業後、イタリア国立宇宙物理学研究機構研究員を経て国立天文台に。昨年から水沢で研究生活を送っている。「水沢は自分の故郷と同じような雰囲気で、すごく気に入っている。機会があれば多くの地域の人たちに自分たちの研究を伝えたい」と話している。
 賞の授与と記念講演は、15日から九州大学で開かれる日本天文学会春季年会の中で行われる。

写真=日本天文学会研究奨励賞に輝いた国立天文台水沢の秦和弘助教
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tanko 2017-3-14 10:10
 旧緯度観測所本館を改修した水沢区星ガ丘町の奥州宇宙遊学館。歴史を刻み込む洋館が、鮮やかな緑色にライトアップされ、見る人を幻想的な世界へといざなっている。
 全国29都市39カ所のランドマークを光で照らし、失明の最大原因「緑内障」を広く知ってもらおうと、日本緑内障学会が展開する啓発イベント。
 胆江地区では、奥州宇宙遊学館のほか、隣接する国立天文台水沢VLBI観測所の直径20m電波望遠鏡もライトアップ。闇夜に浮かび上がる雄姿は圧巻だ。18日まで実施され、点灯時間は午後6〜9時。

写真=緑色にライトアップされる奥州宇宙遊学館
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tanko 2017-3-12 16:10
 北上山地が有力候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の早期実現のため、ILCを推進する研究者らは今年5月までに、直線20kmの加速器によって実験をスタートさせるコストダウン策をまとめる。東京大学素粒子物理国際研究センターの山下了特任教授が11日、市文化会館(Zホール)で開かれた講演会で明らかにした。約1兆円とも想定されていた初期コストから30%の削減が可能といい、各方面から懸念されている巨額費用の問題解消を目指す。

 講演会は、水沢区を拠点とする民間のILC誘致団体・いわてILC加速器科学推進会議と、東京の一般社団法人国際経済政策調査会が主催。山下特任教授は「早期実現に向けた最終コーナーの状況」と題して講演し、一般市民や県立水沢高校の生徒ら約500人が聴講した。
 ILCを実現する上で大きな課題となっているのが巨額な建設コスト。多額の税金を使うことに国民や海外主要国の理解が得られるか、他の学術分野の研究活動に支障を与えないかという懸念の声が上がっていた。
 コスト問題がILC早期実現の妨げにならないよう、研究者らは昨年12月、盛岡市で開かれたILC関連の国際会議「リニアコライダー・ワークショップ(LCWS)2016」の中で、直線20kmの距離で建設する新方針を打ち出した。当初、ILCは直線31kmの加速器建設を想定し、将来的には55kmに伸ばす予定だった。
 山下特任教授は「既存の円形加速器と違い、直線加速器のILCは後で距離を伸ばせるというメリットがある。これに、装置性能を上げるなどの取り組みを反映させれば、30%の削減が見込める」と強調。「5月までに取り組みをまとめる予定で、誘致実現の可能性は格段に上がる」と述べた。
 東日本大震災から6年の節目であることにも触れ、「ILCが震災復興にどれだけ役立てられるのか、将来に向けてできることを考え、進めていきたい」と決意を示した。

写真=ILC誘致の最終局面に向けた動きについて説明する山下了特任教授

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復興のシンボル 実現誓い黙とう

 水沢区佐倉河の市文化会館(Zホール)では、国際リニアコライダー(ILC)に関連する講演会開催中に、聴講者全員が黙とうをささげた。司会から事前に黙とうを行う旨が伝えられ、東京大学の山下了特任教授による講演を中断。参加者約500人が起立し、1分間の黙とうをささげた。ILCは「東北復興の象徴」とも言われており、関係者は被災地復興にも寄与するような壮大な実験施設と国際研究都市の早期実現を願った。
 会場には小沢昌記市長、高橋由一町長の姿もあった。

写真=黙とうをささげる?LC講演会の聴講者
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tanko 2017-3-10 21:20
縮小版で繰り返すテスト

 奥州市内中学生たちの研修の様子とともに、高エネルギー加速器研究機構(KEK、山内正則機構長)の協力を得て、国際リニアコライダー(ILC)関連装置の開発状況を特別に取材することができた。本連載の最終回に当たり、ILC実現に向けた取り組み状況に触れる。研究者や技術者たちは、世界に例のない巨大実験施設の実現に向け、ILCの縮小版とも言える実験設備でテストを繰り返し「本番」に備えている。

 奥州の中学生たちがせっかくKEKを訪れるのだから、ILCに関する場所も見てほしい――と内心では思っていたが、残念ながら今回の予定には組み込まれていなかった。生徒たちが奥州市出身の小野正明名誉教授の講義を受けている最中、一行から離れ広報担当者の案内で敷地内にある実験施設へ向かった。
 KEKの実験施設の多くは放射線管理区域となっており、施設内に入る際は入場人数や目的などを事前申請する必要がある。放射線管理業務の事務所で、放射線に関する注意事項が記された書類を読み、サインするよう求められた。さらに、胸ポケットに取り付けられる小さな放射線量計を渡され、スイッチを入れるよう指示があった。こうした厳重な管理環境は、ILCが実現した場合も当然導入されるであろう。
 手続きを終え、最初に訪れたのは先端加速器試験施設(ATF、Accelerator Test Facility)。ILCで使用する電子と陽電子のビーム(粒子の塊)をいかに実験に適した形に作り上げるか、実験と研究を進めている。「ミニILC」とも呼ばれおり、施設内の装置をそのまま拡大させれば、ILCの一部ができてしまうという感じだ。
 ILCは電子と陽電子の衝突現象を調べ、宇宙誕生の謎や物質の基本構造解明を目指す。しかし小さな粒子同士をぶつけるのは至難の業。数?離れて2人が向かい合い、パチンコ玉を思いきり投げてぶつけようとしても、よほどコントロールが良く、タイミングが合わなければぶつからない。
 衝突が起きるまで電子、陽電子を生成し加速し続けても、その頻度が低ければ研究に有益なデータを得るまでに時間がかかる。同時に施設稼働のコストもかさむ。そこで効率よく衝突できる質のいい電子、陽電子ビームを作る技術が求められる。
 具体的には、生成時には進行方向がばらばらのビームを列の整った状態に仕上げ、さらに衝突点の直前でビームの密度を極限まで高くする。つまり粒同士がきれいに整列した状態で進み、かつ互いの間隔が狭い状態であれば、衝突する確率が上がるという仕組みだ。
 ATFではまず電子を生成させ、全長70mの線形加速器によって加速させ、電子ビームのエネルギーをアップさせる。電子ビーム一つ塊の中に、約100億個の電子の粒が入っている。やがて、円周状に配管した「ダンピングリング」と呼ばれる部分に到達。ILCで言えば、中心部分に配置される円形のトンネル部分だ。ATFのダンピングリングは1周140mで、ビームはわずか0.3秒の間に60万〜70万周する。周回を終えたビームはダンピングリングを抜け出し、レンズで光を集めるのと同じ要領でビームの大きさをギュッと小さくし、密度を高める。
 ILCでは6nm(1nm=0.000000001m)までビームを絞り込む。ATFの装置規模に換算すれば37nmまで絞り込みができればよい。現在、41nmまで絞り込みができており、これだけでも世界一の精度だという。
 ATF担当の照沼信浩教授は「ほぼゴールに達している。次は『いかにして衝突させるか』がテーマになってくる。わずかな地面の揺れを補正する技術が求められる」と話している。
 次に訪れたのは超伝導リニアック試験施設(STF、Superconducting RF Test Facility)。電子、陽電子のビームを光速に近い状態まで加速させる加速器「クライオモジュール」やその周辺設備を開発している。
 ビームが駆け抜ける加速空洞は、液体ヘリウムによってマイナス271度まで冷やされる。電気抵抗がほとんどない超伝導(超電導)状態となり、消費電力をなるべく抑え、効率よくビームを加速させることができる。
 加速空洞は内部にわずかなホコリがあるだけで、実験に影響が出る。また高価な金属「ニオブ」を使用しているため、そう簡単に新品交換するわけにもいかない。STFではメンテナンス技術の確立や、クリーンな環境を保ったままクライオモジュールを組み立てるための方法などについても、よりよい方法を検討している。
 ILCを実現する上でネックとなっているのがコスト面。しかし、研究者や技術者たちはただ単に良質な研究を求めているだけではなく、効率性と低コストも意識しながら壮大なプロジェクトの実現に挑んでいるとあらためて感じた。

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※一部写真はILC概略図と一緒にご覧ください


ILCの概略図((C)ILC GDE)


ATFの電子ビーム生成装置付近の様子。生成された電子は、写真左手前から奥に向け、全長飫?の直線加速器を駆け抜ける(ILCでは概略図の「A」の部分に相当)


円周状に加速器が配置されたダンピングリング。電子ビームは矢印(1)の方向から入り込み、壁の向こう側を回り込んで矢印(2)のように進んで来る(ILCでは概略図の「B」の部分に相当)


電子ビームを極限まで小さくする最終収束システム。八角形の枠の中に見える4個のブロックは電磁石(ILCでは概略図の「C」の部分に相当)


電磁石の台座は、地面の揺れをコンピューター制御で補正できる構造になっている。並んだパイプの間隔を変えることで、逆三角形をした台座の部分が上下する


STF地下のクライオモジュール実験室入り口。放射線が発生する装置稼働中は立ち入ることができないため、厳重なセキュリティーと安全対策が施されている


黄色いボディーが特徴のクライオモジュール。ILCを建設するときには直径1m、全長12mの単体を1000〜2000台の規模で量産する必要がある(ILCでは概略図の「D」の部分に相当)
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tanko 2017-3-9 21:00
 外国人市民に伝わりやすい日本語の使い方について学ぶ奥州市主催の「やさしい日本語講座」はこのほど、江刺区の奥州市役所江刺総合支所1階多目的ホールで開かれた。行政関係者や一般市民ら50人が参加。自治体国際化協会地域国際化推進アドバイザー・松本義弘さんが、やさしい日本語の定義や、災害・緊急時に伝える具体的表現などについて分かりやすく解説し、多文化共生への理解を深めた。
(稲田愛美)

 奥州市在住の外国人が増加し、地域の国際化が進む。素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致実現を見据え、外国人研究者らを受け入れる環境づくりも求められている中、日本語で分かりやすく伝える手法を学び、国際化や多文化共生につなげようと初開催した。
 松本さんは、阪神淡路大震災発生時、外国人市民が日本人より1%多く死亡したことを例に「震災後の避難先で亡くなった人も多く、これは情報が届かなかったことが原因の一つ。必要なことや困っていることを共有し、互いに情報交換することが生き延びることにつながる。一度により多くの人に分かりやすい情報を伝えられる言葉が、やさしい日本語」と語り掛け、特にも自治体が発信する行政用語の難しさを指摘した。
 参加者は、例文をやさしい日本語に変える作業に挑戦。話し言葉、もしくは書き言葉として伝わりやすい表現を思案した。
 「常用薬」については「『いつも飲む薬』でも間違いではないが、『毎日使う薬』の方がより良い。毎日のほうが具体的だし、薬は飲み薬以外にもある」と松本さん。参加者から多種多様な回答が出され、「やさしい日本語に正解はない。伝わればそれで正解」と、テクニックより伝えようとする心の大切さを強調した。

写真上=解説する松本義弘さん
写真下=やさしい日本語の表現の仕方について理解を深める参加者ら

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