人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2024-3-31 11:00

写真=いわてILC加速器科学推進会議総会に合わせて開かれた講演会

 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の民間誘致団体、いわてILC加速器科学推進会議(海鋒守代表幹事)の定期総会と記念講演会が30日、水沢佐倉河のプラザイン水沢で開かれた。県ILC推進局でILCコーディネーターを務める大平尚氏が「地球村創生ビジョンとILC」と題し講演した。一般財団法人国土計画協会が策定した同ビジョンを紹介するとともに、ILCを巡る最近の動向を解説。将来加速器に関する文部科学省と内閣府の省庁横断型連絡会議がつくられたことに触れ、「これを本気でやってくれればと思う。政治による後押しで活発に動いてもらいたい」と期待を込めた。
(児玉直人)

 同会議は本県南部の北上山地にILC誘致を実現し、市民や産業界レベルで科学的な風土醸成を目指そうと、2012(平成24)年1月に発足した民間のILC誘致団体。NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター(大江昌嗣理事長)にILC出前授業の講師派遣や事務処理委託などを行いながら、ILCの理解普及、関係団体と連携した早期実現に向けた活動を展開している。
 記念講演で登壇した大平氏は、県職員の立場で長年ILC誘致に携わってきた一人。講演では同ビジョンの紹介に先立ち、ILC誘致を巡る経過を振り返り、最近の動向を紹介した。
 1980年代に現在のILC計画へと結び付く動きが始動。国際プロジェクトとして、世界中の素粒子物理学者らが実現に向けた技術開発などを進める中、日本では2013年に国内の素粒子物理学者らが国内建設候補地として、本県南部の北上山地を選定した。
 「北上か九州かという構図になり、一番盛り上がった時期。決定を受け、とんとんと物事が進むかと思っていた」と大平氏。その後、日本学術会議や文科省有識者会議から慎重論が相次ぎ、新型コロナウイルス禍の影響もあり、研究者サイドが場所決定をしてから10年以上経過した現在も、誘致を大きく前進させるような動きに至っていないのが実態だ。
 有識者会議等の指摘事項に対し、国際将来加速器委員会(ICFA)などは、ILCは技術的に確固たるものに成熟しており、候補地は日本であると認識している││といった反応を示していると解説。「世界中の研究者は有識者会議の見解に対し『何をいまさら』という見方になっている」と述べた。
 ILC計画とともに、フランスとスイスの国境にある素粒子実験施設「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」の後継施設として、「FCC−ee」と呼ばれる周長90kmの円形加速器計画も検討されている。大平氏は「ILCは技術設計まで出来上がっているが、FCCは概念設計までの段階。建設費もILCが約7800億円であるのに対し、FCCは2.1兆円だ」と説明。その上で「ICFAはヒッグス粒子を精密に調べる『ヒッグスファクトリー』の整備を目指したいため、ILC以外の計画についても言及している。『日本が動かないなら他をやる』という状況でもある。『ILCが一番いいよね』という考えもあり、日本のやる気を見せることが大事だ」と強調した。
 研究者側が進める技術開発の加速に期待を込めるが、それ以上に政府や政治に対する期待が大きいという。今月、国会のILC推進議連総会があり、内閣府と文科省が情報共有する連絡会議が立ち上がったことに触れ、「省庁横断の調整を図る一歩になる。本気でやってほしい」と述べた。ただ国会ILC議連会長が、自民党の政治資金パーティーの裏金問題の渦中にいる塩谷立・元文科相であり、今後の進展に不安をのぞかせた。
 後半で紹介した地球村創生ビジョンは、「世界中からさまざま人々が集い、課題解決に向けて挑戦する場所」を日本国土の中に描こうとするもの。その核となるプロジェクトにILCが位置付けられている。大平氏は「ILCは真理探究のプロジェクト。地域活性化という枠組みだけではなく、人類共有の施設として地球的規模の課題に活用される施設だ」と訴えた。
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tanko 2024-3-15 19:00

写真=酒井栄さんが撮影した「ポン・ブルックス彗星」(7日午後6時40分ごろ、酒井さん提供)

 NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター副理事長の酒井栄さん(71)=水沢東中通り=はこのほど、「ポン・ブルックス彗星」の撮影に成功した。1954年以来の接近となる。
 個人としては史上最多の彗星発見記録(37個)を有するフランスの天文学者ジャン=ルイ・ポンが、1812年に発見した。1883年、米国の天文学者ウィリアム・ロバート・ブルックスが偶然見つけた彗星が、ポンが発見した彗星と同じであることが後に判明した。
 夕方から宵の早い時間帯にかけ、西北西の低い位置(アンドロメダ座付近)に見えるという。双眼鏡でなければ見えない明るさだが、太陽と地球に最接近する4月には明るさが増すという。次に地上から観測できるのは2095年となる。
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tanko 2024-3-11 17:30

写真=「木村栄の書展」最終日の10日、木村の書を鑑賞する大勢の来場者

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の前身、水沢緯度観測所の初代所長で「Z項」の発見者として知られる木村栄(きむら・ひさし、1870〜1943)の書を集めた展示会は10日、閉幕した。水沢星ガ丘町の同観測所敷地内にある奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)を会場に、今月2日から8日間(休館日除く)にわたり開催し、延べ約300人が来場。最終日は水沢佐倉河の書家、松本啓夫巳(まつもと・ひろふみ)さん(46)=雅号・錦龍(きんりゅう)=による書の解説会も開催。来場者は木村の豊かな才能をあらためて認識した。

 特別企画展「木村栄の書展―緯度観測所初代所長、Z項発見者からの贈り物―」と題し、木村の功績や緯度観測所の歴史について調査・研究している国立科学博物館の馬場幸栄(ばば・ゆきえ)研究員と、胆江日日新聞社(小野寺弘行代表取締役社長)が主催。国立天文台(常田佐久台長)とNPO法人イーハトーブ宇宙実践ンセンター(大江昌嗣理事長)などが協力し、市と市教育委員会、水沢書道協会(高橋祥陽会長)の後援を受けた。個人や学校、公共施設などの協力で借用した書と関連品など19点を公開した。



写真=松本啓夫巳さんの解説に聞き入る来場者

 最終日の解説会は、松本さんが木村が揮毫した神社扁額を修繕した縁で実現した。
 松本さんは企画展の告知ポスターに印刷された、書をしたためる木村の写真を示しながら解説。「半紙の大きさに対し、とても大きな筆を使っている点がまず目を引く。穂先だけを使い、リラックスした感じでさらさらと書いたことがうかがえる。1枚の写真からさまざまな情報が読み取れる」などと述べた。
 県立水沢商業高校の校訓「明浄直」を例に、筆遣いの技術の高さを説明。同校で事務職員を務めている及川揚子さん(57)は、「普段は校長室に飾られている書が展示されているのを興味深く見させてもらった。自分も書を習っているが、木村博士は科学だけでなく書をはじめ、さまざまな才能を持ち合わせていたのだと感じた」と感慨深く聞き入っていた。

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木村のひ孫・清水明さんが偶然来館 直筆と対面



写真=書展開催中の奥州宇宙遊学館を訪れた木村栄のひ孫、清水明さん

 「木村栄の書展」最終日の10日、木村のひ孫に当たる清水明さん(58)=東京都在住=が企画展会場に来場した。
 清水さんの母・黎子さんは、木村の長女・伊登子(いとこ)さんの次女に当たる。同日、盛岡市に所用があり来県。曽祖父である木村が人生の半分以上を過ごした水沢を以前から訪れてみたいと、初めて奥州宇宙遊学館がある国立天文台水沢VLBI観測所に足を運んだ。書展が開かれていることは知らず、全くの偶然で曽祖父の直筆を見ることができた。
 清水さんは「これだけの書の達人だとは思わなかった。祖母の伊登子の夫、茅誠司は物理学者として活躍したが、木村さんも含め科学者一家の気骨を感じた」と話していた。
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tanko 2024-3-10 12:20


写真=修復を終え扁額が取り付けられ、笑顔を見せる千葉安里さん

 水沢中上野町の水沢公園内にある正喜(しょうき)稲荷社の扁額が9日、修復や奥州宇宙遊学館で開催している「木村栄の書展」での公開展示を終え、社殿に戻された。緯度観測所初代所長を務め「Z項」を発見した天文学者、木村栄が揮毫したもの。同日、現地で行われた神事には、木村の書であることを発見した高校生も参列した。
 この稲荷社は水沢公園北側の斜面に位置。陸中一宮駒形神社(山下明宮司)によると、創建時期など詳細は不明だが、駒形神社が移設される前の「塩釜神社」の境内社だったとみられる。園内の目立たない場所にあるため、扁額が木村の書であることはもちろん、稲荷社の名前自体、広く知られていなかった。
 昨年末、別件で胆江日日新聞社の取材を受けた県立不来方高校2年の千葉安里さん(17)=水沢真城=が、扁額に「木村栄謹書」と記されていたと証言。美術を学ぶ千葉さんは、公園内をよく散策しており、扁額の小さな文字を注意深く観察していたおかげで、木村の書であることが判明した。
 時を同じくして、稲荷社の鳥居建て替えが持ち上がり、色がくすんでいた扁額も修繕することに。水沢佐倉河の書家・松本啓夫巳さん(46)が汚れや色落ちした部分を手直しした。
 胆江日日新聞社などが主催する同展の開催に合わせ、8日まで修復間もない扁額を特別に展示。普段目の前で見ることができない神社扁額が展示されたとあって、同展来場者の多くが注目した。
 神事には鳥居工事の関係者に加え、松本さんや千葉さんらも参列。新築した鳥居は、花見名所をイメージした桜色に仕上げられた。
 「修復前はモノクロ写真のような印象だった。新品同様ながら自然に溶け込む風合いになった」と松本さん。千葉さんは「桜色の鳥居とともに、迫力ある木村博士の書に光が当たる機会になった。桜が咲く季節には多くの人が参拝してくれたら、木村博士も喜ぶのでは」と話していた。
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tanko 2024-3-4 7:10

写真=大勢の人たちでにぎわう会場

 国立科学博物館の馬場幸栄研究員は3日、奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)で開催中の特別企画展「木村栄の書展」に合わせ講演。展示されている書の概要を紹介しながら、「木村の書は、天文台が地域の支えによって存在し続けてきた証拠。たとえ破れていたり汚損したりしていても、その歴史的価値が衰えることはない。大切に保管し続けてほしい」と呼びかけた。
(児玉直人)



写真=木村栄と謡曲を教わっていた清明女学校(水沢第一高校の前身)の生徒たちの写真を紹介する馬場幸栄研究員。左側に展示されているのが同校が所有する木村の書「温良貞淑」


 同展は2日に開幕。同館休館日を除く10日までの8日間にわたり、馬場研究員と胆江日日新聞社の主催で開催している。開幕2日目に実施した記念講演会には、元所員や書の提供者なども含め市内外から50人余りが足を運んだ。
 馬場研究員は講演冒頭、国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の前身である緯度観測所の歴史、木村の略歴などを紹介した。
 「木村はひたすら研究だけをしていたわけではない。芸術やスポーツが好きな多趣味な人。当時の日本で超有名人だったにもかかわらず、自分だけではなく所員や市民と一緒に楽しむのが好きだった」と馬場研究員。中でも小さなころからたしなんでいた書は特技の一つだったと説明。現存している4歳と8歳の書をスライドに示すと、聴講者からは堂々とした筆跡に驚きの声があがった。
 協和学院水沢第一高校(大内誠光校長)が所有する書「温良貞淑(おんりょうていしゅく)」は「心穏やかに素直に、節操を堅く守り、しとやかなこと」という意味。同校は1926(大正15)年創立の清明女学校を前身としており、木村は趣味の謡曲を生徒たちに教えていた関係にあったという。
 馬場研究員は「緯度観測所の歴史があるからこそ、現在の国立天文台の存在やブラックホールの撮像成功といった実績につながっている。その歴史は観測所単独で築き上げたものではなく、地域の一部として市民と共に刺激を受けてきたからだ」と強調。「書が破れていたり、カビがはえていたりしても木村が書いたという歴史的な価値は失われない。世界に一つしかない歴史的資料として、大切に保管し続けてほしい」と訴えた。
 同展の鑑賞には遊学館の入館料(一般300円、児童生徒150円)が必要。5日は休館日。

10日に書家・松本さんの解説会開催
 特別企画展「木村栄の書展」に展示中の「正喜稲荷社」の扁額を修復した書家・松本啓夫巳(ひろふみ)さん(46)=雅号・錦龍=さんによる解説会は、10日午前10時から同展会場の奥州宇宙遊学館2階セミナー室で開かれる。
 松本さんは小学生のころから書道を始め、大学でも専攻した。教員を経験し、現在は書家として水沢佐倉河に松勢工房を開設。寺社からの書の依頼などに対応している。
 正喜稲荷社を管理している陸中一宮駒形神社の山下明宮司からの依頼で扁額を修復。木村の書の息づかいを間近に触れた時の思いや、書の魅力を伝えたいと急きょ解説会を開くことになった。
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tanko 2024-3-3 17:40

写真=奥州宇宙遊学館で2日に始まった「木村栄の書展」

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の前身、水沢緯度観測所の初代所長を務め「Z項」発見者として知られる木村栄(きむら・ひさし、1870〜1943)の書を集めた展示会が2日、水沢星ガ丘町の同観測所敷地内にある奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)で始まった。天文学者としての実力だけではなく、卓越した書の腕前だった木村の多才ぶりに触れた来場者から感嘆の声が上がっている。10日まで(5日は休館日)。
(児玉直人)

 木村の功績や緯度観測所の歴史について調査・研究している国立科学博物館(科博)の馬場幸栄研究員と、胆江日日新聞社(小野寺弘行代表取締役社長)が主催。国立天文台(常田佐久台長)とNPO法人イーハトーブ宇宙実践センター(大江昌嗣理事長)などが協力し、市と市教育委員会、水沢書道協会(高橋祥陽会長)の後援を受けた。
 掛け軸や額装された状態で個人宅や学校、公共施設などから借用した書や関連品など19点を公開している。いずれも木村が生前に残した貴重な書だ。
 このうち、江刺中町の日本料理店・新茶家(和賀総店主)が所有する書「能周小事然後成大事(しょうじをめぐらし、のちにだいじをなす)」は、古代中国の周王朝時代に生きたと伝えられている思想家・関尹子が残した一文。「小さな事でも周到にできたら、その後、大きな事を成すことができる」との意味がある。
 来場した二戸市福岡の小保内威彦さん(43)は、呑香稲荷神社の宮司。同神社は木村の師に当たる地球物理学者・田中舘愛橘(1856〜1952)にゆかりがある。
 小保内さんはこの日、水沢中上野町の駒形神社に偶然訪れ、境内に掲示されていた書展のポスターを見て立ち寄ったという。「田中舘博士も関係した場所ということで以前から訪れたいと思っていた。木村博士のことは天文学の功績しか知らなかったが、このような書の才能もあったとはすごい人物だと思う」と感心しきりだった。
 3日は午前11時半から、馬場研究員による記念講演会を予定している。書展鑑賞には、同館入館料(一般300円、児童・生徒150円)が必要となる。
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tanko 2024-3-2 8:20
 水沢緯度観測所初代所長を務め「Z項」を発見した木村栄(きむら・ひさし、1870〜1943)の書などを一堂に集めた特別企画展「木村栄の書展」は2日から10日まで、水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)で開かれる。国立科学博物館(科博)の馬場幸栄研究員と胆江日日新聞社が主催。観測所の元所員家族や市内の学校などが所有している書や関連する品々など19点を公開する初の試みとなる。時間は午前9時から午後5時まで。同館入館料(一般300円、児童・生徒150円)が必要となる。5日は休館日。
 緯度観測所の歴史や地域とのかかわりについて調査している馬場研究員の提案で企画。本紙が馬場研究員の寄稿を連載している関係から開催に至った。
 所有者らの情報提供を基に当初は13点程度の展示を見込んでいたが、その後も情報が寄せられた。軸装や額装の書のほか、木村がニューヨークから日本の知人に宛てた手紙、木村の書をデザインした鋳物製文鎮の鋳型、さらには神社の扁額なども展示する。
 開催期間中の3日午前11時半からは、馬場研究員による講演会が同館で開かれる。会場スペースの関係で着座聴講できるのは40人前後となる。
 展示品提供の協力者(所有者)は次の通り。
 ▽軸装…千田永さん(水沢)寺島倭子さん(同)和賀総さん(江刺)五嶋義明さん(胆沢)高橋勉さん(同)
 ▽額装…市立水沢小学校、陸中一宮駒形神社、県立水沢商業高校、協和学院水沢第一高校、平井美根子さん(盛岡市)及川永寿さん(江刺)千田永さん(水沢)ふくわら担い手センター(同)小野伊豫さん(同)高橋勝一さん(同)
 ▽つい立…大宮彦生さん(水沢)
 ▽神社扁額…陸中一宮駒形神社
 ▽手紙…高橋勉さん(胆沢)
 ▽文鎮鋳型…南部鉄器工房及富(水沢)

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