人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2024-2-29 8:30

写真=修復した扁額を手にする山下明宮司(左)と松本啓夫巳さん。落款は雅号の「千山」ではなく「木村栄」と本名で書かれている

 水沢中上野町の水沢公園内にひっそりとたたずむ正喜(しょうき)稲荷社の扁額が、緯度観測所(現・国立天文台水沢VLBI観測所)初代所長の木村栄(きむら・ひさし)が揮毫したものである可能性が高いことが分かった。きっかけは、かつて稲荷社を訪れた女子高生の記憶。稲荷社を管理する陸中一宮駒形神社の山下明宮司も長年気付かなかったといい、外気にさらされくすんだ色になっていた扁額を修復した。3月2日から奥州宇宙遊学館で開催する特別企画展「木村栄の書展」(胆江日日新聞社など主催)で、急きょ展示することが決まった。
(児玉直人)

 稲荷社は同公園北側、ブランコなどの遊具がある場所に近い斜面にある。山下宮司によると「五穀豊穣、商売繁盛の神様」というが、詳細は不明な点も多い。
 水沢公園に隣接する駒形神社が「塩釜大神社」だった時代、境内は現在の駒形神社より広かったという。やがて境内の一部が水沢公園として市(当時は水沢町)の所有地になったが、境内社だった稲荷社の土地は、個人の所有地(私有地)として引き継ぐことに。現在も私有地だが、実質的な管理は所有者から駒形神社に託されている。
 小さな社殿の正面に掲げられていたのが、木村揮毫と思われる扁額。木村の書跡に沿う形で木版を掘り、緑色で社名などが塗られていた。縁の装飾部分は金色となっていたようだが、外気に長年さらされていたため、ほとんどくすんでしまっていた。

 木村の書であることが分かったのは、本紙が取材した県立不来方高校2年の千葉安里さん(17)=水沢真城=の記憶がきっかけ。昨年12月、新春企画のインタビューの中で千葉さんから「水沢公園の小さな神社に『木村栄』って書いてありましたよ」との証言を受け、現地を調べたのが始まりだった。山下宮司も「扁額があるのは知っていたが、それが木村博士の書だとは全く気付かなかった」という。

 この発見とほぼ同時期に、老朽化で倒壊していた稲荷社の鳥居を修繕し奉納したいという申し出が個人からあり、鳥居の工事に合わせ、稲荷社周辺の環境整備や扁額の修復も行うことに。さらに3月9日の竣工式の前日まで、「木村栄の書展」会場で特別に展示する運びとなった。
 扁額の修復は、水沢佐倉河の書家・松本啓夫巳(まつもと・ひろふみ)さん(46)=雅号・錦龍=さんが対応。「作業をしながら木村博士の息づかいが感じられた。書をたしなんでいる様子の写真も見させてもらったが、向き合っている紙の大きさに対し、非常に大きな筆を手にしている。よほどの腕の持ち主でなければできないこと」と評価する。

 書展には、駒形神社斎館に掲示している「敬神護国」の書も展示する。山下宮司は「若い千葉さんが稲荷社の扁額の細かいところまで注意深く見て、木村博士の名前も含めてしっかり覚えていたこと自体すごい。木村博士が『俺のことを忘れないでくれよ』と言っているかのようだ。北陸・金沢出身の木村博士が、水沢のためにいろいろ尽くしてくれたことを感じる。もっと光を当てるきっかけになれば」と話していた。
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tanko 2024-2-27 9:20

写真=木村栄が飯坂タミ子さんに贈った書を手にする平井美根子さん

 国立科学博物館の馬場幸栄研究員と、胆江日日新聞社が主催する特別企画展「木村栄(きむら・ひさし)の書展」に、“計算の神様”と称賛された飯坂タミ子さん(故人)に木村が贈った書が展示される。飯坂さんの娘で、書を管理している平井美根子さん(78)=盛岡市山王町=は「母は宝物のように、木村先生の書や緯度観測所時代のものを大事に保管していた。馬場さんの研究のおかげで、消えてなくなりそうなものにも価値を見いだすことができた」と喜んでいる。同展は3月2日から10日まで、水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館で開かれる。(児玉直人)


緯度観測所に勤務していた当時の飯坂タミ子さん(平井美根子さん提供)

 昨年12月、盛岡市紺屋町の酒屋「平興(ひらこう)商店」が惜しまれつつ閉店した。2022年に雫石町へ移転した本県最古の造り酒屋「菊の司酒造」の向かいにあり、店で買った酒をその場で飲める「角打ち」というスタイルが人気だった。美根子さんは、30代のころから夫の実家が営む同商店を手伝い始めた。
 “のんべぇ”たちが談笑する様子を静かに見守るように、店の奥に掲げられていたのが、「虚心坦懐(きょしんたんかい)」の書。美根子さんの母、タミ子さんが緯度観測所職員時代、初代所長で「Z項」を発見した木村から贈られた。「心に先入観やわだかまりがない素直な気持ち」という意味がある。
 タミ子さんは1918(大正7)年2月20日に水沢袋町で出生。14歳で観測所に就職した。最初の仕事は庶務課の給仕。いわゆる「お茶くみ」だったが、35人ぐらいの所員全員の湯飲み茶わんの形や色をしっかり覚えていたという。16歳で計算の仕事を任されると、一度もミスをしたことがなく、同僚から付けられたあだ名が“計算の神様”だった。
 優秀な仕事ぶりが評価されたものの、結婚を前に1940(昭和15)年に22歳で退職。翌年、飯坂家の座敷で婚礼の儀が行われたが、そこに掲げられていたのが木村揮毫の「虚心坦懐」だった。
 やがて美根子さんが誕生するが、観測所のことを詳しく知ったのは、タミ子さんが晩年になってから。2010(平成22)年8月5日にタミ子さんが亡くなるまでの間、さまざまな話を聞いた。タミ子さんは木村の書のほか、3代目所長の池田徹郎が書いた絵画、当時観測所で撮影した写真なども大事にしていた。平興商店が閉じた現在、木村が揮毫した書などは、花巻市内の持ち家で保管している。
 美根子さんは「私が小さいころは気に留めなかったが、今はとても大切な宝物だと感じる。緯度観測所時代の仕事が、母の人生を幸せなものにしたと思う」と話している。
 特別企画展「木村栄の書展」の観覧には、宇宙遊学館の入館料(一般300円、児童・生徒150円)が必要。時間は午前9時から午後5時(午後4時半までに入館)。期間中の5日は休館日。
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tanko 2024-2-20 17:40

写真=木村栄が揮毫した水沢商業高校の校訓「明浄直」

 水沢緯度観測所初代所長を務め、「Z項」を発見した天文学者・木村栄(きむら・ひさし、1870〜1943)が揮毫した書を一堂に集めた特別企画展「木村栄の書展」は、3月2日から10日まで水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館で開かれる。国立科学博物館(科博)の馬場幸栄研究員と胆江日日新聞社が主催。元観測所員の家族や神社、学校などに展示・保管されている13点を公開する初の試み。書跡を間近に見ながら、木村と地域とのつながりを感じる機会とする。
(児玉直人)

 馬場研究員は緯度観測所の後身、国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の一室で500枚を超えるガラス乾板写真を発見。復元によって、観測所の歴史や人物関係をひもといている。本紙は昨年4月から「緯度観測所と地域の人々」と題し、馬場さんの研究成果を連載している。
 所員や地元名士などからの求めに応じ、たくさんの書を残した木村。その一部が元所員宅や神社、学校などに現存している。「一堂に集め展覧会を開催したい」との馬場研究員の希望に、本紙が賛同し共同開催する。
 北陸・金沢に生まれた木村は、幼少期から養父の木村民衛が経営する塾で勉学の日々を過ごした。その証しとも言えるのが4歳と8歳の時の書。原物が市立水沢図書館、複製が宇宙遊学館向かいの木村栄記念館に展示されている。
 馬場研究員によると、木村は研究の傍ら、多彩な才能を発揮し、人材育成や地域の文化振興などにも力を注いだ。書道もその一つ。自分の誕生日になると、所長官舎で何枚もの書を揮毫し、所員らにプレゼントしていたという。
 しかし、所有者の子孫や後任の施設管理者が処分したり、破損や所在不明になったりした書も少なくないとみられる。また「木村栄」ではなく「千山(せんざん)」という雅号で名が記されているため、誰が書いたか分からない人もいるという。
 特別企画展で紹介予定の書は13点。このうち「明浄直(めい・じょう・ちょく)」と書かれた作品は県立水沢商業高校の校訓で、校長室に飾られている。市役所本庁付近に校舎があった時代、玄関に掲げられ朝晩に読み上げられていたという。
 盛岡市の平井美根子さん所有の作品は、母親の飯坂タミ子さんに贈られた「虚心坦懐」。タミ子さんは観測所の計算係を務め、抜きんでた正確さから「計算の神様」と呼ばれていた。
 このほか地域の集会施設、個人宅で保管されていたものなども展示。会場へ持ち込むことが不可能なものは写真で紹介する。
 開催期間中、同3日午前11時半から宇宙遊学館で、馬場研究員による講演会を開く。聴講無料で事前申し込み不要。
 作品鑑賞や講演会の聴講には、宇宙遊学館の入館料(一般300円、児童生徒150円)が必要となる。5日は休館日のため鑑賞できない。
 問い合わせは胆江日日新聞社(電話0197・24・2244)へ。
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tanko 2024-2-10 7:50

写真=岩手県立大の鈴木厚人学長が講師を務め、ILCの動向を解説した

 岩手県議会・宮城県議会ILC(国際リニアコライダー)建設実現議員連盟の講演会は8日、盛岡市内のホテルで開かれた。両県の県議、仙台市議ら約60人が参加。岩手県立大の鈴木厚人学長(素粒子物理学)が講師を務め、ILCの概要と最近の動向を解説した。
 鈴木学長は「人類誕生以来の知のフロンティアとして、地球から日本・世界の未来を切り拓く」とILCによる挑戦を示し、人の集積や国によるイノベーションの創出など期待される効果を述べた。
 ILC研究所の建設予定地を中心に、「地域から未来へ、世界に開かれた地方創生ができる。仙台市から盛岡市へ広域でILCのコアゾーンを分担し合う」とコンパクトシティーの構想を述べた。
 「科学に国境はない。国家間で協力がしやすい分野。東北地域が地球村として次世代人材の育成やSDGsの先導を担える」と波及効果を示し、先端テクノロジーと環境施策の両立を強調した。
 ILCの現状については、2022(令和4)年4月に発表された国際将来計画委員会の「工学設計に進むことができるレベル」という報告を紹介。一方で鈴木学長は、一部の研究者によりILC技術開発の現状について誤った見解が流布されているとの認識を示した。
 「ある研究者がILCの技術開発が未熟であると文科省に説明していて、支援・推進に支障を来している。技術要素は確立されていて、建設開始ができる段階にあることに矛盾はない。準備研究所の設立の機は熟している」と指摘。日本誘致の勢いを取り戻すことと、オールジャパン体制の再構築を求めた。
 議員連盟代表の工藤大輔岩手県議会議長は、「両県議会においてILC実現に向け要望活動などさまざまな取り組みを進めてきた。まだまだ大きなハードルもある。一層の取り組みを通じ実現に向けまい進したい」と話していた。

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