人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2017-10-20 16:20
Q:今までの方法で宇宙を調べられないの?
 どうしてわざわざILCのような大きな施設を造って、宇宙の謎を調べるのかな。宇宙のことを研究するんだから、今ある天文台の望遠鏡や国際宇宙ステーションでは調べられないの?

A:望遠鏡や宇宙での観測には限界があります
 謎に満ちた宇宙を詳しく調べるには、光学望遠鏡や電波望遠鏡を用いて観察するのが最も簡単な方法です。星の光や目に見えない電波(電磁波)は、何万年もの時間をかけて地球に届きます。つまり、あなたが見ているの夜空の光は、遠い昔の星の姿なのです。星を調べれば、遠い昔に起きた宇宙での出来事を探ることができます。
 しかし、望遠鏡の観測には限度があります。ILCが調べようとする宇宙が生まれた直後は、光が電子に邪魔されて進めない不思議な空間だったと言われています。
 光がまっすぐ進めるようになったのは、宇宙誕生から38万年後。水素やヘリウムのような軽い原子が形成されてからのことです。水素とヘリウムが誕生し、光がまっすぐ進み、まるで霧が晴れたように見通しが良くなったことから「宇宙の晴れ上がり」と呼んでいます。
 つまり、どんなに性能のいい望遠鏡を人類が開発したとしても、「宇宙の晴れ上がり」以前の宇宙の姿を望遠鏡で観察することはできないのです。「多分こうだった」という推測の域を脱しません。
 では、宇宙に直接行けば何かヒントを得ることができるでしょうか? しかし、これは望遠鏡を使うことよりも難しく、現実には不可能です。
 人類が地球以外の場所に立ったのは、今のところ「月」だけ。しかも1969年から3年間のうちで、月面に立ったのはわずか�q人です。
 無人の探査機や人工衛星を使う方法はどうでしょう? 1977年に打ち上げられたアメリカの惑星探査機「ボイジャー1号」は、約35年たった2012年8月に太陽圏(太陽からの風が届く範囲)を脱出しました。とはいえ、果てしない宇宙の規模に比べてみれば、家の中の自分の部屋を出たか出ないかぐらいの距離にすぎません。
 こうなると、現実的に宇宙誕生の様子を調べる方法は「実験で再現してみる」しかありません。その実験に使われるのが「加速器」という装置。ILCはこれまで造られた加速器の中でも最も巨大な装置です。
 なぜ加速器を使うと宇宙誕生の謎が分かるのかは、また次の機会にしましょう。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)
図=宇宙の誕生と進化のイメージ図

“番記者”のつぶやき
 「光」は秒速約30万キロ。1秒間で地球を7周半できる速さです。太陽から地球までの距離はおよそ1億4960万キロ。けた数が多いので大変ですが、太陽の光が地球に届くまでの時間は、頑張れば計算できますね。
 地球からものすごく離れた場所にある星の光は何千年、何万年もの時間をかけて地球に届いています。同時に、光っている星が消える、つまり「星の死」を知るのも何千年、何万年も後ということが言えます。夜空に見えている星の中に、もう死んでしまった星があっても不思議ではありません。
 死んだものが見える。暗くなると幽霊が現れる――というのは、あながちうそではないかもしれませんね。
(児玉直人)
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tanko 2017-10-17 17:10
 奥州市は、国際リニアコライダー(ILC)の特設ウェブサイトをリニューアルした。外国人研究者や家族向けに「居住」場所としての奥州市をPRしている。
 誘致が期待されているILCは、江刺区東部を含む北上山地が最有力候補地。誘致されれば多くの外国人研究者が訪れると見込まれている。
 リニューアルしたウェブサイトの英語版は、外国人研究者らに「奥州市へ行く」「奥州市で楽しむ」「奥州市に泊まる、住む」をキーワードに情報発信。交通手段や宿泊施設の紹介のほか、観光、生活情報の提供にもつなげ、居住の場をアピールしている。日本語版ではILCにまつわる解説ページを強化し、県や一関市などのSNSアカウントも紹介している。
 スマートフォンやタブレット端末に対応したほか、画面の背景色はこれまでの黒色から白色に変えて視認性を高めたという。
 問い合わせは、市ILC推進室(電話0197・24・2111)。

写真=リニューアルした奥州市ILCサイト
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tanko 2017-10-13 16:10
 自分たちの身の回りにはたくさんの課題がある。それに比べれば「宇宙誕生の謎を調べる」って、何だかあまり関係なさそうだし、今すぐやらなくてもよさそう。ILCに限らず、どうしてこのような科学の研究をしなくちゃいけないのかな。

A:過去を知ることで人類は進歩します

 国際リニアコライダー(ILC)は「宇宙の始まり」についての手掛かりをつかもう、という計画です。
 確かに宇宙誕生の謎が分かったからといって、現在の私たちの生活や環境が極端に変わるものではありません。とはいえ、何か分らない事象や不思議なことについて「なぜ」「どうして」「知りたい」と思う感情は、われわれ人間が生まれつき持っている「才能」です。もし、人間に「なぜ」「どうして」という感覚がなければ、人類の生活や文化、技術はここまで進歩しなかったはずです。
 「分からないことを知りたい」という好奇心と謎を解明しようとするための努力は、私たち人間にとって非常に重要なことなのです。ILCの場合、宇宙の謎を知る手がかりをつかもうとするため、多くの人たちが知恵をしぼり、そして新しい技術を開発します。この努力する過程が重要なのです。
 ILCの実験装置や周辺施設を造り上げる技術は、さまざまな産業との関連性があります。その効果が、まるで波のように広がっていくことから「波及効果」と言います。波及効果は技術や経済、教育などいろいろな分野に届きます。
 皆さんによく理解してほしいのは、ILCによる研究活動で生まれてくる知恵や技術は、科学研究のためだけに役立つのではないということ。これは非常に重要なポイントです。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)

写真=「宇宙誕生の謎」を探るILCの実現に向け、世界中の研究者たちが協力し合っています=昨年12月、盛岡市で開かれた国際会議「LCWS2016」の様子


“番記者”のつぶやき
 自分の生活や興味があることと、直接関係がないものに対し、つい私たちは「意味がない」「無駄じゃないか」などという感情を抱きがちです。
 近年、理系文系問わず、さまざまな学術研究機関や博物館施設では、子どもたちや一般市民の皆さんに分かりやすく伝えるための取り組みを進めています。施設の一般開放や出前講座などもその一例です。
 常日頃から自分たちの研究分野における「なぜ?」を追い求めている研究者の皆さんですが、子どもたちや一般市民の皆さんから寄せられる「なぜ?」に、逆にどんどん答えてほしいですね。もちろん、学会や論文のような調子ではなく、分かりやすく伝える工夫が求められます。
(児玉直人)

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 北上山地が有力候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)は、来年にも日本政府による誘致判断が下されるとされています。そんな中「いまひとつILCのことがよく分からない」「本当に実現するのか」「安全性に問題はないのか」という素朴な疑問に対応しようと、新連載「ILC子ども科学相談室」を開始しました。
 奥州市や県南広域振興局が主催している出前授業で、児童・生徒から寄せられたアンケートや感想文の中にあった疑問、意見などを整理。出前授業の受託を受けているNPO法人イーハトーブ宇宙実践センターなどの協力で、「Q&A」形式でILCの基本や最新動向に触れます。原則、金曜日付の掲載です。
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tanko 2017-10-9 12:20
 旧水沢緯度観測所(現・国立天文台水沢VLBI観測所)とともに、国際緯度観測事業(ILS)の観測点だった米国メリーランド州ゲイザースバーグ市の「ゲイザースバーグ緯度観測所」の写真が8日、同VLBI観測所と奥州宇宙遊学館に寄贈された。寄贈したのは、ゲイザースバーグ市近くのモンゴメリービレッジに住むトーマス・ラッカーズさん(62)。来日の機会に合わせ、水沢の関係者に直接写真を届けた。公園として保存されている観測所跡地の通路には「MIZUSAWA」の文字が刻まれており、国際協力の下、観測が行われていたことを今に伝えている。
(児玉直人)

 ILSは北緯39度08分上に観測所を設け、地球の自転によって生じる緯度変化を調べる研究事業。世界4カ国、全6地点に、ほぼ同一仕様の観測施設と装置を設置した。
 ゲイザースバーグ市は、ワシントンDCの北西約30kmに位置。1899年に緯度観測が始まり、第1次、第2次大戦中を除き1982年まで観測が続けられた。その後、ゲイザースバーグ市唯一の国定歴史建造物に指定された。
 観測小屋へ続く通路の中心部には赤い石畳が敷かれ、北緯39度08分の線を表現。その両側には、他の観測所の所在地などが刻まれており「MIZUSAWA JAPAN」の文字もある。
 宇宙航空関連の企業に勤めた経験を持つトーマスさんは、弓道や日本の鉄道に関心がある親日家。所属する鉄道模型サークル「ジャパン・レイルモデラーズ・オブ・ワシントンDC(JRM)」は、水沢区を拠点に活動している「岩手鉄道模型仲間の会」(佐藤徳代会長)と姉妹クラブ関係にある。
 2年前、同仲間の会会員と交流するため初来日。その際、宇宙遊学館やVLBI観測所内を見学したが、ゲイザースバーグ観測所の説明文を見つけ、自宅近くに跡地があることを初めて知った。
 娘のテレサさん(32)と共に、2度目の来日を果たしたトーマスさんは、遊学館指定管理者であるNPO法人イーハトーブ宇宙実践センターの大江昌嗣理事長と、VLBI観測所の亀谷收助教に写真を手渡した。
 トーマスさんは「2年前に水沢を訪れるまで、ゲイザースバーグに緯度観測所があったことすら知らなかった。私にとって新しい良い出会いとなった」と感慨深げ。
 大江理事長は「公園として奇麗に保存し、そこに水沢の名が刻まれていることに敬意を表したい。互いの都市の友好関係に発展していけばすばらしい」。亀谷助教も「2年後には緯度観測120周年を迎えるので、このような情報や話題を共有できれば」と話していた。
 寄贈された写真は、遊学館と木村栄記念館にそれぞれ展示する方針だ。

写真上=トーマス・ラッカーズさん(右)から写真の寄贈を受ける大江理事長(中)と亀谷助教
写真下=ゲイザースバーグ緯度観測所跡地に刻まれている「MIZUSAWA」の文字
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tanko 2017-10-5 12:10
 北上山地への誘致が期待される国際リニアコライダー(ILC)のPRパネル展が、水沢区寺脇の水沢郵便局(中川等局長)で開かれている。今月20日まで。
 ILCは世界に1カ所だけ作られる素粒子物理学の国際研究所。江刺区東部を含む北上山地が最有力候補地で、これまでさまざまな形で市民向けの理解普及活動が展開されている。同局総務部の千田浩樹部長も講演会などに足を運んでいるというが、「一般にはなかなか難しい研究内容。候補地の地元であっても、まだよく分からない人が多いのでは」と、市ILC推進室の協力を得てパネルや関連パンフレットの提供を受けた。
 市立胆沢愛宕小学校で同推進室が実施した、ILC出前授業の児童の感想文も掲示。漫画や図説でILCの仕組みや研究意義を紹介する資料は自由に持ち帰ることができる。
 千田部長は「ILCが実現すれば、多くの外国人が生活すると言われており、われわれ郵便業務に携わる者も英語で対応するような場面も出てくるかもしれない。来局された市民の皆さんだけでなく、局社員もILCに理解を深める機会になれば」と話している。

写真=水沢郵便局ロビーで開かれているILCパネル展
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tanko 2017-10-5 10:30
 今年のノーベル物理学賞受賞者が日本時間の3日夜発表され、重力波観測に世界で初めて成功した研究施設「LIGO(ライゴ)」の立ち上げや運営に貢献した米国の3人に授与される。このうちの一人、カリフォルニア工科大学名誉教授のバリー・バリッシュ氏(81)は、北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の設計チームで最高責任者を務めた人物。2012(平成24)年1月には本県を訪れ候補地を視察している。バリッシュ氏の受賞に、ILC誘致関係者も喜びを表している。
(児玉直人)

 受賞したのはバリッシュ氏のほか、マサチューセッツ工科大学名誉教授のレイナー・ワイス氏(85)、カリフォルニア工科大学名誉教授のキップ・ソーン氏(77)。3氏が携わったLIGO(レーザー干渉計型重力波研究所)は、重力波観測のために米国西部のワシントン州と南部のルイジアナ州に建設された大規模な観測施設だ。
 重力波は質量を持った物体が動いた際、周囲の空間や時間に生じた「ゆがみ」がさざ波のように伝わる現象。理論上は人間が動いているときも生じるが、あまりにも微小な現象のため直接観測は困難とされていた。
 LIGOは、二つのブラックホールが合体する過程で生じた重力波を世界で初めて捉えた。昨年2月、その成果が発表された。
 ネブラスカ州出身のバリッシュ氏は、LIGOの研究責任者などを歴任。国際的なプロジェクトに育て上げたことなどが認められ、今回の受賞となった。
 バリッシュ氏はILC計画にも関与。技術設計報告書(TDR=Technical Design Report)をまとめ上げる国際共同設計チームの最高責任者を務め、計画実現に向けた作業をリードした。2012年1月には、国内外の研究者とともに一関市や江刺区の北上山地を視察している。
 視察時、報道陣の取材に応じたバリッシュ氏は「ILCは数十年にわたり世界の中心的な研究施設になる」と強調。「地域の人たちの熱意など、受け入れる側の姿勢も大きな鍵。研究者の家族のための環境整備などもその中に含まれてくるだろう」と述べた。
 バリッシュ氏の受賞に喜びの声を上げているのは、ILC実現に向け活動し続けている東北大学大学院の山本均教授(62)。京都大学卒業後、カリフォルニア工科大学大学院に留学中、バリッシュ氏のもとで博士号を取得した。
 山本教授によると、バリッシュ氏はTDR完成翌年の2013年からは、再び重力波研究に集中。昨年の検出発表、そして今回の受賞につながったという。
 “師匠”であるバリッシュ氏の受賞に「喜びの限り」と山本教授。「ILCにとっても素晴らしいニュース。ノーベル賞受賞者が『次にやらなければならないのはこれだ』と、身を投じて推進した計画がILCだということになる」とアピールした。

写真=2012年1月18日に北上山地を視察し、報道陣の質問に応じたバリー・バリッシュ氏(一関市大東町内で)
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tanko 2017-9-28 14:57
 「アジア初の本格的国際研究施設」「4.3兆円にも及ぶ経済誘発額」――。北上山地が最有力候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)計画は、地方創生や教育の充実、国際化など、オリンピック以上の波及効果も秘めている大型プロジェクト。ところが、国内外の現状に目を向ければ、北朝鮮を巡る情勢や突如浮上した衆議院の解散総選挙の話題などで持ち切りだ。ILC計画が世論の表舞台に出にくい状況の中、研究者やILC関係者は地道な広報普及活動を続けている。
(児玉直人)

 盛岡市内のホテルで27日開かれた、県ILC推進協議会の公開講演会。ILC誘致の現状と地方創生について解説した東京大学の山下了特任教授に続き、岩手大学理工学部の成田晋也教授が「東北ILC準備室の活動について」と題し講演した。成田教授は同準備室(室長・鈴木厚人岩手県立大学長)の広報部門を担当している。
 成田教授は「ILCを受け入れるための取り組みは地域の皆さんと一体となって進めなければいけない。そのためにもILCをもっともっと知ってもらう必要がある」と述べ、地域関係者の協力を求めた。
 ILCを知ってもらうため、関係者はさまざまな切り口で周知活動を展開。講演会や出前授業に加え、キャラクターを用いてより多くの人たちの興味を引き出そうともしている。同日の講演会場入り口でも、ハローキティが描かれたTシャツやクリアファイルなどの「ILCグッズ」を販売。ただ、聴講者の多くは行政や経済界の代表者や職員で、既に過去の講演会やイベントなどでグッズを目にしているため、足を止める人は少なかった。
 「ここ1年以内が政府判断に向けた正念場」との認識が強まっているが、昨今は北朝鮮情勢の緊迫化、解散総選挙とそれを巡る政治的駆け引きなどの報道で持ち切り。さまざまなメリットを持ち合わせていながらも、世論の表舞台にILCが出てくる機会は少ないのが現実だ。成田教授は胆江日日新聞の取材に「まだまだPRが足りない部分はある。どうしても目先の大きな話題に世の中の注目は集まりがちだが、地道に理解普及の活動を進めていかなければ」と気を引き締める。
 北朝鮮関係の問題には、別の懸念要素もある。山下教授は取材に対し、北朝鮮の軍事的挑発に不安を感じているフランスが来年2月に韓国・平昌で開催される冬季五輪に参加しない可能性を示唆しているとの報道を取り上げ、「このようなことが科学の分野にまで及んでしまったら大変」と指摘。その上で「北朝鮮問題などが注目されているからといって、政府や政界がそればかりに傾注しているわけではない。実際にILCについても本当にいろいろと考えていただいている」とも述べた。

写真=県ILC推進協講演会場入り口に設けられた、ILCグッズの販売コーナー
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tanko 2017-9-28 14:30
 素粒子物理学の国際研究施設、国際リニアコライダー(ILC)の誘致実現に向けた取り組みの最前線に立つ東京大学の山下了特任教授(51)は27日、盛岡市内で講演。施設を段階的に建設し初期コストを抑える「ステージング」について、11月にカナダで開かれる国際将来加速器委員会(ICFA)で正式承認を得る見込みであることを示した。当初の研究スケジュールや得られる成果に時間差が生じてしまうものの、山下教授は講演後の胆江日日新聞社の取材に対し、「研究者にとっては苦渋の判断だが、確実に狙えるところから実施したほうが結果的には最速だと思う」と述べた。


 講演会は岩手県ILC推進協議会(会長・谷村邦久岩手県商工会議所連合会長)が主催。誘致を推進している行政や経済・産業界の関係者ら約200人が出席した。
 ステージングは、昨年12月に盛岡市を主会場に開催された国際会議「リニアコライダー・ワークショップ(LCWS)2016」の会期中、国際研究者組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」によって提案された。当初計画では、直線距離30kmの加速器用トンネルを掘る予定だったが、20kmに短縮することで初期コストを抑制。実験成果や関係装置の技術進歩の状況を見ながら段階的に施設規模を拡大していく考え方だ。文部科学省のILC有識者会議や日本学術会議などの議論でたびたび指摘されていた莫大な建設・運営コストによる他研究分野予算への影響、人材確保などの問題解消を狙う。
 当初は、8月に中国の広州市で開催されたICFAとリニアコライダー国際推進委員会(LCB)との合同会議の場で承認されるとの見通しがあった。しかし、山下教授によるとLCC側の資料整理が間に合わなかった。ステージング自体は「支持」されたものの、正式決定はカナダでのICFA会合に持ち越されることになったという。
 山下教授は本紙取材に「研究者としては一度に複数の成果を得たいところ。ステージングを議論する過程でも異を唱える声はあった」と明かした。しかし、このままコストなどの諸課題が解決せず、時間だけが経過すると、来年夏以降にも予定されている欧州や米国の科学計画の策定にILCが盛り込まれない可能性が出てくる。国際協力が得らなくなることを意味し、日本やアジアにとって大きなチャンスとなるはずのプロジェクトが立ち消えになる恐れがある。さらに、中国では独自に大型の円形加速器を建設する計画が浮上している。
 山下教授は「貴重な財源を使う上からも、できる限りコストがかからず、かつ将来的な拡張性を担保した方針がステージング。研究者にとっては苦渋の選択だが、さまざまな状況を踏まえると、結果的には最速の手段だと思う」と説明。全体的なタイムラグは生じるものの、「その間に技術が向上して、拡張時にはよりレベルの高い装置を導入することも可能だ」と強調する。

写真=ILC計画を巡る現状を語る東京大学の山下了特任教授
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tanko 2017-9-18 13:20
 国際リニアコライダー(ILC)の誘致に、奥州市が着ぐるみキャラクターを用意したという。せっかく作ったところに水を差すようだが、正直、違和感を覚えた。
 子どもたちが野球やサッカーなどに興味を持ち、自らも挑戦するのはなぜだろう。おそらく、プロ選手たちの勝負に挑む姿などに憧れ、自分を重ねているのではないだろうか。スポーツの本質が、子どもたちの心をつかんでいる。球団のマスコットキャラクターを見て「僕も野球をやる!」という子は、極めて珍しいはずだ。
 「科学は難しい。だから、親しみあるキャラクターで関心を引かせよう――」はどこか安易すぎる。ILCや科学、つまり「本質」で勝負してほしい。激励の意味を込めて。
(児玉直人)
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tanko 2017-9-17 16:20

 小沢昌記奥州市長の定例会見が開かれた15日の市役所本庁応接室に、「おうしゅうヒッグスくん」が姿を現し、会場を一瞬のうちに和ませた。国際リニアコライダー(ILC)実現に向けたPR活動に力を入れていくといい、愛嬌を振りまきながら記者たちに名刺を差し出してアピールした。
 素粒子の「ヒッグス粒子」は、2012(平成24)年にスイスの欧州合同原子核研究機構(CERN)で発見。おうしゅうヒッグスくんは、自分のルーツを探るILC計画が進行中と聞きつけて市にやって来たという。全身は鮮やかな青色でつやつやしているが、年齢は138億歳(推定)。市内での“初発見”は8月5日の水沢ざっつぁかまつりで、市職員の踊りの隊列に加わっていた。
 おうしゅうヒッグスくんから厚い信頼を受ける市ILC推進室の千田良和室長は「市民の皆さんにILCへの親近感や愛着をより強く持っていただき、ILC実現の機運を醸成したい」と話す。今後、学校の出前授業や各種イベントなどに派遣する予定だ。
 同室によると、同種のヒッグスくんは国内外で数体発見されており、きょうだいの可能性がある。県内では一関市にもいるらしい。

写真=ILC応援団長(自称)のおうしゅうヒッグスくん

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