人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2023-7-30 8:40

本間希樹所長(左)、ジョン・トラペーガン氏(右)

 地球外知的生命体を探査するプロジェクト「SETI(セチ)」が、学術分野の垣根を越えて盛り上がり始めているという。国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長(51)も、SETIに興味関心を抱く一人。さらに胆江地区に縁のある文化人類学者で、米国人のジョン・トラペーガン氏(61)も関連論文を複数発表するなど、文系分野からもSETIに注目が集まっている。
(児玉直人)

 SETIは地球外知的生命体探査(Search for Extra Terrestrial Intelligence)の略。人類と同等、またはそれ以上の文明や能力を持った知的生命体がいるという仮定の下、彼らが発している電波を地球上で受信し、その存在の有無を確かめる試み。いわゆる「宇宙人探し」だ。
 本間所長によると、1995年に太陽系外惑星が発見されて以降、盛り上がり始めてきた研究分野。かつては雲をつかむような印象があり、「SETIを研究テーマにしている」と口外したものなら、偏見の目が向けられていたという。しかし、現在では科学的なアプローチ方法によって、真剣に研究が進められている。同観測所が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA(ベラ))でも、通常の天体が発する電波とは異なる強烈な信号の有無を調べている。
 このSETIに関する研究を文化人類学の観点から注目しているのが、テキサス大学東アジア研究所長などを歴任したトラペーガン氏だ。水沢真城地区に滞在して農村社会を研究し、2018年に奥州市勢功労者表彰を受けた米国人文化人類学者、キース・ブラウン氏=ピッツバーグ大学名誉教授=の弟子に当たる。トラペーガン氏自身も民俗学研究のため水沢や金ケ崎町内に滞在経験があり、その縁で同町の女性と知り合い結婚。市国際交流協会の関係者とも親交がある。
 現在はアリゾナ州立大学のフェロー(研究員)として、10年ほど前からSETI関連の研究に従事。異文化研究で得られた見識を、さらにスケールが大きい宇宙の世界でどう生かすことができるのか探っている。「もし、宇宙からのメッセージを受け取ったとき、われわれはどう行動すべきなのか。文化人類学者として非常に興味がある」と語る。
 映画で描かれるようなファンタジックな世界に人々の興味が高まり、夢と期待を膨らませるかもしれない。しかし、注意すべき点も多い。トラペーガン氏は「地球外知的生命体に積極的にメッセージを送る『METI(Messaging to Extra Terrestrial Intelligence)』は非常に問題がある」と指摘する。
 METIについて本間所長は「相手は平和的な考えを持っているのか、人類以上の高等技術を持っているのか全く分からない」と説明。かつてこのような情報発信がされた例があり、人類滅亡に近づく行為だと批判されたこともあったという。
 海外では資産家がSETIの取り組みに対し投資する動きもみられる。「SETIが成功すれば、人類にとって最大の大革命になる。天文学だけでなく、社会学や言語などあらゆる学術分野が一気に増えるだろう。それだけインパクトが大きいし、一大政治案件にもなり得る」と本間所長。「仮に知的生命体が見つからなかったら、地球の存在がそれだけ尊いものであり、人類の在り方を見つめ直すチャンスにもなる」と話している。
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tanko 2023-7-28 8:10

写真=超小型衛星の話を高校生や一般市民に分かりやすく説明する中須賀真一教授(右奥)

 打ち上げ予定だった人工衛星「Nano―JASMINE(ナノ・ジャスミン)」の展示公開を記念した特別講演会がこのほど、水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)で開かれた。天文学研究から日常生活を支える各種サービスなどに至るまで、超小型人工衛星の利活用の幅が今後ますます広がりを見せる中、2人の専門家がその意義と今後の展開などについて解説。聴講者の中には高校生たちもおり、熱心に質問していた。
 ナノ・ジャスミンは天の川銀河中心部の構造解明、地球型惑星の探査を目的とした「JASMINEプロジェクト」の技術検証衛星として、打ち上げられる予定だった。しかし、打ち上げに携わる関係国の情勢不安などが影響し、宇宙に飛び立つことはかなわなかった。プロジェクトの周知広報、超小型人工衛星の学習用にと同館に寄贈された。
 講演会では、前半に国立天文台同プロジェクト長の郷田直樹教授が、プロジェクトの概要や位置天文学の基礎知識を解説。「天体の位置を測るという単純なことではあるが、対象の星が遠過ぎるので非常に難しい。天の川銀河中心の天体の距離や位置を正確に測量するのは、水沢から仙台市内にいる人の髪の毛1本よりもさらに細い大きさを見るようなもの」と説明した。
 後半は東京大学大学院の中須賀真一教授が、工学分野の視点で人工衛星の構造などを分かりやすく説明した。中須賀教授は、都内のベンチャー企業が県立花巻北高校を舞台に推進している人工衛星打ち上げプロジェクトに協力。衛星は来年にも打ち上げる予定という。今回の講演会にも同校の生徒が駆け付けた。
 「日本は大型衛星を打ち上げる路線を進んできたが、重いとそれだけコストがかかる。これからは重さ100km以下の超小型衛星の時代だ」と中須賀教授。日本人が作る弁当を例に示し「大きさが決まっている空間に、栄養バランスを考えて、さまざまな性質のある食材を入れ、見た目まで意識するのを得意としている。超小型衛星はまさに弁当箱ようなもので、世界に勝負できる」と語りかけた。
 高校生からは、ナノ・ジャスミンのように、国際情勢が衛星打ち上げに与える影響などに関する鋭い質問も。超小型衛星が持つ可能性に理解を深めていた。
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tanko 2023-7-21 19:50

画像=BHから発せられる微弱偏波(緑の波線)のイメージ=(C)国立天文台

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)で研究活動している東京大学大学院理学系研究科博士課程3年、高村美恵子さん(27)=水沢在住=ら国際研究チームは、巨大ブラックホール(BH)が急成長する謎に迫る研究成果を発表した。水沢星ガ丘町の同観測所が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA)を活用。同観測所の予算削減問題の影響で研究が頓挫する危機にも直面したが、無事に論文を発表できた。高村さんは「VERA存続を求めて運動してくれた地域の皆さんの熱意があったおかげ」と感謝している。
(児玉直人)

 研究チームは高村さんと本間所長、秦和弘・同観測所助教らで構成。水沢、入来(鹿児島県薩摩川内市)、小笠原(東京都小笠原村父島)、石垣(沖縄県石垣市)にあるVERA4局を連動させ、「狭輝線セイファート1」と呼ばれる種類の銀河6カ所を観測した。
 6カ所の銀河は地球から近くて8.2億光年(1光年=約9.5兆km)、遠くて76億光年かなたに位置する。それぞれの銀河には、急成長する巨大BHが存在する。
 BHが成長する上ではガスやチリが必要。高村さんらは、BH付近から出てくる微弱な偏波(振動が一定方向に偏っている電波)を高感度で観測することで、豊富なガスの存在を確認しようとした。
 2019(令和元)年夏ごろにVERAに導入された新たな装置「広帯域・偏波受信システム」を利用。偏波の高感度検出に成功し、豊富なガスがBH周辺に存在することを裏付けるデータが得られた。研究成果は米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載された。
 横浜市出身の高村さんは、3年前から同観測所がある水沢に居住。20年に起きた同観測所の予算削減問題によって、今回の研究が頓挫する危機に直面した。「VERA4局が動いてないとできない研究。予算削減で1局だけ動いても何にもならなかった。地域の皆さんがVERA存続のために動いてくれた熱意があって、今回の論文発表ができた」と語る。
 研究者と一般市民が交流するサイエンスカフェの活動もしており、研究成果や水沢の観測所が果たす役割などを伝えている。「今回の研究手法は、世界的にも先駆的なもの。今後は他国の研究者ともコラボしてBHの構造解明を進めたい」と話している。


写真=BH急成長の謎解明につながる研究成果を発表した高村美恵子さん。後方はVERA観測網を構成する直径20m電波望遠鏡
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tanko 2023-7-17 19:10

写真=宇宙へ行くことがかなわなかった人工衛星「ナノ・ジャスミン」の実機を眺める子どもたち

 ロシアによるクリミア半島侵攻などが影響し、打ち上げを断念した日本初の位置天文観測衛星「Nano―JASMINE(ナノ・ジャスミン)」の実機(フライトモデル)が、水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)で展示公開されている。同館は、天体の距離や位置を調べる位置天文学の基礎知識、人工衛星に用いられる技術を学べる教材として活用。8月31日まで一般公開するとともに、今月22日には有識者を招いた特別講演会を予定している。
(児玉直人)

 ナノ・ジャスミンは50cm四方の立方体で重さは35kg。超小型人工衛星に分類され、2010(平成22)年に完成した。
 「JASMINE」は位置天文観測計画の愛称で、国立天文台JASMINEプロジェクトが中心となり推進。ガスの影響を受けにくい赤外線を用いて星を観測するのが特徴だ。超小型(ナノ・ジャスミン)、小型(スモール・ジャスミン)、中型(ジャスミン)の3機を順次開発。天の川銀河中心部の構造解明、生命が住める地球型惑星の探査を目指す。
 ナノ・ジャスミンは、技術検証目的で最初に製造。ブラジル政府とウクライナ政府が出資するアルカンタラ・サイクロン・スペース社(ASC)によって、2011年に打ち上げられる予定だった。
 ところが、ブラジル国内で進めていたロケット発射場建設の予算が不足し、打ち上げは延期に。さらに悲運は続き、2014年に始まったロシアのクリミア半島侵攻が影響し、ウクライナで実施していたロケット試験も中止に追い込まれた。2019年にはASC社が倒産。衛星本体の劣化も進み、打ち上げを断念することになった。
 同プロジェクトは、ナノ・ジャスミンで得たノウハウを「スモール・ジャスミン」の開発に反映。国産ロケット「イプシロン」で年度の打ち上げを目指す。
 ジャスミン計画は、同天文台水沢VLBI観測所とも関わりが深い。ナノ・ジャスミンが予定通り打ち上がっていれば、同観測所の口径壇吐繁庄鷆世粘兮データを受信するはずだった。
 同観測所が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA)も、位置天文学を支える重要な観測装置。遊学館では、人工衛星の仕組みや位置天文学の基礎知識を来館者に分かりやすく紹介できるよう、説明内容の工夫や充実に努める考えだ。
 今月日午後2時半からは、国立天文台JASMINEプロジェクト長の郷田直輝教授、東京大学大学院工学系研究科の中須賀真一教授による特別講演を開催する。聴講には遊学館入館料(大人300円、小中高生150円)が必要。
 問い合わせは同館(電話0197・24・2020、火曜休館)へ。

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