人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2023-5-22 17:20

写真=iPS細胞開発でノーベル賞を受賞した山中伸弥・京都大教授は3時間台後半で完走(JR水沢江刺駅付近)

 第7回いわて奥州きらめきマラソンは21日、市役所江刺総合支所を発着点とするコースで行われた。新型コロナウイルス禍が落ち着き、4年ぶりにフルマラソン(42.195km)を再開。3種目・計29部門に国内外から3777人が出場し、初夏の奥州路を駆け抜けた。
 実行委員会(会長・倉成淳市長)が主催する同マラソンは、コロナ禍で2020(令和2)年度から2年続けて中止。昨年度は参加者を東北6県に限り、10kmレースのみ行った。
 「自分史上最高のRun 市民史上最高のFun」を合言葉に、フルに2181人、10kmに1052人、家族ペア部門もある2kmに544人が出場した。
 開会セレモニーでは、スターターを務めた倉成市長が「ようこそ奥州市へ。皆さん頑張って」と激励。午前8時半の号砲とともに、フルマラソンから一斉にスタートした。
 晴天で気温が上がる中、ランナーは自己記録の更新を狙ったり、他の参加者と親睦を深めたりしながら健脚を披露。人気キャラクターに扮したランナーも沿道を沸かせた。
 国際陸連と日本陸連の公認コースでもあるフルは、2018年の第2回大会に続き優勝した川内鮮輝さん(32)=東京都=が12kmから独走。レース後に「単独走となったが、皆さんの温かい応援のおかげで頑張れた。自然豊かなコースで奥州市を満喫できた」と喜んだ。
 2kmの女子小学生部門を制した市立胆沢第一小6年渡辺ひな花さん(11)は「少し疲れたけれど、1位になれたのでうれしい」と笑顔を広げた。
 2012(平成24)年にノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥・京都大教授もフルで出場。完走後、「眺めも良く、素晴らしいコース。たくさんの方に応援していただき、すてきなマラソンでした」と語っていた。
 2013年世界選手権モスクワ大会女子マラソン銅メダリストで4大会連続五輪出場の福士加代子さんがゲストランナーを務め、一般のランナーと交流を深めた。水沢出身で2009年東京マラソン優勝の那須川瑞穂さんは大会アンバサダーを担い、ランナーにエールを送った。
(若林正人)
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tanko 2023-5-17 17:00

写真=亀谷收分団長(右)から団員証を授与される代表団員

 日本宇宙少年団水沢Z分団(亀谷收分団長)の本年度開講式はこのほど、水沢聖天の水沢地区センターで開かれた。今年は団結成30周年の節目に当たり、11月19日には記念事業が予定されている。
 本年度は新規入団12人を含む45人で活動。市外の学校に通う児童・生徒もおり、小学1年生から高校1年生までと年齢も幅広い。天文台OBで奥州宇宙遊学館館長を務める亀谷分団長ら、天文学や理系分野に詳しい教育関係者、地元企業勤務者らが子どもたちを指導する。
 3月まで11回の活動を計画。宇宙の仕組みや水ロケットの打ち上げ、天体観察、プログラミングなど多様な体験を行い、理数分野への好奇心をかきたてる。
 開講式で亀谷分団長は「30年の間に1000人を大きく超える団員が育ち、中には科学技術分野の世界で活躍している人もいると聞く。昨年までは新型コロナウイルスの影響で十分な活動ができず、募集定員も制限していたが、今年は感染に注意しながらも自由な活動ができると思う。積極的に活動してもらい、楽しみながら宇宙への理解を深めてほしい」と呼びかけ。団員の代表2人に団員証を手渡した。
 開講式後の第1回定例活動では、亀谷分団長が「宇宙の旅をしよう!」と題し講演した。
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tanko 2023-5-16 17:10

写真=本年度の取り組み内容を決定した県ILC推進本部会議

 北上山地が建設有力候補地とされている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致促進を目指している岩手県は15日、推進本部会議を開き、本年度の取り組み内容を決めた。国への働きかけやILC推進派の素粒子物理学者らへの支援、国民的な機運醸成などを継続。県と同一歩調で誘致活動に当たっている奥州市など県南部の関係自治体に対しては、ILC誘致を契機とした魅力あるまちづくりを促す。
(児玉直人)

 県庁3階第1応接室で開かれた会議には、推進本部長を務める達増拓也知事や幹部職員らが出席。研究者サイドを中心とした直近の動向や、県が対応した昨年度の取り組み実績について報告があった。
 昨年2月、文部科学省のILC有識者会議は、研究者サイドが提唱するILC準備研究所(プレラボ)の設置について「時期尚早」とする議論のまとめを公表。技術的課題を解消する取り組みと、施設設計など立地に関する課題(サイト問題)を切り離すべきだとしていた。これを受け、研究者サイドは実験装置の技術開発を行う新組織「ILCテクノロジーネットワーク(ILC TN)」の立ち上げに向けた準備を進めている。
 一方で県は、県内外の推進団体とともに国民的な機運醸成を図りながら、日本政府主導による国際的議論が進むよう、引き続き国や政府与党に働きかける方針。有識者会議から立地に関する事柄の切り離しを提唱されてはいるが、研究者の活動を後押しし、政治判断に期待しながら誘致実現を目指す姿勢に変わりはない。
 研究者支援の一環として、関係自治体に対してはILC誘致を契機とした魅力あるまちづくりの推進を促す。昨年度、岩手大学と東北ILC事業推進センター、先端加速器科学技術推進協議会(AAA)が共同策定した「まちづくりのモデルケース」を活用し、地域実情に沿ったまちづくり像を検討してもらう。
 理解普及啓発の関連では、県内の小中高生を対象にILCを含む科学への関心を喚起する取り組みも継続。科学講演会や出前授業を実施する。
 達増知事は「新型コロナに関係する規制が解除され、多様な活動が再開している。機運醸成を図り、国家プロジェクトとして動いてもらえるよう、全庁的に取り組んでいきたい」と力を込めた。
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tanko 2023-5-13 16:50

写真=新受信機の試験観測のため、電波望遠鏡を制御するパソコンを注視する秦和弘助教

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)が運用する「天文広域精測望遠鏡(VERA)」に、新しい受信機を搭載しての試験観測が12日夕から夜にかけ行われた。ブラックホール(BH)のより詳細な観測を可能にする装置で、地球規模の観測地点に水沢の電波望遠鏡が仲間入りする日もそう遠くはない。担当する同観測所の秦和弘助教(39)は、「地域の皆さんにより親近感を持ってもらえるような成果を発表できる日を目指したい」と意気込む。
(児玉直人)

 VERAに搭載されたのは、波長3.5mm帯の電波を受信する装置。大阪公立大学と共同開発した。試験観測では、同じ波長に対応できる韓国2カ所の電波望遠鏡と連動させ、オリオン大星雲などに焦点を合わせた。
 観測は午後5時から同8時まで実施。問題なく受信できているかが分かるまでには、データ処理の関係上、1カ月弱かかる。
 国内4カ所にあるVERAは、7mmなど3種類の波長に対応。しかし、本間所長や秦助教が昨今関わっているBH研究では、3.5mmなど波長がさらに短い電波を受信できる望遠鏡を使用している。いずれもヨーロッパや南北アメリカ大陸など海外にある。
 だが欧米の観測網だけでは、観測不能な時間帯が生じる。秦助教は「アジアで3・5声信ができるようになれば、BHを24時間観測し続けることが可能」と導入メリットを説明。BHの動画や高画質の静止画が得られ、謎だらけの天体の構造の解明が進む可能性が広がる。
 研究成果面への期待だけではない。日本人、特に水沢に関係する研究者が多く携わっていながら、記者会見などで「日本や水沢の電波望遠鏡は使われていない」と話すことに秦助教自身、一抹の寂しさを感じていた。
 「アンテナ本体だけでなく、水沢上空の大気の状態が本当に3.5mm帯の観測に向いているのか、徹底的に調べた。アンテナの鏡面に問題はなく、大気も予想以上に良かった」と秦助教。「将来、大きな研究成果を発表する中で『水沢でも観測が行われた』となれば、地域の皆さんが一層親しみを感じてくれるのではないかと思う。うまく軌道に乗るよう頑張りたい」と話している。
 6月には石垣島のVERA局にも3.5mm帯受信機を取り付ける予定。今後、受信機の性能向上を図る際には、同観測所が昨年実施したクラウドファンディングで得た資金の一部を活用する方針だ。
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tanko 2023-5-10 14:20

写真=地球規模のブラックホール観測に向け、新たな電波受信装置が搭載されたVERA水沢局。12日に試験観測が行われる

 水沢星ガ丘町の国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)が運用する「天文広域精測望遠鏡(VERA)」の水沢局に、ブラックホール(BH)の高精度観測などを目的とした新しい受信機が搭載された。12日に韓国の電波望遠鏡と連動させた試験観測を実施。性能を検証し、早ければ来年度から地球規模の電波望遠鏡観測ネットワーク「GMVA(グローバルミリ波VLBI観測網)」に加わり、BHの動画撮影などを目指す。
(児玉直人)

 同観測所の秦和弘助教や本間所長、同観測所で研究活動している東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ蠹賈婿業所=江刺岩谷堂=の田崎文得・シニアスペシャリストらは、地球から約5500万光年(1光年=約9.5兆km)離れたM87銀河の中心にある巨大ブラックホールを観測。BHに吸い込まれるガスの流れがつくり出す構造「降着円盤」の撮影に、世界で初めて成功した。
 この観測に用いられた観測網がGMVAで、ハワイや欧州、南米などに点在する16局の電波望遠鏡で構成される。2019年4月に「人類史上初のBH撮影」として話題となった成果も、全て日本国外の電波望遠鏡を使用したものだった。日本人研究者が数多く活躍していながら、水沢など国内の電波望遠鏡が使われていない理由は、同じ波長帯に対応した受信装置が備わっていないためだ。
 電波望遠鏡は、天体が発する電波を受信して観測。GMVAは波長3.5mm帯の電波に対応できる望遠鏡で観測網を構成している。一方、水沢など国内4カ所に設置されているVERAには、44.7mm、13.6mm、7mmに対応した受信装置を搭載している。
 電波の波長が短いほど、精細な観測結果が得られる。しかし、電波を受ける反射鏡の表面を高精度に仕上げる必要があるほか、空気中の水蒸気などの影響も受けやすくなり、技術面や観測の困難さは増す。
 秦助教らは大阪公立大学と共同で、VERA搭載用の3.5mm帯受信機を開発。水沢のVERAに搭載し、動作試験を行ってきた。望遠鏡の構造的な精度に現時点では問題はなく、今月12日の夕方から韓国の電波望遠鏡と連動させた試験観測を行う。
 同観測所の小沢友彦・特任専門員は「大きな研究成果を得るまでに、研究者たちは長く地道な作業を続けていることにも関心を寄せていただけたら」と話している。
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tanko 2023-4-28 14:00

写真=研究成果を説明する秦和弘助教(右)

 ブラックホール(BH)の3要素とされる▽本体▽降着円盤▽ジェット――の同時撮影に関する論文が発表された27日、責任著者の一人である国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘助教らが記者会見し、成果概要などを説明した。秦助教は「今回の撮影成果で、構造解明に向けた新たな“宿題”がまた提示された。まさにBHから抜け出せない、底なし沼のような状況だが、それもまた楽しい」と、ユーモアたっぷりに語った。
 水沢星ガ丘町の同観測所会議室で開かれた会見には、秦助教のほか、同観測所で研究活動している東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(株)東北事業所=江刺岩谷堂=の田崎文得・シニアスペシャリスト、八戸工業高等専門学校の中村雅徳教授、東京大学宇宙線研究所の川島朋尚・特任教授が出席した。
 今回の観測では、ハワイや欧州、グリーンランド、南米・チリなど、広範囲に分散する電波望遠鏡計16局で構成する「GMVA(グローバルミリ波VLBI観測網)」を活用。実際には建設できない、地球直径に匹敵する規模の電波望遠鏡で観測したのと同等の精度で、約5500万光年(1光年=約9.5兆km)かなたにある巨大BHを撮影した。
 これにより今までの観測で唯一撮影できなかった、回転しながらBHに吸い込まれるガスの流れが作り出す構造「降着円盤」を捉えることに成功。BHの影、降着円盤、ジェットの3要素も同時に撮影できた。
 秦助教はこの3要素を「三種の神器」に例え、成果を分かりやすく説明した。「宇宙の研究は魅力的だが、一方で難しいと感じる方も多い。身近な場所でこのような研究をしている人がいることを知っていただくきっかけになればうれしいし、研究者を目指す人が少しでも増えてもらえたら」と話していた。
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tanko 2023-4-28 14:00

開館から15周年の節目を迎えた奥州宇宙遊学館

 100年ほど前に建設された水沢緯度観測所2代目本館の建物を活用している水沢星ガ丘町の「奥州宇宙遊学館」は、開館から15周年の節目を迎えた。NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター(大江昌嗣理事長)が運営を担い、五つのテーマに分かれた常設展示室やシアター室に加え、サンデースクールやサイエンスカフェなど定期開催イベントを通し、「宇宙と人との出合いの場」を提供している。レトロな空間の中で体験的に「宇宙」を身近にでき、幅広い年代の科学的好奇心を刺激する同館の魅力を探る。
 国立天文台の広いキャンパスの一角に立つ同館。このほど開かれたサイエンスカフェで、15年の節目を迎えたことに触れた亀谷收館長は、「国立天文台水沢VLBI観測所とのタイアップで、電波望遠鏡など最新の研究施設や歴史的に重要な建物など本物にも触れられる国内でもユニークな場所として存在価値を高めつつある」と強調。「より充実した展示や催し、イベントを行っていきたい」と意気込んだ。
 遊学館のコンセプトは「又三郎といっしょに奥州の宇宙(そら)に学び、遊ぼう!」。宮沢賢治の童話『風の又三郎』が、緯度観測所を訪れた際の見聞を基に書かれたことにちなんでいる。
 国の有形文化財に登録されている2代目本館は、耐震補強などを行った際に大正時代の部材をなるべく使用しており、レトロな雰囲気を味わうことができる。「大地」「月」「銀河」「風」「星」の五つの常設展示室があり、観測所の歴史や最新の宇宙探査などを紹介している。
 来館者には、実際の体験を通して理解を深められる展示が人気という。「大地」に設置されているブラックホール模型は、スーパーボールを使い、ブラックホールに吸い込まれていく様子を可視化。「銀河」に置かれているパラボラクッションは、どの位置に当たっても中央に跳ね返るパラボラアンテナの仕組みを視覚的に学べる。月や木星の重力を比較体験できるアイテムも配置されており、館内では自分で見て、触って、試してみることを夢中で繰り返す子どもたちの姿が多く見られる。
 各分野の専門家が携わる定期開催行事もファンが多い。サイエンスカフェは、カフェのようなリラックスした雰囲気の中で、研究者が最先端の科学を紹介する。小学生らが多く参加するサンデースクールは、より分かりやすく正しい知識を伝えようと、手作りの教材や模型を駆使し参加者の興味関心を引き出している。
 サンデースクールに通い2年という、市立常盤小4年の大田暖起君と母彩子さん(44)は「専門家からさまざまなことを学ぶことができ、展示では触れて学べる。科学が学べる施設が身近にあるのはうれしい」と、同館の企画や展示を満喫している。


この地にあった幸運 生かしたかった
佐藤一晶さん、保存活用へ思い語る
 1921(大正10)年に建てられた水沢緯度観測所2代目本館は、木造2階建てのドイツ風建築物。1967(昭和42)年まで使用されていたが老朽化が進み、国立天文台は2005(平成17)年10月に取り壊しを決定。翌年2月に解体される予定になっていたが、宮沢賢治が度々訪れた歴史的にも貴重な建造物とあって、保存活用を求める動きが広がった。市民運動が国立天文台や市、市議会を動かし、2007年に国から市へ建物の譲渡が決定。耐震補強や建物位置の変更、展示品の設営が進められ、2008年4月に奥州宇宙遊学館がオープンした。
 当時の様子について、NPO法人イーハトーブ宇宙実践センターの佐藤一晶副理事長は、4月に開催されたサイエンスカフェで「奥州宇宙遊学館誕生物語」と題し講話。「地域開発の大原則は他のまちに無くて、このまちにあるものを使っていくことだと考えている。日本で最初の国際観測施設である緯度観測所がこの地にあった幸運を生かしたかった。県内で唯一の天文台が水沢にあるのだから、子どもたちが科学を学ぶ場が県南にも欲しいと思った。天文台で働く多くの専門家の知恵を借りていけば、より良いまちづくりができると考えた」と活動の背景を説明した。
 「全国的にも珍しい木造の科学館。古い建物は、残そうとしなければ姿を消していく」。市議会への請願や全国に呼びかけた募金活動など市民らが力を合わせ残すことができた施設と強調する。
 「天文台の敷地にあるからこそ、高まる価値がある。登録有形文化財は活用が基本。かつては退官すると水沢を離れる職員が多かったが、今ではこの地で暮らし続ける研究者も増えた。今後も天文台とタッグを組み、広いキャンパスを生かした活動をしていきたい」と力を込めた。
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tanko 2023-4-27 9:10
(C)Lu et al.(2023);composition by F.Tazaki

画像=GMVAで捉えたM87銀河中心部の巨大BH。左上はBH中心部を拡大した画像で、中央の薄暗い部分がBH本体の存在を示す影、周囲の輪が降着円盤を示す。中心部から右方向へ放物線状に見えるのがジェット。色が明るい場所ほど高温で最大1億度以上に達する


 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)などに所属する本県縁の研究者4人を含む国際共同研究チームは、強力な重力を持つ天体「ブラックホール(BH)」の3要素と呼ばれる▽本体▽降着円盤▽ジェット――の同時撮影に世界で初めて成功した。26日付(英国時間)の英国科学雑誌『ネイチャー』に掲載された。論文責任著者の1人で、BHジェット研究の第一人者である同観測所の秦和弘(はだ・かずひろ)助教は「BHからどのようにして高速のジェットが噴き出ているのかなど、構造解明を進める上で非常に重要な成果」と強調。今後、同観測所の電波望遠鏡をグレードアップさせた観測も計画されている。(児玉直人)

 今回の観測対象は、2019年4月に「人類史上初のBH撮影」として話題となった、M87銀河の中心にある巨大ブラックホール。地球から約5500万光年離れた場所に位置する。
 2019年に発表された画像は、国際研究者チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」によるもの。主に南北アメリカ大陸と南極、ハワイにある電波望遠鏡を連動させるVLBI(Very Long Baseline Interferometry=超長基線電波干渉計)によって、BHの影がドーナツの穴のような形で捉えられた。
 EHTの画像は、BH本体にかなり近い部分に焦点を合わせている。BH本体の影や光子リングはくっきり見えても、BHに回転しながら吸い込まれていくガスによって形成される「降着円盤」や、BHから噴き出すジェットが写っていなかった。
 一方、今回の観測はヨーロッパなどの電波望遠鏡も加えた16局でVLBIを形成する「GMVA(グローバルミリ波VLBI観測網)」によって実施。EHTより視力が半減するデメリットはあるが、高い感度を維持したまま広範囲を撮影できるメリットがある。
 観測は2018(平成30)年4月に実施。データの解析や検証、論文作成に5年の歳月を要し公表に至った。得られた画像は、BH中心部の降着円盤や右方向へジェットが噴き出している様子を確認できる。
 今回の研究には、16カ国・地域の65研究機関から100人を超える天文学者らが参加。このうち、水沢観測所の秦助教と本間所長、同観測所で研究活動している東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(東北事業所=江刺岩谷堂=の田崎文得・シニアスペシャリスト、二戸市出身で八戸工業高等専門学校の中村雅徳教授の4人は本県居住や出身者という縁のある研究者だった。
 本間所長は「当初から予測されていたものとはいえ、本体、降着円盤、ジェットの3要素を世界で初めて捉えた大きな成果。さらに詳細なジェットの動きを見ていく上で、水沢や石垣島にある電波望遠鏡(直径20mのVERA望遠鏡)をグレードアップする予定だ」と話している。
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tanko 2023-3-24 11:00
 私が属する禅宗寺院では、玄関に「照顧脚下(しょうこきゃっか)」(足元をしっかり見つめよ)という戒めの木札などが掲げられていることが多い。これは周囲の環境である「縁」と自己との関係を見誤ることなく、真の自己を確立するために絶対的な自己を見つめよということである。
 そのためには、自己と他者との区別を越えた智慧(さまざまな「気付き」)を求めることが大切である。私は修行道場で指導者の老師から絶えず「知識を捨てろ」と叱咤激励され続けた。大学院まで知識偏重の環境に浸っていた私にとって、大変苦労させられた時期でもあった。
 故郷に戻り地域づくりにも関わった私は、地域のありよう、すなわち「縁」を自己に置き換えて取り組むよう努めた。ところが、地域や郷土の姿をとらえようとすると、目前の生活に縛られ全体像が見えてこない。
 郷土の自然環境は絶えず変化しており、世界的な気象現象とも無縁ではない。そして人々の生活についても、国が関わるグローバルな貿易体制、国の政策などが何らかの形でつながり影響している。そうい意味からも、各種機関が数字で示す指標や評価値は、地域づくりを考える上でも大変参考になる。


 私たちの国の豊かさを示す指標は、資本の国際的流動性が増したためか、国民総生産(GNP)ではなく国内総生産(GDP)がより正確に表されているとされる。日本のGDPは2009年まで米国に次ぐ2位だったが、2010年に中国に抜かれた。数年後にはドイツに抜かれ、4位になるだろうとされる。1人当たりのGDPも年によって変動するが、最近は27位から30位で、韓国と同等または抜かれている状況である。
 かつての高度経済成長期、日本は貿易で稼ぎ、効率の悪いものは輸入すればよいという“信仰”に毒されてきた。そこでは食料安全保障の観点が完全に抜け落ちていた。これは敗戦後、米国の占領政策「ドッジ・ライン」や支援物資(ララ物資)で日本が大変救われたことにより、その後、米国が食料を安全保障の手段として位置付けたことに全く無関心になったのが大きな要因である。合わせて日本が裕福な国となり、国民が食料自立に関心を持たなくなったのも大きい。
 日本の食卓は小麦など米国依存になる危険性があった。だが、それを顧みず過ごしてきたため、現在の小麦、穀物肥料、牛肉価格の上昇に悩まされることになった。
 高度経済成長の実現により生まれた成功体験が、あしき影響を与えているのは、食料や農業分野だけではない。電気自動車(EV)や太陽光パネル、半導体などでも他国に後れを取ってしまった。得意だった電気機器も貿易赤字に陥っている。
 日本衰退に至っているもう一つの大きな原因は科学分野、特にも大学における科学研究の軽視だ。国は行財政改革の名の下に、国立大学が比較的自由に使える運営費交付金を2004年から毎年1%ずつ減らした。現在では当初の1割、約1500億円が消えている。岩手大学の運営費交付金は70〜75億円なので、岩手大学に相当する大学20校分が減らされたことになる。
 講座の維持が困難な大学が多くなり、民間会社や研究所と兼務する客員教授が増加。若手研究者は5年間などの任期付き採用をするしかなく、落ち着いて研究に没頭できる状況が阻害されている。先進国で科学技術予算が横ばいなのは日本だけといってよい。
 このような背景があり、日本の研究者数減少と研究の質低下が著しい。科学技術論文の指標として「注目度の高い論文数ランキング」がある。科学雑誌『ネイチャー』や『サイエンス』などに掲載された論文が、他の研究者にどれくらい引用されたかを示すもので、日本は昨年、韓国に次ぐ12位だった。


 日本における経済力の衰退、科学技術予算の貧弱さが顕著という状況にある中、本体だけで約8000億円という巨大プロジェクト「国際リニアコライダー(ILC)」を日本の岩手に誘致し、実現できると考える人たちは、1980年代後半から始まった経済のバブル化のような、浮かれた金銭感覚の持ち主ではないかと感じてしまう。世界的視点で日本が置かれている「縁」を直視し、今まで保持してきた矜持を捨て、過去の失敗事例を学ぶことが、今の日本に必要とされているのだ。
 特に予算などの見通しについては、より厳しいものが求められている。これまでも巨大事業の実施主体は、国などの認可や補助金を受けたいがため、現実的ではない楽観的収支見積もりを提出することが常態化していた。
 例えば仙台市営地下鉄(南北線)は開業当初、1日当たりの平均利用客数を23万人と過大に評価したが、実際は約11万人とかなり下まわり、市が補助金で穴埋めしたという。東京五輪に関しても、当初予算の何倍かかったか公表すらしていない。北海道新幹線の新函館北斗〜札幌間の建設事業費は、物価上昇による資材費高騰のため当初予算より6450億円も増えると発表された。
 昨今のエネルギー価格高騰と円安は、自治体予算にも影響をもたらしている。仙台市では2022年度会計において、庁舎や公立学校、ごみ焼却炉などの運営経費不足分として、約16億8000万円の補正予算を組まざるを得なくなっている。
 とすれば、ILCの本体価格約8000億円という数字自体についても、うのみにせず疑うべきである。
 仮にILCが実現した際、それに係る研究者は当初約20人で、その後、百数十人になるという。しかし、冒頭に述べたように国が研究者養成を冷遇しているので、素粒子物理学という特定分野に関係した研究者、技術者を集めるのは困難であろう。外国人研究者も給料が安い日本に来るはずがない。まして家族を連れてくることもあり得ない。優秀な日本人研究者は、給料が安く立場が不安定な日本を捨て、給料が高く研究の自由度が高い中国に吸い寄せられているのが実態だ。
 このような状況を知れば、ILC誘致推進者たちが吹聴する「ILCが実現すれば国際科学都市ができる」などの発言は、信ぴょう性に欠けると言わざるを得ないのである。
 岩手県はILC誘致推進運動費に10年間で約30億円支出しているらしい。さらに担当職員の人件費は延べ約2億円はかかっていると推定される。無駄とも思える今までの支出や人材利用の責任は、とりあえず免罪しても、財政事情がますます厳しくなる今後は、とても許せるものではない。厳しい財政事情だからこそ、国の財政力や科学技術関連予算、国際的な科学を巡る情勢などを分析して意思決定する「証拠に基づく政策判断(EBPM)」が求められるのである。


 では、私たちの岩手県はこれからどうすればいいのか。民間で使用しているマーケティング理論のSWOT(強み、弱み、機会、脅威)により、岩手県の置かれている環境、条件をリアルに見つめるべきだと考える。岩手の強みは農林水産業とともに、観光である。
 先日、ニューヨーク・タイムズに掲載された「今行くべき52の場所」に、盛岡市が選ばれた。一方、盛岡市は某企業がインターネットで調査した「住み続けたい街・自治体ランキング」で県内1位となっている。
 どちらも盛岡市を高く評価しているように見えるが、果たしてニューヨーク・タイムズに掲載された外国人の評価と、「住み続けたい街」のランキングは、同じ価値観で結びあっているだろうか。
 ニューヨーク・タイムズの記事で高く評価された事柄の一つに、「落ち着いた街の雰囲気」というのがあった。「住み続けたい街」のほうは、福祉や医療、買い物のしやすさ、遊ぶところが充実しているという面が評価されている。
 この二つの「評価」の違いを象徴する出来事が実際に盛岡市で起きている。盛岡城三ノ丸跡にある桜山神社と参道には、外国人が喜ぶ風情ある街並みが残されている。ところが盛岡市は、活性化のために区画整理を行うとして論争を呼んだ。昔ながらの雰囲気を残すべきだとする住民や当該地区を愛する多くの反対の声により、今も何とか残っている。
 合理化だけを考える行政の姿勢は、インバウンドの重要性が叫ばれ、観光の重要性が増している状況を軽視している。活性化と落ち着いた街の雰囲気をどう調和させるかが問われる時代となったことを、行政は猛省すべきである。


 岩手の「弱み」とは何であろう。以前は「大都市から遠い」という点がよく挙げられていたが、高速交通網の進展と情報化の到来により、深刻な弱みではなくなった。
 私は、チャンスをつかもうとする県や市町村行政当局、そして議員、県民の力不足が今の「弱み」であり、岩手の地域づくりにおける最大の問題だと考える。それなのに、多死少子化による人口減と、財政難と言う危機を真剣にとらえず、「巨大プロジェクト誘致が実現すれば全てが解決する」と安易に考えているとしか思えない。危機を乗り越えるためには、岩手の「強み」「弱み」「機会」を徹底的に分析し、それらを踏まえた政策を模索すべきである。
 岩手県当局とともに、一関市と奥州市はILC誘致運動に前のめりの自治体である。特に一関市は前市長時代にまちづくりの2本柱の一つにILC誘致を挙げ、潜在的資源を掘り起こそうとする意識が欠けていた。一関市、奥州市とも昨年市長が交代したので、この機会に市民が住み続けたいと思うまちとは何なのか、徹底的に掘り下げてほしい。岩手県当局も基礎科学の一分野に過ぎないグループが企画するプロジェクトに振り回されることなく、しっかり農林水産業振興などに取り組むべきである。


 一関市、平泉町、奥州市は「束稲山麓地域」で世界農業遺産取得を目指した。今年1月に“日本版”の日本農業遺産に認定され、それを喜ぶ報道がなされた。しかし、世界農業遺産取得という本来目的を残念ながら3度挑戦し全て落選したという事実、その原因を深く反省しなくてはならない。
 日本版の認証が、世界版の認証に至る――とは必ずしも言えないと私は考える。新聞で知る限りの印象だが、国連食糧農業機関(FAO)が求めている「農業生物多様性」「多様な主体の参加」に、当該地域は欠ける点が多かったのではないかと思う。
 生物多様性は気候変動(温暖化)と並び、地球的課題として捉えられている。環境破壊がさほど進んでいない岩手県の各自治体は、生態系保全、生物多様性保全の取り組みで最も期待されていると言える。
 しかし、自治体が持っている生態系や生物多様性に関する知見、ノウハウは限られている上、専従する担当部署がない所も多いのではないか。FAOが要求する「多様な主体」という条件を充実させるため、農業に係る人材だけでなく、各方面の研究者、NPO法人などの人材活用が求められるであろう。


 一関市、平泉町、奥州市は私が最も愛するまちである。それゆえ行政不作為の象徴とも言えるILC誘致などで騒いでいる間に、地域が持つ「強み」が生かされず、ずるずるとまちが衰退していく姿を見ることは残念でたまらない。
 行政の姿勢を変えるためにも、私たち市民は、行政や議員任せではなく、また自分の利益だけを追求するのではなく、将来世代まで「すばらしい郷土」を残そうとする自分たちの意識改革を行うことが望まれるのである。

(※千坂氏の名前の「げんぽう」の漢字表記は、「げん」が山へんに諺のつくり、「ぽう」は峰)
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tanko 2023-2-10 18:10

ILC実現建設地域規制同盟会設立総会で祝辞を述べた塩谷立ILC議連会長。右はKEKの山内正則機構長=8日、一関文化センター

 超党派国会議員で組織するリニアコライダー国際研究所建設推進議員連盟(通称・ILC議連)の塩谷立会長(衆院比例東海、自民)は8日、一関市内で開かれたILC実現建設地域期成同盟会設立総会に出席。来賓祝辞の中で、日本学術会議が4年前に実施したILC計画に対する一連の評価手続きについて「あれは余分だった」と持論を述べた。
 塩谷氏が指摘したのは、文部科学省が2020(令和2)年度に策定した「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ」に、ILC計画を搭載させるため実施した一連の手続き。文科省は当時、ILCを誘致するにはロードマップに位置付けられるなどの「正式な学術プロセス」を経る必要があると強調していた。
 ロードマップに搭載されるには、学術会議が策定する「学術の大型施設計画・大規模研究計画に関するマスタープラン」で、重点大型研究計画に選ばれるか、ヒアリング(聞き取り)審査対象となるのが条件。ILC計画はヒアリング審査対象になり、同計画を推進している高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、2020年2月末にロードマップ審査の申請書類を提出した。
 しかし「国際協力体制が審査申請時より大きく進展したため」などの理由で自主的に取り下げた。この対応を巡っては、KEKが5カ月以上、地元誘致関係者に事実関係を伝えていなかった。
 期成同盟会の祝辞で塩谷氏は「文科省にもそれなりに協力してもらっているが、官邸に持ち込んでしっかり進めていくのがいいのでは」と、文科省の枠組みを超え、省庁横断的に取り組む体制の必要性に言及した。
 塩谷氏はこのほか「巨額の費用分担の在り方が大きな壁になっているのは事実。さらにここ3年、新型コロナウイルスの影響で、世界的な活動が難しくなっている上、各国が大型計画を抱え予算的に厳しいという状況もある。もう一度体制を立て直そうというのがここ最近の状況だ」と説明。「ILCの学術的意義は認められており、どういう手順で進めるかという段階になっている。誘致予定の地域に皆さんが集まり、期成同盟会をつくってもらったのは大きな力になる。共にILC実現に向けて頑張っていきたい」と力を込めた。
(児玉直人)

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