人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
投稿者 : 
tanko 2017-11-15 12:20
 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」計画を巡り、研究者による国際組織は今月「ステージング」と呼ばれる段階的な建設方針を了承した。新方針に準じて北上山地に建設した場合、一関市東部に施設全体が収まり、奥州市内にILC本体は当面造られないことが予想される。とはいえ、ILC本体のみで国際研究都市が成り立つわけではなく、居住地域や教育設備などさまざまな機能を周辺に配置しなくてはならない。奥州市の誘致関係者は「市域に入るか否かによって、ILCと共に歩む姿勢が変わるものではない」と強調。日本政府の国内誘致判断が来年に迫るとされる中、国際研究施設を迎え入れるにふさわしい都市づくりをより具体的に検討していく必要性を訴える。
(児玉直人)

 「ステージング」は、素粒子の衝突現象を捉える検出器を中心に、両端へ直線10km、全長約20kmによる規模で実験をスタートさせ、段階的に施設規模(全長距離)を拡張していく手法。当初は全長約30kmでの始動を想定し、将来的に約50kmまで伸ばす構想を描いていたが、始動時の規模を一段階短く設定することで、約1兆円とされる初期投資コストの抑制を図る狙いがある。
 ILCの具体的な建設場所や施設の配置場所については正式に公表されていない。日本政府に至っては北上山地を候補地と認めているわけでもないが、本紙はこれまで研究者らが示してきた諸資料などを基に、ステージングで示された全長20kmの施設規模を推測した。
 すると、南端は一関市の室根山付近、北端は阿原山南側の一関市大東町鳥海地区という姿が浮かび上がった。ちなみに全長約30kmに拡張されると、北端部は江刺区伊手の中心部南側、同50kmだと市立人首小学校の北西にまで達する。
 阿原山からほど近い江刺区の伊手地区センター。2013(平成25)年に、ILCに携わる国内外の研究者らが視察に訪れたことがある。地質調査等に伴う地元向けの説明会では、「ぜひ実現を」という住民の期待感が漂った。
 境田洋春センター長は「伊手地区の地下にILCができるという大きな期待がある」と語る。地上からは見えない地下に造る実験施設とはいえ、世界最先端の研究が「わが地元」で行われているという誇りは、ある意味で地域住民の力にもなり得る。
 「ソフト面に気持ちの高まりをシフトして、地域の子どもたちの将来にILCをどう生かせるか、地域として何ができるか、みんなで考えていかなくてはいけない。そのためにも、政府が早く誘致を判断してほしい」と願う。
 来年3月で任期満了を迎える市議会。ILC特別委員会の渡辺忠委員長は、ステージング方針を踏まえ議会としての協議や国への要望活動の実施を検討している。「一番良くないのは『奥州市にILCが届かなかったから、これで終わり』という雰囲気になり、受け入れやまちづくりに対するトーンが下がってしまうこと」と警戒。「研究者の住環境や関連企業の受け入れなど、周辺部が果たすべき役割、市民や地元企業が活躍できる場を形成しなくてはいけない」と訴える。

図=ILCの建設想定エリア
投稿者 : 
tanko 2017-11-11 21:30
 奥州市江刺区東部を含む北上山地が有力候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)について、世界の主要物理学者らによる二つの組織は日本時間の10日未明、「ステージング」と呼ばれる段階的な建設方針について、正式に支持する声明を発表。日本が主導権を持った国際プロジェクトとして時宜を得て実現することを奨励した。世界の研究者たちから、あらためて日本政府側にILC誘致のゴーサインを求めるボールが投げ掛けられた格好だ。

 声明を発表したのは、世界主要加速器研究所の所長や研究代表者らで組織する「国際将来加速器委員会(ICFA)」と「リニアコライダー国際推進委員会(LCB)」。両組織は、国際研究者組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」が提案していたステージングについて協議していた。
 ステージングを支持する声明は、同セミナー最終日の9日午前11時すぎ(日本時間10日午前2時すぎ)に発表された。日本の高エネルギー加速器研究機構(KEK)によると、今セミナーでICFA委員長職を退くヨアキム・ムニック氏(ドイツ電子シンクロトロン研究所)は「世界の主要な素粒子物理学研究者の意見が、このように一致したことは非常に喜ばしい。素粒子物理学はヒッグス粒子の発見のような、世界の注目を集める目覚ましい成果を挙げてきた。次のステップは、より強力な加速器を用いて根源的な謎をより深く解明するためのさらに国際的な取り組みとなる。世界の科学者はこの心躍る未来に向け一致団結して取り組んでいく」と述べたという。
 ステージングの正式支持を受け、文部科学省のILC有識者会議は、声明やステージングの内容を精査した上で、次回以降の協議を進める見通し。東北ILC準備室による地元受け入れ態勢の方針については、年内にも公表できるよう調整を進めるという。


 【解説】 加速器を使った素粒子物理の実験では、加速させる粒子に与えるエネルギーの大きさによって、研究対象が異なってくる。物理の世界では、電子1個が1ボルトの電圧で加速される時のエネルギーの大きさを「1電子ボルト」と呼んでおり、単位は「eV」が用いられている。素粒子実験施設の加速器では、光の速さに近い状態で粒子を加速させるため、エネルギーの数値も膨大となる。
 「ステージング」では、全長20kmの施設規模からILCをスタートさせるが、この規模で得られるエネルギーの大きさは250ギガ電子ボルト(250GeV)。ギガは「10億」の意味なので、250の10億倍のエネルギーが得られる。
 250GeVのエネルギー領域では、物質に質量を与える素粒子「ヒッグス粒子」の詳細な研究が可能。「暗黒物質(ダークマター)」と呼ばれる未知の素粒子が見つかるかもしれないという。
 加速器の台数を増やし、全長をさらに伸ばせば、エネルギーはさらに大きくなる。当初計画の30kmでは、ヒッグス粒子を二つ同時に生成できる。南端が宮城県気仙沼市まで達する50kmは、人類にとって未知の領域だ。
 空港の滑走路を延伸するような施設拡張は、直線型加速器施設であるILCだからこそ可能なもの。欧州合同原子核研究機構(CERN、スイス)や中国で計画されている大型加速器は、円形のため、同様の拡張をするには、直径を長くした施設を新造するしかない。拡張性が劣る上、ILCでは30km以上の拡張で実現できる高エネルギー領域の研究は不可能という。
 「段階的」「多段化」という意味合いを持つ「ステージング」。研究者らは、規模縮小やILCのレベルを下げることではないと強調する。
 だが、ILC誘致をめぐるこれまでの動向では、約1兆円のコストに対する懸念が出たこともあって、「ステージング」より「コストカット」「ダウンサイジング」という印象がぬぐえない。良かれと思い取り組んだ支出抑制が、「ILCの魅力低下」と映ってしまっては元も子もない。
 「ILCの価値は何ら変わっていない」。今、必死に熱意を見せるのは候補地の地元関係者や子どもたちではない。この分野に関係する日本や世界の研究者であろう。候補地周辺や一部の研究者のみならず、日本社会全体にILCの必要性を語り掛けてほしい。
(児玉直人)
投稿者 : 
tanko 2017-11-10 20:40
 北上山地が有力候補地となっている素粒子研究施設「国際リニアコライダー(ILC)」誘致を意識し、地元企業にILC関連産業への参入を考えてもらうセミナーが9日、江刺区内のホテルで開かれた。
 市と市ILC推進連絡会議が主催。市内企業や商工団体のほか、市議会議員や行政職員ら約100人が集まった。
 セミナーは2部構成。前半は、岩手大学・東北大学客員教授の吉岡正和氏が、ILCプロジェクトの現状と関連産業の参入に向けて講演した。
 冒頭、吉岡氏は重力波研究施設の立ち上げなどに貢献し、今年のノーベル物理学賞に輝いた米国のバリー・バリッシュ氏を紹介。バリッシュ氏は、米国の重力波観測施設「LIGO(ライゴ)」の研究責任者だった一方、ILCの技術設計報告書をまとめ上げる国際共同設計チームの最高責任者を務めた人物。受賞決定後にILC関係者に寄せられたメッセージには、ILCと同様、LIGOもコストや技術面で批判を受けたとしながら「必要なのは不屈の努力と忍耐、支援、そして少しの幸運だ」と記されていたといい、吉岡氏は「私たちも肝に銘じてやらなくては」と気を引き締めた。
 「ILCは、欧州合同原子核研究所(CERN、スイス)と車の両輪のように動くことで、新たな発見を目指している」と吉岡氏。「CERNには2500人が勤務し、うち2000人はハイレベルな技術者たち。彼らは定年後、近隣の企業や大学に入るケースが多い。ILCでも同じようなことが想定され、この地域の企業や大学に与える影響は素晴らしいものがある」と強調した。
 その上で「彼らが住みたいと思えるような環境を整える必要がある」と述べ、ILCの立地と地域活性化との関係性を考えていく必要性を訴えた。
 後半は、いわて産業振興センターの今健一・ILCコーディネーターが、いわて加速器関連産業研究会の取り組みについて紹介した。

写真=ILCと関連産業参入などについて講演する吉岡正和氏

日本のKAGRA「失敗」ではない(吉岡氏、本紙報道に見解)

 江刺区で開かれたILCセミナーで講師を務めた吉岡正和氏は講演の前段、本紙10月27日付に掲載されたドイツ・マインツ大学教授の斎藤武彦氏のインタビュー記事で、米国の重力波観測施設「LIGO」の成果がノーベル賞受賞につながり、「建設中の日本の重力波研究施設KAGRAにとっては敗北だ」とする趣旨の考えが述べられたことに対し、「失敗でもなんでもない」と指摘した。
 吉岡氏は「KAGRA(カグラ)は来年にも動きだす。今後、LIGOや世界中の重力波研究施設と連携し同時検出することで新たな発見が期待される、非常に楽しみな装置だ。重力波研究はILCと目的が共通するところがある」などとアピールした。
 斎藤氏は本紙インタビューで、ILCが当初計画よりも短い直線20kmの規模で建設を始めることにより、中国で計画されている素粒子実験施設や欧州のCERNの優位性が高まり、次々と新成果を出す可能性があると指摘。LIGOとKAGRAの間で起きたノーベル賞受賞のような「成果の差」が、ILCでも起きかねないと懸念していた。
投稿者 : 
tanko 2017-11-10 11:00
 ILCでは電子と陽電子という素粒子を光速に近いスピードでぶつけるという話でした。でも、それってとても危ないんじゃないですか? 原発事故みたいなことが起きないのか心配です。
A:原発事故のように内部が溶ける(メルトダウン)ようなことは考えられません

 電子と陽電子はほとんど重さがない素粒子(計算すると約0.00000000000000000000000000000091kg)です。たとえ光の速さに近い速度で衝突しても、発生するエネルギーは、0.3ジュールぐらいしかありません。1立方cm(1?)の水の温度を1度上げるのに必要なエネルギーが4.2ジュールですから、非常に小さなエネルギーでしかないことが分かります。従って電子と陽電子の衝突によって発生するエネルギーの大きさに対する心配はありません。
 むしろ衝突しなかった電子や陽電子が持っているエネルギー(熱)を下げる方が課題です。このエネルギーは「ビームダンプ」と呼ばれる水槽によって処理されます。
 放射線の発生と被ばく対策も気がかりだと思います。ILCは放射線発生装置であることには間違いありません。運転中、加速器トンネル内は電子のエネルギーが高いため、電子ビームがパイプや容器の壁に当たったりすると「制動放射線」と呼ばれる一種のX線が放出されます。
 衝突しなかった電子と陽電子は、先ほど紹介した「ビームダンプ」という水槽に導かれ消滅しますが、水槽の水と反応し、わずかですが放射性物質が生成されます。しかし、これらの放射性物質は数時間足らずでなくなります。
 最も特徴的なことは、これら放射線の発生は、加速器の運転停止とともに止まります。原発事故のように、人間の手で止めたくても止められない――というようなトラブルはまず起きないと思います。
 また加速器トンネル内の空気中のチリなどが、放射化して放射線を出す物質になる場合があります。しかし、これら放射性物質が外部に直接放出されることはありません。加速器トンネルやアクセストンネル内の空気は、必ず排気ダクトを経由して放出されることになっています。この排気ダクトにはフィルターや放射線モニターなどが設置されおり、これによって一般大気への汚染空気の排気の監視や除去が行われます。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)

“番記者”のつぶやき
 「衝突」「ぶつける」という言葉だけを聞くと、まるで交通事故でも起きたかのような印象を受けますが、電子や陽電子の特長やエネルギーに関する知識が分かれば、特段怖いことではないと感じることができるのではないでしょうか。
 放射線管理に関しては、東京電力福島第1原発事故で私たちが受けたショックが大きいため、特に心配に思う人が多いと思います。原発のような事故がILCで起きることは、システム上、考えにくくても「なぜ大丈夫なのか」「万が一のときはどんな対策を取るのか」ということは、特に科学の専門知識がない一般の人たちに向けて丁寧に説明し、理解してもらう努力を続けてほしいものですね。
(児玉直人)

写真=高エネルギー加速器研究機構にある超伝導リニアック試験施設(STF、Superconducting RF Test Facility)の入り口。停止中は放射線が出ないので中に入れます。中に人がいる時には、装置が動かないようにするなど、厳重な安全対策が取られています(茨城県つくば市)
投稿者 : 
tanko 2017-11-5 11:40
 平野達男参院議員(岩手選挙区)らILC議連所属の国会議員3人はこのほど、フランスで開かれた国際リニアコライダー(ILC)関連の国際会議「リニアコライダー・ワークショップ(LCWS)2017」にインターネットを通じて参加。平野氏は、来年1月に議連の欧州訪問を計画していることを伝え、ILC実現に向けた日欧の議会間、政府間の議論の発展に期待を寄せた。
 同会議は、ドイツに接しているフランス北東部の都市ストラスブールで10月23日から5日間開催。ILCのように直線型加速器によって素粒子実験を行う物理学者らが集まる定例国際会議で、リニアコライダー・コラボレーション(LCC)が主催している。昨年は盛岡市が会場だった。
 同議連幹事の平野氏は、27日に行われたILCの準備状況などを紹介する会議に、同議連会長の河村建夫衆院議員(山口3区)、幹事長の塩谷立衆院議員(静岡8区)と共に参加。当初は直接現地で登壇する計画だったが、衆院解散に伴う総選挙が行われた関係もあり、ネット中継で対応することになった。平野氏は東北大学大学院=仙台市=の山本均教授の研究室から、河村、塩谷両氏は東京からネット中継でメッセージを送った。
 平野氏は、ILC有力候補地となっている北上山地の特性や周辺環境などを紹介しながら「壮大な科学的目標に向け多くの科学者がこの地に集い、共同研究を行うことは異文化の相互理解や世界平和にも貢献するだろう」と期待。「来年はILC実現に向けたまさに重要な1年。議連としては、1月初めに欧州へ参るための日程調整を進めている。この機会に日欧間で議会、政府間での議論が発展していくことを願っている」と述べた。
 ネット中継をサーポートした山本教授によると、ヨーロッパ側の関係者からは「ILCには興味があり、ぜひ一緒に進めたい」との意思表明があったという。
 現地では東北ILC準備室長の鈴木厚人・県立大学長が、東北地方でのILC受け入れに向けた準備動向について発表した。

写真=LCWS参加の研究者らにメッセージを送る平野達男参院議員(提供)
投稿者 : 
tanko 2017-10-29 16:30

 前沢商工会(菅原繁夫会長)は27日、中小企業・小規模事業者の振興や商工会事業の円滑実施のための補助制度継続など9項目を盛り込む要望書を奥州市当局に提出した。
 要望書では「中小企業・小規模事業者は、人口減少と超高齢化社会に伴う構造的な消費低迷、労働力不足、人件費や原材料の高騰など多くの課題を抱えている」と指摘。
 その上で▽商工会等補助金の補助制度継続▽地域中小企業・小規模事業者の持続的発展に向けた支援体制強化▽前沢ふれあいセンター大規模改修促進▽商工会員加入推進▽国際リニアコライダー(ILC)計画実現の推進――などを求めた。
 菅原会長ら役員が奥州市役所本庁に小沢昌記市長を訪ね、手渡した。小沢市長は「しっかり検討させていただき、文書で回答したい」と応じた。

写真=要望書を小沢昌記市長に提出した菅原繁夫会長ら
投稿者 : 
tanko 2017-10-28 16:20
 北上市と金ケ崎町の企業などが「ものづくり力」を広く紹介する「きたかみ・かねがさきテクノメッセ2017」が27日から29日まで、北上市の北上総合体育館で開かれた。初日は、児童生徒を対象に見学会が催され、町立金ケ崎中学校を含む17校約2000人が県内各地から来場。企業や大学、高校などの各展示ブースを巡り、それぞれの技術に直接触れることで、ものづくりの魅力を体感した。


 製品や最新技術などの展示・体験を通し、北上・金ケ崎地域の高い工業集積力をアピールしようと隔年で開催。北上工業クラブが主催し、北上市、金ケ崎町、北上商工会議所、県が共催する。業務内容や雇用情報を高校生らに提供することで、若い人材の確保を狙うとともに、小学生から楽しめる展示内容とすることで、将来のものづくり人材育成につなげたい考えだ。
 今回のテーマは「知ろう 地域のものづくり」。両市町内に事業所を展開する飫の企業や団体、県内の教育機関などが出展。同町からは▽アイシン東北▽ジーエフトップ▽デンソー岩手▽トヨタ自動車東日本▽FTS▽真柴商会(ドローンスクールジャパン岩手金ケ崎校)――が参加している。
 会場内では、それぞれの専門技術を実験や遊び感覚で楽しめるよう工夫された展示が目立った。金ケ崎中1年の祝田遥香さん(13)は「直接触れられるのがいい」と話し、友人たちと積極的に体験を重ねていた。
 北上市の樹脂製品製造業のWING(高橋福巳社長)は、国際リニアコライダー(ILC)の心臓部に当たる超伝導加速空洞の樹脂模型と射的ゲームを組み合わせ、電子が空洞内を進むイメージを伝えた。高橋社長は「この先、何年もかけて造られるILCは、今の子どもたちのためのもの。楽しみながら技術に触れることで興味関心を持つきっかけになれば」と、次々とブースを訪れる中高生に期待を込めた。
 会場内では、岩手県立大学や県立産業技術短期大学校、黒沢尻工高なども出展し、研究の成果を披露。金ケ崎中1年の稲邑悠人君(12)は「いろんな取り組みをしていて、格好いいと思った」と刺激を受けた様子で、「宇宙工学に興味がある。自分も挑戦してみたい」と、ものづくりへの思いを強くしていた。

写真=各出展ブースを回り、熱心に見学する金ケ崎中生たち。ILCの心臓部に当たる超伝導加速空洞の樹脂模型展示コーナーが人気を集めた
投稿者 : 
tanko 2017-10-27 16:20
 宇宙誕生の謎を探るには、「加速器」というものを使い、宇宙誕生時と同じような状態を再現する実験をすればよいということでした。なぜ、その実験で宇宙誕生の謎がわかるんですか?

A:宇宙誕生時の状況を再現できるからです

 加速器は、目には見えない小さな粒子を電気の力で加速、つまりスピードを与えてあげる装置です。そのスピードは、光の速さ(秒速約30万km)に近い状態です。
 粒と粒をぶつけるという一見単純な実験で、なぜ宇宙誕生という壮大な謎に迫ることができるのか。現在の宇宙は、小さな点のような空間から始まったと言われています。その点が爆発して膨大なエネルギーが放出されます。そのエネルギーから小さな粒「素粒子」が生まれました。
 膨大なエネルギーを放出した大爆発は、「ビッグバン」と言われる現象です。この爆発によって、宇宙は急激に大きくなりました。最近はさらに加速して広がり続けているそうです。
 エネルギーから素粒子が生まれる現象を裏付ける式が、世界的に知られる物理学者アインシュタインが考えた「E=mc^2」です。これは、エネルギー(E)と質量(m)は等しいと言っているのです。cは光の速さで変化することはありません。高エネルギーの状態から重い素粒子ができることを表しています。
 加速器を使って、粒子と粒子をぶつけることでも、大きなエネルギーが生じます。粒子の速さが、光の速さに近いほどエネルギーは大きくなり、宇宙誕生時の状況を再現していることになります。
 加速器を使ってエネルギーが高い状態を再現すれば、今まで見つけられなかった重い素粒子を作り出せる可能性があります。その重い粒子を調べれば、宇宙誕生の謎がまた一つ解き明かされることになります。
 計画中のILCでは、電子、陽電子という2種類の素粒子を衝突させることによって、出てきた粒子を調べやすくしています。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)

“番記者”のつぶやき
 食欲の秋です。皆さんはおいしい料理を食べる時に、「これは一体どんな材料を使って作ったのかな」と気になる時があるかもしれません。その疑問を持つ感覚は、宇宙誕生の謎を探る時とおそらく同じようなものだと思います。果てしなく広がる宇宙が何でできているのかを調べていくと、目には見えない小さな複数種類の粒「素粒子」が共通の材料になっているというのが、現在の科学の考えです。大きな宇宙を知る手掛かりは、スケールが真逆の小さな素粒子にあるのです。
(児玉直人)

写真=茨城県の高エネルギー加速器研究機構で開発実験中のILC用加速器側の円筒状の装置)
投稿者 : 
tanko 2017-10-27 16:10
 東北各地で小中高生や一般市民向けの科学授業活動を展開しているドイツ・マインツ大学の斎藤武彦教授(46)は25日夕、胆江日日新聞社内で取材に応じ、北上山地が有力候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の誘致を巡る動きや地元での活動に、さまざまな懸念要素が散見されると強調。ILCを実現した岩手が、世界の注目を集める地域となるよう願いながら、あえて問題点を指摘した。(児玉直人)

 ドイツに家族と居住している斎藤教授は、11月18日から30日まで日本に滞在。25日は奥州市立胆沢中学校や県立水沢高校の生徒を対象に特別授業を行った。
 授業には、ILCの話題を取り入れることもある。斎藤教授は原子核構造物理学が専門。ILCとは直接関連性のない分野で、ILC誘致に携わる研究者組織にも所属していない。客観的な目線でILCと東北、岩手の関係を考えている科学者の一人だ。
 ここ1年以内が政府判断に向けた正念場とされるILCだが、斎藤教授は誘致をめぐる最近の動きに、いくつかの疑問を抱いている。


KAGRAの敗北はILCでも起きうる

 今年のノーベル物理学賞は、米国の重力波観測施設「LIGO」に携わった3人に決まった。この受賞に、日本で建設中の重力波研究施設「KAGRA」に携わっている研究者らは、わがことのように喜びの声を上げた。主要メディアは、重力波分野における日本人研究者の存在を誇らしげに紹介した。
 齋藤教授はそんな日本国内の雰囲気に嘆いた。「KAGRAが動きだす前にLIGOは大きな成果を出した。喜ぶどころか、これはKAGRAの敗北だ。民間企業に置き換えれば想像は容易。ライバル社に先を越されたり、競争に負けて業績が悪化したりすれば、担当者や経営陣は責任を取らされる。それと同じくらいだと意識しなくてはいけないはず。私たち科学研究者は、多くの皆さんの血税を使わせていただいている。そのためには研究成果を出す形で応えなくてはいけない」
 KAGRA敗北のような状況は、ILCでも起きうる可能性があると齋藤教授は指摘する。
 ILCの国際研究者組織は昨年12月、「ステージング」と呼ばれる提案を明らかにした。当初計画では、直線距離30kmの加速器用トンネルを掘る予定だったが、20kmに短縮することで初期コストを抑制。実験成果や関係装置の技術進歩の状況を見ながら、段階的に施設規模を拡大していく考え方だ。
 「ステージングを取り入れざるを得なかった気持ちは分からなくもないが、短縮した20kmの長さで得られるエネルギー領域で、どれほどの成果を得られるのだろうか。LHC(スイス・フランス国境にまたがるCERNが運用する実験施設・大型ハドロン衝突加速器)を超える成果を出せるのだろうか」と疑問を投げかける。
 「20kmの領域で研究している間に、CERNや中国が考えている超巨大円形加速器(CEPC)で次々と成果が出るような状況が起きたら、誘致運動に散々時間とエネルギーを費やした地元住民や、貴重な時間を削って出前授業を受けた子どもたちは何を感じるだろう」と指摘する。
 「ひょっとしたら、専門外の私が知らない技術を投入して、20km領域でも成果を狙えるように取り組んでいるのかもしれない。だとすれば、そのことを地元の皆さんにも知らせなければいけない。地元を巻き込むプロジェクトだからこそ、そういう姿勢が大切になる」


子ども巻き込む誘致運動 「心の底から反対」
着ぐるみも「無意味」



 斎藤教授は特別授業のため訪れたある小学校で、子どもたちが作ったであろうILCの「のぼり旗」を目にした。「もし、大人が作るよう促したとすれば、大きな間違い。まるで子どもたちがILCを待ち望んでいるかのような演出をすることに、私は心の底から反対する」と語気を強める。
 地域住民や次世代を担う子どもたちにILCへの関心を持ってもらうため、行政や誘致団体は、さまざまな取り組みやイベントなどを考案、実行してきた。
 「宇宙のスケールや素粒子とは何かを学ぶぐらいだったらまだいいが、子どもたちに『あなたたちも声を上げてくださいね』と働き掛けたり、シンポジウムや研究者の集まりに招いて、何かを発言させたりする演出をするのは間違いではないか」と斎藤教授。「科学を勉強することと、誘致運動をごちゃ混ぜにしてはいけない。子どもたちは勉強や遊びを通じ、さまざまな知識や判断能力などを身に付ける途上にある。その貴重な時間を大人たちの誘致活動に割いてしまってはいけない」と強調する。
 子どもたちを巻き込んだ誘致活動とともに、斎藤教授が非難したのは、キャラクターや着ぐるみを用いた周知活動だ。
 茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)や奥州市、一関市では「ヒッグスくん」という着ぐるみキャラクターを使い、ILCの周知活動をしている。物質に質量を与えている素粒子「ヒッグス粒子」にちなんだキャラクターだ。ちなみに、ヒッグスとは同粒子の存在を提唱した、ピーター・ヒッグス博士の名前に由来する。
 「科学者になろうと思う子は、着ぐるみを見てではなく、科学が持つ本質的な魅力を感じその道を志すはずだ。着ぐるみでPRするより、国会議員一人一人を訪ね、良識ある判断をお願いする活動をしたほうがずっと有意義だ」
 ILC実現を強く願うあまり、冷静な判断や住民目線の対応を見失っては本末転倒。斎藤教授は誘致関係者や自治体担当者らに対し、科学者と対等の立場で話し合い、本質を見つめた対応を望んでいる。「そういう意味で、奥州市が策定した『ILCまちづくりビジョン』の考えはしっかりしている」。ビジョンに示された人口減対策や産業振興、多文化共生のための取り組みは、ILCの実現有無を問わず地域の将来を思えば実施しなくてはいけないことだ。「いい意味で肩の力が抜けたビジョンではないか」と評価する。

写真上=本紙の取材に応じる斎藤武彦氏

写真下=奥州市が作製した「ヒッグスくん」の着ぐるみ
投稿者 : 
tanko 2017-10-24 19:40
 第48回衆院選は22日に投票が行われ、即日開票の結果、岩手3区は無所属の前職小沢一郎氏(75)が自民党の前職藤原崇氏(34)に3万3658票差をつけて一騎打ちを制し、17選を果たした。共産党や社民党、連合の協力を受け、安倍政権に対する批判票の受け皿を一手に担えたことで、追う藤原氏を引き離した。一方、比例代表東北ブロック(定数13)は23日朝までに確定し、重複立候補していた藤原氏が前々回、前回選に続き復活当選し、3選を果たした。


 3区の開票結果は、小沢氏13万229票、藤原氏9万6571票。投票日当日の有権者数は38万9315人(男18万6789人、女20万2526人)で、投票率は60.30%だった。
 岩手県内小選挙区は、選挙区割りの見直しにより、選挙区の数が4から3に変更。新しい岩手3区は、旧4区の奥州市、金ケ崎町、北上市、花巻市、西和賀町に、旧3区を構成していた一関市と平泉町が加わり、7市町となった。
 3区を構成する7市町のうち、小沢氏の得票が藤原氏を上回ったのは奥州市、金ケ崎町、花巻市、北上市、一関市、平泉町の6市町。お膝元の胆江2市町では、前回選の得票差から1793票広がった。一方、藤原氏の得票数が上回ったのは、出身地の西和賀町のみだった。
 小沢氏、藤原氏の両陣営とも、新たな選挙区になった一関市と平泉町での支持動向をつかみかねていたが、両市町を合わせた得票率は小沢氏57.3%、藤原氏39.6%。小沢氏が中選挙区時代の支持層を足掛かりに得票を伸ばし、共産票も加えた。
 今回選で小沢氏は、代表を務める自由党の公認候補が他党公認で立候補したことなどを理由に無所属で立候補した。安倍政権を批判し、小沢氏の自主的支援を決めた共産党は、市民と野党の共同による政治に変える「大義」のため、穀田恵二国対委員長や地元市議らが街頭に立って演説。党を挙げて小沢氏を推した格好だ。社民党、連合胆江が推す市議らも小沢陣営に加わった。
 藤原氏は、安倍首相や小泉進次郎・党筆頭副幹事長ら「大物弁士」も選挙区入りしながら懸命に集票。公明党の全面支援も受けた。政権与党の立場を強調して国際リニアコライダー(ILC)誘致やハード整備の推進を訴えた。若さもアピールし世代交代の必要性を説いたが、小沢氏の地盤を崩しきれなかった。藤原氏は小選挙区で小沢氏に敗れたものの、同ブロックの自民重複候補者の中では2番目に高い惜敗率74.15%で3選を果たした。


国民の生活第一へまい進(小沢一郎氏)
 ご支持をいただいた多くの皆さま、共闘をいただいた野党各党に御礼を申し上げたい。岩手の改革の政治に対する期待は、なお高いことを実感した。国民の生活が第一の政治実現へまい進してまいりたい。また、岩手の課題である震災からの復興、人口減少対策、ILCの実現等にこれまで以上に取り組んでいく。

 小沢 一郎氏(おざわ・いちろう) 水沢区出身。慶応大卒。1969年、衆院初当選。自治大臣、自民党幹事長、新進党党首、自由党党首、民主党代表、生活の党代表などを歴任。自由党代表。75歳。


ILC実現「官邸へしっかりと」(藤原崇氏)
 今日から3期目。地域の信頼を得られるよう、信任に恥じないようしっかり頑張りたい。やるべきことに前向きに取り組んでいく。従来取り組んできたことにギアを入れていくとともに、子育て世代として政策に幅を持たせていきたい。ILC実現に向け、与党議員の一員として機会あるごとにしっかりと官邸に要望していく。

 藤原 崇氏(ふじわら・たかし) 西和賀町出身。明治学院大学法科大学院修了。法律事務所勤務、参議院議員公設第一秘書を経て、2012年、衆院(比例)初当選。弁護士。自民党県3区支部長。34歳。


おことわり
 本紙では、衆院選岩手3区の結果を23日付、比例東北ブロックの結果を24日付紙面にてそれぞれ掲載。得票数や投票率は図表を用いて紹介しましたが、当サイトでは閲覧のしやすさに考慮し、双方の結果を集約するなど記事を再構成しました。合わせて、県外にお住いの方が多く閲覧されている状況にも配慮し、選挙区の構成市町村についても補足説明させていただきました。

当ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての著作権は胆江日日新聞社に帰属します。
〒023-0042 岩手県奥州市水沢柳町8 TEL:0197-24-2244 FAX:0197-24-1281

ページの先頭へ移動