人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2017-10-13 16:10
 自分たちの身の回りにはたくさんの課題がある。それに比べれば「宇宙誕生の謎を調べる」って、何だかあまり関係なさそうだし、今すぐやらなくてもよさそう。ILCに限らず、どうしてこのような科学の研究をしなくちゃいけないのかな。

A:過去を知ることで人類は進歩します

 国際リニアコライダー(ILC)は「宇宙の始まり」についての手掛かりをつかもう、という計画です。
 確かに宇宙誕生の謎が分かったからといって、現在の私たちの生活や環境が極端に変わるものではありません。とはいえ、何か分らない事象や不思議なことについて「なぜ」「どうして」「知りたい」と思う感情は、われわれ人間が生まれつき持っている「才能」です。もし、人間に「なぜ」「どうして」という感覚がなければ、人類の生活や文化、技術はここまで進歩しなかったはずです。
 「分からないことを知りたい」という好奇心と謎を解明しようとするための努力は、私たち人間にとって非常に重要なことなのです。ILCの場合、宇宙の謎を知る手がかりをつかもうとするため、多くの人たちが知恵をしぼり、そして新しい技術を開発します。この努力する過程が重要なのです。
 ILCの実験装置や周辺施設を造り上げる技術は、さまざまな産業との関連性があります。その効果が、まるで波のように広がっていくことから「波及効果」と言います。波及効果は技術や経済、教育などいろいろな分野に届きます。
 皆さんによく理解してほしいのは、ILCによる研究活動で生まれてくる知恵や技術は、科学研究のためだけに役立つのではないということ。これは非常に重要なポイントです。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)

写真=「宇宙誕生の謎」を探るILCの実現に向け、世界中の研究者たちが協力し合っています=昨年12月、盛岡市で開かれた国際会議「LCWS2016」の様子


“番記者”のつぶやき
 自分の生活や興味があることと、直接関係がないものに対し、つい私たちは「意味がない」「無駄じゃないか」などという感情を抱きがちです。
 近年、理系文系問わず、さまざまな学術研究機関や博物館施設では、子どもたちや一般市民の皆さんに分かりやすく伝えるための取り組みを進めています。施設の一般開放や出前講座などもその一例です。
 常日頃から自分たちの研究分野における「なぜ?」を追い求めている研究者の皆さんですが、子どもたちや一般市民の皆さんから寄せられる「なぜ?」に、逆にどんどん答えてほしいですね。もちろん、学会や論文のような調子ではなく、分かりやすく伝える工夫が求められます。
(児玉直人)

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 北上山地が有力候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)は、来年にも日本政府による誘致判断が下されるとされています。そんな中「いまひとつILCのことがよく分からない」「本当に実現するのか」「安全性に問題はないのか」という素朴な疑問に対応しようと、新連載「ILC子ども科学相談室」を開始しました。
 奥州市や県南広域振興局が主催している出前授業で、児童・生徒から寄せられたアンケートや感想文の中にあった疑問、意見などを整理。出前授業の受託を受けているNPO法人イーハトーブ宇宙実践センターなどの協力で、「Q&A」形式でILCの基本や最新動向に触れます。原則、金曜日付の掲載です。
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tanko 2017-10-9 12:20
 旧水沢緯度観測所(現・国立天文台水沢VLBI観測所)とともに、国際緯度観測事業(ILS)の観測点だった米国メリーランド州ゲイザースバーグ市の「ゲイザースバーグ緯度観測所」の写真が8日、同VLBI観測所と奥州宇宙遊学館に寄贈された。寄贈したのは、ゲイザースバーグ市近くのモンゴメリービレッジに住むトーマス・ラッカーズさん(62)。来日の機会に合わせ、水沢の関係者に直接写真を届けた。公園として保存されている観測所跡地の通路には「MIZUSAWA」の文字が刻まれており、国際協力の下、観測が行われていたことを今に伝えている。
(児玉直人)

 ILSは北緯39度08分上に観測所を設け、地球の自転によって生じる緯度変化を調べる研究事業。世界4カ国、全6地点に、ほぼ同一仕様の観測施設と装置を設置した。
 ゲイザースバーグ市は、ワシントンDCの北西約30kmに位置。1899年に緯度観測が始まり、第1次、第2次大戦中を除き1982年まで観測が続けられた。その後、ゲイザースバーグ市唯一の国定歴史建造物に指定された。
 観測小屋へ続く通路の中心部には赤い石畳が敷かれ、北緯39度08分の線を表現。その両側には、他の観測所の所在地などが刻まれており「MIZUSAWA JAPAN」の文字もある。
 宇宙航空関連の企業に勤めた経験を持つトーマスさんは、弓道や日本の鉄道に関心がある親日家。所属する鉄道模型サークル「ジャパン・レイルモデラーズ・オブ・ワシントンDC(JRM)」は、水沢区を拠点に活動している「岩手鉄道模型仲間の会」(佐藤徳代会長)と姉妹クラブ関係にある。
 2年前、同仲間の会会員と交流するため初来日。その際、宇宙遊学館やVLBI観測所内を見学したが、ゲイザースバーグ観測所の説明文を見つけ、自宅近くに跡地があることを初めて知った。
 娘のテレサさん(32)と共に、2度目の来日を果たしたトーマスさんは、遊学館指定管理者であるNPO法人イーハトーブ宇宙実践センターの大江昌嗣理事長と、VLBI観測所の亀谷收助教に写真を手渡した。
 トーマスさんは「2年前に水沢を訪れるまで、ゲイザースバーグに緯度観測所があったことすら知らなかった。私にとって新しい良い出会いとなった」と感慨深げ。
 大江理事長は「公園として奇麗に保存し、そこに水沢の名が刻まれていることに敬意を表したい。互いの都市の友好関係に発展していけばすばらしい」。亀谷助教も「2年後には緯度観測120周年を迎えるので、このような情報や話題を共有できれば」と話していた。
 寄贈された写真は、遊学館と木村栄記念館にそれぞれ展示する方針だ。

写真上=トーマス・ラッカーズさん(右)から写真の寄贈を受ける大江理事長(中)と亀谷助教
写真下=ゲイザースバーグ緯度観測所跡地に刻まれている「MIZUSAWA」の文字
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tanko 2017-10-5 12:10
 北上山地への誘致が期待される国際リニアコライダー(ILC)のPRパネル展が、水沢区寺脇の水沢郵便局(中川等局長)で開かれている。今月20日まで。
 ILCは世界に1カ所だけ作られる素粒子物理学の国際研究所。江刺区東部を含む北上山地が最有力候補地で、これまでさまざまな形で市民向けの理解普及活動が展開されている。同局総務部の千田浩樹部長も講演会などに足を運んでいるというが、「一般にはなかなか難しい研究内容。候補地の地元であっても、まだよく分からない人が多いのでは」と、市ILC推進室の協力を得てパネルや関連パンフレットの提供を受けた。
 市立胆沢愛宕小学校で同推進室が実施した、ILC出前授業の児童の感想文も掲示。漫画や図説でILCの仕組みや研究意義を紹介する資料は自由に持ち帰ることができる。
 千田部長は「ILCが実現すれば、多くの外国人が生活すると言われており、われわれ郵便業務に携わる者も英語で対応するような場面も出てくるかもしれない。来局された市民の皆さんだけでなく、局社員もILCに理解を深める機会になれば」と話している。

写真=水沢郵便局ロビーで開かれているILCパネル展
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tanko 2017-10-5 10:30
 今年のノーベル物理学賞受賞者が日本時間の3日夜発表され、重力波観測に世界で初めて成功した研究施設「LIGO(ライゴ)」の立ち上げや運営に貢献した米国の3人に授与される。このうちの一人、カリフォルニア工科大学名誉教授のバリー・バリッシュ氏(81)は、北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の設計チームで最高責任者を務めた人物。2012(平成24)年1月には本県を訪れ候補地を視察している。バリッシュ氏の受賞に、ILC誘致関係者も喜びを表している。
(児玉直人)

 受賞したのはバリッシュ氏のほか、マサチューセッツ工科大学名誉教授のレイナー・ワイス氏(85)、カリフォルニア工科大学名誉教授のキップ・ソーン氏(77)。3氏が携わったLIGO(レーザー干渉計型重力波研究所)は、重力波観測のために米国西部のワシントン州と南部のルイジアナ州に建設された大規模な観測施設だ。
 重力波は質量を持った物体が動いた際、周囲の空間や時間に生じた「ゆがみ」がさざ波のように伝わる現象。理論上は人間が動いているときも生じるが、あまりにも微小な現象のため直接観測は困難とされていた。
 LIGOは、二つのブラックホールが合体する過程で生じた重力波を世界で初めて捉えた。昨年2月、その成果が発表された。
 ネブラスカ州出身のバリッシュ氏は、LIGOの研究責任者などを歴任。国際的なプロジェクトに育て上げたことなどが認められ、今回の受賞となった。
 バリッシュ氏はILC計画にも関与。技術設計報告書(TDR=Technical Design Report)をまとめ上げる国際共同設計チームの最高責任者を務め、計画実現に向けた作業をリードした。2012年1月には、国内外の研究者とともに一関市や江刺区の北上山地を視察している。
 視察時、報道陣の取材に応じたバリッシュ氏は「ILCは数十年にわたり世界の中心的な研究施設になる」と強調。「地域の人たちの熱意など、受け入れる側の姿勢も大きな鍵。研究者の家族のための環境整備などもその中に含まれてくるだろう」と述べた。
 バリッシュ氏の受賞に喜びの声を上げているのは、ILC実現に向け活動し続けている東北大学大学院の山本均教授(62)。京都大学卒業後、カリフォルニア工科大学大学院に留学中、バリッシュ氏のもとで博士号を取得した。
 山本教授によると、バリッシュ氏はTDR完成翌年の2013年からは、再び重力波研究に集中。昨年の検出発表、そして今回の受賞につながったという。
 “師匠”であるバリッシュ氏の受賞に「喜びの限り」と山本教授。「ILCにとっても素晴らしいニュース。ノーベル賞受賞者が『次にやらなければならないのはこれだ』と、身を投じて推進した計画がILCだということになる」とアピールした。

写真=2012年1月18日に北上山地を視察し、報道陣の質問に応じたバリー・バリッシュ氏(一関市大東町内で)
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tanko 2017-9-28 14:57
 「アジア初の本格的国際研究施設」「4.3兆円にも及ぶ経済誘発額」――。北上山地が最有力候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)計画は、地方創生や教育の充実、国際化など、オリンピック以上の波及効果も秘めている大型プロジェクト。ところが、国内外の現状に目を向ければ、北朝鮮を巡る情勢や突如浮上した衆議院の解散総選挙の話題などで持ち切りだ。ILC計画が世論の表舞台に出にくい状況の中、研究者やILC関係者は地道な広報普及活動を続けている。
(児玉直人)

 盛岡市内のホテルで27日開かれた、県ILC推進協議会の公開講演会。ILC誘致の現状と地方創生について解説した東京大学の山下了特任教授に続き、岩手大学理工学部の成田晋也教授が「東北ILC準備室の活動について」と題し講演した。成田教授は同準備室(室長・鈴木厚人岩手県立大学長)の広報部門を担当している。
 成田教授は「ILCを受け入れるための取り組みは地域の皆さんと一体となって進めなければいけない。そのためにもILCをもっともっと知ってもらう必要がある」と述べ、地域関係者の協力を求めた。
 ILCを知ってもらうため、関係者はさまざまな切り口で周知活動を展開。講演会や出前授業に加え、キャラクターを用いてより多くの人たちの興味を引き出そうともしている。同日の講演会場入り口でも、ハローキティが描かれたTシャツやクリアファイルなどの「ILCグッズ」を販売。ただ、聴講者の多くは行政や経済界の代表者や職員で、既に過去の講演会やイベントなどでグッズを目にしているため、足を止める人は少なかった。
 「ここ1年以内が政府判断に向けた正念場」との認識が強まっているが、昨今は北朝鮮情勢の緊迫化、解散総選挙とそれを巡る政治的駆け引きなどの報道で持ち切り。さまざまなメリットを持ち合わせていながらも、世論の表舞台にILCが出てくる機会は少ないのが現実だ。成田教授は胆江日日新聞の取材に「まだまだPRが足りない部分はある。どうしても目先の大きな話題に世の中の注目は集まりがちだが、地道に理解普及の活動を進めていかなければ」と気を引き締める。
 北朝鮮関係の問題には、別の懸念要素もある。山下教授は取材に対し、北朝鮮の軍事的挑発に不安を感じているフランスが来年2月に韓国・平昌で開催される冬季五輪に参加しない可能性を示唆しているとの報道を取り上げ、「このようなことが科学の分野にまで及んでしまったら大変」と指摘。その上で「北朝鮮問題などが注目されているからといって、政府や政界がそればかりに傾注しているわけではない。実際にILCについても本当にいろいろと考えていただいている」とも述べた。

写真=県ILC推進協講演会場入り口に設けられた、ILCグッズの販売コーナー
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tanko 2017-9-28 14:30
 素粒子物理学の国際研究施設、国際リニアコライダー(ILC)の誘致実現に向けた取り組みの最前線に立つ東京大学の山下了特任教授(51)は27日、盛岡市内で講演。施設を段階的に建設し初期コストを抑える「ステージング」について、11月にカナダで開かれる国際将来加速器委員会(ICFA)で正式承認を得る見込みであることを示した。当初の研究スケジュールや得られる成果に時間差が生じてしまうものの、山下教授は講演後の胆江日日新聞社の取材に対し、「研究者にとっては苦渋の判断だが、確実に狙えるところから実施したほうが結果的には最速だと思う」と述べた。


 講演会は岩手県ILC推進協議会(会長・谷村邦久岩手県商工会議所連合会長)が主催。誘致を推進している行政や経済・産業界の関係者ら約200人が出席した。
 ステージングは、昨年12月に盛岡市を主会場に開催された国際会議「リニアコライダー・ワークショップ(LCWS)2016」の会期中、国際研究者組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」によって提案された。当初計画では、直線距離30kmの加速器用トンネルを掘る予定だったが、20kmに短縮することで初期コストを抑制。実験成果や関係装置の技術進歩の状況を見ながら段階的に施設規模を拡大していく考え方だ。文部科学省のILC有識者会議や日本学術会議などの議論でたびたび指摘されていた莫大な建設・運営コストによる他研究分野予算への影響、人材確保などの問題解消を狙う。
 当初は、8月に中国の広州市で開催されたICFAとリニアコライダー国際推進委員会(LCB)との合同会議の場で承認されるとの見通しがあった。しかし、山下教授によるとLCC側の資料整理が間に合わなかった。ステージング自体は「支持」されたものの、正式決定はカナダでのICFA会合に持ち越されることになったという。
 山下教授は本紙取材に「研究者としては一度に複数の成果を得たいところ。ステージングを議論する過程でも異を唱える声はあった」と明かした。しかし、このままコストなどの諸課題が解決せず、時間だけが経過すると、来年夏以降にも予定されている欧州や米国の科学計画の策定にILCが盛り込まれない可能性が出てくる。国際協力が得らなくなることを意味し、日本やアジアにとって大きなチャンスとなるはずのプロジェクトが立ち消えになる恐れがある。さらに、中国では独自に大型の円形加速器を建設する計画が浮上している。
 山下教授は「貴重な財源を使う上からも、できる限りコストがかからず、かつ将来的な拡張性を担保した方針がステージング。研究者にとっては苦渋の選択だが、さまざまな状況を踏まえると、結果的には最速の手段だと思う」と説明。全体的なタイムラグは生じるものの、「その間に技術が向上して、拡張時にはよりレベルの高い装置を導入することも可能だ」と強調する。

写真=ILC計画を巡る現状を語る東京大学の山下了特任教授
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tanko 2017-9-18 13:20
 国際リニアコライダー(ILC)の誘致に、奥州市が着ぐるみキャラクターを用意したという。せっかく作ったところに水を差すようだが、正直、違和感を覚えた。
 子どもたちが野球やサッカーなどに興味を持ち、自らも挑戦するのはなぜだろう。おそらく、プロ選手たちの勝負に挑む姿などに憧れ、自分を重ねているのではないだろうか。スポーツの本質が、子どもたちの心をつかんでいる。球団のマスコットキャラクターを見て「僕も野球をやる!」という子は、極めて珍しいはずだ。
 「科学は難しい。だから、親しみあるキャラクターで関心を引かせよう――」はどこか安易すぎる。ILCや科学、つまり「本質」で勝負してほしい。激励の意味を込めて。
(児玉直人)
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tanko 2017-9-17 16:20

 小沢昌記奥州市長の定例会見が開かれた15日の市役所本庁応接室に、「おうしゅうヒッグスくん」が姿を現し、会場を一瞬のうちに和ませた。国際リニアコライダー(ILC)実現に向けたPR活動に力を入れていくといい、愛嬌を振りまきながら記者たちに名刺を差し出してアピールした。
 素粒子の「ヒッグス粒子」は、2012(平成24)年にスイスの欧州合同原子核研究機構(CERN)で発見。おうしゅうヒッグスくんは、自分のルーツを探るILC計画が進行中と聞きつけて市にやって来たという。全身は鮮やかな青色でつやつやしているが、年齢は138億歳(推定)。市内での“初発見”は8月5日の水沢ざっつぁかまつりで、市職員の踊りの隊列に加わっていた。
 おうしゅうヒッグスくんから厚い信頼を受ける市ILC推進室の千田良和室長は「市民の皆さんにILCへの親近感や愛着をより強く持っていただき、ILC実現の機運を醸成したい」と話す。今後、学校の出前授業や各種イベントなどに派遣する予定だ。
 同室によると、同種のヒッグスくんは国内外で数体発見されており、きょうだいの可能性がある。県内では一関市にもいるらしい。

写真=ILC応援団長(自称)のおうしゅうヒッグスくん
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tanko 2017-8-25 14:50

 岩手県商工会議所連合会(会長・谷村邦久盛岡商工会議所会頭)は24日、奥州市水沢区東町の水沢グランドホテルで会頭・副会頭会議を開き、県知事や中央省庁への本年度要望5項目を取りまとめた。国際リニアコライダー(ILC)の国内誘致方針の早期決定を求める内容も盛り込まれた。
 県内9商議所の約50人が出席。あいさつで谷村会頭は、今月9日に中国広州市で開かれた国際将来加速器委員会(ICFA)で、当初計画よりも小さな規模からILCを段階的に整備、運用していく「ステージング」が支持されたことに触れ、「政府の早い決断を促す材料になる」と実現への期待を寄せた。
 本年度要望は▽復興・創生に向けた予算措置とインフラ整備の促進▽復興の先を見据えた産業支援▽中小企業の経営再建・さらなる自立に向けて▽主要プロジェクト等への対応▽2016(平成28)年台風10号災害からの復旧・復興――。
 ILCを巡っては、政府が国内誘致の是非を判断するまでのプロセスを具体的に示すよう要望する。資金分担などの国際調整を進め、国内誘致の方針を早期に決定するよう求める。
 インフラ整備では復興道路や復興支援道路の早期完成、産業振興につながる社会資本整備を要望する。具体項目には国道4号水沢東バイパスの早期完成、金ケ崎区間4車線化も盛り込まれた。
 中小企業の競争力強化や活性化への補助金制度の継続や、補助上限引き上げの必要性を訴えるほか、地域経済活動に密着した商工会議所への支援も求める。
 県知事要望は9月12日、中央省庁と県選出国会議員への要望は同20日を予定している。

写真=県知事、中央省庁への要望項目を了承した県内商工会議所会頭・副会頭会議
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tanko 2017-8-24 14:40
 素粒子物理学の国際研究施設「国際リニアコライダー」(ILC)の建設候補地に、北上山地が選ばれてから4年が経過。この間、まちづくりビジョンの策定やILC関連産業への参入セミナー開催、多文化共生社会形成に向けた事業など、多岐にわたる取り組みが進められてきた。ここ1年が誘致実現に向けた正念場と位置付けられているが、重要な協議は国際研究者組織や文部科学省の有識者会議の場で行われている。これら議論の舞台に直接参加ができない奥州市など地元自治体や地域の誘致関係者は、出前授業やPR活動などを地道に進めながら推移を見守っている状況だ。
(児玉直人)

 ILCは、物質の成り立ちや宇宙誕生の謎に迫るため、世界で唯一建設する国際研究施設。これまで示されているスケジュールから推定すると、2020年代後半から2030年代前半の運用開始が見込まれる。
 日本の研究者らによる「ILC立地評価会議」は、2013(平成25)年8月23日、北上山地を国内候補地とする評価結果を公表。政府機関ではなく「研究者による判断」ではあるが、事実上、世界でただ一つの候補地に選ばれた。
 現在、文科省のILCに関する有識者会議が、日本誘致を実現する上で解決すべき諸課題を検証している。
 研究者界では、今月9日に中国の広州市で開かれた国際将来加速器委員会(ICFA)とリニアコライダー国際推進委員会(LCB)の会議で、当初計画よりも小さな規模から段階的に整備、運用していく「ステージング」について協議した。
 本県や東北の誘致関係者らの間では、広州市での会議をもってステージングが承認されると見込んでいた。ところが実際には「支持」の段階で、11月にカナダで開かれるICFAの会合で正式表明する流れになった。
 このため、今月中に予定していた東北ILC準備室による地元受け入れ態勢の方針や、岩手県ILC推進協議会によるILC経済波及効果の公表は、11月のICFA会合後になる見通しとなった。両団体の担当者は「ステージングで示される中身は、協議してきた内容とどうしても結びつきがある。正式な承認を待ってからにしたい」と口をそろえる。
 文科省の有識者会議も、ステージングの正式表明を待ち、次の動きを取るという。同会議事務局を務める文科省素粒子・原子核研究推進室の担当者は、「今までの検証や議論の前提となっていた条件が変わるかもしれない。今後の協議の方向性や次の会議の日程を決めるにも、11月のICFAの結果を受けてからでないと判断できない」としている。
 ILC計画を巡る核心部分の動きは、海外や中央を舞台に行われており、候補地の地元自治体や誘致団体はその推移を見守るしかないが、PR活動など可能な範囲での取り組みに力を注ぐ。東北ILC推進協などは、9月に横浜市内で開かれる真空技術分野のビジネスイベント「真空展」会場内にPRブースを設置。特別講演も予定している。
 奥州市でも、出前授業やイベント会場でのPRを通じたILCの普及啓発を引き続き実施。ILC推進室の千田良和室長は「地元としてできることをしっかり進めながら、国や研究者界の動きを見ていきたい」と話している。

写真=奥州市役所本庁に掲げられたILC誘致実現を呼び掛ける横断幕。北上山地が事実上「世界唯一の候補地」に選ばれてから4年が経過した

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