人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

誘致期待大も普及課題 受け入れ態勢に不安も(奥州市国際交流協会アンケート)

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tanko 2015-1-11 5:40
「話題に関心」9割近く
 奥州市国際交流協会(佐藤剛会長)が昨年11月から12月末にかけ、水沢区吉小路の水沢地域交流館(アスピア)で実施した国際リニアコライダー(ILC)に関するアンケートによると、回答者の87.2%がILC誘致に対する話題に「関心がある」と答えた。一方、ILC関連の講演会などに「参加したことがない」と答えた人は53.2%。地域活性化に期待する声が多かったのに対し、受け入れ態勢や環境や治安に対する不安も挙げられた。

 同協会はアスピア玄関ロビーの一角に、ILC誘致に携わる研究者や有識者の見解などをまとめたパネルを展示。アンケート用紙も備え、施設利用する一般市民からILC計画に対する考えを調査していた。
 展示したパネルは、昨年11月3日から2日間、水沢地区センターで開かれた第3回「おらが地区センターまつり」の特別企画「みんな集まれILC奥州展2」で使用したもの。同まつりに協力した胆江日日新聞社が記事中で取り上げた研究者らのコメントを抜粋し作成。さまざまな立場の人たちがILC計画に対し考えを持っていることを伝えた。
 同協会は、昨年12月28日までの回収分を集約。47人(男性17人、女性27人、未記入3人)が回答した。住まい別では水沢26人、江刺9人、胆沢2人、前沢2人、金ケ崎2人、未記入6人。年代別では10代3人、20代4人、30代8人、40代9人、50代7人、60代5人、70代2人、80代1人、未記入8人だった。
 「ILCに関する新聞記事やニュースに興味があるか」との問いに、41人が「とてもある」「ある」と回答。ILC計画への関心の高さをうかがわせた。
 一方、行政や誘致団体などが主催する講演会に「参加したことがない」と答えた人は25人で、回答者の半数余りという状況だった。
 ILCに期待することとして、最も多かったのが地域活性化や経済への効果。人口減問題の対応につながると認識している人も少なくない。国際化による異文化交流の促進や教育レベル向上、雇用促進に対する期待も多かった。
 「ILCが実現することで不安に感じること」については、英語をはじめとする外国語対応や一般市民のコミュニケーションといった部分を挙げる人が目立った。また、施設建設に伴う環境負荷や放射線対策、機器トラブルなど安全面に対する懸念も。治安や外国人配偶者の雇用の問題を指摘する人もいた。
 「世界的に本当に必要とされているのか」「国や海外からの支援は本当に期待できるか」などILC計画そのものに対する疑問もあった。
 自由意見では「一生懸命になっているのが、一部だけのような気がして残念」「文系の人間にとっては認知度が低い」「若い世代が興味を持てるイベントが必要」など、理解普及へ努力を求める声が多数を占めた。首都圏に直結するJR水沢江刺駅周辺のグランドデザインの必要性を求める意見もあった。

写真=アスピア玄関ホールに展示しているパネル。ILC誘致関係者らのコメントを紹介するとともに、来館者アンケートも実施した

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市民理解の構築 従来手法にとらわれず
 【解説】 奥州市国際交流協会が国際リニアコライダー(ILC)に関するアンケート結果をまとめた。市人口に対しサンプル数は少ないものの、ILCに対する期待の大きさだけでなく、肌身で感じるような全市的な盛り上が実感できないという声も多かった。より工夫を凝らした周知方法が求められる。
 20〜40代の青年層、子育て世代の回答者が多く、その半数以上がILC関連の講演会などに「参加したことがない」と回答した。
 数年前から研究者らを招いたILC講演会は、胆江地区でも数多く開かれている。その出席者をみると企業や経済団体の代表や担当者、行政職員、町内会役員などが多い。年齢層も比較的高めだ。講演会とは別に、次世代育成の観点から中高生向けの出前授業なども実施している。
 今回のアンケートは水沢地域交流館(アスピア)に来館し、かつ、パネル展示を見て積極的に自分の考えを表明した人の集約結果。つまり、ILCに興味・関心がある人でさえ、半分以上は講演会には参加したことがないことを示している。
 これまでの講演会参加者の顔ぶれなどを加味すると、講演会に参加したことがないという20〜40代は、潜在的にさらにいることが推測される。
 ILCの運用が始まるのは10〜20年後とされる。そのころになると、現在の20〜40代は企業や地域をけん引するリーダー的な立場となり、さまざまな決断や対応を求められる。仕事や家事に追われるこの世代に対し、講演会など従来手法以外で関心を高めてもらう対策が必要だ。
 ILCに期待することの大半は、地域活性化や経済・雇用の改善、教育レベルの向上など市民生活に身近な分野。研究者らが強調する「宇宙誕生の謎解明」など、科学的な意義に対する反応は少数だった。「内容が難しい」「認知度が低い」と感じる回答者もいたことから、市民の関心事や生活に身近な話題とILCの意義とをうまく結びつける工夫も大切だ。
 期待と不安の相反する質問の中で、共通して出てきた要素が「国際化」。国際色豊かな特徴性ある地域づくりに夢が膨らむが、国内他地域や海外から多くの人が滞在・来訪することによって、地域コミュニティーや治安に影響を与えないか――との懸念もあった。
 このほか、自然環境や放射線の影響を心配する意見も。放射線に関しては、福島第1原発事故のような事象は、ILCで起きないと研究者らは強調している。だが、予期せぬ事故やトラブルの可能性や安全対策については、市民の信頼を得る上でも「研究の意義」以上に丁寧な説明を繰り返すことが欠かせない。
 13日には、国際研究者組織「リニアコライダー・コラボレーション」の幹部らが、一関市や宮城県気仙沼市を視察する。研究者サイドはILC実現への下準備を着々と進めているが、日本政府は誘致判断をまだ表明していない。
 「一生懸命になっているのは一部だけ」「いつ具体化なるのか」「本当に世界が必要としているのか」という疑問や指摘は、こうした中ぶらりんの現状を反映しているものと思われる。そんな中で、いかに市民理解を高めていくかが、誘致関係者の腕の見せ所と言える。
(児玉直人)

写真=昨年11月、水沢地区センターで開かれた「みんな集まれILC奥州展2」。高エネルギー加速器研究機構の藤本順平講師(左)が、目で見える分かりやすい実験で、一般市民にILCの仕組みを解説。楽しみながら市民理解を得る工夫が今後ますます求められる
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