困難なとき「無理するな」/ILC誘致(2021記者ノート)
- 投稿者 :
- tanko 2021-12-25 10:20

写真=水沢駅通りの街灯に掲げられているILC誘致を求めるフラッグ
遠方からの来客の希望で、とある温泉に案内した。天候は雪。急坂を上った山の上に温泉はあるが、路面は予想以上につるつる。冬タイヤを装着していたが、あと数百?のところで空転し始めた。無理に進めばガードレールにぶつかり、最悪は谷底に落ちる。
「戻りますね」
Uターンをして、ふもとでチェーンを装着。無事温泉にたどり着いた。
数日後、文部科学省の国際リニアコライダー(ILC)有識者会議があり、配布資料の一つに、あの温泉への坂道を思い起こさせる一文があった。
〈困難な時に無理に話を進めようとしないこと〉
委員の一人で、東京大学の横山広美教授が提出した意見書だ。
今回の有識者会議では、非常に重要な提案が出されている。誘致を前提としている現計画の再考。「ILC計画の断念」を飛行機のハードランディングに例えるなら、「誘致前提の切り離し」はソフトランディングだ。誘致、すなわち研究所建設に関わる話があるため、巨額予算の壁にぶつかり話が先に進まない。ネックを取り除き、将来に向けた当該研究分野そのものの進行発展を図るのが現実的な路線だという考えだ。
「何がソフトだ」。本県関係者は憤るかもしれない。北上山地に誘致されるからILCを応援し続けてきた。壮大な経済波及効果を期待して――である。
「地方は学術のために我慢しろというのか」との指摘もあるだろう。だが、地方を再生させる道筋はILCだけなのだろうか。本県はそんなに選択肢や魅力に乏しい地域なのだろうか。サイエンスの分野で言うなら、幸いにして当地には世界に誇る天文台がある。豊かな森林、海洋だって自然科学の研究対象になる。新たな施設を「つくる」のではなく、今あるものから新たな価値を「つくる」ほうが現実的であり、今の社会状況からして共感が得られやすい。
「困難があったら無理するな」。アクセル全開で突進してきた時には気付かなかった「道」が見えるように思う。
(児玉直人)