人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC準備研設置は時期尚早、推進方法「再検討を」(文科省有識者会議が検証終了)

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tanko 2022-1-21 9:40
 素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)計画に対する課題を検証している文部科学省ILC有識者会議(座長・観山正見岐阜聖徳学園大学長、委員14人)は20日、計画を推進する研究者側が提案していた準備研究所(プレラボ)の設置について、時期尚早とする趣旨の「議論のまとめ」を大筋で了承。学術的意義を認めながらも、日本誘致を前提とした現状の推進方法、国民理解の在り方について再検討するよう求めた。「まとめ」は、文言修正などをした上で、後日最終版が公表される。同日の第6回会議をもって2期目となる同会議は役割を終えた。

 2014(平成26)年5月に発足したILC有識者会議は、当時示されていたILC計画に対する課題を指摘した「議論のまとめ」を2018年7月に公表。一度役割を終えた有識者会議だったが、2021年に入り推進研究者側が、指摘された課題の対応状況を文科省に自主報告したほか、プレラボ設置を提案。文科省は一連の動きを受け、2期目と位置付けた有識者会議を再開させた。推進研究者側と意見交換しながら、プレラボ提案書や課題回答の内容を精査し、議論を取りまとめた。
 有識者会議は、一定の技術進展や学術的意義を認めつつ▽各国政府の具体的な参画や経費負担に対する見通しが依然立っていない▽国民理解等が不十分――などの課題を列挙。研究者側が提案している日本誘致前提のプレラボ設置について時期尚早とする基本的な考えを示した。
 ただし、当該分野の振興や次世代研究者の育成などの観点から、国内外の研究機関が連携し技術開発などを着実に実施する道筋を模索すべきだと指摘した。そのために、どこに建設するかという要素が絡む立地問題(サイト問題)については、いったん計画から切り離すべきだとした。サイト問題は、国際費用分担などを巡る議論を硬直化させており、必要な技術開発や研究分野の振興発展をも鈍化させている大きな要因になっている――との見方によるものだ。
 同日示された「まとめ」の当初案では、プレラボ設置については「困難である」という強い表現が用いられていた。会議の中で中野貴志委員(大阪大学核物理研究センター長)が、当該分野の研究そのものを閉ざすネガティブな印象を与えないよう修正を提案。中野委員は「今はそういう環境、状況でもないという意味からも『時期尚早』と変えられないか」と述べ、他の委員から賛同する声があった。
 このほかにも文言や表現について、複数の委員から意見があった。会議は同日が最終回だったが、文科省は委員の意見を反映した修正を施し、再度電子メールで修正内容を委員に提示。確認の上、観山座長の一任で最終版を決定する。
 文科省素粒子・原子核研究推進室は「『議論のまとめ』を受け、研究者側がどのようにILC計画の進め方を再検討するのか注視していきたい」と話している。


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【解説】理解周知も見直しを


 文部科学省国際リニアコライダー(ILC)有識者会議は20日、研究者側が提案していた日本誘致前提の準備研究所(プレラボ)設置に待ったを掛けた。プロジェクトの推進方法に加え、国民理解を目的とした周知方法についても見直しを求めた。
 ILC計画最大のネックは、巨額予算や人的資源などの確保。日本政府は「欧米の費用負担の確約がなければ意思表明できない」。欧米政府は「日本の明確な意思表示があれば参加してもいい」という雰囲気で、腹の探り合いになっている。
 どっちが先か――で議論は堂々巡りし、一向に進展しない。有識者会議の中では、しばしば「ニワトリが先か、卵が先か」の話に例えられた。
 この議論に付き合い続ければ、素粒子物理や加速器科学の研究、技術開発も進まなくなる。有識者会議は、費用分担を巡る問題なども含め場所に関わる「サイト問題」をいったん切り離し、研究や技術開発は着実に進めるべきだとの道筋を示した。学術の継続的な振興と、厳しい財政状況などという現実問題を考えた末、絞り出した答えだった。
 ILC計画の存在が明らかになってから10年余り。当該分野の研究者たちは、北上山地周辺の産学官関係者と連携し「日本誘致、東北誘致の実現」を声高らかに訴え続けてきた。しかし、ここにきて「誘致」前提の活動が思わぬ足かせになった格好だ。
 有識者会議が正午前に終わってから1時間余り、偶然にも奥州市立広瀬小学校では市ILC推進室による出前授業が行われた。有識者会議の「議論のまとめ」では、このような一般住民や子どもたちを相手にした理解普及の在り方も問いただしている。出前授業や講演会のような一方的な情報発信、あるいは安全対策の繰り返し説明による説得など、従来の広報活動にありがちなスタイルではなく、「双方向的コミュニケーション」の実施に努めるよう求めている。科学技術社会論の分野で重視されている手法だ。
 有識者会議で、同論が専門の横山広美委員(東京大学教授)は「『理解増進』という言葉があるが、非常に古くて押し付けて決めたことを理解せよという雰囲気がある。今は双方向コミュニケーションが求められている」と強調する。
 県ILC推進局、奥州市ILC推進室の担当者は、文科省が今後公表する「議論のまとめ」の最終版をもとに、関係者と今後の取り組みについて検討するという。最先端の研究施設を切望する誘致関係者。その理解・周知方法も「最先端」であってほしいと願う。
(児玉直人)

写真=市立広瀬小で行われたILC出前授業。有識者会議では一方的情報発信ではなく、双方向コミュニケーションの実施を求めた
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