人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2017-2-20 13:10

東西冷戦終結と失われた“特権”
 私が大学院生として米国に滞在していた1993年、米国議会はSSC(超伝導超大型加速器=Super-conducting Super Collider)の建設中止を決定した。
 SSCは超伝導加速器による周長86.6kmの陽子衝突型加速器で、スイスの欧州原子核研究機構(CERN)が運営する実験施設LHC(大型ハドロン衝突型加速器=Large Hadron Collider)の約3倍の規模、重心系衝突エネルギーを目指したものである。SSCのライバルだったLHCはその後、物質に質量を与えている素粒子「ヒッグス粒子」の発見(2012年)など、華々しい成果をあげているのはご存じの通りだ。
 SSC中止の最大の原因は、建設コストの増大である。当初5000億円(44億米ドル)だった建設コストは、最終的に1兆4000億円(120億米ドル)まで跳ね上がったといわれている。中止は建設開始後であり、すでに2000億円以上が支出され、トンネルも27km近くが掘削済みであったが、計画の中止とともに、すべて埋め戻された。
 計画中止の直接の引き金は建設費の問題であったが、より根本的な原因は、米国の物理学者スティーブン・ワインバーグが指摘するように冷戦の終結である。米国と旧ソビエトの冷戦は軍事力だけではなく、経済、科学、文化とあらゆる面で大きな影響を与えていた。自らの優位を示すために、あらゆる機会をとらえて、採算を度外視した投資がなされており、アポロ計画なども例外ではない。
 これは有名な話だが、米国フェルミ国立加速器研究所の初代所長ロバート・ウィルソン(1914〜2000)が、大型加速器建設予算について議会の公聴会に呼ばれたとき「加速器による研究の成果は、米国の防衛に貢献するのか」と問われた。彼は「残念ながら、加速器による研究の成果は米国と同盟国の防衛にはまったく貢献できない。しかし、米国は守るに値する国になる」と述べたといわれている。その後、フェルミ研究所の予算は無事承認されている。
 このように1960年代は、科学はある種の特権を持っていた。SSCの中止は、その特権がもはや無くなったことを明確に物語っていたのである。

CERNに見る科学と平和構築
 SSCが中止された一方で、ISS(国際宇宙ステーション=International Space Station)や前述したCERNのLHCは、巨額な予算にもかかわらず推進されている。その差は何なのだろうか。ISSには将来の宇宙開発の利益に対する期待があるが、LHCは純粋な基礎科学で、利益には結びつかない。
 CERNは1954年に設立された国際機関で、欧州を中心としたメンバー国の支出により運営されている素粒子物理学の研究所である。その設立趣旨は、戦争により荒廃し立ち遅れた欧州の物理研究を復興し、戦勝国と敗戦国の科学者が協働する場所をつくり、それにより地域の平和を構築することにある。"Science for Peace"(平和のための科学)がCERNの基本理念であり、浅薄なナショナリズムなどとは異なる原理でCERNは運営されている。
 1954年の当時と様相はかなり異なるが、欧州、そして世界は、決して平和にはなっていない。1990年代の軍事専門家が指摘したように、戦争は国家間の争いから、地域のより細分化された紛争の多発という新しい位相へと移行したように見える。CERNの存在意義は、むしろ強まっているとも言える。
 ELI(Extreme Light Infrastructure)という大強度レーザー開発プロジェクトがEU(ヨーロッパ連合)の主導で進められている。ソビエト消滅の影響により沈滞する東ヨーロッパ地域の研究の振興と、進展著しいレーザーをはじめとする光源開発を戦略プロジェクトとして推進することを目的としている。科学による地域振興という手法は、欧州では普通のことである。
 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の機構長・村山斉氏(素粒子理論)は2014年10月、国連本部での演説で次のように述べている。
 「私たちは地球という名前の小さな岩の上に住み、その岩は太陽と呼ばれるごくごく平均的な星の周りを公転し、太陽は天の川銀河の中心から2万7000光年離れた田舎にあり、天の川銀河は観測可能な範囲の宇宙にある1000億個の銀河の一つだ。大きな目で見ると、われわれの間の違いはとても小さく見える。新聞で毎日のように読む戦争、紛争、悲劇、貧困、疫病について、違った見方をさせられる。この小さな岩の上に住む私たちヒトという生物は、手を取り合って行動することができるはずだ」
 村山氏は人間の可能性を論じるとともに、CERNをはじめ中東ヨルダンで建設中の放射光施設SESAME(Synchrotron-light for Experimental Science and Applications in the Middle East)などでは、現実に敵対する地域の研究者が協働し、平和の構築に向けた力になっていることも説いた。
 さらに「世界にはCERNのような場所がもっとあるべきだ。個人的には、アメリカや日本がこうした基礎科学のための国際組織をホストしてほしいと思っている。特に子どもたちを含め、近辺の住民がグローバルな視点を持つようになる。このように科学が、惑星地球の平和と発展に貢献できるよう、私も努力していく」と、国際的な研究拠点の必要性を強調している。

ILC誘致の根本的な意義
 広島は原爆が実際の戦闘で使用された初めての地であり、私が所属する広島大学は世界平和構築への貢献をポリシーとしている。
 基礎科学は直接的には平和とは何の関係もなさそうに見えるが、物理、そして広く科学の価値観とは、ユニバーサル、すなわち世界は単一であるとする考えであり、実は平和を希求する精神そのものである。その目で世界を見渡してみれば、いまだに米国は古いパワー・ポリティクス(権力政治、武力政治)から抜け出せておらず、少なくとも巨大科学の分野では存在感を急速に減らしている。それに対し、存在感を相対的に増大させるのが欧州である。
 現在、日本は国際リニアコライダー(ILC=International Linear Collider)という国際科学プロジェクトの建設候補地となっており、私も日本政府が正式にこの計画に乗り出すことを心待ちにする一人である。この計画は、全世界が協力して推進している次世代の素粒子物理学の大型加速器であり、それが実現すれば、CERNに匹敵、いやそれを上回る研究施設となる。世界から研究者が集結する拠点は、ユニバーサルな文化を醸成し、日本や地域の発展のみならず、村山氏が述べるように平和構築にも貢献できるはずだ。
 かつて東アジア共同体が提案された時期もあったが、最近は領土問題や軍事問題など、きな臭い話題がこの地域には多い。しかしかつての欧州は、それを上回る反目、敵対、惨禍に満ちており、現在のようなEUによる統合など夢物語であったろう。
 欧州にできて東アジアにできないという理由はどこにも無い。科学がその嚆矢となることができれば、これ以上の社会貢献があるだろうか。

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 くりき・まさお=1968年、東京都豊島区出身。1996年、東北大学大学院理学研究科原子核理学専攻博士後期課程修了。東京大学原子核物理研究所研究員、高エネルギー加速器研究機構(KEK)助手、広島大学大学院先端物質科学研究科准教授などを経て、2009年から同科教授。研究分野は加速器科学。日本加速器学会誌編集長。ILCを推進する国際研究者組織リニアコライダー・コラボレーション(LCC)では、粒子源グループ副リーダーを務める。趣味は鉄道と登山、ランニングで、5月開催の「奥州きらめきマラソン」にも出場予定。

写真=昨年7月に一関市で開かれた地元中高生とILC研究者との交流会で講演する筆者(右)
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tanko 2017-2-19 12:10
 奥州市立水沢図書館(及川一康館長)は、国際リニアコライダー(ILC)誘致実現後の国際化を見据え、利用案内表示の一部を英語化した。奥州市国際交流協会(佐藤剛会長)のアドバイスを踏まえ、英語版の利用案内チラシを用意。書棚側面の表記も2カ国語に一新させた。新年度も同協会と連携し「在住外国人も利用しやすい図書館」を目指す。

 2013(平成25)年度に策定した同図書館利用推進計画の一環。「多文化交流」関連のコーナー新設へ向け、同協会メンバーに助言を求めたところ、「利用案内表示の多言語化を」「トイレの洋式化が必要」など館内の改善点を指摘された。
 同図書館は「分かりやすさ」「見つけやすさ」「使いやすさ」の3本柱を掲げ、2014〜2016年度に指摘箇所を順次改善。無線LANアダプターの整備を皮切りに障害者用トイレの洋式化、書架サインの英語表記を進めた。
 奥州市ILC国際化推進員のアンナ・トマスさんが翻訳協力し、昨年末に英語版・利用案内チラシの配布を始めた。同図書館利用パンフレットをはじめ、市内5館共通の利用券の使い方、貸出期間や冊数などを英語で表記。イラストも交え、在住外国人にも分かりやすい内容にまとめた。
 英語版チラシは、同図書館1階カウンターで配布している。全館共通の利用案内チラシは順次、各館に配置する段取り。新年度も同協会と連携しながら洋書のラインアップを見直し、蔵書の充実に努めるという。
 同図書館主査の及川浩子さんは「ILC誘致に関係なく、普段から外国出身の人たちが調べ物をしたり、情報を得たりする際に図書館を気軽に利用できるよう、段階的に環境を整えていきたい」と話している。

写真=水沢図書館カウンターで配布中の英語版利用案内パンフレット
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tanko 2017-2-18 13:40
 岩手県立水沢高校(安藤泰彦校長)理数科の2年生11人は20日から8日間、アメリカのカリフォルニア工科大学などで国際的な視野とコミュニケーション能力の向上を目的とした海外研修に臨む。出発を前に生徒たちは17日、奥州市役所本庁に小沢昌記市長を訪ね、充実した研修にすることを誓った。
 文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受ける同校初の海外研修。生徒たちは、それぞれのテーマで課題研究に取り組んでおり、校内でも研究成果を英語で発表するなど国際的な視点を広げている。
 海外研修に挑むのは男子4人、女子7人。理数科の志願者から選抜試験を実施して選ばれた。教員2人が引率する。
 小沢市長の表敬には参加生徒のうち6人が訪問。小沢市長は「気負わず失敗を恐れず見聞を広めて幅広い知識を身に付けてきてほしい。ILC(国際リニアコライダー)についても理解を深めてもらえたら」とエールを送った。
 生徒たちは「ILC誘致の力になれるようたくさん学んできたい」「普段体験できないことを吸収して、先進国の技術を体感したい」などと力強く決意を表明した。
 生徒たちは、20日に水沢江刺駅から仙台空港へと向かい、韓国・仁川空港経由でアメリカへ。カリフォルニア工科大では、生徒たちが取り組んだ課題研究の成果を英語で発表する。
 SLAC国立加速器研究所やスタンフォード大学なども訪問。ILC誘致の一助となれるよう、加速器の意義や建設地のまちづくりなどにも目を向ける。26日にロサンゼルス空港を発ち、27日午後の帰国を予定している。

写真=小沢昌記市長(中央)を表敬訪問し、海外研修への意気込みを伝えた水沢高校理数科の生徒ら
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tanko 2017-2-17 11:40
「ノーベル賞」が及ぼす力

 旧水沢市が中学生科学体験研修をスタートさせた2003(平成15)年、ILCはまだ一般に知られていない「水面下」のプロジェクトだった。当時、旧水沢市教育長を務めていた岩井憲男・奥州市社会福祉協議会長はこう振り返る。
 「小柴昌俊さんの講演会が水沢で開かれた時、同行した吉岡正和さん(現・KEK名誉教授)から『水沢の子どもたちをつくばに連れてきたらどうですか』と言われた。市長ら幹部職に限られてはいたが、ILC計画の存在は知っていた。子どもたちにとっても、いい刺激になるはずだと思い実施した」
 ちょうどそのころ、水沢市教委は米国との交流研修を検討していた。しかし、同時多発テロの影響を受け頓挫。科学研修実施の流れが一層強まった。
 いずれにせよ、ノーベル賞受賞者の小柴氏の講演や関係者の働き掛けがなければ、中学生が高度な科学を学ぶという全国的にもまれな研修事業はスタートしていなかった。
 KEKでは、小林誠氏と益川敏英氏による「小林・益川理論」の証明や、イスラエル人女性のアダ・ヨナット氏によるリボソーム(細胞内でタンパク質合成する微小器官)結晶化など、重要な研究成果に結び付く実験が行われてきた。小林、益川両氏は2008年、ヨナット氏は2009年にそれぞれノーベル賞を受賞。「ノーベル賞と縁がある研究所」と言っても過言ではない。
 KEKを訪れた生徒たちが最初に通された常設展示ホール「KEKコミュニケーションプラザ」には、小林、益川両氏の功績を紹介するコーナーがあり、ノーベル賞メダルのレプリカも置いてある。2氏の理論を即理解することはできなくても、ノーベル賞と聞いただけでその研究の価値や影響力の大きさはおおよそ想像でき、生徒たちの関心を集めた。
 コミュニケーションプラザには、宇宙から飛来する放射線「宇宙線(ミュー粒子)」を雷のように目視できる装置「スパークチェンバー」や、体の中をどれだけの宇宙線が通り抜けたか表示される「宇宙線ラボ」など、難解な素粒子物理学の世界を少しでも分かりやすく伝えるため、目で見て分かるような模型や体験装置が多い。
 ILCの周知活動を見ると、計画段階の施設であるためか、コンピューターで制作した画像や動画で見せることが中心。常設のPRコーナー設置の必要性も求められているが、県南では奥州宇宙遊学館内のパネル展示やJR水沢江刺駅の動画コーナー、JR一ノ関駅コンコースの模型ぐらいだ。
 手の込んだ常設施設は予算的な問題も絡む上、政府判断のゴーサインが出ていない現状では尚早との指摘があるかもしれないが、日本誘致が決定し、実現の運びになった場合には、いずれこのような施設は必要になってくるだろう。
(つづく)

写真=生徒たちの関心を集めたノーベル賞メダルのレプリカ=KEKコミュニケーションプラザ
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tanko 2017-2-15 10:00
 奥州市江刺区東部の北上山地が有力候補地となっている「国際リニアコライダー(ILC)」の早期実現を求めるため、岩手県議会のILC建設実現議員連盟(会長・田村誠議長)は14日、関係国会議員や文部科学省を訪れ、要請活動を実施した。誘致関係者の間では「ここ1、2年が勝負」との空気が漂うが、米国のトランプ政権発足や文科省の組織的天下りあっせんなど、関係する国や省庁で大きな動きや問題が相次いでいる。誘致活動にどのような影響を与えるか――。
(児玉直人)

 同日要請に参加したのは田村議長(大船渡選挙区)のほか、県議会議連副会長の工藤大輔副議長(九戸選挙区)、千葉伝氏(八幡平選挙区)、飯沢匡氏(一関選挙区)、五日市王氏(二戸選挙区)の計5人。県市議会議長会会長の菊田隆・盛岡市議会議長と、県町村議会議長会の昆暉雄・山田町議会議長も同行した。
 県科学ILC推進室によると、国会のILC議連会長を務める河村建夫氏(衆院山口3区)、副会長の鈴木俊一氏(衆院岩手2区)の事務所と文科省を訪問。文科省では戸谷一夫事務次官が対応した。
 要請活動後、胆江日日新聞社の取材に応じた飯沢氏や同推進室の熊谷郁夫・ILC推進課長によると、河村氏、鈴木氏とも情報収集を進めながら実現に向けた努力をさらに重ねるといった趣旨の発言をしたという。
 飯沢氏は「河村会長からは、5月の連休中に渡米して枠組みなどの確認をするとの考えが示された」。一方、文科省訪問時には「(天下りあっせんの)不祥事問題でそれどころではないという感じがした。米政府の新しい科学担当ポストも未決定で先行きは不透明だといい、これといった新たな展開はなかった」としながら、「振り出しとまではいかないが、トランプ政権に変わったことによる仕切り直し作業は結構かかる雰囲気を受けた」と話した。
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tanko 2017-2-11 9:50
 岩手県は10日までに、歳入歳出それぞれ9797億3300万円とする2017(平成29)年度一般会計当初予算案を発表した。東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた沿岸部を中心に進められていた復興事業が進展した関係で、震災以降に編成した当初予算としては初めて1兆円を下回った。震災関連の予算を除いた「通常分」に限って見ると、2007年度から2011年度にかけての当初予算の平均レベル。同予算案は16日招集予定の県議会2月定例会に上程し、審議される。

 2017年度一般会計当初予算に対し、県は「未来につなげる復興ふるさと振興予算」と名付けた。大震災や昨年の台風10号被害からの復旧、復興を最優先で取り組む一方で、「いわて国体・いわて大会」の開催によって培われたスポーツ・文化面の振興をより良い形で発展、継承。外国人観光客誘致や海外市場への岩手ブランド発信、多文化共生などの国際的な取り組み、若者・女性の活躍支援、国際リニアコライダー(ILC)誘致実現など未来を見据えた「ふるさと振興」を推進する。
 県予算は大震災発生翌年の2012年度以降、一般的な行政運営や全県を対象とした事業に投じられる「通常分」と、震災復興に関連した「震災分」に大別している。
 2017年度の通常分予算は、歳入歳出それぞれ6754億300万円。一般会計全体に占める割合は68.9%で、金額の前年度当初比は1.5%増。これに対し震災分予算は3043億2900万円で、割合は31.1%。金額の前年度当初比は24.0%減少した。震災分の減少は復興関連事業の進展に伴うもので、当初予算の歳入歳出総額が1億円を下回った主要因となっている。
 通常分予算の詳細をみると、歳入のうち自主財源は2758億2800万円で通常分総額の40.8%に相当。このうち県税は、法人事業税などの伸びにより、前年度から41億円増加した。
 依存財源は3995億7600万円で、通常分の59.2%を占める。地方交付税は国の地方財政対策などを基に推計した結果、前年度より2億円減少。一方、県債は、療育センター整備事業や河川改修事業など普通建設事業費の増加で飫億円増加している。
 歳出は、人件費などの義務的経費が3111億3300万円で、前年度比1.0%の微減。主な内訳は人件費が1794億2000万円、借金の返済に充てる公債費が1196億1300万円となっている。
 普通建設事業費と災害復旧事業費で構成される投資的経費は906億6600万円で、同比26.8%増。台風10号により被災した河川の改修事業への対応が要因に挙がる。
 補助費や貸付金などを含むその他経費は2736億400万円。前年度は「いわて国体開催準備費」があり、その反動減などにより同比2.2%減少した。
 主な新規事業を見ると、馬事文化を観光資源として誘客を図る「馬事文化プロモーション推進事業」に950万円。盆・彼岸向けのリンドウ出荷増を目指す「優良品種緊急新植事業費補助」に410万円。米政策の見直しに対応した仕組み作りを支援する「水田農業構造改革対策費」に1050万円。
 このほか、継続事業として東北道奥州スマートインターチェンジや国道107号江刺区梁川周辺の整備などを含む「地域連携道路整備事業費」が379億7230万円。ILC誘致に関連した「プロジェクト研究調査事業費」に7100万円を投じる。
 新年度に新設する「文化スポーツ部」に関する予算は27億530万円で、東京五輪関連の取り組みやスポーツ競技力向上、障害者芸術の魅力発信などの事業を展開する。
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tanko 2017-2-10 9:40
国際協力 間近に

 奥州市教育委員会が主催する本年度の「中学生科学体験研修」はこのほど、茨城県つくば市を訪問する2泊3日の日程で実施された。旧水沢市時代から続く教育研修事業だが、江刺区東部の北上山地が素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)の有力候補地に浮上してからは、同研修が果たす役割の重要性はますます高まっている。14回目となる今回、本紙は初めて現地の研修を取材。ILC計画と密接な関係がある高エネルギー加速器研究機構(KEK)での様子にILC関連装置の開発状況も加えながら、数回にわたり連載する。
(児玉直人)

 旧水沢市が同研修事業を始めたのは2003(平成15)年度のこと。同年5月、ノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊氏が、市内の中高生を対象に講演したのがきっかけだった。
 2006年2月の市町村合併からしばらくは、水沢区内の中学生に限定していたが、2008年度からは奥州市全体の生徒から希望者を募る形に。初年度9人だった参加生徒は少しずつ増え、12回目の2014年度以降は31人で推移している。学校によって希望者が多くなるケースもあり、参加動機などを基に厳選するという。
 本年度の研修を担当した市教委の小松山浩樹指導主事は「参加経験のある先輩やきょうだいの話を聞き、『行きたい』『見てみたい』という子が多いようだ」と説明。毎回、研修から戻って数週間後に市教委による報告会が行われるが、これとは別に参加生徒の学校によっては独自に校内報告会を開いているケースもあり、後輩たちに研修の魅力が伝わっているようだ。
 最近はILC計画の存在も、少なからず参加を後押しする要因になっている。市ILC推進室は小中学校へのILC出前授業を展開しており、研究内容や誘致する意義は、市内の児童生徒にある程度浸透してきている。
 「申込書を見ると、ILCに特化した動機を明確に書いている生徒たちもいる」と小松山指導主事。出前授業で聞いた話や資料映像で触れた世界を実際に見て、学び、確かめる機会にもなる。
 市立江刺第一中の菊地舞桜(まを)さん(14)は「英語が得意だし、理科も好き。ILCに来る外国人のためになる仕事が、自分が暮らす地域の近くでできたらうれしい。日本の文化も伝えたいし、逆に海外のいい文化や考え方も地域のために取り入れることができたら素晴らしいと思う」と参加理由を話してくれた。
 研修先のKEKや宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センターは、海外の研究機関と連携したプロジェクトに数多く関与している。そのような現場を直接見ることは、理系の知識を育むことだけにとどまらず、ILCが地域社会にもたらす国際化、教育・文化面への波及効果に対し、イメージを膨らませることにも結びついたかもしれない。
(つづく)

写真=電子、陽電子の衝突現象をとらえるKEKの「Belle検出器」(矢印部分)。写真奥の通路を歩くのは、今回の科学研修に参加した生徒たち。通路の手すりには、検出器の開発に携わっている研究者の出身地や所属研究所の所在地を示す国旗が掲げられている。人種や言葉、文化の違いを越え、一つの目標に向かって活動していることがうかがえる
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tanko 2017-2-9 10:10
 奥州市議会のILC誘致及び国際科学技術研究圏域調査特別委員会(渡辺忠委員長、議長を除く全議員で構成)は5日、ILCサポート委員会(ビル・ルイス委員長、事務局・市国際交流協会)との懇話会を市役所本庁で開いた。海外の文化や考え方、生活習慣に認識を深め、ILC(国際リニアコライダー)誘致実現に向けた取り組みに生かす狙い。市民と外国人が共に暮らしやすい地域の在り方を探った。

 同サポート委は2013(平成25)年1月、外国人市民で設立。市長や県知事にILC誘致に関する提案書を提出してきたほか、複数のILC関連会合にパネリストや講師として参加。奥州市をインターネットで海外に紹介する動画制作への協力など幅広く活動している。現在はアメリカやイギリス、フィリピン、ペルーなど9カ国出身の20人で構成する。
 懇話会には、いずれもアメリカ出身で水沢区在住のルイス委員長、ディーン・ルツラーさん、アンナ・トマスさんの3人が出席した。
 ルイス委員長は、ILCの実現で世界各国から訪れる学者や技術者のために、英語以外の言語で対応する必要性をアドバイス。外国人と地域で暮らす市民に対し、「外国人に日常生活を合わせてほしいのではなく、ルールやマナーを教えてほしい」と話した。
 奥州市ILC国際化推進員も務めるトマスさんは、外国人市民が日常生活で不便に感じている部分を説明。「110番」「119番」通報で相手と意思疎通ができない不安を挙げたほか、病院や金融機関が多言語表記になることを願った。
 市議とサポート委メンバーが3班に分かれ、市民と外国人が共に暮らしやすい地域に向けてアイデアを出し合う話し合いも実施。各班からは「病院スタッフに外国人を採用し、警察や消防には外国語対応可能な人員の配置が必要」「ケーブルテレビでの外国語放送」「方言を教える」「地産地消の料理を教える」など、さまざまなアイデアが寄せられた。
 渡辺委員長は「ILC誘致と平行して取り組むテーマになりそうなアイデアも多い。市当局にも提案しながら幅広く取り組みたい」と話した。

写真=市民と外国人が共に暮らしやすい地域づくりへアイデアを出し合う市議やILCサポート委メンバー
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tanko 2017-2-4 10:10
 トヨタ自動車系列の自動車工場で使用する部品をトラックで輸送している愛知陸運?(本社・愛知県小牧市、星野晴秋社長)は、国際リニアコライダー(ILC)のPR広告を貼り付けたトラックを走行させる。2日、愛知県内で披露された。
 同社は震災復興支援などの観点から、沿岸地域の風景や世界遺産・平泉、橋野鉄鋼山の大型写真を貼り付けた「ラッピングトラック」を昨年4月デビューさせた。愛知県内から金ケ崎町西根森山のトヨタ自動車東日本岩手工場まで走行している。
 これまで左側面の下部と後面には、いわて国体・いわて大会のラッピングが施されていたが、両大会の終了に伴い同じ箇所にILCのPR広告を貼り付けた。衣替えの必要経費は県ILC推進協議会(谷村邦久会長)が支援した。
 同社には、金ケ崎町のアスパラガスやJA岩手ふるさと管内の農作物をPRするラッピングトラックもあり、東京と静岡の間で走行しているという。

写真=ILCのラッピング広告が施された愛知陸運のトラック
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tanko 2017-2-3 10:10
 ILC有識者会議は、6回目の会合で作業部会をまた新設した。検証すべき事柄はもちろん重要なことだ。
 ただ、有識者会議設置当初から指摘されていながら、本当に解決するつもりがあるのかと首をかしげたくなる「最大の課題」が手つかずのような気がする。「国民理解の形成」だ。
 なぜ国民の間にILCが浸透していないのか――。問い掛け自体は実に単純だ。本紙も機会を見つけては、ILCの周知の在り方について取り上げてきた。
 「今回もそういう指摘はあったが、それに対する回答は『その通りですね』という程度だった」。傍聴した市担当職員はそう話す。震災復興、地方創生、教育など今の日本や地域が抱えている問題とリンクさせた議論がもっと前面に出てきていいはずだが、まだまだ「物理のお話」に終始している。ILCを身近な話題、問題と捉える人はどれだけいるのだろうか。これでは国民の関心は高まるはずがない。
 五輪や新市場など「東京」の問題が全国的な関心を呼んでいるのは、生活に身近なスポーツや食が関係しているからではないか。「基礎科学があるから今の生活が……」ということは、説明されてはじめて分かること。直感ではない。
 もし政府がゴーサインを出さなかったとき、「国民理解の形成が不十分だから」との理由が挙げられたとしても、今の状況だったら何ら不思議ではない。
(児玉直人)

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