人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2019-4-17 14:40
 宮沢賢治に造詣が深く、国立天文台水沢VLBI観測所とも縁がある、同天文台元台長の海部宣男(かいふ・のりお)氏が13日午後0時8分、すい臓がんのため死去した。75歳だった。新潟県出身。葬儀・告別式などは近親者のみで行った。同天文台によると、詳細は未定だが後日お別れの会が開かれる予定。喪主は妻重美(しげみ)さん。
 東京大学卒。専門は電波天文学、赤外線天文学で、銀河系の観測や関連する観測機器の建設事業に従事。同天文台がハワイ島に設置している「すばる望遠鏡」の建設責任者も務めた。
 2000(平成12)年から6年間、同天文台長を務め、在任中に同天文台水沢VLBI観測所の天文広域精測望遠鏡(VERA)が完成。水沢で行われた式典や記者会見に出席している。
 宮沢賢治に対する造詣も深く、水沢を訪れ講演する機会が何度かあった。天文台OBでNPO法人イーハトーブ宇宙実践センターの大江昌嗣理事長は「緯度観測所が国立天文台に組織移行するときも、水沢をいろいろな面でサポートしてくれた。一般目線で天文学を語れる人で、惜しい人を亡くした」と悔やんだ。
 今月10日に発表された、ブラックホールの撮影に携わった本間希樹・水沢VLBI観測所長は、2012年に奥州宇宙遊学館で開かれたVERA運用10周年記念講演会の際、海部氏と共に講師を務めた。ブラックホール撮影に参加した南米チリのアルマ望遠鏡は、海部氏が立ち上げに力を注いだ施設の一つ。
 訃報に接した本間所長は16日、胆江日日新聞社にコメントを寄せ「日本の電波天文学を切り拓き、天文学をけん引した偉大な先人。世界の天文学にとっても大きな損失。闘病中だと伺っていたが、旅立つぎりぎりでブラックホールの姿を届けることができた。ご冥福をお祈りするとともに、星の世界のどこかで私たちを見守りいただけたら」と願った。
(報道部次長・児玉直人)

写真=奥州宇宙遊学館で講演する、在りし日の海部宣男氏(2012年10月6日)
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tanko 2019-4-12 15:10
天文台の街 照らす輝き

 人類史上初のブラックホール撮影成功を伝えた会見から一夜明けた11日、研究プロジェクトに携わっている国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長は、テレビ番組への生出演などに追われた。多忙なスケジュールの中、取材に応じた本間所長は「水沢で長年培われてきた研究実績があって達成できたものだ」と強調。後進の若手研究者たちは、新たな研究目標へ向かって意気込みを新たにしている。緯度観測所開設から120年の節目を祝うかのように、「天文台があるまち」にとってうれしいニュースとなった。

 今回のブラックホール撮影は、遠距離にある複数の電波望遠鏡(パラボラアンテナ)が、一斉に同じブラックホールを観測した。VLBI(Very Long Baseline Interferometry=超長基線電波干渉計)と呼ばれるこの手法は、水沢では30年ほど前から実践されてきた“お家芸”のような技術。本間所長は「水沢で培われた経験が今回の成功の根底にある。そのことは、地元の皆さんにぜひ伝えたい」と語る。
 水沢キャンパス内にある20m電波望遠鏡「VERA」は、今回のブラックホール撮影には使われていないが、東アジアVLBI観測網の一つとして、ブラックホールの新たな謎を解き明かす研究に生かされそう。10日の会見で登壇した、同観測所の秦和弘助教は「今回の撮影結果では、ジェット噴射という現象が観測されなかった。東アジアの観測網は、今回の観測網とは異なる波長で観測しているので、その謎に迫ることができるかもしれない」と期待を寄せる。解析には、同キャンパス内に設置されているスーパーコーンピューター「アテルイ?」の活用を見込む。
  「世界の研究者が共同で一つの目標に向かって取り組んでいることに大きな意味がある。地域住民にも天文学や自然科学をより身近に感じる機会にしてほしい」と話すのは、天文台OBでNPO法人イーハトーブ宇宙実践センターの大江昌嗣理事長。同センターが運営する奥州宇宙遊学館では13日午後7時から、春の天体観測会を開催する。今回観測したブラックホールがある「M87銀河」の方向も見てもらう予定。このほかにも、今回の快挙を祝うような取り組みを検討する動きもあり、人類史上初の快挙は「天文台のある街」に活気を呼び込みそうだ。

学術施設と地域づくり 見つめ直す契機に
 「えっ、水沢の天文台の所長?」「水沢の天文台って、そんなすごい施設だったのか」。10日夜、ブラックホール撮影の記者会見がニュース番組やネット上に流れると、インターネット交流サイトには、こんな投稿が飛び交った。
 都内で開かれた会見では、研究者12人が関係者席に座った。このうち、本間所長をはじめ5人が水沢VLBI観測所の本拠地である国立天文台水沢キャンパス=水沢星ガ丘町=に勤務。ある天文台関係者は「おそらく、水沢で普段仕事をしている研究者がこのような大きな国際プロジェクトに携わっていること自体、知らない市民や県民の方は多いのでは」と語る。
 老朽化により、一時取り壊し寸前まで話が進んだ同キャンパス内の旧本館。熱心な市民運動の末、2008(平成20)年に奥州宇宙遊学館として生まれ変わった。このことは裏を返せば、歴史と実績がある天文台の存在に、市民も行政も、政治も無関心になりかけた場面があったということだ。
 県や市の行政機関、経済団体は素粒子物理学者らと連携して、素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致に力を注ぐ。誘致による経済波及効果や地域振興、国際研究都市の創出に期待を膨らませ、震災復興の象徴にも位置付けている。
 新たな夢を追い掛けることは結構なことだが、120年前からこの地域に存在していた世界に誇る「宝」に対し、どのような姿勢で接してきたのか、今回を機に見つめ直してみてはどうだろう。謙虚な反省とそれを踏まえた実践こそが、新たなものに着手する際の大きな自信と力になるはずだ。
(報道部次長・児玉直人)


写真1=ブラックホール撮影に貢献した本間希樹所長。天文学普及のため、一般市民や子どもたち向けの講演やイベント参加にも積極的だ(昨年8月の「いわて銀河フェスタ」で)

写真2=東アジアVLBI観測網を駆使したブラックホール研究に挑む秦和弘助教(左)。中国からの留学生、崔玉竹(ツェイ・ユズ)さん(中)も、今回のブラックホール撮影に携わり、会見にも同席した
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tanko 2019-4-12 14:50
水沢観測所の本間所長らも貢献


 天文学者らによる国際研究プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」は人類史上初めてブラックホールを直接撮影したと、日本時間の10日午後10時に全世界同時に発表した。国立天文台水沢VLBI観測所=水沢星ガ丘=の本間希樹所長(47)ら、同観測所に所属する研究者らも貢献。本間所長は11日、胆江日日新聞社の取材を通じ「水沢で培われてきた観測技術と実績がなければ成し得なかったこと。地域の皆さまの支えもあって、観測所があり続けてくれたおかげ」と感謝の言葉を寄せた。
(報道部次長・児玉直人)

 EHTは、日本の国立天文台など世界の研究機関に所属する、約200人の研究者で構成している研究プロジェクト。米国のハーバード・スミソニアン天体物理学センターのシェパード・ドールマン博士が代表を務めている。日本の研究機関に所属しているメンバーは14人。さらに海外の研究機関所属の日本人研究者も8人加わっている。本間所長は日本チームの代表として、EHTの理事会にも名を連ねている。
 ブラックホールは、アインシュタインの一般相対性理論によって、その存在が予言されていた。しかし光を発しないどころか、中に吸い込んでしまうほど強い重力を持っているため、月のように表面に当たった光の反射で存在を確認することすらできない。長らく直接撮影は困難とされていた。
 そこでEHTは、ブラックホールの周囲に生じる超高温のプラズマガスに着目。ガスから発する電波(光)は、ブラックホールの強い重力によってその周囲を回り込むように動き、やがてブラックホールの中に吸い込まれてしまう。吸い込まれた電波は二度と外に出てこられないため、「ブラックホールがある部分だけ影のように見え、ブラックホールが存在していることを証明できるのでは」と仮定した。
 EHTは、地球から約5500万光年離れた「M87銀河」と、約2万8000光年離れた「いて座Aスター」の2カ所に潜むブラックホールを対象に選んだ。
 観測は北南米大陸とヨーロッパ、南極、ハワイに点在する電波望遠鏡8基を連動させて実施。できるだけ遠く離れた複数の電波望遠鏡が、一斉に同じブラックホールを観測することで、実際に製造不可能な直径1万kmの電波望遠鏡で観測したのとほぼ同じ、精度の高いデータが得られる。
 10日夜に公表された画像は、M87銀河の中心部にあるブラックホールを捉えたもの。いびつな光の輪のように見えるのはプラズマガスが発した電波。その中央の黒くなっているのがブラックホールの影「ブラックホールシャドウ」だ。同日夜、日本の会見場所となった都内で解説に当たった本間所長は、「これが人類が初めて目にしたブラックホールの姿」とアピールした。
 今後は、さらに観測に参加する電波望遠鏡の数を増やす方針。加えて、水沢を含めた東アジアの電波望遠鏡観測網を活用するなど、さまざまな角度からブラックホールの謎、ひいては宇宙誕生などの解明に貢献していく考えという。

 小沢昌記市長のコメント 非常に興奮している。奥州市水沢の地において、緯度観測が開始されてから120年の節目を迎える本年に、国際的な観測チームの日本代表を務める本間希樹教授が、水沢VLBI観測所長であることにもご縁を感じ、市民を代表して敬意を表する。宇宙の謎を解明する一歩であり、さらなる発見・発展に期待したい。本市が推進する国際リニアコライダー(ILC)も宇宙の謎に迫るものであり、力強いエールをいただいた。

写真1=「M87銀河」中心部にあるブラックホールをとらえた画像。オレンジ色の輪の中央にある黒い部分がブラックホールの影。直径は太陽系がすっぽり入るほどの大きさ=(C)EHT Collaboration

EHTによるブラックホール撮影に使用された電波望遠鏡とその配置図=(C)NRAO/AUI/NSF
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tanko 2019-4-10 14:50
 昨年1年間、岩手県に寄せられた苦情を含む提言の受理件数は91件で、前年より39件少なかった。100件を下回るのは「少なくとも東日本大震災以降、初めて」と県広聴広報課。ほとんどの提言は趣旨に沿って対応、または実現に向けて努力しているが、素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」誘致を撤回するよう求める提言だけが「実現が極めて困難」と位置付けた。一部住民から出ている不安の声に説明を尽くす一方で、誘致活動を見直す考えはないことを示した。(報道部次長・児玉直人)

 提言の受理方法は、県政懇談会の席上で受け付けたのが52件で、全体の57.1%。次に多かったのが電子メールによる受理で、32件(25.4%)だった。
 内容別に見ると、最も多かったのが「復旧・復興」に関するもので9件(9.9%)。「教育」「職員に対する苦情」が共に8件(8.8%)。「産業振興」関連が7件(7.7%)。「ラグビーワールドカップ」関連が5件(5.5%)などと続く。
 震災復興や県立病院事業、県立高校再編など、住民に関心の高い話題があると、県民からの提言件数が増加する傾向がある。しかし、昨年は特定の分野や話題に対する提言が少なく、件数も1〜3件程度と少数ながら、分野が多岐にわたったという。
 提言の県政への反映状況は、「趣旨に沿って措置した」が40件(44.0%)、「実現に向けて努力している」が48件(52.7%)。合わせて88件(96.7%)について、県が提言内容を尊重する格好で取り扱った。
 一方、「当面実現が不可能」とされたのは、「審議会の発言者と会議録などの全面公開」と「宮古・函館フェリー航路の開設」の2件。審議会関連の情報公開については、受理した内容が、県が定めた情報公開の基準を超える中身の提示を求める趣旨だった。フェリーについては、宮古・室蘭間の航路開設を受けての提言とみられるが、同課は「可能性はゼロではないが、すぐに対応できるものではないという判断だった」と説明する。
 「実現が極めて困難」とされたのは、「ILC誘致の撤回」の1件のみ。ILCを巡っては有力候補地である、北上山地近傍の一部住民から、安全性や県などによる誘致活動に疑問を唱える声が出ている。県は、ILC実現を目指す素粒子物理学者らとともに、リスク管理の説明などに努め理解を求めている。ただし、撤回するよう求める提言に対しては、「県としても推し進めているプロジェクトであり、撤回という考えには至らない」(同課)としている。
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tanko 2019-3-30 14:20
菊地 和夫(82)=一関市大東町=

 原子力発電は安全だという神話に踊らされて誘致した福島の首長が命をかけて「地域のこし」に取り組んだ番組を涙ながらに拝見した。
 わが一関市大東町では今、国際リニアコライダー(ILC)の放射性物質により、子どもや孫の時代には住めなくなるのではないかと、大問題になっている。
 町内でこのほど、ILC解説セミナーが行われた。「ILCは放射能施設であり、放射能と放射性物質が生成される。しかし、各種の拡散防止対策を講じて厳重に管理するので安心である」との説明があった。初めてのリスクについての話だった。
 わたしは、同セミナーのほか、一関市が発行する広報紙などを精読して感じていることがある。それは?一部の科学者や反対者の会として日本学術会議を非難していること?中国に覇権を奪われると政治上、困ること?日本全体にメリットでも地域住民にとっては、自然破壊や騒音、事故などのリスクデメリットがあること?少数のメリットを守るか、多数のメリットを優先するのかということ――である。
 結局、大東町民は原子力の安全神話と管理対策を信じ、日本の国益よりも大きい世界のプロジェクトのために、想定外の事態が発生してもあきらめろ、ということか。
 こんな前近代的な「大の虫のためには、小の虫の犠牲は仕方がない」という論理のILC誘致は、一刻も早く止めるべきだと思う。
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tanko 2019-3-29 19:10
 岩手県は、国際リニアコライダー(ILC)建設の有力候補地としてILC推進を広くPRする横断幕を作成。29日から県庁のほか、奥州市役所、奥州地区合同庁舎など県内7公共施設にも掲げる。
 横断幕は高さ1m、幅7m。青地に黄色文字で「We're ready for the ILC!」(私たちはILCの受け入れ準備ができています)などと記されている。
 県によると、県庁への掲示は29日だが、他施設はそれぞれの都合に合わせて設置するという。
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tanko 2019-3-29 19:00
 岩手県と県国際リニアコライダー推進協議会(谷村邦久会長)は27日、盛岡市愛宕下の盛岡グランドホテルで、国際リニアコライダー(ILC)計画の推進を図る講演会を開いた。研究者らが国内外の情勢を語ったほか、漫画雑誌「モーニング」で連載中の『会長島耕作』作者の弘兼憲史氏(71)が同作品のILC編について紹介。今月7日に政府がILCに初めて関心を表明したことを受けて、関係者が一丸となり誘致の実現へ意識を高めた。
 講演で弘兼氏は、「会長島耕作」の第1話、2話をスライドショーで見せながら、取材で得た見識で分かりやすく解説した。7日の政府の表明については「本当に、はらはらしながら(発表を)待っていた」という弘兼氏。正式表明とはならなかったが「戦いはこれから。岩手県にプロジェクトを持ってくるように、皆さんと頑張りたい」と力強く述べた。
 講演後、取材に応じた弘兼氏は「漫画の影響は大きいと思っている。私がILCを知ったのは昨年4月だったが、日本の皆さんに知っていただきたいと思った。震災で疲弊していた東北の新しい活力に協力できれば」と思いを語った。
 地元での盛り上がりについては「一ノ関駅に降りるとILCの掲示板などがあり、意気込みがすごいと思った。地元では報道されているが、東京では取り上げられず残念に思う」とし、「(漫画を)読んでいただき、日本がいいチャンスをもらっているということだけでも(全国に)伝われば」と強調した。
 また、7日の政府の関心表明について「国民がもっとILCのことを知って、民衆の力で(ILCに)賛成しようという機運を盛り上げてほしい」とし、今後の動向次第で同シリーズに取り上げることも語った。
 達増拓也知事は「(政府の)関心表明を大いに歓迎する。ILCを通じて岩手、東北が世界の科学と人類の未来に貢献できることは、震災被災地として大きな意義のあることと考える。いま、ILCの実現が近づいている。私たち岩手東北は準備ができている」と強調した。
 講演会は、関係者約400人が出席。弘兼氏の講演のほか、早稲田大の駒宮幸男教授、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の岡田安弘理事がILCに関わる国内外の情勢を語った。

写真=「会長島耕作」のILC編について講演する弘兼憲史氏
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tanko 2019-3-24 16:50
 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」誘致実現を目指す民間団体、いわてILC加速器科学推進会議(海鋒守代表幹事)の総会は23日、水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館で開かれた。今月7日に示された文部科学省見解では、誘致表明は得られなかったものの、「関心を持って国際的な意見交換を継続する」との方向性が示されており、海鋒代表は「さらなる誘致促進活動にスピード感をもって取り組み、一刻も早く政府の誘致表明につなげたい」と活動の継続へ力を込めた。
 同推進会議は2012(平成24)年に発足。昨年12月末現在で企業127社、91個人・団体が会員に名を連ねる。ILCへの理解を深めるため、一般公開型の講演会やシンポジウムの開催、副読本の発行、関係諸団体の活動への参加などを行いながら、ILC誘致実現に向けた機運を高めている。
 今月7日に示された政府見解について、海鋒代表はあいさつで「政府がILCに対し初めて関心をもっているとしたこと、立地地域の建設による効果に言及したこと、国際的意見交換の継続意思を示したことは、大きな前進と捉えている」と評価。一刻も早い政府の誘致表明につながるよう、「引き続きご支援ご協力をお願いしたい」と会員らに求めた。
 総会では、2018年度事業報告と決算を承認したほか、新年度事業計画、活動予算について協議。事業計画には例年、講演会やシンポジウムの内容を盛り込んでいるが、誘致に関する政府表明が今月までずれ込んだことから内容や講師の決定ができなかったため、開催に向け4月以降の早い段階で立案することを確認した。
 総会後、県南広域振興局副局長兼首席ILC推進監の飛鳥川和彦氏が「ILCの実現に向けて」と題し、ILCを取り巻く動向や国・県の予算、地域への説明状況について情報提供。地元住民の中に、放射線管理や自然環境への影響など誘致リスクを指摘する声があることに触れ、「危険と思われるものがあればきちんと説明し、住民のみなさんがILCが来てよかったと思えるものにしていかなければならないのが県の立場」と、説明責任を果たしていく姿勢を示した。

写真=新年度も誘致促進活動の継続を確認した、いわてILC加速器科学推進会議の総会
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tanko 2019-3-18 9:50
 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」に関する解説セミナー(東北ILC準備室主催)が17日、奥州市役所江刺総合支所などで開かれた。一般市民を対象としたいわゆる「リスク説明会」で、出席した一部の住民から放射性物質に対する不安や誘致活動そのものへの批判も上がった。対応した高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市)ILC研究開発プロジェクトリーダーの道園真一郎教授は、「今後も理解を得られるよう説明し続けていきたい」と話す。

 セミナーは午前中に一関市大東町大原の大原市民センターで、午後に江刺でそれぞれ実施。江刺会場には市民ら44人が足を運んだ。
 有力候補地の地元である胆江地区や両磐地区などでは、ILC誘致に期待を寄せる声がある一方、放射線管理や自然環境への影響、行政側の誘致姿勢に疑問を投げ掛ける住民もいる。東北ILC準備室メンバーの立場で説明に当たった県科学ILC推進室の佐々木淳室長は、誘致を巡る最近の動向を説明しながら「いろいろな意見がたくさんあるのは承知している。こういった場で意見を頂きながら理解を深め、前に進めたいと思っている」と述べた。
 道園教授は、放射線や放射能などに関する基礎知識やILCにおける安全管理について説明。ILCに設置される装置や場所ごとに、発生する放射線の種類や管理方法などについて細かく解説した。
 質疑では、放射性物質の管理や自然環境への影響に関する不安や指摘が集中。KEKの佐波俊哉教授は「事故や地震などによって、放射性物質が漏れないよう検討している。放射能や放射線を加速器施設の外には絶対出したくない」と強調した。
 研究者側の説明に「福島第1原発事故で、この地域の放射能に対するアレルギーはものすごい。半端な説明では納得できない。これ以上、(ILC誘致に)費用をかけるのはやめたほうがいい」と主張する人も。セミナー終了後、胆江日日新聞の取材に応じた道園教授は「トリチウムをはじめとする放射性物質の問題に、とても心配されていることをあらためて痛感した。KEKは加速器開発を主体にやっていて、地元の対応はILCに関わる地域の大学や行政に任せていたスタイルがそのまま現在に至っていたこともあり、KEKとして直接住民の皆さんに説明するという場面がほとんどなかった。何度も説明し、理解を得られる努力をしなければ」と話していた。

写真=住民の質問にKEKの研究者らが答えた解説会(市役所江刺総合支所)


“はしご質問”、不規則発言も(マナーに疑問符)

 17日に江刺で開かれたILC解説セミナーの質疑では、司会者の進行を遮ったり不規則発言をする人が相次ぐなど、マナーが疑問視される場面があった。
 この日は、江刺会場の前に一関市大東町大原でも同じ内容のセミナーが開かれた。入場対象者の制限は特に設けられていなかったが、ILCに批判的な姿勢を示している一部住民が、大原会場で質問し、江刺会場でも発言。「同様の質問は……」と進行役の県職員が制止しようとしたが受け入れず、発言を続けた。大声での不規則発言もあり、終了後「まさかこんな雰囲気のセミナーだとは思わなかった」「もっと前向きな話を聞けると思っていたのに」と、苦々しい表情で会場を後にした住民もいた。
 ILC誘致に慎重な見解を示している市民団体の複数の関係者は、胆江日日新聞の取材に「意見や不安の思いを語るのはいいが、常識的なマナーは守るべきではないか。せっかく訪れた研究者に対しても失礼だ」「開催地の地元の人たちの声を吸い上げる場になるべきで、会場を『はしご』して再度質問するのはいかがなものか。不規則発言もよくない。冷静な議論ができなければ対立構造を生んでしまう」と懸念を示していた。
(児玉直人)
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tanko 2019-3-16 11:30
 わたしは水沢に生まれ、福島の大学に進学し、現在は東京の大学院で研究をしている。ILCの誘致をめぐって行われた科学技術コミュニケーションを題材に、修士論文をまとめることを考えている。
 3年ほど前、帰省したときに喫茶店のオーナーから、ILCの誘致さえ決まれば、奥州市は仙台を超える国際研究都市になるという話を聞かされ、驚かされた。
 最近、幾人かの人が指摘するように、ILCは「そのようなもの」ではない。日本学術会議も指摘しているが、ILC固有の技術応用は、あまり期待できない。
 当たり前のことではあるが、ILCは、ヒッグス粒子の精密測定を目的とする基礎研究のための「実験器具」である。何らかの技術への応用、産業への発展を目的とするものではないのだ。
 何より、懸念していることは「ILCで復興」を目指すはずが、復興を妨げることになりはしないかということである。
 岩手県は、これまで「ILCで復興」というスタンスを打ち出している。推進する側とすれば、通常の科学技術などの枠外で予算措置を講じるべきと主張する。
 しかし、その予算はどこから持ってくるのだろうか。本来、学術関連予算から拠出されるべきILC予算を「復興予算」で賄うということは、分配されるはずだった予算が被災地に措置されないことになりかねない。
 わたしは、ヒッグス粒子の精密測定という学術的意義を軽視するつもりはないが、説明責任を果たした上で遂行されるべきである。
菅原風我(東京都)

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