人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2019-11-12 6:00

写真=ILC誘致を巡る熱狂について語る菅原風我さん=金沢工業大学

 【石川県野々市市=児玉直人】素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致活動を検証した複数の研究成果が10日、金沢工業大学で開かれた科学技術社会論学会(会長=調麻佐志(しらべ・まさし)・東京工業大学教授)で発表された。このうち、東京大学大学院学際情報学府修士課程の菅原風我(ふうが)さん(24)=水沢出身=は、誘致活動の盛り上がりの背景を探った。ビッグサイエンス(巨大科学)施設の誘致活動が、地方行政や議会、産業界、教育現場も巻き込みながら、なぜこれほどまで盛り上がっているのか――。帰郷した際に実施した地元での聞き取り調査、報道記事の分析などを基に「熱狂形成」に至った流れと、そこに潜む課題などを掘り起こし、ビッグサイエンスと地域社会の在り方に一石を投じた。【社会面に関連】

 同学会は、科学技術と社会の間に生じるさまざまな問題を対象に学術研究を行い、その成果を広く社会で共有しようと2001年に発足。学術会議が指定する「協力学術研究団体」の一つ。
 菅原さんは「科学技術と地方行政」をテーマにしたグループセッションで登壇。「熱狂(hype(ハイプ))の形成―ILC誘致の事例から」と題し、研究成果を述べた。約40人が聴講した。
 菅原さんが帰郷した際、「ILCさえ決まれば、水沢は仙台をも超える人口を抱える国際研究都市になる」と立ち寄った喫茶店の店主から聞いた話が今回の研究のきっかけ。
 ILC計画や北上山地への誘致活動自体はある程度知ってはいたが、全国的認知度はさして高くない。メディアの取り上げ方も、一部地方紙とそれ以外の地方紙、全国紙では扱い量だけでなく、論調も大きく異なっているなど、地域と首都圏でのILCの見え方の違いに気付いた。さらに、誘致実現を盛り上げる声の一方で、日本学術会議や、2014(平成26)年から約4年間かけ文科省が設置した有識者会議では慎重さがにじみ出る見解が続出していた。
 菅原さんは、岩手、宮城という地域、そして素粒子物理学コミュニティーという、限られた分野を中心に起きている「熱狂」のプロセスを読み解くことで、巨大科学と地域コミュニケーションの在り方を探れるのではないかと考えた。
 菅原さんが演題に示した「hype」とは、学術用語として使う場合「科学技術に必要な資源(人、もの、資金)を調達する役割を担い、将来像を形作るもの」と定義されている。「熱狂」「誇大宣伝」とも訳される。
 「期待と熱狂は地続きだ。過去に抱いた期待は、現在の科学技術の進展を評価する物差しにもなる。期待通りにならなかった場合、結果としてそれは『誇大宣伝』になってしまい、それまで誘致に携わっていた人たちの信頼関係や評判を落とすことにも成り得る」と菅原さんは指摘した。ただし、iPS細胞(人工多能性幹細胞)のように科学への期待が、その分野の発展に寄与する例もあると説明した。
 菅原さんは「熱狂はどんな科学技術でも起こりうること。だが、過剰な熱狂によって生じた誘致や広報周知等に投じたコストは、いずれ地域や納税者である一般市民が負担することになる。地域社会や一般市民が、特定の科学計画や事象に対し、さまざまな方向からの見解に触れられる機会が設けられるのが大切。その一つの手段が、科学技術コミュニケーションだと思う」と主張した。
 同日は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙機構の横山広美教授、一方井(いっかたい)祐子研究員が、「ILCの認知度調査から見える課題」と題し発表した。

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立ち止まり再考を
 【解説】「若い大学院生が学会で発表した程度」と、軽く受け流すべきではない。誘致に携わるすべての人、そしてILC誘致を報じている私たちメディア関係者は、ビッグサイエンスと地域社会との関わり方について、冷静に考える時期に来ていると認識すべきだ。
 記事後段に触れた誘致や広報周知のために投じたコストについて、これまで関係する地方議会ではどれだけ是々非々の議論が尽くされてきただろうか。誘致実現の可能性を確認するような質疑が目立ち、関連予算として公費が年々投じられてきた感がある。直接言われたわけではないにしても、ILC計画を推進する研究者側の「言われるがまま」に事を進めてはいないか。立ち位置を見失ってはいけない。
 確かに疲弊する地域社会にあって、ILC計画は夢のプロジェクトのように輝いて見えているのかもしれない。しかし、誘致活動の在り方を客観的、批判的な検証を十分にしてきただろうか。予算規模の大小を口にする人がいるかもしれないが、市民、県民の血税であることには変わりない。この先もとりあえずILCと付き合うといった身構えに、納税者は納得するだろうか。
 名だたる国会議員や地方自治体の首長、地域の名士たちがこぞって「ウエルカム」を強調し、先に仙台で開かれたILC関連の国際会議では「地域社会から強い支持を得ている」と国内外の研究者たちが宣言した。
 そんな「アウェー感」漂う中、学術的見解も交えながら勇気ある一石を投じた菅原さん。多くの学問では「疑うこと」の大切さが唱えられている。菅原さんの母校の県立水沢高校はじめ、胆江地区の小中高校ではILCの出前授業を受けた児童生徒が多数いる。今回の“先輩”の姿勢を子どもたちはどう感じただろうか。(児玉直人)
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tanko 2019-11-4 9:10

写真=ILC建設候補地を視察するジェフリー・テイラー氏(中央)(一関市大東町大原)

 高エネルギー物理分野の組織「国際将来加速器委員会(International Committee for Future Accelerators=ICFA(イクファ))」議長のジェフリー・テイラー氏(オーストラリア、メルボルン大学教授)は3日、一関市大東町大原地区を訪れ、素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の候補地を視察した。テイラー氏は巨額コストが実現の課題になっていると認識しながら、「(日本政府にとって)大きな判断になるだろうが、とてもいい投資になると思う」と述べた。

 ICFAは、高エネルギー物理学界で影響力のある世界主要加速器研究所の所長や研究者の代表らで構成。ILCのような高エネルギー加速器研究施設の建設や運用、将来計画などに関する国際協力体制の在り方を協議している。
 テイラー氏は、10月28日から今月1日まで仙台市で開かれたILC計画に関連した国際会議「LCWS2019」に参加するため来日。本県には初めて訪れた。
 大原地区の視察場所は、「実験ホール」と呼ばれる巨大地下空間の整備を想定している場所の付近。運用初期段階では全長約20kmの施設規模を計画しているが、その中間地点に当たる。
 東北大学大学院の佐貫智行准教授が実験施設の位置関係などを説明。テイラー氏は「とても自然が美しい。何よりも、ここの地質はILCに適切なものだと思った」と評価。「以前から承知していたが、ILC計画が地元の方々によく知られていることをあらためて実感した。とてもいい印象を受けている」と述べた。
 この日は、今年3月に閉鎖した「NECプラットフォームズ一関事業所」跡地も視察。JR一ノ関駅東側に広がる工場跡地で、ILC関連施設の建設地として活用する構想もある。テイラー氏は「とても広大な敷地で、駅の隣にあるのでアクセスが良いと感じた。県や一関市の方からは、地元の中小企業による加速器関連産業参入の取り組みについても聞いた。中小企業と大手企業とのパートナーシップは重要になってくるだろう」と話していた。
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tanko 2019-11-2 11:30
 一関市を拠点に活動している市民団体「ILC誘致を考える会」は、ILC(国際リニアコライダー)の国内誘致反対の姿勢を明確にした。仙台市で開かれた国際会議「LCWS2019」に合わせ、ILCの日本誘致を断念するよう国内外の研究者らに訴えた。
 2017(平成29)年に発足した同会は、実験で生じる放射性物質の安全管理、メリットを強調する誘致運動の在り方に疑問を呈してきた。ただ、会の内部には「学術研究そのものを全面否定しているわけではない」「賛否論争で地域を二分化する状況は好ましくない」といった声もあり、組織としては「慎重派」という姿勢で研究者や行政側の対応を見極める活動をしてきた経緯がある。
 反対を明確化するに至った理由について、同会は「地元はもろ手を挙げて賛成しているというニュアンスで情報発信されている。LCWSに出席する国内外の研究者に『少なくともそれは違う』と伝える必要があった」などと説明。実験過程で生成される放射性物質「トリチウム(三重水素)」の安全性や自然環境への影響に不安があり、高レベル核廃棄物処分場建設の足掛かりになる懸念も拭い切れていないとしている。さらに、地域の小中高生らを巻き込んだ誘致活動が行われている点も問題視し、日本誘致反対の意思を示した。
 同会はLCWS初日の10月28日、会場の仙台国際センター前で誘致反対の意思を示す活動を展開。反対理由などをまとめた日英併記の文書を国内外の研究者らに配布した。
 文書は、LCWSを主催するリニアコライダー・コラボレーション(LCC)の最高責任者、リン・エバンス氏=ロンドン・インペリアルカレッジ教授=にも会議の関係者を通じ届けられた。LCWSの広報担当によると、エバンス氏は内容を真摯に受け止めており、ILCに対する理解に向けた今後の対応について検討しているという。
 同会の原田徹郎(てつお)共同代表は「会員の中には、以前からILC誘致に反対している人もいるが、学術研究そのものには理解を示す人もいる。状況を見ながら対応を考えていくが、少なくともトリチウム生成や自然への影響、核廃棄物処分場への転用、子どもを利用した誘致活動には疑念が残る。それらを理由に『日本誘致は反対』の姿勢を明確にした」と話している。
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tanko 2019-11-2 11:10
 国際リニアコライダー(ILC)計画を推進する国内外の研究者らによる国際会議「LCWS2019」は1日、会場の仙台国際センターで5日間の日程を終了した。最終日は、会議に出席した研究者らによる「仙台宣言」が公表され、ILC実現に向けた強い意志を国内外に発信した。
 LCWSは素粒子物理学者らで構成する国際組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」が主催。ILCに関わる技術研究の発表や欧米での取り組み状況について、情報交換などが行われた。期間中は岩手、宮城を中心とした誘致団体、加速器関連産業への参入を目指す企業によるPR活動も展開された。
 「仙台宣言」は▽ILC建設の重要性について再確認▽設計が成熟し建設準備が整っていることの明示▽地域社会から強い支持を得ている▽(研究者は)ILC成功に向け力を尽くす――といった趣旨の4項目から成る。
 このうち、地域社会からの支持に関しては「日本の国会議員の力強く絶え間ない支援に感謝している。会議の期間を通じ、特に東北地方のコミュニティーや産業界からILC実現への強い支持と熱意を感じた」としている。
 LCWS2019現地組織委員会委員長を務めた、東北大学大学院の山本均教授は「ILC実現に向け、しっかりやっていく意思を表明できた。仙台宣言のアナウンスは、今回の会議の大きな成果だ」と強調。仙台宣言を基にした政府への働き掛けについては「具体的にまだ決めていない」としながら、「日本だけでなく、世界中の研究者がやる気満々。政府が前に進むなら、われわれは準備ができている。一緒に前に進もうと伝えたい」と話した。
 最終日は、東北ILC推進協議会が主催する講演会「ILCへの国内外からの期待」も行われ、国際将来加速器委員会のジェフリー・テイラー議長(メルボルン大教授)と、高エネルギー加速器研究機構の山内正則機構長が登壇した。テイラー議長は3日、一関市大東町大原を訪れ、ILC建設候補地を視察する予定だ。
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tanko 2019-11-2 11:00

国内外の研究者に「さらなるコスト削減」を求めた、ILC議連幹事長の塩谷立氏=仙台国際センター大ホール

 【仙台市=児玉直人】北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致実現に関連し、超党派国会議員で組織するILC議連幹事長を務める自民党の塩谷立氏=衆院静岡8区=は1日、仙台市内で講演し、ILC計画を推進する国内外の研究者らに「さらなるコスト削減を実現してほしい」と要請した。日米欧の政府担当者間での議論の場が設けられているなど、日本側の取り組み状況を説明しながら、「ラグビーワールドカップ、来年開催の東京オリンピック・パラリンピックに続く人類への貢献として、未来を切り開くILCの実現に向けて共に頑張ろう」と呼び掛けた。

 塩谷氏は同日まで仙台国際センターで開かれていた、素粒子物理学者らによる国際会議「LCWS(International Workshop on Future Linear Colliders)2019」で、特別講演の形で登壇。会議に出席した国内外の研究者らを前に、直近のILC誘致を巡る国内動向を説明した。
 現在、日本学術会議(山極寿一会長)では、大型科学計画などに関する方針を示す次期「マスタープラン(基本計画)」の策定作業が進められている。大型科学計画の実現にはマスタープランに登載された上で、文部科学省の審議会で優先度を明らかにする「ロードマップ」への位置付けが通常の手順とされている。
 一方、海外に目を向けると、ILC計画への国際協力体制を左右するヨーロッパの次期素粒子物理戦略の策定作業も行われている。塩谷氏は「われわれは、この二つの議論の行方を注視している」と述べた。
 「国際研究機関を世界とともに実現し、リード役を日本が担うというのは、これまでになかったことへの挑戦。立法府と行政府が主体的に取り組む新たなプロセスを作り、試行錯誤しながら進んできた。一度に、とはいかない面もあるが、いよいよ国際舞台での展開が始まっている」と塩谷氏。「政治、立法府の立場から準備予算の措置と建設財源議論に向けた活動をさらに本格化していく」と強調した。
 その上で「ここに参加している研究者の皆さんにお願いしたいのは、さらなるコスト削減の実現。財源確保が大きな課題とされている中、日々目覚ましい技術の革新によって、さらなるコスト削減の研究議論の進展を期待している」と呼び掛けた。
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tanko 2019-10-18 12:40
 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」に関係する国際会議「リニアコライダー・ワークショップ(LCWS)2019」が、28日から11月1日まで仙台市の仙台国際センターを主会場に開かれる。会期中、研究者らがILC実現への意思などをまとめた声明を発表する見通し。加速器関連産業や食・観光をPRする展示も行う。一部研究者は会議終了後、台風19号被災地でのボランティア活動を希望しているという。(児玉直人)

 国際研究者組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」が主催し、開催地の地元研究者らによる組織委員会が運営。日本開催は、盛岡市で開かれた2016(平成28)年以来となる。
 組織委メンバーで東北大学大学院理学研究科の山本均教授は17日、仙台市内で報道各社にLCWSの概要を説明した。
 会期中、研究者や産学官の誘致関係者ら300人余りが参加する見通し。初日の28日は、村井嘉浩宮城県知事らも出席し全体会議。夜には歓迎レセプションが行われ、岩手・宮城両県の自治体首長や議会議員らも出席する。奥州市からは及川新太副市長が市長代理で参加する。
 28〜29日は会議会場内に、加速器関連装置への参入を目指す企業の展示コーナーを開設。食や観光のPRブースも設けられ、国立天文台水沢VLBI観測所がある奥州市は、ブラックホールにちなんだ菓子を紹介する。
 30日には、ILC実現に向けた研究者側の声明を公表する予定。その後、岩手県の達増拓也知事らが出席し、夕食会が行われる。
 関連行事として東北推進協は、11月1日午後2時から会議会場で講演会を開く。講師は、高エネルギー加速器研究機構の山内正則機構長と、国際将来加速器委員会のジェフリー・テーラー議長。一般市民への聴講は呼び掛けず、誘致関係団体の関係者らへの案内にとどめるという。
 一部研究者は台風19号被災地でのボランティア活動を希望。山本教授は「LCWSのような国際会議を開催するということは、明るい話題を提供することになると思う。将来的に東北の地にILCができれば、大きな経済効果も期待される。ボランティア活動も、決して(ILC実現のための)パフォーマンスではなく、海外研究者からの真摯な希望によるものだ」と述べた。
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tanko 2019-10-17 12:30

写真=福島県の空席が目立った東北市長会総会

 東北市長会(会長・谷藤裕明盛岡市長)の総会は16日、北上市内のホテルで開かれた。厚生労働省が再編統合の検討を要するとして、奥州市内3施設を含む全国の公立・公的病院名を公表したことを受け、本県市長会は「地域医療体制の確保に関する決議」を提出。全会一致で採択した。甚大な被害をもたらした台風19号に関連し、岩手、宮城、福島の3県市長会が提出した緊急決議も承認された。

 構成77市のうち16市が欠席。災害対応のため急きょ出席を取りやめた市もあり、特に福島県の空席が目立った。冒頭、台風の犠牲者に黙とうをささげ、総会後に予定していた北上市内の視察と懇親会は中止した。
 あいさつで、谷藤市長は「東北の一日も早い復興に向けた取り組みが重要。地方の実態を捉え連携を密にし、東北一丸で迫りくる課題に立ち向かっていきたい」と力を込めた。
 特別決議は▽東日本大震災からの復旧・復興▽東京電力福島第一原発事故への対応▽地域医療体制の確保▽国際リニアコライダー(ILC)の誘致実現――などに関する事項。台風19号の暴風雨災害に関する緊急決議も加え、7件を承認した。決議は全国市長会の会議に諮られ、採択されれば国へ提出される。東北市長会も各省庁へ要望していく。
 地域医療については、勝部修一関市長が提案理由を説明した。限られた診療実績データを機械的に分析した情報が基になっているとし、「実態を考慮していない。現場に混乱をもたらす」と反発。
 「国の方針をそのまま受け入れる状況にはない。急ぐべきは、医療・介護サービスの適切な提供の再構築」と述べ、?地域医療構想の実現に必要な協議は地域実態を考慮し慎重に対応?国と地方の協議の場で医師不足や医師偏在を解消するための抜本的な改善策の検討――を求めた。
 台風の緊急決議では激甚災害の早期指定、被災者の生活再建と被災自治体への人的支援、道路・河川・公共施設の早期復旧に向けた支援などを強く要望。全国市長会長の立谷秀清相馬市長は「東北市長会の意思として一つにまとめ、全国へ持っていきたい」と話した。
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tanko 2019-10-16 12:30

写真=地方創生に関する連携協定書に署名した小沢昌記市長(中央)、中島健支店長(左)、中村芳樹支店長

 奥州市は15日、あいおいニッセイ同和損害保険、東京海上日動火災保険の損保大手2社と地方創生に関する連携協定を締結した。それぞれの資源を有効活用し、地域の安全安心や産業振興などを協働で推進していくことを約束した。奥州市が民間企業と同様の協定を結ぶのは4、5社目。市役所本庁で小沢昌記市長、あいおいニッセイ同和損保の中島健・岩手支店長、東京海上日動の中村芳樹・盛岡支店長が協定書に署名した。

 連携事項は▽地域・暮らしの安全・安心▽防災・災害対策▽産業振興・中小企業支援▽観光振興▽農業振興▽海外展開・インバウンド対応支援――など。11月に市内で開く奥州・北上・金ケ崎・西和賀の4市町による定住自立圏の合同会議で講師を損保会社から招き、SDGs(持続可能な開発目標)セミナーを予定。インバウンドや交通安全に関した講習会なども計画する。
 奥州市が本年度進める第2期地方版総合戦略(市まち・ひと・しごと創生総合戦略)の策定に向け、民間の立場から具体的なアドバイスや全国の事例紹介を得ることも想定している。小沢市長は「行政では考えつかないところからの助言をもらえれば。末永くご指導を」と願った。
 あいおいニッセイ同和損保は全社的に地方創生プロジェクトに取り組み、県内の自治体と協定を結ぶのは5市目。中島支店長は「微力ながら災害への備えや防災に加え、情報発信力を互いに活用できれば。企業のノウハウを持って、連携していきたい」と述べた。
 東京海上日動は岩手県、宮古市と締結している。中村支店長は「当地にとって大きな意味のあるILC(国際リニアコライダー)誘致に向けても、支援・協力したい。協定はスタート。総合戦略の実現に向け共に考え、歩んでいきたい」と希望した。
 今協定の仲立ちを担った江刺の白金運輸の海鋒徹哉社長が、立会人として同席。同社のグループ会社で両損保代理店・新星興産社長も務める海鋒社長は「地方創生に関わり、市にお返しができないかと提案させてもらった。市民のお役に立てれば」と話した。
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tanko 2019-10-6 10:40

写真=ILCの安全対策について説明するKEKの道園真一郎教授

 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の安全対策を中心に、研究者らが説明する「ILC解説セミナー」は5日、前沢ふれあいセンター2階研修室で開かれた。高エネルギー加速器研究機構(KEK)の道園真一郎教授は、ILC構成機器の中で最も放射性物質が生成される「ビームダンプ」について、「装置内の水には放射性物質のトリチウム(三重水素)が蓄積するが河川などに排水せず、装置内で密閉循環して使う」と説明。実験終了後でも十分管理できる水の量であることや、トリチウムの放射能影響が及ぶ期間などを踏まえ、保管容器で保持しトリチウムが減るのを待つことになるとした。(児玉直人)

 同セミナー開催は昨年9月と今年3月に続き3回目。東北ILC準備室(室長・鈴木厚人岩手県立大学長)とKEKが主催。市内外の住民25人が参加した。説明や質問回答には道園教授のほか、東京大学素粒子物理国際研究センターの山下了特任教授ら、ILC計画を推進している研究者や県担当職員ら7人が当たった。
 道園教授は、住民不安の対象となっている放射線や放射能に重点を置き解説。放射能を持っていなかった物質が放射能を持つようになる「放射化」の定義など、安全対策を理解する上で必要な理学の基礎知識についても触れた。
 ビームダンプは、ほぼ光速に近い状態に加速された電子や陽電子を水に吸収し安全に止める装置だが、ILC構成機器の中で放射性物質が最も生成される場所。電子用と陽電子用の2基が用意され、1基当たり約50tの水(鉄道用石油タンク貨車1両分相当)で内部を満たす。生成される放射性物質は、半減期(放射能が半分になる期間)が12.3年のトリチウム。ILCを、当初計画に示された20年間休まず稼働させた場合、2基合わせて最大100兆ベクレル(0.3g)のトリチウムが蓄積されるという。
 道園教授は「排水可能な濃度まで希釈するには160万t以上の水が必要で現実的ではない。排水せず、管理された装置内で循環使用する。実験終了後も十分管理できる量なので、保管容器で保持してトリチウムが減るのを待つことになる」と説明。国が計画している「研究施設等廃棄物の埋設事業」への引き渡しも視野に入れていると紹介した。
 このほか、地震や停電時の対応についても説明。電力が失われれば、放射化を起こすビーム自体が止まるため「電源喪失で放射能事故になる心配はない」とした。
 質疑応答で住民男性の一人はトリチウム水の安全性に関して、専門家でも意見が分かれているとの話を例示し、「福島の原発事故以降、このような対策や専門家に対する信頼は崩れており、『安全だ』『不安だ』と二つの見解が示されれば、不安のほうにどうしても気持ちが傾いてしまう。安全第一でお願いしたい」と指摘。合わせて県側に「高レベル放射性廃棄物処分場にはしないと言っているが、もう少し踏み込んだ形で受け入れない姿勢を示してほしい」と注文した。
 同日は一関市川崎町でも同じ内容のセミナーが開かれた。
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tanko 2019-10-3 10:30
 北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の実現に絡み、ILC関連の技術研究拠点となっている高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市、山内正則機構長)は2日、国際分担の在り方などをまとめた提言を公表。厳重な放射線管理が求められる「ビームダンプ」と呼ばれる装置に関しては、運用実績がある欧米の研究機関と連携を図りながら設計し、安全性を確保するとした。KEK広報室によると、提言文書はすでに文部科学省に提出しているという。(児玉直人)

 提言は、KEKが設置した「ILC国際ワーキンググループ(WG)」の報告書を基にまとめた。KEKは、文部科学省が今年3月に「ILC計画に関心を持って意見交換を継続する」と政府見解を示したのを受け、国内外の素粒子研究者らによる国際WGを設置した。
 メンバーは欧・米・亜の研究者7人(うち日本人2人)。所属研究機関などの代表ではなく、個人的立場を前提に参加した。5月の立ち上げ以降、9月まで技術改良や経費、施設運営、国際分担の在り方などについて、5回の会合を開き協議。このほどKEKに報告書を提出した。
 今回公表された内容のほとんどは、ILCを推進する研究者間で検討済みの内容。研究者側の観点でプロジェクト推進の在り方をあらためて整理した意味合いが強く、正式な政府間協議が始まった際には議論のたたき台として活用されるのを見込んでいる。
 提言書には、文科省のILC有識者会議や日本学術会議の検討委員会で出された指摘事項への対応も記載された。
 このうち、実験で生成された電子や陽電子のビームを処理する装置「ビームダンプ」に関して、有識者会議や学術会議からは装置の信頼性、地震発生時の対策、ビームと反応した水の封じ込めなどに懸念が示されていた。ビームと装置内の水が反応すると放射性物質の一種「トリチウム(三重水素)」が発生。人体への影響は弱いとされるが処理が難しいため、内部の水が外部に漏れないようにするなど安全性を高めた設計にしなければいけない。
 提言書でKEKは、欧米の既存施設におけるビームダンプの運用事例を示しながら「彼らは(ILCの)ビームダンプ設計のための重要なパートナーになる可能性がある。KEKはビームダンプ施設のシステム設計を主導し、政府、業界、および科学界の協力を得ながら環境や放射線に関する安全性を確保する」と強調した。

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