人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2019-12-16 15:10

写真=国立天文台水沢で行っている研究を披露する小久保英一郎・天文シミュレーションプロジェクト長

 国立天文台水沢創立120周年記念の市民向け講演会「120年目の最新宇宙研究」は15日、水沢佐倉河の市文化会館(Zホール)で行われた。人類史上初のブラックホール撮影に成功した本間希樹所長ら水沢の地で最先端の研究を進める4人が登壇し、120年の歩みを振り返りながら地域に支えられて結果につなげてきた研究の最新を披露した。

 旧水沢緯度観測所を前身とする国立天文台水沢の創立120周年記念事業の一環として、地域の理解と支援を受けながら研究を進めてこられた感謝を伝えようと開催。市民ら約370人が聴講した。
 登壇したのは▽本間希樹・水沢VLBI観測所長▽竝木則行・RISE月惑星探査プロジェクト長▽小久保英一郎・天文シミュレーションプロジェクト長▽馬場幸栄・一橋大学社会科学古典資料センター助教――の4人。家族連れの参加もあり、4人の研究者たちが最先端研究を分かりやすく伝えた。
 旧水沢緯度観測所の歴史を振り返りながら、国立天文台水沢で行っている研究を披露した本間所長。同天文台敷地内にある直径20メートルの電波望遠鏡「VERA」は、観測能力を人間の視力に例えると「10万」に相当することや、水沢含め国内4基の望遠鏡を組み合わせて研究を進めている点などを紹介した。
 本間所長も参加しブラックホール撮影に成功した国際研究プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」では、海外の8基の望遠鏡を連動することで、視力300万に上昇させてブラックホールを捉え、人類史に残る偉業を達成した。「ブラックホールの研究はまだまだ続く。国際協力しながら、次の120年に向かって研究を続けたい」と決意を新たにした。
 小久保プロジェクト長は、同天文台が天文学専用に運用しているスーパーコンピューター(スパコン)「アテルイ?」の仕組みを解説。アテルイ?は天文学専用としては世界最速の計算処理能力を誇り、4万200のコアを総動員して宇宙が誕生し現在に至るまでという世界最大規模の計算の一つにも取り組んでいる。
 「ブラックホール撮影成功の裏側にはアテルイ?の計算もあった」と明かした小久保プロジェクト長。「望遠鏡では見えない宇宙の謎を解き明かすため、物理の法則を使ってシミュレーションするのがアテルイ?の役割」と解説した。
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tanko 2019-12-15 15:00

写真=解説パネルを除幕する関係者ら

 奥州市は、水沢星ガ丘町の国立天文台水沢キャンパス内に天文学専用スーパーコンピューター(スパコン)「アテルイ?」の解説パネルを設置した。14日、除幕式が開かれ、小沢昌記市長や本間希樹・水沢VLBI観測所長ら6人が白い幕を引いてお披露目。関係者らと共に天文学の一層の発展を願った。
 パネルは縦90センチ、横180センチ。観測所本館南側にあるスパコン建屋の前に設置した。建屋内のスパコン本体は、イベント開催時などを除き通常非公開。同観測所のホームページの敷地地図には「スーパーコンピューター室」と案内されているものの、現地にはこれといった案内板のような物はなかった。
 設置したパネルには、近未来的なデザインが施された筐体が全面に映し出され、説明文は日本語と英語で表記。中に入ることができない分、解説パネルでスパコンの概要を知ることができる。
 除幕式で本間所長は「年間2万人の来場者に、世界的な研究成果を挙げているスパコンの存在を知っていただき、地元の英雄阿弖流為にも思いを寄せてもらえれば」。市長は「解説パネルが天文学を志す子どもたちの一助になることを願う」とあいさつした。
 「アテルイ?」は、2013(平成25)年に設置されたスパコン「アテルイ」の後継機で、2018年から運用を開始している。天文学専用のスパコンとして最速の処理能力を誇り、1秒間に約3000兆回もの計算が可能。実際に確認できない天文現象をコンピューター上に再現する「シミュレーション天文学」と呼ばれる研究分野を担当し、電波望遠鏡などで宇宙を直接調べる「観測天文学」と並んで重要な役割を担っている。今年4月に公表されたブラックホール撮影の成功にも貢献した。
 「アテルイ」の名付け親でもある国立天文台の小久保栄一郎・天文シミュレーションプロジェクト長(51)は「水沢に設置するならこれしかない、という思いで名付けたので地元に親しんでもらえうれしい。これからも天文学の謎に挑み続ける」と力を込めた。
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tanko 2019-12-15 14:50

写真=創立120周年の記念式典で式辞を述べる常田佐久・国立天文台長

国立天文台水沢創立120周年記念式典は14日、水沢佐倉河のプラザイン水沢で行われた。関係者や来賓ら約200人が出席し、水沢での緯度観測開始から数えた節目を共に祝い、さらなる観測所の発展と研究の進展を願った。
 記念事業の一環で、国立天文台(常田佐久台長)などで構成する120周年記念事業実行委員会が主催した。式辞で常田台長は「天文学と関連分野の研究が進展する状況で、国立天文台は引き続き世界のリーダーの一つとして主要な役割を果たしていく。長い歴史の中の優れた成果は観測所に関わる方々の絶え間ない努力のたまものであり、地元の皆さまの支援に厚く御礼申し上げる」と述べた。
 水沢星ガ丘町に臨時緯度観測所(現・水沢VLBI観測所)が設置されて120年。今年は人類史上初のブラックホール静止画撮影成功のニュースが世界を駆け巡り、本間希樹所長らVLBI観測所の研究者らが携わったことで同観測所の名がさらに高まった。
 来賓の達増拓也知事はこのブラックホール撮影成功などを挙げながら「功績は県民の誇りであり、関係者に心から敬意を表する」とたたえた。小沢昌記市長、藤原崇衆院議員、小平桂一・元国立天文台長もそれぞれ祝辞を述べた。
 席上、長年の協力と支援に対して市に感謝状を贈呈。常田台長から小沢市長に手渡された。続いて、本間所長が1899(明治32)年開所当時の臨時緯度観測所や、Z項発見で知られる木村栄初代所長(1870〜1943)、水沢キャンパスの変遷などをプロジェクターで紹介した。
 式典後は祝賀会も行われた。
 15日には、市民向けの記念講演会「120年目の最新宇宙研究」が午後1時から水沢佐倉河の市文化会館(Zホール)で開かれる。同天文台水沢キャンパスでは、眼視天頂儀室の室内公開が行われているほか、敷地内の奥州宇宙遊学館では緯度観測所の歴史に触れる新たな企画展もスタートする。
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tanko 2019-12-14 14:30
 「国立天文台水沢」が創立し今年で120周年。前身の水沢緯度観測所初代所長で「Z項」を発見した木村栄博士の故郷金沢市には、ゆかりの地が点在する。木村博士をはじめ、近代日本で活躍した多くの秀才たちを育んだ北陸の城下町を訪ねた。
(児玉直人)


生誕地に立つ銭湯。その名も「Zささの湯」。「ささ」は木村の実家・篠木家に由来


「Zささの湯」の前に立つ生誕の地碑。1993年に金沢市が建立した


「Zささの湯」浴室外の小庭「ヒサシ展示コーナー」には、かつて立っていた石造りの初代「生誕の地碑」が移設してある


生誕の地近くにある泉野桜木神社。入り口脇に立つ標柱は木村博士が揮毫した


金沢ふるさと偉人館敷地にある胸像。水沢の木村栄記念館前の胸像と同じ丸山震六郎の作品で、金沢市内の2小学校にも胸像がある


金沢ふるさと偉人館の木村栄常設展コーナー。眼視天頂儀の実物模型もある


渡航先のフィリピンから、孫の茅晶子さん(父・茅誠司氏は元東大総長)に宛てた手紙=金沢ふるさと偉人館所蔵
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tanko 2019-12-14 14:10

写真=次期・県多文化共生推進プランの地域説明会(奥州地区合同庁舎分庁舎)

 岩手県は、次期・県多文化共生推進プラン(2020〜2024)の素案をまとめた。外国人受け入れ機会の増加や国際定期便就航など社会情勢の変化、現行プランの成果・課題などを踏まえ、施策の方向を定めて取り組みを進める。目指す将来像(基本目標)には「国際的な視野を持ち、世界と岩手をつなぐ人材が育まれ、国籍や言語、文化などの違いをともに認め、暮らすことができる岩手」を掲げた。パブリックコメント(意見公募)を経て、年度内に策定する。
(千葉伸一郎)

 現行プラン(計画期間5年)は本年度が最終年度に当たり、新たに来年度から2024年度まで5カ年のプランをつくる。県や市町村、国際交流協会、企業、学校や自治会などさまざまな主体が多文化共生に向け取り組む際の指針となる。
 現行プランの取り組みからは、日本語学習を希望する外国人県民らへの支援、医療機関の多言語対応、災害発生時の支援態勢強化、地域での外国人県民との交流機会のさらなる増加などの課題が浮かび上がった。
 新たな施策の方向は4本柱で▽地域に貢献する人材の育成と定着▽共に生活できる地域づくり▽多様な文化の理解促進▽国際リニアコライダー(ILC)プロジェクトへの対応――を盛り込んだ。
 県は今月10日から県内4会場で新プラン素案の地域説明会を実施。13日には水沢大手町の奥州地区合同庁舎分庁舎で開き、行政や商工団体関係者らが素案の内容を確かめた。
 活気あるものづくり産業と外国人技能実習、花巻空港を利用した観光客、ILC実現により想定される研究者らの居住を踏まえ、県政策地域部国際室の沢田彰弘国際監は「県南は県内でも最も多文化共生が重要になってくるエリア」と強調。多文化共生社会の実現へ向け、一層の理解を呼び掛ける。
 県は素案について、パブリックコメントを1月8日まで行っている。閲覧は県庁行政情報センターや県民室、各地区合同庁舎行政情報サブセンターなどのほか、県公式ホームページでも可能。
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tanko 2019-12-10 14:10

写真=奥州宇宙遊学館20万人目の来館者となった池田崇大君(中央)

 奥州市水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館(中東重雄館長)は8日、来館20万人を達成。節目の来館者となった水沢の市立常盤小学校2年、池田崇大君(8)に記念品などが贈られた。
 同館は、旧水沢緯度観測所時代の2代目本館を活用し、2008年4月にオープンした。2代目本館は当初、老朽化を理由に取り壊される方針だったが、熱烈な市民運動による保存が決定。国立天文台から市に無償譲渡された。大掛かりな耐震、改装工事の末、市民が気軽に自然科学を学べる場に生まれ変わった。
 NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター(大江昌嗣理事長)が指定管理者となり運営。ビデオや各種体験を通じて天文学の世界に触れられる。東北でも珍しい「4次元デジタル宇宙シアター」の上映など、最先端の技術を体感できる。北上山地に誘致計画がある素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)に関する常設展示コーナーもある。
 同館は国立天文台水沢キャンパスの敷地内にあり、毎年8月には同天文台水沢VLBI観測所などと連携し「いわて銀河フェスタ」を開催。多くの家族連れが訪れている。学校の遠足や観光などで訪れる人もおり、2014年11月には来館10万人を達成している。
 20万人目となった池田君は、2年前から月1回以上の頻度で来館するほど宇宙好き。「遊学館に来てから科学に関する本や講演に興味を持つようになった。ILCの展示が面白い」と笑顔を見せた。一緒に来館した主婦の母稔恵さん(45)=水沢東中通り=は「子どもの影響で自分も興味を持つようになり親子で楽しく館内を回っている」と笑顔を見せていた。
 記念セレモニーには、小沢昌記市長も駆け付け池田君と一緒にくす玉割り。大江理事長から記念品が手渡された。
 大江理事長は「今年はブラックホール撮影の成功もあり、市民の自然科学に対する関心も高まりつつある。皆さんの応援のおかげで開館し、ここまで続けてきた。本当にうれしく思う」と話していた。
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tanko 2019-12-8 10:30

 読書が好きで、短編やエッセーを書いていた父の影響もあり、幼いころは作家になりたかった。日本に興味を持つようになったのは、ポップカルチャーに触れたのがきっかけ。
 「Jポップを聴き、言葉の意味を知りたくて丸暗記した。中学生の時にはコンピューターを使い、文法や単語を自分で勉強した」。音楽ユニット「デイ・アフター・トゥモロー」のファンになり、最初に覚えた単語は歌詞に出てくる「僕、君、心、空」だった。
 小学3年生から高校生までは学校へ通わず、家庭に拠点を置き学習するホームスクーリングを選択。15歳の時には大学の授業を受け、日本語も学んだ。
 飛び級して17歳でインディアナ州にあるアーラム大学に入学し、2014(平成26)年にはホームステイしながら岩手大学へ短期留学した。多くの米国人が抱く日本のイメージは「人が多く都会的」というが、「違った側面も知りたい」と岩手を選んだ。
 アーラム大日本研究学科を卒業後、2016年から2年間、外国語指導助手(ALT)として田野畑村で勤務した。「岩手で印象深いのは人。日本はどこでもおもてなしの考えがあるが、岩手では自然と他の人を手助けしたり親切にしてくれたりする」
 10月に市臨時職員となり、岩手での暮らしは3カ所目。第二の故郷といえる本県での仕事に、やる気がみなぎる。「岩手には独自のアイデンティティーがあり、ユニークさを感じる。まずはどうやって奥州、岩手の魅力を海外の人に伝えられるか考えていきたい」。通訳や翻訳の仕事のほか、SNSを通じて英語で国際研究者らに国際リニアコライダー(ILC)と奥州の情報を発信するのが役目だ。
 「静かで、いろんなことを学びたい人」と自己分析。休日は、日本語の勉強や家具の整理、散歩などをして過ごす。米国に住む家族や友人と連絡を取ることも。「寂しいけれど、あなたが幸せなら」と送り出してくれた両親に感謝する。
(河東田ひかり)

 米国オハイオ州ニューアーク市出身で、4人きょうだいの長女。山形県で英会話教室の講師を務めた経験もある。音楽ユニット「水曜日のカンパネルラ」の大ファンで、いつかライブへ行くのが夢。水沢在住。
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tanko 2019-12-1 14:20

写真=屋根が開放され、観測当時の様子を垣間見ることができる旧眼視天頂儀室

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の前身、臨時緯度観測所設置から120年の節目を祝う記念事業が11月30日、水沢星ガ丘町の同天文台水沢キャンパスで始まった。敷地内の奥州宇宙遊学館では、緯度観測所の歩みを写真や記事で振り返る展示を行っているほか、旧眼視天頂儀室(国登録有形文化財)を公開しており、親子連れらが興味深そうに見学している。
 1898(明治31)年にドイツで開かれた国際(万国)測地学協会総会で、地球の緯度変化の謎を解明する国際緯度観測事業の実施が決定。翌年、水沢のほか、イタリアや米国など北緯39度8分線上などに観測所が設置され、1899年12月11日、初代所長・木村栄による観測がスタートした。
 旧眼視天頂儀室は、眼視天頂儀1号機を使った国際観測網の一環として、緯度観測が行われた場所だ。観測開始から3年後、木村所長が「Z項」を発見し、天文学史に偉大な功績を残した。国の登録有形文化財に2017(平成29)年10月27日に指定された。
 鉄骨造平屋建てで切り妻造り鉄板葺き、建築面積15平方メートル。内部に石造りの天頂儀台が設置されている。観測のため屋根がレール上を移動して上部が開く仕組みになっている。白く塗られた外壁は、空気循環を意図した鉄製鎧板で造られている。
 12月22日まで、建物の外から中が見られるよう公開している。天頂儀台には眼視天頂儀を模したパネルを設置し、普段は閉じている屋根も開き、観測時の状態を再現した。
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tanko 2019-11-25 10:30
 岩手県は、人口減少に歯止めをかけるための目標や施策を盛り込む次期県ふるさと振興総合戦略(まち・ひと・しごと創生総合戦略)の素案をまとめた。人口減の要因となっている若年層の県外転出を抑止し、出生率の向上などを図る。計画期間は2020(令和2)年度から5カ年。来年2月に最終案を公表し、3月の策定を見込む。

 2015(平成27)年度に策定し本年度で終了する現行計画は、岩手で「働く」「育てる」「暮らす」の3本柱と10のプロジェクトを実施。自動車や半導体関連の産業集積などの成果があったが、全国的な東京一極集中の流れは加速しているのが実情という。第2期となる2020年度からは、「岩手とつながる」を加えた4本柱に基づく12の戦略に加え、新たに4項目の分野横断の取り組みを行う。
 4本柱のうちの「働く」は、商工業・観光振興、農林水産業振興、移住・定住促進の各戦略。2018年に5215人だった社会減の「ゼロ」を目指す。目標年次は今後設定する。
 「育てる」では、出生率を1.41(2018年)から1.58以上(2024年)に向上させる。若者の就労、出会い・結婚、妊娠・出産、子育てまで切れ目のない支援を行う。「暮らす」は、医療・福祉や文化、教育などの基盤を強化し、地域の魅力向上を図る。国民所得と県民所得水準の乖離縮小を目指し、国民所得(100)に対して県民所得を88.7(2016年)から90.0以上(2022年)にする目標を掲げる。
 新たに設定した「つながる」は、「関係人口や交流人口の拡大を図り、岩手と多様な形でつながることのできる社会を目指す施策」が基本目標。観光や文化・スポーツを通じた交流が広がる地域づくりも行う。目標値や目標年次などは検討中。
 4つの分野横断戦略は、ILC(国際リニアコライダー)誘致実現による多文化共生の国際研究・交流拠点地域形成▽北上川流域産業・生活高度化▽新しい三陸創造▽北いわて産業・社会革新――。世界共通目標のSDGs(持続可能な開発目標)推進なども重視する。
 県は、県内4地区で次期総合戦略素案の説明会を開催。このほど水沢大手町の奥州地区合同庁舎分庁舎で県南地区説明会を開き、市町村の担当者や議員、機関・団体の関係者約30人が出席した。
 出席者からは「社会減を防ぐために、工業ばかりでなく他産業の企業誘致などにも力を入れてほしい」との意見もあった。県政策推進室の村上宏治政策監は「県外流出が多いのは18歳前後と22歳前後。22歳前後の社会減は女性が大きく、魅力を感じてもらえるような産業振興にも取り組む必要がある」と応じた。
 本県人口は1997(平成9)年以降減少し続け、ピークの1985(昭和60)年と比べ今年は14%減の123万人。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年に96万人、2115年に21万人にまで落ち込む。ただ、現在の出生率や社会減の継続を前提とする推計ため、今後の対策が重要だ。
 県は素案について、パブリックコメント(意見募集)を12月18日まで行う。素案の閲覧は県庁行政情報センター、県庁県民室、各地区合同庁舎行政情報サブセンターなどのほか、県公式ホームページでも可能。
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tanko 2019-11-12 6:30

インタビューに応じる佐倉統教授=金沢市内

 金沢工業大学で9日から10日まで開かれた科学技術社会学会。国際リニアコライダー(ILC)の誘致を巡る地域の動きを取り上げた東京大学大学院生の菅原風我さん(24)=水沢出身=の指導教員で、同大学院情報学環の佐倉統教授(59)は、胆江日日新聞社のインタビューに応じた。ILC誘致活動に見られる問題点や課題をさまざまな学術分野の事例を交えながら持論を展開。科学技術と社会とのあるべき関係について説いた。(聞き手・児玉直人)

 ――ILCについては予算の問題と共に、国民理解の必要性が何度も指摘されてきた。今回の学会参加者も「聞いたことはあるが……」という程度だ。岩手、宮城の候補地近辺とは、認知度が大きく異なる

 基本的な研究意義をしっかり説明し理解してもらうのが、まずは出発点だと思う。ところが、なかなかそういう話になっていないように見える。研究の中身の難しさもあるだろうが、「ILC」という名前をとりあえず知ってもらうこと、一般市民や経済界にとって好印象を抱きやすい波及効果の周知に力を注いでいるように見える。研究本体ではなく、周辺だけが盛り上がっているという印象だ。


 ――菅原さんの研究タイトルに「hype(ハイプ)」という言葉が出てきた

 例えば、物質を分子レベルで制御する「ナノテクノロジー」の例を見ると、この言葉を聞いた、専門家ではない一般市民や経済界の人たちは「こんなことができる」「何でも万能にできるぞ」など、空理空論がどんどん盛り上がっていく。技術的な問題や危険性などを熟考するより、思いばかりが過熱して先に進んでしまう。これを一般に「hype」と言っている。最近よく耳にするAI(人工知能)も、実はその傾向にある。


 ――候補地の地元や素粒子物理の国際会議の場などにいると、誘致活動は盛り上がっているように見える。地元外あるいは異分野からはどのように映っているか

 計画の進み方を客観的に見ると、ILCの実現はかなり難しい状況にあるのではと思う。理由の一つとして、予算が桁違いに大きい。いくら日本が半分だけを受け持つとはいえ、何千億円という規模。普通の大型プロジェクトでも数百億円。一番多くて1000億円。その4倍5倍超のプロジェクト、その時点で相当実現が難しい。
 素粒子物理の研究者たちは実現を信じているだろうが、その周辺にいる人たちからすると「いや難しいでしょ」と見ている専門家、行政関係者は少なくないと思う。
 またILCは完成させるまでだけではなく、運営する上でもお金がかかる。建設するかしないかの現段階でさえ、ゴタゴタしているような計画が何十年も続くかというと、それは難しいだろうと私は思う。それだけのエネルギー、端的に言えばお金が続かない。日本が何十年もILCを支え続ける財力はないと思う。「ちょっと頑張ればなんとか……」というレベルなら、もう少しすんなりと進んでいたと思うが、そうなっていないのは、いろいろと無理があるということだと思う。


 ――ILCを周知して国民理解を得ようと、推進派の研究者サイドは手の込んだPRを展開している

 例えばラグビーワールド杯は、日本代表が頑張っていい成績を出したことであの盛り上がりになった。やはり、関係する研究者や地元関係者だけに限らず、国民の多くの人たちから見て、中身が伴ってしっかりしているなと感じなければいけないのでは。中身とは関係ない付随的なキャラクターや漫画とのコラボ、タレントやアーティストを招いたイベントなど、周りだけが盛り上がっている。実現可能性が不確実な中で、本末転倒だと思う。私はそれは国民理解とは言わないと思う。


 ――ILCの国民理解の中には、当然リスクを知るというのも含まれてくると思う

 その通り。リスクも含めて「理解」だ。
 生命科学や医学の分野の話になるが、通常の手術でもそうだし、新しい治療法を臨床試験する時には、必ずインフォームドコンセント(医師と患者との十分な情報を得た上での合意)を行うことが厳重に定められている。生命科学、医学の世界では人体実験や医療ミスに代表されるように、不幸な歴史が長くあった。その反省の上に立って、こうしたルールが確立している。「根治はできるが、こういう失敗もあるかもしれない」という具合にメリットとデメリットとを説明して患者さんの価値観を合わせて判断してもらう。
 ILC誘致にも共通する部分がある。原発よりリスクは大きくないと論じる人もいるだろうが、だからといって積極的に説明しなくていいというわけではない。経済波及効果のようなプラスの面だけでなく、リスクも含めて総合的に地元住民に説明しなくてはいけない。地元の理解を頂く上でこれは大前提だ。
 そこをすっぽかしてここまできてしまったのは、申し訳ない言い方だが地元とのコミュニケーションの「イロハのイ」を間違えていると思う。


 ――小学校や中学校で行われているILC出前授業ではリスクの説明がほとんどない。何も疑わず「ILCはすごいものだ」と感じてしまうだろう

 出前授業をするにしても、ILCのことだけを説明するというのは問題があると思う。物理や理科の話をして、その上で「ILC計画というものがある」というのが筋だと思う。出前授業の目的が、「ILCの実現を目指すため」「子どもたちにILCを知ってもらうため」というのであれば、それは出前授業ではなく「宣伝活動」になっているのではないか。


 ――候補地周辺の人たちがILCを巡る動向を聞くのは、推進当事者側からが圧倒的に多い。他の分野の学者から客観的にILC計画について分析し、課題点などを地域や推進サイドにフィードバックするようなことはできないものか

 学術会議があれだけ厳しい判断を下した以降も、候補地の地元では今なお誘致活動が盛り上がっているということすら、他分野の先生たちは認知していないと思う。
 科学技術が大型化しており、膨大な予算がつぎ込まれるとなると、岩手や東北だけの問題、素粒子物理だけの問題ではなくなってくる。いろんな分野の研究者、生命倫理、医学倫理、科学ジャーナリズムなどの専門家がウオッチしていくべき問題だったと思う。
 ただ、何らかの形でILC計画や誘致に携わったり、調べたりしている人でなければ議論できる情報を持ち合わせていない。広い視点から意見が言えるのは、学術会議の審議で委員を務められたような方でないと難しいかもしれない。とはいえ、地元の方々に多様な学術からの見解を届ける意義はあると思う。

 佐倉統氏(さくら・おさむ)1960(昭和35)年東京生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。三菱化成生命科学研究所、横浜国立大学経営学部、ドイツ・フライブルク大学を経て、2000年より東京大学大学院情報学環。進化生物学の理論を軸足に、生物学史、科学技術論、科学コミュニケーション論など幅広く研究し、現代社会と科学技術の在り方を探究している。

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