人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2019-11-25 10:30
 岩手県は、人口減少に歯止めをかけるための目標や施策を盛り込む次期県ふるさと振興総合戦略(まち・ひと・しごと創生総合戦略)の素案をまとめた。人口減の要因となっている若年層の県外転出を抑止し、出生率の向上などを図る。計画期間は2020(令和2)年度から5カ年。来年2月に最終案を公表し、3月の策定を見込む。

 2015(平成27)年度に策定し本年度で終了する現行計画は、岩手で「働く」「育てる」「暮らす」の3本柱と10のプロジェクトを実施。自動車や半導体関連の産業集積などの成果があったが、全国的な東京一極集中の流れは加速しているのが実情という。第2期となる2020年度からは、「岩手とつながる」を加えた4本柱に基づく12の戦略に加え、新たに4項目の分野横断の取り組みを行う。
 4本柱のうちの「働く」は、商工業・観光振興、農林水産業振興、移住・定住促進の各戦略。2018年に5215人だった社会減の「ゼロ」を目指す。目標年次は今後設定する。
 「育てる」では、出生率を1.41(2018年)から1.58以上(2024年)に向上させる。若者の就労、出会い・結婚、妊娠・出産、子育てまで切れ目のない支援を行う。「暮らす」は、医療・福祉や文化、教育などの基盤を強化し、地域の魅力向上を図る。国民所得と県民所得水準の乖離縮小を目指し、国民所得(100)に対して県民所得を88.7(2016年)から90.0以上(2022年)にする目標を掲げる。
 新たに設定した「つながる」は、「関係人口や交流人口の拡大を図り、岩手と多様な形でつながることのできる社会を目指す施策」が基本目標。観光や文化・スポーツを通じた交流が広がる地域づくりも行う。目標値や目標年次などは検討中。
 4つの分野横断戦略は、ILC(国際リニアコライダー)誘致実現による多文化共生の国際研究・交流拠点地域形成▽北上川流域産業・生活高度化▽新しい三陸創造▽北いわて産業・社会革新――。世界共通目標のSDGs(持続可能な開発目標)推進なども重視する。
 県は、県内4地区で次期総合戦略素案の説明会を開催。このほど水沢大手町の奥州地区合同庁舎分庁舎で県南地区説明会を開き、市町村の担当者や議員、機関・団体の関係者約30人が出席した。
 出席者からは「社会減を防ぐために、工業ばかりでなく他産業の企業誘致などにも力を入れてほしい」との意見もあった。県政策推進室の村上宏治政策監は「県外流出が多いのは18歳前後と22歳前後。22歳前後の社会減は女性が大きく、魅力を感じてもらえるような産業振興にも取り組む必要がある」と応じた。
 本県人口は1997(平成9)年以降減少し続け、ピークの1985(昭和60)年と比べ今年は14%減の123万人。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年に96万人、2115年に21万人にまで落ち込む。ただ、現在の出生率や社会減の継続を前提とする推計ため、今後の対策が重要だ。
 県は素案について、パブリックコメント(意見募集)を12月18日まで行う。素案の閲覧は県庁行政情報センター、県庁県民室、各地区合同庁舎行政情報サブセンターなどのほか、県公式ホームページでも可能。
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tanko 2019-11-12 6:30

インタビューに応じる佐倉統教授=金沢市内

 金沢工業大学で9日から10日まで開かれた科学技術社会学会。国際リニアコライダー(ILC)の誘致を巡る地域の動きを取り上げた東京大学大学院生の菅原風我さん(24)=水沢出身=の指導教員で、同大学院情報学環の佐倉統教授(59)は、胆江日日新聞社のインタビューに応じた。ILC誘致活動に見られる問題点や課題をさまざまな学術分野の事例を交えながら持論を展開。科学技術と社会とのあるべき関係について説いた。(聞き手・児玉直人)

 ――ILCについては予算の問題と共に、国民理解の必要性が何度も指摘されてきた。今回の学会参加者も「聞いたことはあるが……」という程度だ。岩手、宮城の候補地近辺とは、認知度が大きく異なる

 基本的な研究意義をしっかり説明し理解してもらうのが、まずは出発点だと思う。ところが、なかなかそういう話になっていないように見える。研究の中身の難しさもあるだろうが、「ILC」という名前をとりあえず知ってもらうこと、一般市民や経済界にとって好印象を抱きやすい波及効果の周知に力を注いでいるように見える。研究本体ではなく、周辺だけが盛り上がっているという印象だ。


 ――菅原さんの研究タイトルに「hype(ハイプ)」という言葉が出てきた

 例えば、物質を分子レベルで制御する「ナノテクノロジー」の例を見ると、この言葉を聞いた、専門家ではない一般市民や経済界の人たちは「こんなことができる」「何でも万能にできるぞ」など、空理空論がどんどん盛り上がっていく。技術的な問題や危険性などを熟考するより、思いばかりが過熱して先に進んでしまう。これを一般に「hype」と言っている。最近よく耳にするAI(人工知能)も、実はその傾向にある。


 ――候補地の地元や素粒子物理の国際会議の場などにいると、誘致活動は盛り上がっているように見える。地元外あるいは異分野からはどのように映っているか

 計画の進み方を客観的に見ると、ILCの実現はかなり難しい状況にあるのではと思う。理由の一つとして、予算が桁違いに大きい。いくら日本が半分だけを受け持つとはいえ、何千億円という規模。普通の大型プロジェクトでも数百億円。一番多くて1000億円。その4倍5倍超のプロジェクト、その時点で相当実現が難しい。
 素粒子物理の研究者たちは実現を信じているだろうが、その周辺にいる人たちからすると「いや難しいでしょ」と見ている専門家、行政関係者は少なくないと思う。
 またILCは完成させるまでだけではなく、運営する上でもお金がかかる。建設するかしないかの現段階でさえ、ゴタゴタしているような計画が何十年も続くかというと、それは難しいだろうと私は思う。それだけのエネルギー、端的に言えばお金が続かない。日本が何十年もILCを支え続ける財力はないと思う。「ちょっと頑張ればなんとか……」というレベルなら、もう少しすんなりと進んでいたと思うが、そうなっていないのは、いろいろと無理があるということだと思う。


 ――ILCを周知して国民理解を得ようと、推進派の研究者サイドは手の込んだPRを展開している

 例えばラグビーワールド杯は、日本代表が頑張っていい成績を出したことであの盛り上がりになった。やはり、関係する研究者や地元関係者だけに限らず、国民の多くの人たちから見て、中身が伴ってしっかりしているなと感じなければいけないのでは。中身とは関係ない付随的なキャラクターや漫画とのコラボ、タレントやアーティストを招いたイベントなど、周りだけが盛り上がっている。実現可能性が不確実な中で、本末転倒だと思う。私はそれは国民理解とは言わないと思う。


 ――ILCの国民理解の中には、当然リスクを知るというのも含まれてくると思う

 その通り。リスクも含めて「理解」だ。
 生命科学や医学の分野の話になるが、通常の手術でもそうだし、新しい治療法を臨床試験する時には、必ずインフォームドコンセント(医師と患者との十分な情報を得た上での合意)を行うことが厳重に定められている。生命科学、医学の世界では人体実験や医療ミスに代表されるように、不幸な歴史が長くあった。その反省の上に立って、こうしたルールが確立している。「根治はできるが、こういう失敗もあるかもしれない」という具合にメリットとデメリットとを説明して患者さんの価値観を合わせて判断してもらう。
 ILC誘致にも共通する部分がある。原発よりリスクは大きくないと論じる人もいるだろうが、だからといって積極的に説明しなくていいというわけではない。経済波及効果のようなプラスの面だけでなく、リスクも含めて総合的に地元住民に説明しなくてはいけない。地元の理解を頂く上でこれは大前提だ。
 そこをすっぽかしてここまできてしまったのは、申し訳ない言い方だが地元とのコミュニケーションの「イロハのイ」を間違えていると思う。


 ――小学校や中学校で行われているILC出前授業ではリスクの説明がほとんどない。何も疑わず「ILCはすごいものだ」と感じてしまうだろう

 出前授業をするにしても、ILCのことだけを説明するというのは問題があると思う。物理や理科の話をして、その上で「ILC計画というものがある」というのが筋だと思う。出前授業の目的が、「ILCの実現を目指すため」「子どもたちにILCを知ってもらうため」というのであれば、それは出前授業ではなく「宣伝活動」になっているのではないか。


 ――候補地周辺の人たちがILCを巡る動向を聞くのは、推進当事者側からが圧倒的に多い。他の分野の学者から客観的にILC計画について分析し、課題点などを地域や推進サイドにフィードバックするようなことはできないものか

 学術会議があれだけ厳しい判断を下した以降も、候補地の地元では今なお誘致活動が盛り上がっているということすら、他分野の先生たちは認知していないと思う。
 科学技術が大型化しており、膨大な予算がつぎ込まれるとなると、岩手や東北だけの問題、素粒子物理だけの問題ではなくなってくる。いろんな分野の研究者、生命倫理、医学倫理、科学ジャーナリズムなどの専門家がウオッチしていくべき問題だったと思う。
 ただ、何らかの形でILC計画や誘致に携わったり、調べたりしている人でなければ議論できる情報を持ち合わせていない。広い視点から意見が言えるのは、学術会議の審議で委員を務められたような方でないと難しいかもしれない。とはいえ、地元の方々に多様な学術からの見解を届ける意義はあると思う。

 佐倉統氏(さくら・おさむ)1960(昭和35)年東京生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。三菱化成生命科学研究所、横浜国立大学経営学部、ドイツ・フライブルク大学を経て、2000年より東京大学大学院情報学環。進化生物学の理論を軸足に、生物学史、科学技術論、科学コミュニケーション論など幅広く研究し、現代社会と科学技術の在り方を探究している。
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tanko 2019-11-12 6:00

写真=ILC誘致を巡る熱狂について語る菅原風我さん=金沢工業大学

 【石川県野々市市=児玉直人】素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致活動を検証した複数の研究成果が10日、金沢工業大学で開かれた科学技術社会論学会(会長=調麻佐志(しらべ・まさし)・東京工業大学教授)で発表された。このうち、東京大学大学院学際情報学府修士課程の菅原風我(ふうが)さん(24)=水沢出身=は、誘致活動の盛り上がりの背景を探った。ビッグサイエンス(巨大科学)施設の誘致活動が、地方行政や議会、産業界、教育現場も巻き込みながら、なぜこれほどまで盛り上がっているのか――。帰郷した際に実施した地元での聞き取り調査、報道記事の分析などを基に「熱狂形成」に至った流れと、そこに潜む課題などを掘り起こし、ビッグサイエンスと地域社会の在り方に一石を投じた。【社会面に関連】

 同学会は、科学技術と社会の間に生じるさまざまな問題を対象に学術研究を行い、その成果を広く社会で共有しようと2001年に発足。学術会議が指定する「協力学術研究団体」の一つ。
 菅原さんは「科学技術と地方行政」をテーマにしたグループセッションで登壇。「熱狂(hype(ハイプ))の形成―ILC誘致の事例から」と題し、研究成果を述べた。約40人が聴講した。
 菅原さんが帰郷した際、「ILCさえ決まれば、水沢は仙台をも超える人口を抱える国際研究都市になる」と立ち寄った喫茶店の店主から聞いた話が今回の研究のきっかけ。
 ILC計画や北上山地への誘致活動自体はある程度知ってはいたが、全国的認知度はさして高くない。メディアの取り上げ方も、一部地方紙とそれ以外の地方紙、全国紙では扱い量だけでなく、論調も大きく異なっているなど、地域と首都圏でのILCの見え方の違いに気付いた。さらに、誘致実現を盛り上げる声の一方で、日本学術会議や、2014(平成26)年から約4年間かけ文科省が設置した有識者会議では慎重さがにじみ出る見解が続出していた。
 菅原さんは、岩手、宮城という地域、そして素粒子物理学コミュニティーという、限られた分野を中心に起きている「熱狂」のプロセスを読み解くことで、巨大科学と地域コミュニケーションの在り方を探れるのではないかと考えた。
 菅原さんが演題に示した「hype」とは、学術用語として使う場合「科学技術に必要な資源(人、もの、資金)を調達する役割を担い、将来像を形作るもの」と定義されている。「熱狂」「誇大宣伝」とも訳される。
 「期待と熱狂は地続きだ。過去に抱いた期待は、現在の科学技術の進展を評価する物差しにもなる。期待通りにならなかった場合、結果としてそれは『誇大宣伝』になってしまい、それまで誘致に携わっていた人たちの信頼関係や評判を落とすことにも成り得る」と菅原さんは指摘した。ただし、iPS細胞(人工多能性幹細胞)のように科学への期待が、その分野の発展に寄与する例もあると説明した。
 菅原さんは「熱狂はどんな科学技術でも起こりうること。だが、過剰な熱狂によって生じた誘致や広報周知等に投じたコストは、いずれ地域や納税者である一般市民が負担することになる。地域社会や一般市民が、特定の科学計画や事象に対し、さまざまな方向からの見解に触れられる機会が設けられるのが大切。その一つの手段が、科学技術コミュニケーションだと思う」と主張した。
 同日は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙機構の横山広美教授、一方井(いっかたい)祐子研究員が、「ILCの認知度調査から見える課題」と題し発表した。

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立ち止まり再考を
 【解説】「若い大学院生が学会で発表した程度」と、軽く受け流すべきではない。誘致に携わるすべての人、そしてILC誘致を報じている私たちメディア関係者は、ビッグサイエンスと地域社会との関わり方について、冷静に考える時期に来ていると認識すべきだ。
 記事後段に触れた誘致や広報周知のために投じたコストについて、これまで関係する地方議会ではどれだけ是々非々の議論が尽くされてきただろうか。誘致実現の可能性を確認するような質疑が目立ち、関連予算として公費が年々投じられてきた感がある。直接言われたわけではないにしても、ILC計画を推進する研究者側の「言われるがまま」に事を進めてはいないか。立ち位置を見失ってはいけない。
 確かに疲弊する地域社会にあって、ILC計画は夢のプロジェクトのように輝いて見えているのかもしれない。しかし、誘致活動の在り方を客観的、批判的な検証を十分にしてきただろうか。予算規模の大小を口にする人がいるかもしれないが、市民、県民の血税であることには変わりない。この先もとりあえずILCと付き合うといった身構えに、納税者は納得するだろうか。
 名だたる国会議員や地方自治体の首長、地域の名士たちがこぞって「ウエルカム」を強調し、先に仙台で開かれたILC関連の国際会議では「地域社会から強い支持を得ている」と国内外の研究者たちが宣言した。
 そんな「アウェー感」漂う中、学術的見解も交えながら勇気ある一石を投じた菅原さん。多くの学問では「疑うこと」の大切さが唱えられている。菅原さんの母校の県立水沢高校はじめ、胆江地区の小中高校ではILCの出前授業を受けた児童生徒が多数いる。今回の“先輩”の姿勢を子どもたちはどう感じただろうか。(児玉直人)
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tanko 2019-11-4 9:10

写真=ILC建設候補地を視察するジェフリー・テイラー氏(中央)(一関市大東町大原)

 高エネルギー物理分野の組織「国際将来加速器委員会(International Committee for Future Accelerators=ICFA(イクファ))」議長のジェフリー・テイラー氏(オーストラリア、メルボルン大学教授)は3日、一関市大東町大原地区を訪れ、素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の候補地を視察した。テイラー氏は巨額コストが実現の課題になっていると認識しながら、「(日本政府にとって)大きな判断になるだろうが、とてもいい投資になると思う」と述べた。

 ICFAは、高エネルギー物理学界で影響力のある世界主要加速器研究所の所長や研究者の代表らで構成。ILCのような高エネルギー加速器研究施設の建設や運用、将来計画などに関する国際協力体制の在り方を協議している。
 テイラー氏は、10月28日から今月1日まで仙台市で開かれたILC計画に関連した国際会議「LCWS2019」に参加するため来日。本県には初めて訪れた。
 大原地区の視察場所は、「実験ホール」と呼ばれる巨大地下空間の整備を想定している場所の付近。運用初期段階では全長約20kmの施設規模を計画しているが、その中間地点に当たる。
 東北大学大学院の佐貫智行准教授が実験施設の位置関係などを説明。テイラー氏は「とても自然が美しい。何よりも、ここの地質はILCに適切なものだと思った」と評価。「以前から承知していたが、ILC計画が地元の方々によく知られていることをあらためて実感した。とてもいい印象を受けている」と述べた。
 この日は、今年3月に閉鎖した「NECプラットフォームズ一関事業所」跡地も視察。JR一ノ関駅東側に広がる工場跡地で、ILC関連施設の建設地として活用する構想もある。テイラー氏は「とても広大な敷地で、駅の隣にあるのでアクセスが良いと感じた。県や一関市の方からは、地元の中小企業による加速器関連産業参入の取り組みについても聞いた。中小企業と大手企業とのパートナーシップは重要になってくるだろう」と話していた。
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tanko 2019-11-2 11:30
 一関市を拠点に活動している市民団体「ILC誘致を考える会」は、ILC(国際リニアコライダー)の国内誘致反対の姿勢を明確にした。仙台市で開かれた国際会議「LCWS2019」に合わせ、ILCの日本誘致を断念するよう国内外の研究者らに訴えた。
 2017(平成29)年に発足した同会は、実験で生じる放射性物質の安全管理、メリットを強調する誘致運動の在り方に疑問を呈してきた。ただ、会の内部には「学術研究そのものを全面否定しているわけではない」「賛否論争で地域を二分化する状況は好ましくない」といった声もあり、組織としては「慎重派」という姿勢で研究者や行政側の対応を見極める活動をしてきた経緯がある。
 反対を明確化するに至った理由について、同会は「地元はもろ手を挙げて賛成しているというニュアンスで情報発信されている。LCWSに出席する国内外の研究者に『少なくともそれは違う』と伝える必要があった」などと説明。実験過程で生成される放射性物質「トリチウム(三重水素)」の安全性や自然環境への影響に不安があり、高レベル核廃棄物処分場建設の足掛かりになる懸念も拭い切れていないとしている。さらに、地域の小中高生らを巻き込んだ誘致活動が行われている点も問題視し、日本誘致反対の意思を示した。
 同会はLCWS初日の10月28日、会場の仙台国際センター前で誘致反対の意思を示す活動を展開。反対理由などをまとめた日英併記の文書を国内外の研究者らに配布した。
 文書は、LCWSを主催するリニアコライダー・コラボレーション(LCC)の最高責任者、リン・エバンス氏=ロンドン・インペリアルカレッジ教授=にも会議の関係者を通じ届けられた。LCWSの広報担当によると、エバンス氏は内容を真摯に受け止めており、ILCに対する理解に向けた今後の対応について検討しているという。
 同会の原田徹郎(てつお)共同代表は「会員の中には、以前からILC誘致に反対している人もいるが、学術研究そのものには理解を示す人もいる。状況を見ながら対応を考えていくが、少なくともトリチウム生成や自然への影響、核廃棄物処分場への転用、子どもを利用した誘致活動には疑念が残る。それらを理由に『日本誘致は反対』の姿勢を明確にした」と話している。
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tanko 2019-11-2 11:10
 国際リニアコライダー(ILC)計画を推進する国内外の研究者らによる国際会議「LCWS2019」は1日、会場の仙台国際センターで5日間の日程を終了した。最終日は、会議に出席した研究者らによる「仙台宣言」が公表され、ILC実現に向けた強い意志を国内外に発信した。
 LCWSは素粒子物理学者らで構成する国際組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」が主催。ILCに関わる技術研究の発表や欧米での取り組み状況について、情報交換などが行われた。期間中は岩手、宮城を中心とした誘致団体、加速器関連産業への参入を目指す企業によるPR活動も展開された。
 「仙台宣言」は▽ILC建設の重要性について再確認▽設計が成熟し建設準備が整っていることの明示▽地域社会から強い支持を得ている▽(研究者は)ILC成功に向け力を尽くす――といった趣旨の4項目から成る。
 このうち、地域社会からの支持に関しては「日本の国会議員の力強く絶え間ない支援に感謝している。会議の期間を通じ、特に東北地方のコミュニティーや産業界からILC実現への強い支持と熱意を感じた」としている。
 LCWS2019現地組織委員会委員長を務めた、東北大学大学院の山本均教授は「ILC実現に向け、しっかりやっていく意思を表明できた。仙台宣言のアナウンスは、今回の会議の大きな成果だ」と強調。仙台宣言を基にした政府への働き掛けについては「具体的にまだ決めていない」としながら、「日本だけでなく、世界中の研究者がやる気満々。政府が前に進むなら、われわれは準備ができている。一緒に前に進もうと伝えたい」と話した。
 最終日は、東北ILC推進協議会が主催する講演会「ILCへの国内外からの期待」も行われ、国際将来加速器委員会のジェフリー・テイラー議長(メルボルン大教授)と、高エネルギー加速器研究機構の山内正則機構長が登壇した。テイラー議長は3日、一関市大東町大原を訪れ、ILC建設候補地を視察する予定だ。
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tanko 2019-11-2 11:00

国内外の研究者に「さらなるコスト削減」を求めた、ILC議連幹事長の塩谷立氏=仙台国際センター大ホール

 【仙台市=児玉直人】北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致実現に関連し、超党派国会議員で組織するILC議連幹事長を務める自民党の塩谷立氏=衆院静岡8区=は1日、仙台市内で講演し、ILC計画を推進する国内外の研究者らに「さらなるコスト削減を実現してほしい」と要請した。日米欧の政府担当者間での議論の場が設けられているなど、日本側の取り組み状況を説明しながら、「ラグビーワールドカップ、来年開催の東京オリンピック・パラリンピックに続く人類への貢献として、未来を切り開くILCの実現に向けて共に頑張ろう」と呼び掛けた。

 塩谷氏は同日まで仙台国際センターで開かれていた、素粒子物理学者らによる国際会議「LCWS(International Workshop on Future Linear Colliders)2019」で、特別講演の形で登壇。会議に出席した国内外の研究者らを前に、直近のILC誘致を巡る国内動向を説明した。
 現在、日本学術会議(山極寿一会長)では、大型科学計画などに関する方針を示す次期「マスタープラン(基本計画)」の策定作業が進められている。大型科学計画の実現にはマスタープランに登載された上で、文部科学省の審議会で優先度を明らかにする「ロードマップ」への位置付けが通常の手順とされている。
 一方、海外に目を向けると、ILC計画への国際協力体制を左右するヨーロッパの次期素粒子物理戦略の策定作業も行われている。塩谷氏は「われわれは、この二つの議論の行方を注視している」と述べた。
 「国際研究機関を世界とともに実現し、リード役を日本が担うというのは、これまでになかったことへの挑戦。立法府と行政府が主体的に取り組む新たなプロセスを作り、試行錯誤しながら進んできた。一度に、とはいかない面もあるが、いよいよ国際舞台での展開が始まっている」と塩谷氏。「政治、立法府の立場から準備予算の措置と建設財源議論に向けた活動をさらに本格化していく」と強調した。
 その上で「ここに参加している研究者の皆さんにお願いしたいのは、さらなるコスト削減の実現。財源確保が大きな課題とされている中、日々目覚ましい技術の革新によって、さらなるコスト削減の研究議論の進展を期待している」と呼び掛けた。

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