人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

天文台水沢観測所の予算削減問題、影響度示す画像で検証

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tanko 2020-8-6 16:50


日中韓8局の電波望遠鏡で観測したブラックホールの「ジェット」の様子(写真上)。同じ観測データの中から日本の入来、石垣、小笠原の3局のデータを外し再構成した画像(写真下)。精度が大幅に落ちてしまうのが分かる=(C)EAVN collaboration

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の秦(はだ)和弘助教は、日中韓3国の国際観測で得られたデータを使い、予算が削減された場合に発生する研究への影響を検証した。本年度当初に削減された予算が追加されないままの観測体制では、観測レベルが10〜20年前に逆戻りするほど精度が悪化することが分かった。秦助教は「海外の研究者や大学院生は、高精度の観測データを期待して研究活用をしている。仮に日本の都合で急に運用停止となっていたら、研究の質は格段に下がり、国際的信用は大きく失墜していただろう」と指摘。120年以上にわたり水沢地域にあり続ける同観測所は、今なお世界の天文学研究で大きな役割を果たしていることを明らかにした。
(児玉直人)

 秦助教が検証に使ったのは、国際プロジェクト「東アジアVLBIネットワーク(EAVN)」によって撮影したブラックホールの画像。本間所長らが直接撮影に成功し話題となったのと同じブラックホールを観測している。日中韓の電波望遠鏡8局を連携させるEAVNは、より広い範囲を観測しており、ブラックホールから噴き出している「ジェット」という現象を捉えている。
 8局のうち4局は、水沢など同観測所が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA(ベラ))で構成。8局による観測データを基にした画像は、ブラックホールの中心部から帯状に噴き出すジェットの形や大きさなどが詳しく確認できる。
 秦助教は予算削減の影響を検証すべく、入来(鹿児島)、石垣(沖縄)、小笠原(東京)の3局のデータを意図的に除去し、画像を再構成。結果、ブラックホールがあると思われる部分は楕円形にぼんやり輝き、その周囲は薄いオレンジ色の幕が掛かったようになった。
 データを除去した3局は、追加予算措置がなければ6月末にも運用停止になる望遠鏡だった。秦助教は「人間の視力に当たる解像度が2倍以上悪くなり、ピンボケになったため、ブラックホールの中心部がぼんやりとした楕円形になった。感度の低下で雑音(ノイズ)が入り込み、周囲のもやもやとした幕のような形になった。これでは、ジェットの姿が分からない」と説明する。
 同観測所の施設名にもなっている「VLBI」は、離れた電波望遠鏡を連動させ同じ天体を観測する技法。「EAVN8局の中でも、VERAは東端と南端のほとんどをカバーしている。ここが抜けると大幅に観測の質が低下する」と秦助教。水沢を含めたVERA4局は、高精度な観測をする上で極めて重要な場所に配置されていると強調する。
 VERA観測網を運用する同観測所の安定的運用は、国内外の天文学者を育てる環境にも影響を与える。秦助教は「日本だけでなく海外の研究者、大学院生も観測データを使い研究を進めている。彼らのような存在を配慮せず、急に予算が減らされ運用停止の危機となれば、研究に生かす材料が失われる。まさに寝耳に水。特に大学院生たちのやる気は大きく失われる。信用問題に発展しかねない」と警鐘を鳴らす。
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