人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市西部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

ILC誘致早期実現 道遠く(学術会議「マスタープラン2020」重点計画に選定されず)

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tanko 2020-1-31 12:40

写真=「マスタープラン2020」の最終案を了承した日本学術会議の幹事会(東京都港区)

 日本学術会議(山極寿一会長)は30日、「学術の大型施設計画・大規模研究計画に関するマスタープラン」(マスタープラン2020)を策定、公表した。素粒子物理学者や奥州市を含む北上山地周辺の自治体、経済団体などが誘致しようとしている実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」は、学術大型計画には位置付けられたものの、速やかに実施すべき「重点大型研究計画」には選ばれなかった。今後は、文部科学省が5月以降に策定する「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ」にどう位置付けられるのかや、ヨーロッパの科学戦略への登載などが焦点となる。

 同日策定したマスタープランは、学術的意義の高い大型研究計画の在り方について、一定の指針を与えるもの。さまざまな学術分野から150件の応募提案があった。昨年4月以降、学術会議の科学者委員会研究計画・研究資金検討分科会(委員長=藤井良一情報・システム研究機構機構長)と、学術分野別に設置した22の評価小分科会で審査や評価が行われてきた。
 応募提案された計画のうち、ILC計画を含む146件は、新規計画と前回策定した「マスタープラン2017」に掲載され、今回改定された提案。同分科会では、さらにILC計画など59件については、重点大型研究計画を選定するためのヒアリングを実施した。
 その結果、大型低温重力波望遠鏡(KAGRA)計画など31件が採択されたが、ILCは選外となった。
 東京都港区の学術会議2階大会議室で開かれた定例の幹事会で、藤井委員長が策定作業の経過などを説明。山極会長ら幹事会メンバーが意見を交わし、プラン案は承認された。
 幹事会後、報道陣の取材に応じた藤井委員長は「選ばれた146件の計画はどれも素晴らしいものばかり。その中から、どうしても早急に行うべき計画を評価し選定したところ、このような結果になった」と説明。過去2回、学術会議に設置されたILCに関する検討委員会では、慎重姿勢が強くにじみ出た所見が示されたが、「特段そのことが議論の中では出てこなかった」と述べた。
 文科省はILC誘致について、同プランを基に策定する大型科学プロジェクトの基本構想「ロードマップ」に位置付けられるといった「正式な学術プロセス」を経る必要があると強調している。「重点」扱いにはならなかったものの、ヒアリング対象となったILC計画がロードマップ策定議論の過程に出てくる可能性もゼロではない。
 ロードマップ策定を担当する文科省科学技術・学術審議会の作業部会では、既に策定方針やスケジュールなどを確認済み。2月下旬に書面審査書類の提出が締め切られ、4月24〜26日にかけてヒアリングを予定している。5月以降に取りまとめ、意見公募などを経て策定・公表となる。
 ILC計画に携わっている東北大学大学院の山本均教授は「重点計画には位置付けられなかったとはいえ、悲観はしていない。研究者サイドとしては、国際協議の推進など次のステップに進めると思う」と話す。
 一方、誘致反対を表明している市民団体「ILC誘致を考える会」の原田徹郎共同代表=一関市=は「まだまだILCを巡る議論が続くのだと感じた。学術研究そのものは否定しないが、放射性物質の管理や高レベル核廃棄物処理施設への転用懸念などがどうしても引っ掛かる。誘致を進める達増拓也知事には、科学者目線ではなく県民、住民目線でリスク問題と向き合ってほしい」と注文した。

 達増拓也知事のコメント
 ILC計画については、昨年3月7日の政府による「ILC計画に関する見解」で、「正式な学術プロセス(日本学術会議が策定するマスタープランなど)で議論することが必要である」と示された。
 今般、日本学術会議から「第24期学術の大型施設計画・大規模研究計画に関するマスタープラン」の公表があり、ILC計画は学術大型研究計画とされたところ。
 ILC計画は今後、次なる段階に進展していくものと期待している。県としては引き続き、関係者と密接に連携しながら、建設候補地として受け入れ環境の整備や普及啓発などを積極的に進めていく。

 小沢昌記市長のコメント
 昨年3月7日の政府による「ILC計画に関する見解」では、「日本学術会議の所見を踏まえ、現時点で日本誘致の表明には至らないが、国内の科学コミュニティーの理解・支持を得られるかどうかも含め、正式な学術プロセス(日本学術会議が策定するマスタープランなど)で議論することが必要である」と示された。
 今般、日本学術会議から「第24期学術の大型研究計画に関するマスタープラン(マスタープラン2020)」の公表があり、ILC計画は学術大型研究計画とされたところ。ILC計画は今後、次なる段階に進展していくものと期待している。
 市としては引き続き、県をはじめ関係者と密接に連携しながら、建設候補地として受け入れ環境の整備や普及啓発などを積極的に進めていく。


「玉虫色」再び
 【解説】日本学術会議の「マスタープラン2020」には、ILC計画の文字は「とりあえず」記載された。ただ「戦略性や緊急性を考慮し速やかに実施すべきもの」という、お墨付きを得た重点大型研究計画には選ばれなかった。
 学術会議は過去2回、2013(平成25)年と2019年に文科省の審議依頼を受けILC計画に関する検討委員会を設置。省内でも有識者会議を設け、議論を重ねているが、そのいずれも慎重対応を求める内容だった。
 マスタープラン策定を担当した情報・システム研究機構の藤井良一機構長は、議論の過程に検討委での審議経過は「特段出てこなかった」と述べている。だが、誘致関係者の一人は「(こういう結果になることは)これまでのことを考えれば、ある程度想定していた」と語る。
 昨年3月に文科省が初めてILCに関する政府見解を公表した時と同様、どのようにでも解釈できる「玉虫色」の結果になったとも思える。誘致推進派は、先の政府見解を「関心表明」と受け止めたのと同じように、重点計画のヒアリング対象にまで選ばれたという点を前向きに評価。誘致運動に力を注ぐことになりそうだ。
 一方で、誘致に否定的な他分野研究者や反対派住民にとっては、緊急性の低い計画と受け止め、いつ実現するか不透明な研究施設の誘致を継続する妥当性などに疑問を投げ掛けることになるだろう。
 いずれにしても、文科省策定のロードマップへの登載が今後の焦点になることは間違いない。推進派、反対派双方にとって、まだまだ気が休まらない状況は続く。
(児玉直人)
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