人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

≪短期連載「私とILC〜5」≫ 漁業発展と科学は密接なのです(白幡勝美さん)

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tanko 2013-5-3 19:40
 「物理学者にとっては興味深い研究だろうが、どうしても今ILCをやらないといけないのか。原発事故の収束や被災者対策が先決であり、宇宙誕生の謎が分かったところで被災者や地元の人たちは喜ぶだろうか」
 3月25日、一関市内で開かれた「ILCセミナー」の質疑で、聴講者の一人が疑問を投げ掛けた。ILCに限った話ではないが、莫大な公共投資に対する議論の過程では「そんなことより、もっと投資すべきところはあるはず」という指摘が、決まり文句のように出てくる。
 震災で甚大な被害を受けた沿岸地域の当事者は、ILC計画をどう思っているのだろうか?
 気仙沼市教育長の白幡勝美さんの視点はユニークだ。「科学や技術の進歩は、漁業にも大きく関係している。漁業で栄えてきた気仙沼の歴史がそれを証明している」
 かつて「東洋一」とも言われた魚市場を擁する同市。しかし、たやすくその地位を確立できたわけではない。
 新しい漁法によって数多くの魚を捕る技を覚えた。エンジンの小型化は遠洋の漁場にまで行ける船の開発につながり、冷凍技術によって消費量に合わせた魚介類の供給ができる。鉄道やトラック輸送網が整備され、流通面も格段に向上していった。さまざまな技術革新の流れとともに、日本屈指の港まちに発展していったのだ。
 「気仙沼市民は、そのことをよく理解している。今回の津波によって多くの冷凍施設が失われた。いかに重要な施設であり、素晴らしい技術だったのか、再認識させられた人は多い」と語る。
 岩手県に食い込むように位置する同市は、昔から室根や一関地域とのつながりが強い。旧気仙沼高校の校歌には「遠くは雲居の室根山」と、隣県の山の名がうたわれている。
 白幡さんは「不漁の時は内陸の山の幸、米が不作のときは海の幸――という具合で助け合ってきた交流が今も息づいている。県境は人為的なものでしかない。確かに加速器トンネルを50kmに伸ばしたときには南端が当市に達する。けれども、県境を越えなくても当市は一生懸命に誘致活動に励んでいただろう」と話す。
 ILC建設に必要となる膨大な部品類の海運拠点、そして海の見える環境で生活することを望む研究者らの居住地域にもなり得る。沿岸被災地とILCとのかかわりは決して少なくない。
 同市役所内では白幡さんを議長に「ILC庁内連絡会議」を設置し、誘致関連の取り組みに対応。子どもたちに対する科学教育の強化にも力を注ぐ考えという。
 「漁業の発展を支えた各種技術は、そもそも『漁業のため』『気仙沼のため』が目的ではなかったが、結果的に気仙沼の漁業に決定的な影響力を与えた。同じようにILCも意外な発展要素を秘めていると思う。直接関係しないような事柄こそ、大きな可能性を持っている」と期待を寄せる。

写真=さまざまな技術革新は、漁業のまち気仙沼市にも「大きな効果をもたらす」と期待を寄せる白幡勝美さん

(「私とILC」は今回で終了します。児玉直人が担当しました)
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