人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

【連載】ILC子ども科学相談室・12 ILCが誘致できない場合はどうなるの?(中編)

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tanko 2018-1-12 10:40
 前回(1月5日付)では、アメリカで建設途中に中止してしまったSSC(超電導超大型加速器)と呼ばれる実験施設の例を紹介しました。中編では、中止になった理由を詳しく見ていきたいと思います。

中止の最大要因は「財政危機」

 SSCが中止になった原因はいくつかあります。
 第一の原因は、財政危機であったと言われています。レーガン政権下では高金利政策からドル高が進行し、輸入が増大して貿易赤字となりました。さらに国防予算が増大したため支出が拡大。「財政赤字と貿易赤字の双子の赤字」と言われる事態となったのです。
 1992年になると財政赤字は最悪となり、SSCと宇宙関連事業を展開しているアメリカ航空宇宙局(NASA)が削減のターゲットとなりますが、NASAは関連する研究所や企業が多くの州に散らばっており、縮小するとその影響が大きいため、手は付けられませんでした。一方、SSCはテキサス州だけの問題であり、影響も少なく「政治的にも切りやすい」との判断が働いたと言われています。
 第二の原因は、運営(組織)の問題です。SSCの組織は、従来の研究所から見ると異様だったと言われています。所長および副所長はともに物理学者でしたが、彼らが直接コントロールできたのは、物理研究の部門のみでした。加速器に必要な電磁石の開発や製造などの実質的な部門の総括マネージャーは、アメリカエネルギー庁長官(DOE)が直接選んだ元海軍軍人だったそうです。また施設・設備の責任者も元海軍軍人でした。
 このような人員構成になったのは、予算が巨額であり「物理学者だけでは運営できないのではないか?」という懸念と、国防予算が縮小する中でSSCが軍需産業の受け皿になり得るのではという期待が持たれていたためとも言われています。
 さらに設計変更の問題もあったようです。SSCの設計を行ったのはCDG(セントラル・デザイン・グループ)という組織でした。物理学者によって運営され、科学的な議論によって計画は認可されたのですが、その後、SSC研究所が設計をやり直したのです。結果、予算は増大してしまいます。

 CDGの本拠地は、カリフォルニア州の都市、バークレイにありました。一方、SSCの建設地はテキサス州北部の大都市ダラスから南へ約50km、エリス郡ワクサハチーという“田舎町”のさらに郊外にあります。CDGにはアメリカ各地の加速器研究者がたくさん集まり協力していましたが、SSCの「現場」には移らなかったのです。
 移った研究者の待遇も決していいものではなかったようです。研究所の運営が気に入らず上司と意見が食い違い、辞めていった人も多かったそうです。
 最もまずかったのは「現場であるSSC研究所に設計の詳細や技術が引き継がれなかったことだ」とも言われています。
 さて国際リニアコライダー(ILC)でも、建設に必要なお金のことでさまざまな意見が出ています。この対応策となり得るのが、このコーナーでも何度か登場した「ステージング」と呼ばれる建設方式です。
 物質に質量を与えているとされる素粒子「ヒッグス粒子」の研究に最適な施設の規模が、当初想定していたものよりも小さくて済むことが分かり、「そこから建設して、段階的に拡張していこう」という考え方です。本体の建設費用も、最初に伝えられていた約1兆円よりも約4割少なくて済むメリットがあるので、予算面の心配も解消されるのではという期待があります。ただ「成果が中途半端になり、限定される」と指摘する科学者もいます。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)


番記者のつぶやき
 新年明けましておめでとうございます。前回はスペースの関係で「つぶやき」をお休みしました。
 新年を迎え、私の自宅にILCに携わる研究者の方から年賀状が届きました。賀詞とともに、このようなことが書いてありました。
 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
 19世紀後半のドイツ帝国(当時)首相ビスマルクの言葉を用いた格言のようです。
 「今年がILC実現の勝負年」と言われていながら、当連載は「実現できなかったらどうなる」とか「過去の失敗例は」など、なんだか後ろ向きな話題を提供し、誘致を願う方々から「縁起でもない!」と怒られてしまうかもしれません。
 しかしながら、大きな事業を推し進める上では冷静に物事を見つめたり、過去の出来事(歴史)に学ぶことはとても大切なことだと思います。
 その上で心にとどめておきたいのは、過去の失敗例を知ったことで、無謀な挑戦は避けたほうがいいと考えるのは、必ずしも適切ではないという点です。安易に「逃げの思考」に走ってしまえば、チャレンジする気持ちが育たなくなり、いろいろな意味での成長もストップしてしまうと思います。スポーツの世界などでも同じようなことが言えるはずです。
 「失敗例があるから、ILCもやらないほうがいい」では何も始りませんし、何も残りません。歴史に学んで最適な道を考え選択し、精いっぱい努力して未来に進みたいものですね。
(児玉直人)
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