人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

シンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」講演要旨(2) 鈴木学長基調講演

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tanko 2015-8-25 10:20
住民交えて将来構想を
 よく、ILCが実現すれば「イノベーションが起きる」と言われている。イノベーションという事象の捉え方について、東京大学名誉教授の生駒俊明氏は「基礎研究から応用研究へのシフトととらえる人が多いが、これは間違い。単なる技術革新ではない。もっと大きなインパクトを期待して言われるもの」と指摘している。
 入り口と出口が最初から分かっていると、それ以上の発展はない。イノベーションは本来、爆発的に発展するもので、そうめったに起きるものではない。
 一例として挙げられるのがインターネット。CERN(欧州合同原子核研究所)で誕生した。最初は研究者間の情報共有がスムーズにできればいい――という程度だったが、今日のような発展を遂げている。
 CERNには研究者が77人、技術者が1959人いる。この技術者は日本で言う技官、エンジニアとは違い、教員や研究者と給料体系は同じ立場。中には教授よりも高い給与を得ている人もいる。
 日本にはそういう体系が存在しない。これまでとは違った体系で研究や技術開発をしないとイノベーションは出てこない。
 また、企業の求めに応じて大学が研究や技術提供するのではなく、同じ場所で一緒に需要と研究・開発を考えないといけない。企業の設備投資が難しい状況にあるので、企業が参画できるような研究施設がILC周辺には必要だ。
 ◇  ◇  ◇
 1970年代の日本は、工業製品の大量生産が進められた。生活様式の均質化が図られたと同時に、伝統的な協働性が喪失。生活の空虚感が生まれ、少子高齢化も深刻になった。地域のアイデンティティー(独自性)が失われようとしている。安全や安心の持続性も危機的な状況にある。近年「地方創生」が言われるようになったのはこうした背景があるからだと思う。
 これまで生じたマイナス点をカバーするのは、機械ではなく人間だ。人間が主体となり、協働体制を基礎とした共同性の再発見をちゃんとしなければ地方創生はできない。「現代版村社会の構築」が必要だ。
 東日本大震災で津波被害を受けた宮城県岩沼市の玉浦西地区では、新しいまちづくりをする際、住民、有識者、市の3者が一緒になって考え合った。3者の誰も抜けることはなかった。ILCとまちづくりを考える上では、こうした体制が大切だ。地域のコミュニティーがしっかりないと、ILCがある地域を良好な状態で保っていけない。
 ILCを誘致するため、さまざまな組織がある。これらの誘致組織を一つにまとめ、次のステップに向けて動いていくべきだと思う。現在、有識者と行政との連携は行われているが、地域や住民レベルの枠組みが連携の中に入って来ていない。県立大学や岩手大学の先生などと一緒になって、住民の方々を交えながらILCと地域の将来をどうつくっていくか、ぜひやっていきたい。
(基調講演要旨おわり。パネルディスカッション要旨につづく)

写真=江刺区伊手の産直「源休館」前にある「ウェルカムILC」の看板。地域住民を交えた連携がILCを迎える上では欠かせない
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