人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

未来へのアルピニズム ILC誘致 夢と現実(11)【日本学術会議ILC計画フォーラムより】

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tanko 2014-8-23 9:50
文化的な意義強調せよ 地域・環境の観点から(石川 幹子氏)

 国内候補地の北上山地周辺は、急峻な場所が少なくなだからな丘陵地だ。いわゆる典型的な里山生態系が存在している。そこに奥州藤原氏の文化が誕生し、海岸地域の文化ともつながりをみせてくる。日本文化のオリジナルがこの地域に広まっていて、極めて高い潜在能力がある。
 東京やパリなど巨大都市はどんどん増殖していったが、北上山地は2万から3万人という人口規模で、ある意味で里山文化圏にふさわしいような規模だった。100万人都市ならそうはいかない。
 「普遍的なまちづくり」をする実験の場としても、北上山地周辺はふさわしい。科学技術も駆使し、現代社会に適応しうるモデルにしていくことができる。これは東京ではできない。自然と人間とが共存できる仕組みが北上山地周辺にはあると感じる。
 さてILC計画については、加速器装置だけで8300億円が必要だと言われている。これだけを示して、国民を納得させることは無理であろう。
 津波対策の防潮堤の予算は、5都府県で7000億円だと言われている。これを海岸林にすれば格段に安いのは分かるし、メンテナンスも違う。「海岸林は役に立たない」という意見もあるが、とんでもない。実際、1000年に一度とも言われたあの津波に耐えた海岸林もあるのだ。
 ILCで言われている8300億円は、日本だけでなく国際社会でさらに分担する。一方の防潮堤は、コンクリート製なので50年で寿命が来る。
 このように社会資本整備のコストという観点から、日本の国土全体を見つめ、いろいろな事柄と相互に比較した上で「高いか、安いか」を考えなくてはいけない。ILCのことだけを考えていたらだめ。国民の説得もできない。
 ILCには科学的な意義があることはすでにご承知の通り。しかし、最も欠落しているのは文化的意義だ。北上や東北の地域がはぐくんできた何世紀にもわたる知恵、文化を掘り起こして社会、国民にしっかり説明できなければいけない。もう一つ、人間的意義を挙げるならば、何よりも子どもたちへの夢だ。新しい世代に夢を与えるようなものは、大事にしていかなければいけない。

(未来へのアルピニズム・ILC誘致夢と現実は今回で終了します)

 
写真=北上山地の豊かな自然と里山が育んだ生活の営みと文化の中に、国際的な研究施設を迎え入れる意義をしっかり説明できなければ、ILC誘致に対する国民の納得や支持を得ることは難しい。理系、文系双方の有識者に一般市民も加わって開催された日本学術会議のILCフォーラムは、誘致に向けた課題や必要な取り組みをあらためて浮き彫りにさせた(コラージュ)
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