【連載・ILC新たなステージへ:2】 「時期尚早」独り歩き 分かり切っていた指摘
- 投稿者 :
- tanko 2013-9-4 6:00
「なぜ『時期尚早』という言葉だけが躍っているのか分からない」
ILC戦略会議の山下了議長(東京大准教授)は不快感をにじませた。8月20日、国内候補地選定経過に関するマスコミ向け事前説明会で、日本学術会議の「ILCに関する検討委員会」(家泰弘委員長)の議論について感想を求められた場面でのことだった。
山下議長は「学術会議については、われわれは最大のリスペクト(敬意)を払っているが、そもそも誘致の是非について、文部科学省からは諮問されていないはずだ」と強調した。
学術会議が文科省から依頼された審議内容は、研究の学術的意義や、国民と社会に対する意義、そして計画実施に向けた準備状況と、建設・運営に必要な予算、人的資源の確保など4項目。山下議長の指摘通り、誘致の是非については見解を求められていない。
検討委の議論では、研究そのものへの批判はなかった。しかし、他の基礎研究予算が削減されることへの懸念や膨大な建設費、人員確保などの課題がクローズアップされた。
家委員長は8月6日、個人的見解として「現時点で国が誘致のゴーサインを出すべきではない」と述べた。主要メディアは「ILC誘致は時期尚早」と報道。以後、学術会議の見解を象徴する言葉のように使われた。本紙も「国内誘致・政府判断に暗雲」との見出しで報じた。
その後、本紙はILC立地評価会議の共同議長の一人、山本均東北大大学院教授に話を聞いた。すると、あっさりとした答えが返ってきた。「悲観するほどのことではない。国際交渉でしっかり合意を得てから誘致を決定すべきだというのは、もちろんその通り」
山本教授の話を聞きながら、時期尚早と指摘することが「ILC建設の最終判断」に対してのことか、「国際交渉の開始の判断」に対してのことかが、混同して伝わっている可能性があると察した。
本紙は学術会議事務局を通じ、家委員長の見解を再確認。「政府が『ILCを日本に造ることを決める』というのがまだ早いということ。国際的な交渉を進めることは構わないという意味だ」との回答を得た。
検討委の論点メモを見ると、現時点で本格実施のゴーサインを出すことに対し「時期尚早」としている。なお、検討委の相原博昭幹事(東京大大学院教授)が推敲した論点メモでは、十分な調査や交渉が行われた上で「最終的な決定が政府においてなされるべきだ」と表現されており、「時期尚早」の4文字はない。
ILC戦略会議の山下議長は「『誘致』の言葉を軽く使い過ぎている」と指摘する。「2、3年の時間がかかることも、今の段階でゴーサインが出せないことも、私たちは最初から分かっている。いくつものステップを経て、誘致判断にたどり着く。それだけ重いことだ」
(つづく)
写真=日本学術会議のILC検討委。協議経過を伝える報道では「時期尚早」の言葉だけが際立った