人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

「攻勢」で波及効果を  候補地決定後初の講演(KEK・吉岡名誉教授)

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tanko 2013-9-2 7:32
 国際リニアコライダー(ILC)国内候補地が北上山地に決定後、最初となる一般市民向け講演会が1日、一関市大東町摺沢の室蓬ホールで開かれた。講師の高エネルギー加速器研究機構(KEK)の吉岡正和名誉教授は、医療分野やものづくり産業への波及効果に触れ、「じっとしていては何も起きない。産学官連携によるネットワークを構築するなど、攻めの姿勢で取り組んでほしい」と呼び掛けた。
 東京の一般社団法人国際経済政策調査会(高橋佑理事長)が主催。国内の素粒子物理学者らによるILC立地評価会議が、国内候補地を北上山地に決定して以降、最初となる候補地での一般向けの講演会で、胆江・両磐地区の地域住民や勝部修一関市長、菅原正義平泉町長も出席した。
 吉岡名誉教授は「東北ILCの実現」と題し、最近の経過などを説明。日本学術会議のILC検討委の中で、コスト評価への信頼性に対する疑問があったことに触れ「コスト評価は国際的組織で検討し、さらに厳しいレビュー(評論)をクリアしたものであり非常に信頼性が高い」と述べ、ILC計画の国際的協議過程への理解不足が後ろ向きな見解につながっていると指摘した。
 北上山地に設置される見通しのILC本体の地下トンネルは、標高にして100mから110mの位置に設置される。北上川周辺の都市部よりも高い位置に造られるため、トンネル内で排水が生じた場合には自然流下が可能。周辺よりも低い場合だと、排水ポンプが必要となる上、停電時のリスクを想定しなくてはいけないなどコストにも影響してくる。
 トンネル設置の標高に付随し吉岡名誉教授は「よく『核廃棄物の処理場にするはずだ』との声を聞くが、構造や技術的にそのよう施設とは全く異なる。そもそもILCは国際研究施設であり、目的外使用を世界の国々が許すわけがない」と述べ、理解を求めた。
 地域が着目する波及効果については、吉岡名誉教授が筑波大学で取り組んでいる「いばらきBNCTプロジェクト」などを例に紹介した。BNCTは「ホウ素中性子捕捉療法」のこと。ホウ素と中性子の反応を利用し、切開手術などをせずにがん細胞のみを選択的に破壊する。難治性がんに対する次世代のがん治療法として期待されている。
 吉岡名誉教授は「私も研究施設に勤め退職した身だが、社会貢献の思いで取り組んでいる。ILCも同じように、そこで育った人材がこのような形で活躍することも十分あり得る。重要なのは、攻めの姿勢。受け身にならず、新たなビジネスを起こすつもりで、さまざまな分野とのネットワークづくりと、それをコーディネートする人を置くことが大切だ」と強調した。

写真=ILCの波及効果を得る上でのポイントを語る吉岡正和・KEK名誉教授(一関市大東町)
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