人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)

市民の熱意 研究後押し(東大院生の高村さんら国際チーム)

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tanko 2023-7-21 19:50

画像=BHから発せられる微弱偏波(緑の波線)のイメージ=(C)国立天文台

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)で研究活動している東京大学大学院理学系研究科博士課程3年、高村美恵子さん(27)=水沢在住=ら国際研究チームは、巨大ブラックホール(BH)が急成長する謎に迫る研究成果を発表した。水沢星ガ丘町の同観測所が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA)を活用。同観測所の予算削減問題の影響で研究が頓挫する危機にも直面したが、無事に論文を発表できた。高村さんは「VERA存続を求めて運動してくれた地域の皆さんの熱意があったおかげ」と感謝している。
(児玉直人)

 研究チームは高村さんと本間所長、秦和弘・同観測所助教らで構成。水沢、入来(鹿児島県薩摩川内市)、小笠原(東京都小笠原村父島)、石垣(沖縄県石垣市)にあるVERA4局を連動させ、「狭輝線セイファート1」と呼ばれる種類の銀河6カ所を観測した。
 6カ所の銀河は地球から近くて8.2億光年(1光年=約9.5兆km)、遠くて76億光年かなたに位置する。それぞれの銀河には、急成長する巨大BHが存在する。
 BHが成長する上ではガスやチリが必要。高村さんらは、BH付近から出てくる微弱な偏波(振動が一定方向に偏っている電波)を高感度で観測することで、豊富なガスの存在を確認しようとした。
 2019(令和元)年夏ごろにVERAに導入された新たな装置「広帯域・偏波受信システム」を利用。偏波の高感度検出に成功し、豊富なガスがBH周辺に存在することを裏付けるデータが得られた。研究成果は米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載された。
 横浜市出身の高村さんは、3年前から同観測所がある水沢に居住。20年に起きた同観測所の予算削減問題によって、今回の研究が頓挫する危機に直面した。「VERA4局が動いてないとできない研究。予算削減で1局だけ動いても何にもならなかった。地域の皆さんがVERA存続のために動いてくれた熱意があって、今回の論文発表ができた」と語る。
 研究者と一般市民が交流するサイエンスカフェの活動もしており、研究成果や水沢の観測所が果たす役割などを伝えている。「今回の研究手法は、世界的にも先駆的なもの。今後は他国の研究者ともコラボしてBHの構造解明を進めたい」と話している。


写真=BH急成長の謎解明につながる研究成果を発表した高村美恵子さん。後方はVERA観測網を構成する直径20m電波望遠鏡
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