育む「科学する心」これからも(奥州宇宙遊学館開館15周年)
- 投稿者 :
- tanko 2023-4-28 14:00

開館から15周年の節目を迎えた奥州宇宙遊学館

国立天文台の広いキャンパスの一角に立つ同館。このほど開かれたサイエンスカフェで、15年の節目を迎えたことに触れた亀谷收館長は、「国立天文台水沢VLBI観測所とのタイアップで、電波望遠鏡など最新の研究施設や歴史的に重要な建物など本物にも触れられる国内でもユニークな場所として存在価値を高めつつある」と強調。「より充実した展示や催し、イベントを行っていきたい」と意気込んだ。
遊学館のコンセプトは「又三郎といっしょに奥州の宇宙(そら)に学び、遊ぼう!」。宮沢賢治の童話『風の又三郎』が、緯度観測所を訪れた際の見聞を基に書かれたことにちなんでいる。
国の有形文化財に登録されている2代目本館は、耐震補強などを行った際に大正時代の部材をなるべく使用しており、レトロな雰囲気を味わうことができる。「大地」「月」「銀河」「風」「星」の五つの常設展示室があり、観測所の歴史や最新の宇宙探査などを紹介している。

各分野の専門家が携わる定期開催行事もファンが多い。サイエンスカフェは、カフェのようなリラックスした雰囲気の中で、研究者が最先端の科学を紹介する。小学生らが多く参加するサンデースクールは、より分かりやすく正しい知識を伝えようと、手作りの教材や模型を駆使し参加者の興味関心を引き出している。
サンデースクールに通い2年という、市立常盤小4年の大田暖起君と母彩子さん(44)は「専門家からさまざまなことを学ぶことができ、展示では触れて学べる。科学が学べる施設が身近にあるのはうれしい」と、同館の企画や展示を満喫している。
この地にあった幸運 生かしたかった
佐藤一晶さん、保存活用へ思い語る
1921(大正10)年に建てられた水沢緯度観測所2代目本館は、木造2階建てのドイツ風建築物。1967(昭和42)年まで使用されていたが老朽化が進み、国立天文台は2005(平成17)年10月に取り壊しを決定。翌年2月に解体される予定になっていたが、宮沢賢治が度々訪れた歴史的にも貴重な建造物とあって、保存活用を求める動きが広がった。市民運動が国立天文台や市、市議会を動かし、2007年に国から市へ建物の譲渡が決定。耐震補強や建物位置の変更、展示品の設営が進められ、2008年4月に奥州宇宙遊学館がオープンした。
当時の様子について、NPO法人イーハトーブ宇宙実践センターの佐藤一晶副理事長は、4月に開催されたサイエンスカフェで「奥州宇宙遊学館誕生物語」と題し講話。「地域開発の大原則は他のまちに無くて、このまちにあるものを使っていくことだと考えている。日本で最初の国際観測施設である緯度観測所がこの地にあった幸運を生かしたかった。県内で唯一の天文台が水沢にあるのだから、子どもたちが科学を学ぶ場が県南にも欲しいと思った。天文台で働く多くの専門家の知恵を借りていけば、より良いまちづくりができると考えた」と活動の背景を説明した。
「全国的にも珍しい木造の科学館。古い建物は、残そうとしなければ姿を消していく」。市議会への請願や全国に呼びかけた募金活動など市民らが力を合わせ残すことができた施設と強調する。
「天文台の敷地にあるからこそ、高まる価値がある。登録有形文化財は活用が基本。かつては退官すると水沢を離れる職員が多かったが、今ではこの地で暮らし続ける研究者も増えた。今後も天文台とタッグを組み、広いキャンパスを生かした活動をしていきたい」と力を込めた。