シンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」講演要旨(1) 鈴木学長基調講演
- 投稿者 :
- tanko 2015-8-24 19:20
現有施設や衣食住 活用を
いわてILC加速器科学推進会議が主催し、7月25日に開かれたシンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」。県立大学の鈴木厚人学長をはじめ、胆江・気仙地域の首長らがILC(国際リニアコライダー)と地域社会の在り方について持論を展開したり、意見を交わしたりした。ILCの国内建設候補地が北上山地に一本化され、今月23日で丸2年。一般市民レベルの理解普及が不十分とも言われる中、地域の将来ビジョンにILC計画の存在をどう位置付けできるのか。基調講演とパネルディスカッションの要旨を5回に分けて連載する。
====================================================================
ILCは直線の地下トンネルの中で電子と陽電子を光速でぶつけ、新しい粒子を作る実験施設。宇宙誕生の謎などを探る。約30年前から構想が練られていた。35カ国2000人が携わっており、設計やコスト、必要な技術を考えている。
建設期間と現在想定している実験期間を合わせた30年間に必要な総経費は、建設費と運営費合わせて約2兆円。これをどのように国際社会が分担するのかが問題だ。
建設地となる国(ホスト国)が半分、残りは各国で対応すると考えられている。日本が約1兆円負担するとなると、年間約350億円の支出。ISS(国際宇宙ステーション)やKEK(高エネルギー加速器研究機構=茨城県つくば市)の運営費とほぼ同規模だ。
30年の研究が終われば、ILCは使われなくなるのか――というと、そうではない。KEKはもうじき50周年。CERN(欧州合同原子核研究所、スイスとフランスの国境にある素粒子研究施設)は顴周年を迎えたが、さまざまな研究を計画している。
こういう施設をいったん造ると、30年ぐらいで終わることはまずない。いわゆる「高度化」が進む。ILCが実現すれば、60年から100年という規模で、日本が素粒子研究の世界最前線基地となり、国際機関が存在し続けることになる。
ILC実現後の都市の姿について、いろいろな構想が描かれようとしている。ただ、60年、100年続くかもしれない施設を受け入れるのだから、巨大建造物を最初から急ごしらえで建てても、すぐに時代に見合わないものになってしまう。
KEKなど学術研究施設が集積するつくば市では当初、市内に研究者が集まる宿舎を造った。ところが、これでは地元の人たちと研究者らとの交流は生まれない。
ILCでは、現有の施設や衣食住環境などを最大限活用し、それでも不足している部分を補充すればいい。少しずつやらないと、くたびれてしまう。
言葉の問題に関しては、研究所内はどうしても英語がメーンになるが、地域では今まで通り日本語中心で構わない。つくば市でも、外国人の子は日本の子どもたちと同じように小学校や幼稚園に行っている。ただし、病気や災害など緊急時における多言語の体制は作らなければいけない。
(つづく)
写真上=鈴木厚人氏
写真下=東北ILC推進協議会作成のパンフレットに描かれている研究都市のイメージ画
いわてILC加速器科学推進会議が主催し、7月25日に開かれたシンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」。県立大学の鈴木厚人学長をはじめ、胆江・気仙地域の首長らがILC(国際リニアコライダー)と地域社会の在り方について持論を展開したり、意見を交わしたりした。ILCの国内建設候補地が北上山地に一本化され、今月23日で丸2年。一般市民レベルの理解普及が不十分とも言われる中、地域の将来ビジョンにILC計画の存在をどう位置付けできるのか。基調講演とパネルディスカッションの要旨を5回に分けて連載する。
====================================================================
ILCは直線の地下トンネルの中で電子と陽電子を光速でぶつけ、新しい粒子を作る実験施設。宇宙誕生の謎などを探る。約30年前から構想が練られていた。35カ国2000人が携わっており、設計やコスト、必要な技術を考えている。
建設期間と現在想定している実験期間を合わせた30年間に必要な総経費は、建設費と運営費合わせて約2兆円。これをどのように国際社会が分担するのかが問題だ。
建設地となる国(ホスト国)が半分、残りは各国で対応すると考えられている。日本が約1兆円負担するとなると、年間約350億円の支出。ISS(国際宇宙ステーション)やKEK(高エネルギー加速器研究機構=茨城県つくば市)の運営費とほぼ同規模だ。
30年の研究が終われば、ILCは使われなくなるのか――というと、そうではない。KEKはもうじき50周年。CERN(欧州合同原子核研究所、スイスとフランスの国境にある素粒子研究施設)は顴周年を迎えたが、さまざまな研究を計画している。
こういう施設をいったん造ると、30年ぐらいで終わることはまずない。いわゆる「高度化」が進む。ILCが実現すれば、60年から100年という規模で、日本が素粒子研究の世界最前線基地となり、国際機関が存在し続けることになる。
ILC実現後の都市の姿について、いろいろな構想が描かれようとしている。ただ、60年、100年続くかもしれない施設を受け入れるのだから、巨大建造物を最初から急ごしらえで建てても、すぐに時代に見合わないものになってしまう。
KEKなど学術研究施設が集積するつくば市では当初、市内に研究者が集まる宿舎を造った。ところが、これでは地元の人たちと研究者らとの交流は生まれない。
ILCでは、現有の施設や衣食住環境などを最大限活用し、それでも不足している部分を補充すればいい。少しずつやらないと、くたびれてしまう。
言葉の問題に関しては、研究所内はどうしても英語がメーンになるが、地域では今まで通り日本語中心で構わない。つくば市でも、外国人の子は日本の子どもたちと同じように小学校や幼稚園に行っている。ただし、病気や災害など緊急時における多言語の体制は作らなければいけない。
(つづく)
写真上=鈴木厚人氏
写真下=東北ILC推進協議会作成のパンフレットに描かれている研究都市のイメージ画