ILC子ども科学相談室5 Q:放射線以外にも注意すべき点はありますか?
- 投稿者 :
- tanko 2017-11-17 11:00
放射線以外にもILCでは気を付けなくてはいけないことがあるように思います。岩手の美しい自然環境が壊されるようなことはないのでしょうか。
A:極力、悪影響を与えない対策がとられます。
前回は放射線に関する安全対策などについて説明しました。ILCでは、ほかにも注意すべき点があります。
一つ目は「液体ヘリウム」の取り扱いです。ILCでは液体ヘリウムを使い、電子や陽電子を光速近くにまで加速する管(加速管)をマイナス271度にまで冷やします。
なぜ液体ヘリウムを使って冷やすかというと、ニオブと呼ばれる金属で作る加速管を超伝導状態(電気抵抗がゼロになり、電流がいつまでも流れ続ける状態)にして使用するためです。
もし液体ヘリウムが装置の外に漏れ、通常の室温まで暖められると気体に変わり、体積が約700倍に膨れ上がるのです。
気体となり膨れ上がったヘリウムが、加速管などの装置を壊さないよう、安全用のバルブなどが装備されます。万が一、液体ヘリウムが漏れた場合は、安全バルブや排気ダクトを通して外へ出ていくので、「容器が爆発する」というようなことはありません。
ヘリウムは軽い元素で、お祭りの屋台などで売っているフワフワ浮かぶ風船にも使われています。燃えることもなく、人体に影響はありません。すぐに空へと上昇していき、地上にたまることはありません。
二つ目は消費電力についてです。ILCの運転には、約16万kWの電力を使うと見込まれています。一見、大きな数字に感じますが、これは東北電力で供給している電力の数パーセントの規模です。ILCを運転したからといって、工場や家庭への電力不足が生じるという事態は考えられません。冷房や暖房などを多く使う夏や冬においても、心配はないと思います。
ILCのような大型の装置は年に1回、定期点検が義務付けられています。電力需要が増える夏や冬に合わせてILCを停止させ、点検を実施するなどの対策も考えられています。
最後は、自然への影響についてです。ILC本体装置は、地下に設置されます。トンネルは幅約10m、高さ約5mのかまぼこ型のトンネルです。このほど示された建設計画案では、約20kmの長さに整備して実験を進め、状況を見ながら約30km、最大で約50kmの長さにまで延長することも考えられています。
大規模な施設とはいえ本体は地下に造られるので、地上には液体ヘリウムの冷却設備や一部の付帯設備、研究棟や事務棟、会議室などの建設が考えられます。これら建設に当たっては、事前に「自然環境への影響調査」を行い、極力悪影響が及ばない対策がとられます。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)
“番記者”のつぶやき
奥州市の西側にある胆沢ダムを建設するときには、近くの山から採取した岩や土を大量に使ってダムの堤体(水をせき止める本体)を造りました。水没する地域の木も伐採しました。同時に工事を進めた国は、地元住民の皆さんと共に周辺の自然環境を保護する取り組みを積極的に行いました。工事を進める人たちと、地元の人たちとの良好な関係が築かれていたことで「反対運動は皆無に等しかった」と、地元関係者の一人は話しています。とてもいい事例として、ILCを建設する際には生かしてほしいものですね。
(児玉直人)
写真=加速管を収納する「クライオモジュール」と呼ばれる装置(試作品)の断面。加速管のほか液体ヘリウムを送り込んだり、回収したりする管なども取り付けられる
A:極力、悪影響を与えない対策がとられます。
前回は放射線に関する安全対策などについて説明しました。ILCでは、ほかにも注意すべき点があります。
一つ目は「液体ヘリウム」の取り扱いです。ILCでは液体ヘリウムを使い、電子や陽電子を光速近くにまで加速する管(加速管)をマイナス271度にまで冷やします。
なぜ液体ヘリウムを使って冷やすかというと、ニオブと呼ばれる金属で作る加速管を超伝導状態(電気抵抗がゼロになり、電流がいつまでも流れ続ける状態)にして使用するためです。
もし液体ヘリウムが装置の外に漏れ、通常の室温まで暖められると気体に変わり、体積が約700倍に膨れ上がるのです。
気体となり膨れ上がったヘリウムが、加速管などの装置を壊さないよう、安全用のバルブなどが装備されます。万が一、液体ヘリウムが漏れた場合は、安全バルブや排気ダクトを通して外へ出ていくので、「容器が爆発する」というようなことはありません。
ヘリウムは軽い元素で、お祭りの屋台などで売っているフワフワ浮かぶ風船にも使われています。燃えることもなく、人体に影響はありません。すぐに空へと上昇していき、地上にたまることはありません。
二つ目は消費電力についてです。ILCの運転には、約16万kWの電力を使うと見込まれています。一見、大きな数字に感じますが、これは東北電力で供給している電力の数パーセントの規模です。ILCを運転したからといって、工場や家庭への電力不足が生じるという事態は考えられません。冷房や暖房などを多く使う夏や冬においても、心配はないと思います。
ILCのような大型の装置は年に1回、定期点検が義務付けられています。電力需要が増える夏や冬に合わせてILCを停止させ、点検を実施するなどの対策も考えられています。
最後は、自然への影響についてです。ILC本体装置は、地下に設置されます。トンネルは幅約10m、高さ約5mのかまぼこ型のトンネルです。このほど示された建設計画案では、約20kmの長さに整備して実験を進め、状況を見ながら約30km、最大で約50kmの長さにまで延長することも考えられています。
大規模な施設とはいえ本体は地下に造られるので、地上には液体ヘリウムの冷却設備や一部の付帯設備、研究棟や事務棟、会議室などの建設が考えられます。これら建設に当たっては、事前に「自然環境への影響調査」を行い、極力悪影響が及ばない対策がとられます。
(中東重雄・奥州宇宙遊学館館長)
“番記者”のつぶやき
奥州市の西側にある胆沢ダムを建設するときには、近くの山から採取した岩や土を大量に使ってダムの堤体(水をせき止める本体)を造りました。水没する地域の木も伐採しました。同時に工事を進めた国は、地元住民の皆さんと共に周辺の自然環境を保護する取り組みを積極的に行いました。工事を進める人たちと、地元の人たちとの良好な関係が築かれていたことで「反対運動は皆無に等しかった」と、地元関係者の一人は話しています。とてもいい事例として、ILCを建設する際には生かしてほしいものですね。
(児玉直人)
写真=加速管を収納する「クライオモジュール」と呼ばれる装置(試作品)の断面。加速管のほか液体ヘリウムを送り込んだり、回収したりする管なども取り付けられる