【連載】育て科学する心(3) 中学生つくば研修とILC
- 投稿者 :
- tanko 2017-2-24 11:50
研究者の言葉に触れる
高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、つくば市中心部から北北西へ約8km、筑波山を望む郊外にある。
生徒たちが訪れたのはKEKの本部機能や円形加速器「KEKB(ケックビー)」、放射光研究施設「フォトンファクトリー」、国際リニアコライダー(ILC)関連の研究施設などが集まる「つくばキャンパス」。敷地面積は153haで東京ドーム32個がすっぽり収まる。
素粒子の衝突現象を捉える巨大装置「Belle検出器」、素粒子が光速に近い速さで駆け抜けるKEKBの加速器装置は、全て地下空間に配置されている。そのスケール感は、施設の中に入って初めて実感できる。
「実物を見ることで受ける印象はとても大きい。そして、ノーベル賞を取った人がここの装置を使って仕事をしていたことも非常にインパクトがあること」。今回の研修で団長を務めた市立田原中学校の石川勝也校長は、長年継続してきたつくば研修の意義を再確認したようだ。
施設見学後は、放射線の飛跡を視認できる簡易装置「霧箱」の製作と実験に挑戦した。スコットランドの物理学者チャールズ・ウィルソンが発明した装置で、ウィルソンはその偉業が認められ1927年にノーベル物理学賞を受賞している。
「放射線は目に見えないが、何かが出ており怖さも感じる。しかし人類は100年余りで放射線の存在を目で確認できるようにし、素粒子物理学は一気に開花した。こうした努力は皆さんの地域が候補地になっているILCにもつながっていく」。製作実験の指導に当たったKEK計算科学センターの松古栄夫助教の説明に、生徒たちは真剣な表情で聞き入った。
続く講義で登壇したのは、奥州市出身の小野正明・KEK名誉教授。本研修の講義を毎年引き受けている。小野さんは水沢緯度観測所(現・国立天文台水沢VLBI観測所)の木村栄初代所長と、ノーベル賞を受賞した小林誠氏、益川敏英氏との共通点として「若い時に一流の仕事をしていた」と説明した。
「科学研究とは誰も知らないことを予言すること。洞察力が新事実を引き出す。基礎科学はすぐに実用できる成果を生み出しはしないが、究極の理論を得たいという思いは結果として応用発展を生み出すことに結び付く。よくわれわれの研究に対し『何の役に立つのか』と言われるが、そう簡単に答えられるものではない」
小野名誉教授の言葉は生徒たちに対する熱いメッセージであると同時に、早急な経済効果や利便性を追求する流れにある世の中への警鐘とも言える。
(つづく)
写真=真剣な表情で講義に耳を傾ける生徒たち
写真=講師を務める奥州市出身の小野正明名誉教授
高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、つくば市中心部から北北西へ約8km、筑波山を望む郊外にある。
生徒たちが訪れたのはKEKの本部機能や円形加速器「KEKB(ケックビー)」、放射光研究施設「フォトンファクトリー」、国際リニアコライダー(ILC)関連の研究施設などが集まる「つくばキャンパス」。敷地面積は153haで東京ドーム32個がすっぽり収まる。
素粒子の衝突現象を捉える巨大装置「Belle検出器」、素粒子が光速に近い速さで駆け抜けるKEKBの加速器装置は、全て地下空間に配置されている。そのスケール感は、施設の中に入って初めて実感できる。
「実物を見ることで受ける印象はとても大きい。そして、ノーベル賞を取った人がここの装置を使って仕事をしていたことも非常にインパクトがあること」。今回の研修で団長を務めた市立田原中学校の石川勝也校長は、長年継続してきたつくば研修の意義を再確認したようだ。
施設見学後は、放射線の飛跡を視認できる簡易装置「霧箱」の製作と実験に挑戦した。スコットランドの物理学者チャールズ・ウィルソンが発明した装置で、ウィルソンはその偉業が認められ1927年にノーベル物理学賞を受賞している。
「放射線は目に見えないが、何かが出ており怖さも感じる。しかし人類は100年余りで放射線の存在を目で確認できるようにし、素粒子物理学は一気に開花した。こうした努力は皆さんの地域が候補地になっているILCにもつながっていく」。製作実験の指導に当たったKEK計算科学センターの松古栄夫助教の説明に、生徒たちは真剣な表情で聞き入った。
続く講義で登壇したのは、奥州市出身の小野正明・KEK名誉教授。本研修の講義を毎年引き受けている。小野さんは水沢緯度観測所(現・国立天文台水沢VLBI観測所)の木村栄初代所長と、ノーベル賞を受賞した小林誠氏、益川敏英氏との共通点として「若い時に一流の仕事をしていた」と説明した。
「科学研究とは誰も知らないことを予言すること。洞察力が新事実を引き出す。基礎科学はすぐに実用できる成果を生み出しはしないが、究極の理論を得たいという思いは結果として応用発展を生み出すことに結び付く。よくわれわれの研究に対し『何の役に立つのか』と言われるが、そう簡単に答えられるものではない」
小野名誉教授の言葉は生徒たちに対する熱いメッセージであると同時に、早急な経済効果や利便性を追求する流れにある世の中への警鐘とも言える。
(つづく)
写真=真剣な表情で講義に耳を傾ける生徒たち
写真=講師を務める奥州市出身の小野正明名誉教授