【連載・ILC新たなステージへ:4】鍵握る人材の育成 教育環境充実と国際化
- 投稿者 :
- tanko 2013-9-6 9:30
県調査統計課は毎月、人口推計を公表している。直近の国勢調査で得られた人口を基に、県内市町村に届け出があった出生、死亡、転入、転出などの人数を加減することで、おおよその人口の増減が把握できる。出生や死亡による人口の増減を「自然動態」、転入や転出によるものを「社会動態」と呼ぶ。
少子高齢化で人口は減少の一途をたどる。だが、それだけではない。毎年3月、人口が大幅に落ち込む。そのほとんどは社会動態であることから、就職や進学のため岩手を離れる人が多いことが推測できる。
ILCは数兆円規模の経済効果を生むとされる。しかし、その効果は加速器などの実験装置が生むものではない。研究から派生した技術を活用したり、国際研究都市に関係したサービスを考案したりする「人材」がいなければ生み出されない。そのためには、ILCやそれに関連する職業・分野で活躍する人材を育てなくてはいけない。
震災被災地などを訪れ、小中高校で科学特別授業を繰り広げている独マインツ大学の斎藤武彦教授。昨年、本県沿岸部を訪れた際に、とある学校の教諭から「昔は故郷を離れる若者が多かったが、今は地元に残って頑張りたいという子が増えている」という話を聞かされた。
今年6月29日、本県のILC誘致関係者ら380人が集まった集会の席上、講師として招かれた斎藤教授はこう切り出した。
「岩手大学や岩手県立大学に理学部を創設すべきだ」
ILCで実験が行われる素粒子物理学を専門的に学べる理学部を有する大学は、最も近くて仙台市の東北大学。斎藤教授は、教育環境が現状のままであれば、最先端の研究施設がありながら地元の人間が活躍できない状況が生まれると懸念する。
会場には藤井克己岩手大学長、中村慶久県立大学長の姿も。藤井学長は「大学機能の強化を進める上でも重要なこと」と斎藤教授のメッセージを受け止めた。
教育環境の充実とともに、国際化への対応も重要となる。
外国人研究者や技術者が北上山地周辺に滞在する。海外には「単身赴任」という概念は存在しないため、家族同伴で中長期にわたり生活することになる。外国人の子どもたちが通うインターナショナルスクールはもちろん、日常のショッピングや行政サービスなどあらゆる面で国際化への対応が求められる。
市国際交流協会は、外国人市民による「インターナショナルILCサポート委員会」を立ち上げ、地域の国際化に必要な対応を市に提言している。異国に長年住んでいる外国人市民の声は、今後の環境整備や施策を考える上で大きな参考材料となる。
同協会の佐藤剛会長は「国際化は仮想の話ではなく、現実により近い話になってくる」と強調する。国際化への対応は多岐にわたり、受け入れ側となる地域住民との合意形成、理解構築も不可欠だ。「即戦力となる人材の起用はもちろん、教育によって国際化に対応できる人を育てることも必要だ。若年層を中心に、次の世代を視野に入れた新しい地方都市を皆で目指していきたい」と力を込める。
(つづく)
写真=衣川小児童の前で特別授業をする斎藤武彦教授(資料)。県内大学に理学部を設置すべきだと提言している
少子高齢化で人口は減少の一途をたどる。だが、それだけではない。毎年3月、人口が大幅に落ち込む。そのほとんどは社会動態であることから、就職や進学のため岩手を離れる人が多いことが推測できる。
ILCは数兆円規模の経済効果を生むとされる。しかし、その効果は加速器などの実験装置が生むものではない。研究から派生した技術を活用したり、国際研究都市に関係したサービスを考案したりする「人材」がいなければ生み出されない。そのためには、ILCやそれに関連する職業・分野で活躍する人材を育てなくてはいけない。
震災被災地などを訪れ、小中高校で科学特別授業を繰り広げている独マインツ大学の斎藤武彦教授。昨年、本県沿岸部を訪れた際に、とある学校の教諭から「昔は故郷を離れる若者が多かったが、今は地元に残って頑張りたいという子が増えている」という話を聞かされた。
今年6月29日、本県のILC誘致関係者ら380人が集まった集会の席上、講師として招かれた斎藤教授はこう切り出した。
「岩手大学や岩手県立大学に理学部を創設すべきだ」
ILCで実験が行われる素粒子物理学を専門的に学べる理学部を有する大学は、最も近くて仙台市の東北大学。斎藤教授は、教育環境が現状のままであれば、最先端の研究施設がありながら地元の人間が活躍できない状況が生まれると懸念する。
会場には藤井克己岩手大学長、中村慶久県立大学長の姿も。藤井学長は「大学機能の強化を進める上でも重要なこと」と斎藤教授のメッセージを受け止めた。
教育環境の充実とともに、国際化への対応も重要となる。
外国人研究者や技術者が北上山地周辺に滞在する。海外には「単身赴任」という概念は存在しないため、家族同伴で中長期にわたり生活することになる。外国人の子どもたちが通うインターナショナルスクールはもちろん、日常のショッピングや行政サービスなどあらゆる面で国際化への対応が求められる。
市国際交流協会は、外国人市民による「インターナショナルILCサポート委員会」を立ち上げ、地域の国際化に必要な対応を市に提言している。異国に長年住んでいる外国人市民の声は、今後の環境整備や施策を考える上で大きな参考材料となる。
同協会の佐藤剛会長は「国際化は仮想の話ではなく、現実により近い話になってくる」と強調する。国際化への対応は多岐にわたり、受け入れ側となる地域住民との合意形成、理解構築も不可欠だ。「即戦力となる人材の起用はもちろん、教育によって国際化に対応できる人を育てることも必要だ。若年層を中心に、次の世代を視野に入れた新しい地方都市を皆で目指していきたい」と力を込める。
(つづく)
写真=衣川小児童の前で特別授業をする斎藤武彦教授(資料)。県内大学に理学部を設置すべきだと提言している