人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2020-10-11 8:10
 素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)の誘致推進に関わる一般社団法人「先端加速器科学技術推進協議会(AAA)」が、法律で定められている貸借対照表の公告を発足以来していなかった。報道機関からの指摘を受け今月上旬発覚。ホームページ(HP)に6年分の貸借対照表を含む決算報告書、総会議事録をまとめて掲載したが、会員からの指摘を受け、現在は公表義務のある貸借対照表のみ公開している。本紙の取材に対し、9日夕、AAAからメールで回答があり、公告していなかった事実を認めながらも、閲覧不可にした資料に係る質問は「公告義務がないので回答を控える」とした。
 AAAは2014年に設立。英字略称の表記から「トリプルエー」とも呼ばれている。
 ILC計画と日本誘致実現のため、ILC関連の技術開発、社会周知を図る広報活動を展開。広報活動では講演会の開催のほか、人気キャラクター「ハローキティ」を利用したオリジナルグッズの販売も手掛けている。
 製造系の大手企業や大学・研究機関が主な会員。2月1日現在、民間企業が中心の正会員が112社。大学などが中心の賛助会員が41機関となっている。
 役員の多くは製造大手や大学・研究機関の関係者。会長は三菱重工名誉顧問の西岡喬氏、副会長は岩手県立大学長で素粒子物理学者の鈴木厚人氏が務める。名誉会長はノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊氏。最高顧問には国会のILC議連会長を務める元官房長官の河村建夫氏(衆院山口3区)、特別顧問には元岩手県知事の増田寛也氏らが名を連ねる。
 貸借対照表を公告していなかった事実は、報道機関の指摘によって明らかになった。「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」の第128条では、定時社員総会の終結後遅滞なく、貸借対照表を公告しなければならないとしている。
 さらに同条第3項では、不特定多数の人が見られる状態にする必要があると規定。これらに違反した場合は、100万円以下の過料が科せられる。AAAはHPにデータを掲載してはいたが、会員だけが知るパスワードがないと見られない状態だった。
 AAA事務局長の松岡雅則氏(三菱重工)は本紙の取材に対し、「HPの改修が適切に行われていなかった。管理不足であったと反省している」と釈明。法律の公告義務は認識していたといい、「HPの運営に関して、管理体制が不十分であったと反省している。早急に体制を整え、再発防止に努める」としている。会員にはメールで謝罪したという。
 AAAは報道機関の指摘を受けた直後、貸借対照表のほか各種決算関連書や総会議事録もHPに公表したが、現在は公告義務がある貸借対照表のみ掲載。松岡氏は「会員から公開すべきでない資料(総会議事録等)も公開しているとの指摘があり、公告が必須となっている貸借対照表のみに訂正した」と説明する。
 本紙は閲覧不可能になる前の段階で、公告しなかった事実関係の確認のほか、各年度の決算関連資料などを基に、科目の意味や寄付・協力金の提供元に公共団体があるかなど複数の質問を投げかけていた。しかし松岡氏は「本来、公告義務のない収支報告書に対する質問なので回答を控える」とした。
 奥州市ILC推進室によると、AAAに対する支出はないという。
(児玉直人)
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tanko 2020-10-9 13:35
 国際リニアコライダー(ILC)に関する文部科学省への審査申請を取り下げ、約半年にわたり公表していなかった問題で、申請を担当していた高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市)の山内正則機構長は8日、ウェブ講演会で謝罪した。KEKの対応を巡り、東北経済連合会(東経連、仙台市)の海輪誠会長は今月6日、会見の席上、遺憾の意を示しKEKに反省を求めた。東経連には東北ILC推進協議会の事務局が設置されている。ILC誘致団体に近い人物が、公式の場で研究者側に苦言を呈するのは異例だ。
(児玉直人)

 KEKは2月下旬、文科省が策定する「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ(2020)」に係る申請書類を提出。しかし、ほぼ同時期に素粒子物理学分野の研究者組織「国際将来加速器委員会(ICFA)」が示した提言に基づき、国際協力体制の強化を進めることにした。申請書に書かれた内容よりも状況が変わると受け止めたKEKは、3月27日にロードマップ申請を取り下げた。
 ところが、KEKがその事実を明かしたのはロードマップ素案が公表された9月8日。KEKはホームページで「ロードマップの審査過程は非公開が原則だったため、報告が遅れた」と釈明。9月日には、ICFAの日本人メンバーである東京大学の森俊則教授が、ウェブ講演会の中で候補地の関係者に対し、推進派研究者の一員として「非常に大きな間違いであった」と謝罪している。
 もう一人のICFAの日本人メンバーが、KEKのトップである山内機構長。8日、東北ILC推進協が主催したウェブ講演会で「推進チームを作る動きが急激に進み、ロードマップ申請を取り下げた。半年近くそのことを発表していなかったことで、大変なご迷惑を掛けてしまった。重ねておわびしなくてはいけない」と陳謝した。
 取り下げの事実は、東北地方の誘致関係者にも伝えられていなかった。東経連の海輪会長は今月6日、仙台市で開かれた記者会見で「(取り下げによって)誘致が後退することはないと思う」とした上で、「私どもへの情報もつい先ごろで、大変その点は遺憾に思う。KEKにも公表が遅れたことについては反省を求めたい」と遺憾の意を示した。
 ILCの有力候補地・北上山地周辺の自治体首長や誘致団体を構成する経済団体の代表らは、研究者コミュニティーと長年にわたり同一歩調を取っており、蜜月的な信頼関係を構築してきた。今回の件については、KEKの取り下げに理解を示し、「実現に向け前進している」と前向きに捉える所感がほとんど。公の場で情報公開姿勢や信頼性を問う指摘は、皆無に等しかった。
 海輪・東経連会長は東北電力(株)の代表取締役会長。同社相談役の高橋宏明氏は、東経連名誉会長で東北ILC推進協の代表も務めている。
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tanko 2020-10-8 10:20

ノーベル物理学賞を受賞した3人の研究成果を解説する本間希樹所長

 今年のノーベル物理学賞受賞者が日本時間の6日夜に発表され、ブラックホール関連の研究に貢献した欧米出身者3人が選ばれた。昨年、ブラックホールの“撮影”を成功させた国際研究チームの中心的メンバーで、国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長も3人の受賞を祝福。天文学の分野から2年連続で同賞受賞者が選ばれること自体異例で、自身が進める研究の原点とも言える理論や観測に対する評価だけに、喜びもひとしおだ。「ブラックホールがいかに大事な研究対象であるかを認めてもらった。われわれの励みにもなる」と話す。
(児玉直人)

 受賞したのは、イギリス出身のロジャー・ペンローズ氏(89)=オックスフォード大学名誉教授、ドイツ出身のラインハルト・ゲンツェル氏(68)=マックス・プランク地球外物理研究所博士、アメリカ出身のアンドレア・ゲッズ氏(55)=カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授=の3人。
 ペンローズ氏は1965年、ブラックホールの中心部にある「特異点」の存在を示した人物。この世にブラックホールが形成される事実を理論的に証明した。
 一方、ゲンツェル氏とゲッズ氏は、1990年代後半から2000年代初頭にかけ、太陽系が属する天の川銀河(銀河系)の中心部を観測。中心部の天体の動き方から、太陽の約400万倍の質量を持つ強い力が作用していると結論付けた。その強大な力の根源とされるのが、巨大なブラックホールであると天文学者の間では言われてきた。
 本間所長は3人の研究成果について、「私たちが進めている研究分野の先駆けとなる成果を打ち出した人たち」と功績をたたえる。受賞者の発表に臨んだノーベル物理学委員会のデヴィッド・ハヴィランド議長が、「(ブラックホールは)将来の研究を動機付ける謎をもたらしている」と語っていたことに触れ、「私たちの研究の追い風になる」と期待を膨らませる。
 本間所長が所属する国際研究チームでは、昨年4月に画像を公表した「M87銀河」のブラックホールに加え、ゲンツェル氏、ゲッズ氏が予言した銀河系中心部のブラックホールの撮影にも取り組んでいる。既に電波望遠鏡による観測は終了しており、解析の真っ最中という。
 今回の受賞は、本間所長ら水沢駐在の研究者らにとっても驚きだった。物理学賞ではここ数十年来、素粒子・宇宙分野と物性分野の研究者が交互に選ばれていた。昨年は天文分野が受賞しており、「今年は天文はない」と思われていた。
 受賞発表と同時に、本間所長や観測所の広報担当には、全国の報道機関などから取材依頼が殺到。昨年4月に発表されたブラックホール撮影成功、さらには今年の観測所運営予算の大幅削減問題でも各メディアが大きく取り上げたことも大きい。3人の受賞者の所属機関ではないが、国立天文台も7日、公式ホームページに祝意を伝えるトピックスを掲載。本間所長のほか、同天文台の上部組織・自然科学研究機構の小森彰夫機構長のコメントも紹介している。
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tanko 2020-10-8 10:00
 文部科学省の萩生田光一大臣はこのほど、沖縄県石垣市で国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長らと面会した。本間所長によると、萩生田大臣は9月下旬、沖縄県内視察の行程の中で、同観測所が運用する天文広域精測望遠鏡「VERA(ベラ)」を構成する「石垣局」を訪問したという。
 VERAは水沢や石垣など国内4局のほか、韓国や中国などアジア諸国の電波望遠鏡を連動させた国際プロジェクトにも活用されている。しかし、同観測所の本年度当初予算が大幅に削減されたことを受け、今後の安定した運用継続に不安が残っている。
 石垣市内では、地元高校生がVERA存続に係る署名運動を展開。萩生田大臣は高校生らとも言葉を交わした。本間所長は「大臣からは『アジア諸国と組んだ観測で良い成果を出してほしい。応援している』と言われた」と話していた。
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tanko 2020-10-7 9:20

写真=東京都港区にある日本学術会議の講堂(資料)

 日本学術会議が推薦した新会員の候補者6人が任命されなかった問題が、連日報道されており、任命権者である菅義偉首相の対応に批判が相次いでいる。一方、学術会議の在り方を問う声に混じり、素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」計画に厳しい所見を出した同会議を中傷するような投稿が、会員制交流サイト(SNS)で散見される。ILC推進派で岩手県立大学長の鈴木厚人(すずき・あつと)氏は「今回の件とILCへの見解の話は全く別」とし、同列で議論すべきことではないと指摘する。(児玉直人)

 同会議の会員は210人。任期は6年で、3年ごとに半数を入れ替える。今年はその改選年に当たり、同会議は内部選考を経て決定した新会員105人の名簿を内閣府に送付していた。
 ところが首相が任命するとした会員は99人。6人を除外した理由について、首相以下政府関係者は明らかにしていない。しかし、6人は安倍前政権の政策に否定的な見解を持っていたといい、学術関係者や野党などから政治権力の介入を問題視する声が噴出している。
 ILC誘致活動が展開されている本県では、計画を巡る審議がたびたび注目されたこともあり、同会議は一定の認知度がある。ILCを推進する研究者の一人で、広島大学大学院教授の栗木雅夫(くりき・まさお)氏は「(同会議は)会員選考過程や基準が明確でないなど、一定の問題は感じている」としつつ、「学術の独立性を尊重するという視点から、今回の政府の措置は問題が多い」と指摘。鈴木氏は「政府側が除外した理由、学術会議側が推薦した理由それぞれがオープンにならないと善しあしの判断はできない」との考えを示した。
 同会議副会長を歴任した東京大学名誉教授の家泰弘(いえ・やすひろ)氏は「『暴挙』というより『稚拙』という印象」。文部科学省ILC有識者会議で委員を務めた、元国立天文台長の観山正見(みやま・しょうけん)氏は「大変残念なこと」と語る。
 首相サイドの対応に批判が集まる一方、同会議の在り方に疑問や批判を投げ掛ける意見もある。さらに、同会議が2度にわたりILC計画に厳しい所見を示した点を引き合いに「ILCに反対した組織」「ILCを潰したから廃止にしていい」といった投稿が、SNS上にここ数日散見されるようになった。
 栗木氏は「学術会議の所見にはILCに批判的な意見もあったが、学術において健全な批判は必要。むしろ計画の健全性を担保するのには必要なこと」と話している。
 所見をとりまとめた委員会の代表でもあった家氏は、「会員になることや、利益誘導をするのが目的などと勘違いしている人も中にはいる。しかし、多くの会員は学術の在り方を真摯に考え行動している。ILCの所見についても、後世の検証に十分耐えられるものと自信を持っている」と主張する。
 科学技術論、科学コミュニケーション論の観点からILCを注視している、東京大学大学院教授の佐倉統(さくら・おさむ)氏は「学術会議の在り方には批判されるべき点が多々あるが、今回の首相の行動は全くの別問題」とした。SNS上の投稿に関しては「論評に値するものではない」と切り捨てながら、「ILC計画に問題は多く、学術会議の判断は妥当なもの」と評価する。
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tanko 2020-10-7 9:10
 テレビを見ていると、5G(ファイブジー)のコマーシャルがよく流れる。5Gは第5世代移動通信システムを意味し、スマホなどは現在の4Gより格段に性能がアップする。アメリカ、韓国では昨年4月から、中国では同年10月末から運用が始まり、日本では今年3月からサービスが開始した。
 5Gに関するネットの検索をして驚いたのは、健康被害を警告する記事が多いことである。共通するのは、ミリ(メートル)波による人体への影響。ミリ波とは、マイクロ波のなかでも高い周波数(30〜300ギガヘルツ)の電磁波(電波)を指す。5Gでは2G〜4Gまで使用されてきたマイクロ波に加え、ミリ波を使用する。
 ミリ波は直進性が強く、大容量のデータを伝送できる。このため衛星通信や電波望遠鏡、車載衝突防止レーダーなど多岐な用途に使われる。一方、アメリカ軍は暴動鎮圧用などの目的で、ADSという電子銃の開発を進めている。5Gの技術はもともと電磁波兵器として開発されたと指摘する記事も。
 ミリ波については「人間の皮膚の数ミリ以内及び角膜の表面層でほとんど吸収され、末梢神経系、免疫系、心血管系などに有害な生理学的影響をもたらす」「生殖能力、脳、心臓機能、遺伝子にも作用を与える」と警鐘を鳴らす専門家が少なくない。電磁波による発がん性の恐れも指摘されている。
 ミリ波を使う5Gでは、100〜200メートルごとにアンテナを設置する必要があるという。そうなると、より強い電磁波を多く浴びることになる。5Gの電磁波の浸透力は強く、ビルの壁などもすり抜ける。5G用の通信衛星が地上の基地局に送電すると、いやおうなしに人間や動物に降り注ぐ。
 なかには、5Gの電磁波で昆虫が絶滅し、環境にも悪影響をもたらすと指摘する専門家も。これらの警告が杞憂に終わればいいのだが、もしも将来的にこれらの警告が現実になったらと思うと、背筋が寒くなる。
(史)
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tanko 2020-10-6 10:00
 菅首相は就任早々、説明責任の追及を受けている。日本学術会議が推薦した会員候補者を任命しなかったことに対する説明だ。報道各社は学者らの見解を引用しながら、学問への政治介入として批判的。首相官邸前では抗議デモが行われるなど、問題視する動きが広がる。
 報道によると、学術会議は3年に一度、半数の105人を改選する。内部での選考を経て、臨時総会で候補者が承認され、時の首相が任命する。今回、内閣府から学術会議の事務局に送られてきた名簿には99人の名前しかなく、6人の名前がなかったことで問題が表面化した。
 学術会議側が内閣府に問い合わせると、「人事上の問題は回答できない」との返答。指摘されているのは、前安倍政権の政策に対して否定的な意見を持つ人たちが任命されなかったことにある。安全保障や組織犯罪処罰法などの法制度に反対の立場を取ったことで、排除されたのではないか、との見方だ。
 学術会議といえば、当地域を含む「国際リニアコライダー(ILC)」誘致問題でも重要な役割を果たす研究者組織として知られる。政府とは独立した立場で提言する「科学者の国会」とも呼ばれているそうだ。任命されなかった6人に、ILC問題などにあたる素粒子物理学の研究者は含まれていないが、前政権の主要政策に批判的な言動を取っている人たちという。
 菅首相は、就任後最初の記者会見で前政権の取り組みを継承することを明言した。安倍政権に非協力的な人材を排除したとの見方が広がっているのは、首相本人も不本意だろう。
 かつての国会審議で、首相の任命が「形式的な発令行為」との答弁もあったようだ。学術会議法の条文を読むと、内部の推薦に基づき、内閣総理大臣が任命する、とある。任命権があるということは、任命しない権利もあるということか。ならば、理由を説明する責任はあるというのが、世の中の見方だと思うのだが。
(和)
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tanko 2020-10-4 7:30
 「仕事師内閣」など自画自賛して登場した菅義偉内閣は、高い支持率で始まったが、早くも「馬脚」を現した。安倍内閣の後継とはいえ、そこまで独善的な体質になるようにはみえなかったのだが、政府系機関のありとあらゆる人事に介入し、自分たちに意見する人たちを排除しようとしているらしい。その端的な表れが、日本学術会議への介入である。
 日本学術会議(会員210人、任期6年)は、任命権そのものは内閣にある。しかし、これまでは会議が推薦した会員候補をすべて追認してきた。ところが今回菅内閣は、105の推薦者のうち6人の任命を拒否したのである。どうやら、政府に対する反対意見などを過去に述べたことが原因らしい。
 戦後、学術会議が推薦した学者を政府が拒否した例は一度もなかった。なぜかといえば、政治は学問に介入してはいけないからだ。「学の独立」は、あの明治憲法下でさえ、大学の基本だった。
 学問の何を承知で介入する破廉恥を冒しているのか。いわば総理とその周辺の幼児性による。しょせん「仲間内」に対する異常な執着の裏返しにみえる。政治の世界の感情が、学問、科学の世界にまで踏み込む愚。その罪は大きいといわなければならない。
 たまたま、安倍氏の病気による首相退任が、日本人のやさしさによる「判官びいき」につながり、高い支持率に助けられているこの機に、学術の世界にまで汚い手を入れようとする感覚。これはかなり危険な心根の内閣というほかない。しばらくは「お手並み拝見」と考えていたが、看過できなくなってきた。
 司法に影響を与えようとイエスマン検事を「検事総長」に据えようとして失敗したことと、同一線上にこの問題はあって、国民が知らないうちに、自分たちの「思いのまま」の社会をもたらそうとする、独裁者の危なさを感じる。
 携帯電話料金の引き下げ、行政改革、デジタル化といった、確かに魅力的な「仕事」を強調している。しかしその陰で、けっして行ってはならない「陰謀」が進行していることに、私たちは気づかなければならない。

■日本学術会議
 日本の科学者を代表する組織として、戦後間もない昭和24(1949)年に発足した。法律(日本学術会議法)により「独立した機関」として活動していて、麻生副総理の祖父「ワンマン」といわれた吉田茂は、その発会で「国の機関ではあるけれども、その使命達成のためには、時々の政治的便宜のための掣肘(自由を妨げる干渉)を受けることがないよう、高度の自主性が与えられている」とあいさつした。
 公選制から推薦制に改められた時にも、「推薦を拒否はせず、任命する。政府が干渉したり中傷したりすることはない」というのが政府の公式見解だった。
 日本学術会議は、総会で任命拒否を問題視し、政府に拒否理由開示を請求したが、政府はそれに応えていない。

 学問は、古代ギリシャでプラトンが「アカデメイア」を創設して以来、政治干渉を受けないように発展してきた。政治は、権力闘争の修羅であり、学問は純粋に追求すべき人間学だと考えられてきたからだ。
 中国では、科挙といわれる独特の厳しい官吏登用試験があって、門閥とはべつに官吏が採用された。このため、西洋の「アカデミー」を訳す際「翰林院」という言葉をあてた。
 翰林院は、学問の場というより、学者や高級官僚たちを集めた皇帝の諮問機関のようなもので、皇帝の「勅書」の起草や記述などを行った。学問好きだった唐の玄宗皇帝が設けたことで知られている。この場合には、政治に近い位置にある。しかし、中国でも長く「竹林の七賢人」ではないけれど、賢人は「臥竜」するものなのである。
 西洋のアカデミーは、貴族社会など政治の干渉を受けもしたが、それらの影響を排除する方向で芸術や文化を高めようとしてきた。
 日本では江戸期、学問所が各地にあったが、政治に近い学問、とりわけ朱子学においては、みるべき成果は何もなかった。むしろ、大坂・緒方洪庵の適々斎塾やシーボルトの鳴滝塾といった蘭学の「私塾」に俊英が集まった。
 保守派の論客、西部邁は「アカデミズムは、山の上に住む世捨て人の仙人のようなのものだ。普段は世の中にまったく知られていないことを、ひたすら研究している変わり者たち。それが、里人が何か困ったとき、意見を述べに山から下りてくる。それは里人のために日々に欠かさず考え抜いてきたからだ」
 学問は、アカデミズムは孤高であり、純粋であって政治とは相いれない。ところが、政治はしばしば干渉したがる。今の政治が我欲に落ちている証左と言っていい。

■政治弾圧
 表立った学問に対する政治介入は、「天皇機関説」を掲げていた美濃部達吉博士に向けられた。美濃部の学説は、当時の常識だったが、右翼議員たちが天皇の権威をさらに高め、その玉座の陰に隠れようとする悪意に満ちた工作をした。
 昭和10(1935)年2月、尊王的で貴族院議員だった美濃部は、右翼議員によってつるし上げにあい、それに同調した政友会が政局にしたため、学説そのものが葬られた。美濃部は「起訴猶予」ではあったが、失意のうちに議員を辞任した。
 大学自治に対する干渉は昭和13年、近衛内閣の文部大臣に就任した陸軍大将荒木貞夫によって始まった。それでなくても、数人の学者たちは、政治がらみで大学を追われていたが、皇道派の荒木が主張したのは、大学の学長を教授会が選ぶのは「天皇の官吏任免の大権をおかすものだ」という理屈だった。「帝大総長は官選とする」と荒木は言い出したが、各大学は一斉に反発した。そうなると、今度は、個別の教授をやり玉に挙げる動きが出た。
 大学の教授たちは、個々に持論がある。一枚岩とはいえない。それにあおられて大学に内紛も起きた。そこが政治につけ入るスキを与えた。
 昭和14年、古代日本史の権威津田左右吉が出版法違反で起訴された。神代史研究が政治の逆鱗に触れた。そこで大学の自由も、学問の自由もすべて失われた。そのあとには戦争が待っている。

■歴史への反省
 ひたすら反省と自虐のために歴史があるのではない。が、現代人の私たちが決して間違いをしないよう、先人たちに学ぶことを怠ってはならない。それが歴史であることはいうを待たない。
 政治が学問に介入する世の中が迫っている。私たちはそれを身近に感じる時代に差し掛かっていることを思わなければならない。新型コロナによって、大学はようやく学内での講義が始まったばかりだ。「学の独立」の大切さ、いまの生活に直面する人たちにとってそれは「どうでもいいこと」にみえるかもしれない。が、それを許すことは、普通の人たちの暮らしを息苦しくする第一歩なのである。それを歴史の教訓は教えている。
 日本のアカデミー組織は、日本学術会議だけでなく、学士院もあるが、純粋に、誰からも干渉されることなく研究に没頭してもらう、そのことが日本のためになる。幼い政治はそこに気付かない。
 学問に国が介入することが当然のようになっている国が世界中にはある。とくに、共産国、独裁国家などでは顕著だ。日本はそちらに近づきたいのか。最近、国の羅針盤が怪しくなってきた。

■任命拒否
 日本学術会議の推薦を内閣に拒否された学者は、東京慈恵会医科大小沢隆一教授(憲法学)、早稲田大岡田正則教授(行政法学)、立命館大松宮孝明教授(刑事法学)、東京大加藤陽子教授(歴史学)、京都大葦名定道教授(キリスト教学)、東京大宇野重規(政治学)の各氏。安保法制など、いまの自民党政治に批判的な見解を表明した学者たちは、内閣が率先して排除しようというわけだ。
 3年ごとに半数が改選される日本学術会議の会員。推薦した京都大学の前総長で霊長類学者として知られる山極寿一前会長(総会で退任)は「任命拒否は日本学術会議の歴史になかったことで重大。大変残念だ。首相に説明を求めている」と退任の言葉を述べた。
 会員の中からは「政府が学問にも口を出すという宣言だ」との声が上がった。この国の政治は、本当に大丈夫なのか。
 経済の自民党と言われながらも、コロナ禍で先行きは不透明だ。いまはただ、財政出動だけで株価を維持しているだけで、失業率も高くなってきた。安定感も自由も失われたら、自民党の取り柄はどこにあるだろう。
 「ものいわば唇寒し」に向かおうとしているようで、何やら背筋が寒くなる。それが、中国、台湾、南沙などの極東の不安定要素とリンクしていそうな気がするのは、思い過ごしだろうか。
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tanko 2020-9-27 9:40
千坂 げんぽう(一関市、僧侶)
 世界中を恐怖に陥らせているコロナ禍は、GDP(国内総生産)を重視する経済成長優先の社会に反省を投げ掛けている。しかし、政府、岩手県などは世界的な課題に真剣に向き合いながら国民、県民の生命を重視した施策を行っているだろうか。
 日本においては、東日本大震災以降、台風などによる風水害や地震被害が続いている中でのコロナ禍、政府はコロナ禍から国民の生命と産業を守るとして2次にわたる補正予算を繰り出した。国民の生命を守るという「錦の御旗」は、誰もが異議を唱えにくいので補正予算は通過したが、東日本大震災と同様「錦の御旗」に便乗した各省庁の無駄遣いは著しい。今や国民一人当たりの借金は900万円を超えんとする勢いなのにである。
 国に比べスケールは小さいが、岩手県のILC(国際リニアコライダー)誘致運動も似たような構図が見られる。ILC誘致が実現すれば、「国際科学都市ができる」とか「多くの雇用が生み出される」などの「錦の御旗」で、岩手県を中心とする推進側は県議会や各市議会でのいち早い同意を取り付け、反対を許さない戦前の「大政翼賛会」的な体制をつくり上げた。
 私は7年前からILC誘致反対の意見を県内他紙のオピニオン欄で述べていた。当初は「雇用が増えるのになぜ反対するの?」と非国民的な目で見られていた。欧米、日本の財政難や日本政府の科学予算の在り方を勘案すれば、国際事業であるILCのような巨大プロジェクト誘致を本気で考えること自体、高度経済成長期やバブル経済の再来を夢見る「愚かな考え」と思っていた。投げ掛ける冷ややかな視線も「どうせ実現しないのだから」と気に掛けることもなかったし、あえて反対運動を呼び掛けるつもりもなかった。
 しかし、岩手県や一関市が出前授業と称して、小学生から高校生、高専の学生まで「1万人の国際科学都市ができる」という確約されてもいない夢を語っていた。将来世代に悪影響を与えつつあると感じた。そんな中、請われて市民団体「ILCを考える会」の共同代表になった。
 日本学術会議が2018(平成30)年12月19日に公表した「ILC計画の見直し案に関する所見」には、『純学術的意義以外の技術的・経済的波及効果については、ILCによるそれらの誘発効果は現状では不透明な部分があり、限定的と考えられる』と、否定的な見解が記されている。
 学術会議は人文科学、社会科学、情報科学、医学、農学、工学、理学など科学者約87万人の中から選ばれた会員、連携会員で構成され活動している。その会員が長時間検討して「日本誘致を支持するに至らない」とした。いくら「岩手県民が一致してILC誘致を希望している」と繕ってアピールしても、学術会議の結論は重い。
 この学術会議の所見について、東北ILC準備室長(当時)の鈴木厚人・岩手県立大学長(素粒子物理学)は講演で「事実誤認に知識不足ばかり。時間をロスしてばっかりだ」と発言。学術会議の組織・運営にも疑問を呈したという。
 このような発言が研究者からなされることは信じがたいし、許されるべきではない。八つ当たりの発言は、自分が科学者であることを忘れた恥ずべき行為なのである。誘致関連費用を出している岩手県は何を考えているのだろう。
 所見は「所要経費が格段に大きく、長期にわたる超大型計画」だとし、「国民に提案するには学術界における広い理解と支持が必要」と指摘する。さらに「地域振興の文脈で語られている事項、土木工事、放射化物生成の環境への影響に関する事項等について、国民、特に建設候補地と目されている地域の住民に対して、科学者コミュニティーからの正確な情報提供に基づく一層充実した対話がなされることが肝要」とある。
 ところが誘致推進側は、ILC計画に携わる高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究者らを岩手県に招いたPRしか行っていない。漫画や芸能人を利用したPRもしているが、他分野の科学者コミュニティーの理解を得る実践は皆無と言ってもよいほどだ。一関市、奥州市でのリスク説明会も、私たちが反対の決議文を学術会議や文科省に提出してから、形だけ行ったに過ぎない。
 KEKでは「Belle供淵戰襦Ε帖次法彈存海里茲Δ法∩芭鎧劼瞭罎貿る良い結果を出していると聞く。素粒子物理研究の進展は喜ばしいが、可能性のない計画を展望があるかの如く引き延ばし、県民の税金を無駄に使わせることは、県民を軽視していることに他ならない。彼らの「岩手県民は私たちの言うことを聞いていればよい」とでも考えているようなパターナリズム(父権主義)的な姿勢は、民主主義と相容れるものではない。
 ロードマップ2020に申請していたILC計画だったが、今年3月27日に取り下げていた。KEKは国際協力体制が確立されたためなどと理由を述べてはいる。だが私は、審査の結果、ロードマップに掲載されなかった時のことを恐れたのではないかと感じた。不掲載は、予算化への道が明確に否定されたことになるからだ。
 なにより、9月8日からパブリックコメントが開始されるまで発表せず隠していたことには、「県民をばかにした行為」という印象を受けた。一部報道では、まだILC計画に見込みがあるというKEKの一方的な発表をそのまま記事にした。どうしてこうも客観性を欠くようになったのか、KEKと地元自治体、一部マスコミとの関係の究明も必要ではないか。
 財政難の日本の現状、経済力が弱い岩手県……。これらの状況を冷静に見つめ、地域づくりには王道はないことを知るべきである。巨大プロジェクト誘致などではなく、地道に岩手の農林水産業や観光などの振興に取り組むことが大事ではないだろうか。

※投稿者の名前の漢字表記は、「げん」が山へんに「諺」のつくり、「ぽう」は峰
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tanko 2020-9-25 9:50
 国際リニアコライダー(ILC)計画に関する文部科学省への審査申請を取り下げ、その事実が約半年にわたり公表されなかった件について、東京大学素粒子物理国際研究センターの森俊則教授は24日、インターネットを通じた「ウェブ講演会」で陳謝した。申請書の提出や取り下げ、公表を巡る対応は高エネルギー加速器研究機構(KEK、山内正則機構長)が担当。KEKはホームページで「おわび」を表明しているが、高エネルギー物理分野の国際組織に所属している森教授は「ILCを推進するコミュニティーの代表として申し訳なく思う」と述べ、ILC有力候補地の本県関係者らに向け直接謝罪した。(児玉直人)

 森教授は「国際将来加速器委員会(ICFA)」の委員。国内では、高エネルギー物理学研究者会議委員長などを務めている。同日は県ILC推進協議会(会長・谷村邦久県商工会議所連合会長)が主催するILCウェブ講演会の講師の一人として、直近の動向を紹介した。
 ICFAは今年2月、ILC計画推進に当たり、国際協力体制の枠組みを再構築するよう提言した。これとほぼ同時期、KEKは文科省が策定する「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ(2020)」に係る申請書類を提出。計画登載に向けた審査を受ける流れだったが、ICFAの提言に基づき体制構築が進めば「申請書に示した内容とは異なる」とし、KEKは3月27日に申請を取り下げた。
 ところが、KEKはロードマップの素案公表日と同じ9月8日になって、取り下げた事実を明かした。計画実現へ密接に協力してきたはずの東北の誘致団体、候補地周辺の自治体首長らにも知らせていなかった。KEK広報室は「ロードマップの審査過程は非公開が原則だったため、報告が遅れた」としている。
 森教授は「サポートを頂いている地元の方々、産業界の方々にすら伝えていなかった。どんなに必要な理由があったにせよ、非常に大きな間違いであり、(誤った)判断だった」と述べ、陳謝した。
 その上で「8月には国際準備研究所を立ち上げる『国際推進チーム』が発足した。1年から1年半後には準備研究所ができ、4年間にわたり細かい設計や地質調査などを行う。並行して政府間の協議を行うが、ここで各国の分担を話し合い、本当に(毅味歎弉茲髻砲笋襪どうかが決まってくる」と説明。「今は(政府が)やる、やらないを判断するタイミングではない。今後の進展を見て判断していくだろう」と述べた。
 同日は東京大学の山下了特任教授、元国土交通省国土政策局長の藤井健氏らも講演。ILC計画などが反映された国土計画協会の「地球村創生ビジョン」策定に携わった藤井氏は、「新型コロナウイルス対策は最優先すべき課題ではあるが、だからと言って宇宙の真理を探究するような研究の積み重ねを止めていいわけではない。地球温暖化対策と同様、われわれの世代だけでなく、次の世代にも積み上げバトンを渡していくもの。そのためにも、ILCは取り組まなければいけない」などと述べた。

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