人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2021-10-27 10:30
 素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)に関する国際会議「ILCX2021」が26日、完全オンライン方式で始まった。29日まで。素粒子物理学以外の科学実験にも寄与する可能性などについて、議論を交わすとみられる。当初は茨城県つくば市で開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、オンライン方式に切り替え。参加研究者らによる北上山地の視察は中止となった。
 同会議は、ILC準備研究所(プレラボ)の開設作業を推進している国際研究チーム、ILCの国内推進母体である高エネルギー加速器研究機構(KEK)などが主催する。
 ここ最近になって、メインとなる「ヒッグス粒子の詳細研究」にとどまらず、さまざな実験装置をILC施設内に設置し、素粒子物理学以外の学術研究にもILCを活用するアイデアが提案されている。ILC計画に対する他分野研究者の理解と、支持を得る狙いがあるとみられる。
 国際会議開催に合わせ、本県南部の北上山地視察も予定されていたが、オンライン開催に伴い中止に。素粒子物理学者らと連携し、ILC誘致を進めている県は、国際会議参加者がアクセスするサイトに奥州市など候補地周辺の暮らしや観光名所などをまとめた情報などを提供。本県の受け入れ態勢をアピールしている。
 ILCを巡っては、国内外の素粒子物理学者らが中心となり、プレラボの設置を進めている。一方、文部科学省はプレラボ設置などを含む直近の動向について、他分野研究者らで構成する有識者会議の場で、計画の妥当性などを検証中。有識者会議委員からは賛否両論が出ている。
(児玉直人)
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tanko 2021-10-19 8:40
 素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)計画に関する文部科学省の有識者会議(座長・観山正見岐阜聖徳学園大学長、委員14人)の第2期第3回会議は18日、オンライン方式で開かれた。ILC準備研究所(プレラボ)創設を巡る討議の中で容認する意見があったのに対し、観山座長ら複数の委員は慎重論を主張。日本誘致を前提とする現状の推進方針を改め、技術開発や人材育成に優先して取り組むべきという折衷案的な考えも示された。
 今月14日の第2回会議に続き、ILC計画を推進する素粒子物理学者らが説明。今回は国民理解や安全対策、費用分担などをテーマに取り上げ、質疑応答を行った。
 研究者側が求めているプレラボの創設について、大阪大の中野貴志・核物理研究センター長は「プレラボを設置するだけでも、(ILC実現に向けた)歯車が回り始めているのを示せる点は大きい。費用もそんなにかからないので、やってみる価値はある」と述べた。
 その一方、総合科学研究機構の横溝英明理事長は「プレラボの容認は、日本がILCへの参加を表明することになる」。低炭素社会戦略センター研究統括の森俊介・上席研究員も「国際協力を得るというが、どの国も新型コロナ対応でそれどころではなく、医療などに資源を投じてほしいと思っているはず。有識者会議として、この道が良いと断言することは無理。むしろ引き返す道を選ぶべきだ。段階を踏んで、確実にゆっくりできる体制を取っては」と指摘した。
 東京大の岡村定矩名誉教授、同大カブリ数物連携宇宙機構の横山広美教授は、日本誘致など建設候補地に関わる取り組みを切り離すべきだと主張。横山教授は「ヨーロッパが検討している大型研究計画の状況など、素粒子の大型研究を巡る動向は流動的。建設地に関する検討や研究は後回しにして技術開発をしながら、この分野の研究が途絶えない状況をつくり、合意できるタイミングが来たら決断できればよいのでは」と述べた。
 次回会議の開催日は未定だが、有識者会議の見解を示す「まとめ」の内容などについて協議する。

誘致活動 再検証の時か
 【解説】ILC計画を推進する研究者らは「日本誘致に前向きな姿勢を」との表現で、日本政府に迫っている。もちろん最終決断ではない。しかし巨額な予算、目まぐるしく変化する国内外の情勢などもあり、文部科学省にとって態度を明確にすること自体「非常に重いプロセス」(坂本修一・文科省大臣官房審議官)というのが実情だ。
 第2期有識者会議で委員の中から浮上したのは、一連の取り組みから「誘致」の2文字をいったん切り離すという提言。素粒子物理学や高エネルギー物理学における技術開発、人材育成などの環境を確保する、いわば当該分野を守ることに重きを置いた案だ。
 このことは同時に、北上山地誘致に向け活動してきた本県自治体の取り組みについても、「再考」が求められてくることを意味する。生活に身近なさまざまな地域課題が山積し、財政事情の厳しさを抱える中、いつ実現するのか不透明なプロジェクトに、どこまで付き合うのか――。一度冷静に立ち止まり、今後の進むべき道を再検証する時期に来ていると言える。
(児玉直人)
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tanko 2021-10-15 10:10

写真=オンライン形式で行われた第2期ILC有識者会議の第2回会議

 素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)計画に関する文部科学省の有識者会議(座長・観山正見岐阜聖徳学園大学長)の第2期第2回会議が14日、ネット回線を通じたオンラインで開催された。同会議委員と、計画を推進する研究者らが意見交換。ILC準備研究所(プレラボ)の創設を直近の目標としている推進研究者サイドは、ILC計画に対して日本政府がより前向きな姿勢を示すよう、あらためて求めた。(児玉直人)

 およそ2カ月半ぶりの開催となる第2期会議。同日は、ILC計画の概要やこれまでの経緯、加速器と呼ばれる実験装置の技術成立性やコスト、プレラボの創設などについて、ILC計画を推進する素粒子物理学者らが説明。同会議委員と意見を交わした。
 計画を推進するカリフォルニア大バークレー校の村山斉教授は、日本政府が態度を明確にしない状況が続いていることを懸念。「日本が世界をリードできる、めったにないチャンス。ここでもたもたしていると、ILCが海外にさらわれてしまう」と危機感をあらわにした。
 有識者会議の中野貴志委員(大阪大核物理研究センター長)や横溝英明委員(総合科学研究機構理事長)は、プレラボが予定通り創設されなかった場合の進展や、研究者間合意のみでプレラボが創設できるのかについて質問した。
 高エネルギー加速器研究機構(KEK)の道園真一郎教授は「予算、マンパワーの面からも、国際協力で進めないと困難。プレラボを創設して進めるのが一番良い」とした。その上で「実験装置の量産に向けた実証には、ある程度の予算が必要。研究者サイドの合意だけで確保するのは、なかなか難しいと個人的には思う」などと述べた。
 道園教授によると、4年の設置期間を想定するプレラボの運営経費のうち、日本の負担見込み額は約60億円。うち約30億円は、茨城県つくば市のKEK敷地内に整備する装置の試験設備などに充てる考えだ。
 プレラボ創設の準備作業を進める国際研究チーム(IDT)の中田達也議長(スイス連邦工科大ローザンヌ校名誉教授)は、「日本政府の前向きな姿勢がない限り、プレラボは開設できず、予定している行程は実現できない」と強調した。だが、文科省はILC建設とプレラボ設置を一体的なものと捉えており、課題が山積する現状での誘致判断やプレラボ設置への投資は「国民理解を得るのは難しい」と、慎重な姿勢をみせている。
 東京大カブリ数物連携宇宙研究機構の横山広美教授は「高エネルギー分野の世界共同大型プロジェクトはILCかFCC(ヨーロッパの超大型円形加速器計画)ぐらいしかない。文科省の見解や予算面の厳しさがある中、当該分野の継続性を考える上では、誘致前提のプレラボ開設ではなく、技術開発と国際プロジェクトの継承という位置付けで取り組んでいけないものか」と提言。「(政府や他分野研究者との)温度差が埋まらないと、次のステップに行くのは厳しいと思う」と述べた。
 第3回会議は18日に行われ、国民理解や費用分担の見通しについて取り上げる。
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tanko 2021-10-5 11:40

写真=VERAと水沢VLBI観測所が特集された『国立天文台ニュース』最新号

 国立天文台(常田佐久台長)が発行する広報誌『国立天文台ニュース』の最新版(2021夏号)に、天文広域精測望遠鏡(VERA)と同天文台水沢VLBI観測所が特集された。研究に関する専門的な情報に加え、同観測所の歴史や地域とのつながりに関する話題も紹介している。
 同ニュースは今年4月まで毎月発刊されていたが、夏から季刊発行に移行。その初回が同観測所の特集で飾られた。
 水沢星ガ丘町の同観測所に勤務する研究者のほか、同観測所を拠点に運用しているVERAに携わる大学関係者ら計13人が記事を執筆。VERA20年の成果やブラックホール研究の現状、将来の観測計画について、図や写真を交えながら解説している。
 研究成果以外のテーマでは、亀谷收助教が今年3月に「日本天文遺産」に選定された眼視天頂儀1号機など、旧臨時緯度観測所時代の観測機器や建物について紹介。広報担当の小沢友彦・特任専門員は、地域における広報・教育活動について触れ、水沢菓子組合による「ブラックホールのお菓子」や、金ケ崎町立図書館での企画展などを取り上げた。
 同観測所の本間希樹所長は特集内で、複数の電波望遠鏡を連動させて高精度観測を実現させる「VLBI」において、VERAは20年間で大きな足跡を残すことができたと強調。「これからも国際協力を軸として、さらなる研究展開を進めていきたい」とし、VERAや観測所の取り組みに支援を呼び掛けた。
 『国立天文台ニュース』は、バックナンバーも含め同天文台ホームページ

https://www.nao.ac.jp/about-naoj/reports/naoj-news/

で閲覧できる。
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tanko 2021-10-4 11:30
 文部科学省が8月下旬に公表した来年度政府当初予算の概算要求に、国際リニアコライダー(ILC)の準備研究所(プレラボ)に要する経費が含まれていないことが、文科省やILCに携わる研究者らの話で明らかになった。研究者らのプランに基づけば、早ければ来年度にはプレラボが立ち上がるスケジュール。しかし文科省は、ILC計画そのものに慎重姿勢を貫いており、概算要求に盛り込まれている素粒子研究関連の予算についても、プレラボ経費として活用できるとの認識はないと強調する。研究者の一人は、プレラボ立ち上げに要する予算確保に向け「努力したい」と話している。(児玉直人)

 ILC計画を推進する国内外の研究者コミュニティーは昨年8月、国際推進チーム(IDT)を立ち上げ、プレラボの設置に必要な準備作業に着手。今年6月にプレラボ提案書を公開し、組織体制や作業計画などを明らかにした。ほぼ同時に、ILC計画を推進している高エネルギー加速器研究機構(KEK、山内正則機構長)と高エネルギー物理学研究者会議は、ILC計画の課題に関する対応などを「回答」として取りまとめ、文科省へ自主的に提出した。
 IDTの活動期間は1年から1年半程度。順調に進めば来年度にもプレラボは設立される見通しにある。
 一方、文科省は7月29日に一度役割を終えたILC有識者会議(座長・観山正見岐阜聖徳学園大学長)を再開。研究者コミュニティーと意見交換しながら、プレラボ提案書や課題回答の内容を精査し、年度内に審議結果を取りまとめる予定だ。
 しかし再開初日から2カ月経過した現在、意見交換の始まりとなる2回目の会合が開かれる気配がない。この間、文科省は来年度予算の概算要求を公表。素粒子研究関連として、米欧と共同で進める加速器の低コスト化共同研究(3億2000万円)と、KEKの運営費交付金(1億6000万円)を、21年度と同額で要求した。
 「ILC関連」とも報じられているこれらの予算だが、事業名に「ILC」と明記されているわけではなく、文科省ホームページで公表している概算要求の概要書にも記載されていない。
 文科省素粒子・原子核研究推進室は「加速器共同研究は、実験用のみならず医療用など汎用性のある加速器への応用も視野に入れ、技術開発を目指そうというもの。低コスト化や高度化が図られ、ILCがもし実現した場合にも、結果としてそれらの技術が活用されるであろうという意味で、問い合わせには“関連”として紹介している」と説明する。KEK運営費交付金をプレラボ運営費に充当できるかという本紙の質問に、同推進室は「そのような認識は持っていない」と否定する。
 このほど研究者コミュニティーが開催した報道機関向けのオンライン勉強会で、KEKの道園真一郎教授は「私が見た限り、今回の要求にはプレラボ関連の経費は入っていなかったと思う。今後もできる限りの努力は続けていきたい」と述べた。
 プレラボは「本番前」「準備段階」「以前の」を意味する英単語の接頭辞「プレ(pre)」と、研究所を意味する「ラボラトリー(Laboratory)」の略称を結び合わせた造語。ILC計画では「ILC準備研究所」の略称としてしばし用いられる。

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