人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2022-2-25 8:00
千坂 げんぽう(76)=一関市萩荘、僧侶= 

 私が属する「ILC誘致を考える会」は、県や一関市、奥州市などがILC(国際リニアコライダー)誘致のメリットだけを吹聴している点に疑問を抱いた人たちが集まり、2017年に発足した。ILCのリスクやデメリットを独自に調査研究した結果を踏まえ、2019年には「ILC誘致に反対する」と宣言した。  私は会の活動を通じていろいろなことを学んだ。

■真逆の解釈をする誘致関係者

 日本学術会議の報告書(ILC計画見直し案に関する所見)、文部科学省の発言などを詳細に検証しただけでなく、欧州合同原子核研究所(CERN)が2020年に公表した「欧州素粒子物理戦略」も原文を入手し分析した。戦略に記載されていたのは、CERNは日本がILCを主体的にやる意向なら「ドアを開けておく」と、単にリップサービスで1行程度付け加えたに過ぎない表現であることが分かった。
 県や県ILC推進協議会などは、戦略の記載内容を前向きな表現だと非常に好意的に受け止めた。しかしそれは独自に翻訳や検証したものではなく、ILCを推進する素粒子物理学者(以下・研究者)のミスリーディングな発表をそのまま引用しただけではないかと感じた。このように、自主性もなく研究者側の意向にそのまま従い、我田引水的なコメントを発表するスタイルは今も続いている。
 日本政府はILCの建設候補地を「東北」「岩手県」「北上山地」だとは言っていない。ましてや「日本に誘致する」とも言っていない。北上山地を候補地に決めたのは、あくまで研究者コミュニティーである。
 文科省が欧米の政府機関と意見交換したところ、特に独仏英は資金提供の意向がないことを明確にした。同省有識者会議は今月、これらの実情を踏まえ「日本誘致を前提とするサイト問題をいったん切り離し、技術課題等をまずは着実に実施するアプローチを展開していくべきだ」とのまとめを公表した。

■ニュースコメントで相次ぐ指摘

 こうした直近の経過を見て、もはやILCの日本誘致は絶望的だと感じた。
 ところが県は2022年度当初予算案で、ILC推進局に2億4030万円を配分し、その中の「ILC推進事業費」に関しては、前年度当初比9.5%増の1億1080万円とした。これにはあきれた。新型コロナウイルス禍で困っている人が多い昨今なのに増額とは、まさにドブにお金を捨てるようなものだと憤慨した。
 今月4日、県ILC推進本部会議が県庁で開かれた。その様子を報じた複数の地元テレビ局のニュースがネット検索サイト「ヤフー!ジャパン」に掲載された。
 「ヤフー!」のニュースの一部には、ネット利用者が意見を書き込めるコメント欄があるようで、その中身を知人が届けてくれた。見ると、投稿者のほとんどが県の姿勢に疑問を投げ掛けている。
 「いいかげん、実現可能性が限りなくゼロに近い夢をヨイショし続けるのはやめたほうがよい」
 「誘致は曲がり角に来ていると認識して、ILC以外の振興策にかじを切る時期に来ているのではないか」
 「ILC出前授業もいかがなものかと思う。科学技術への興味関心を高めるというよりは、子どもを使って特定事業の応援団を作ろうとしているのではないか。一方的な押し付けに等しい」
 およそ20件ぐらいの書き込みがあったが、すべてILC誘致運動の非実現性を指摘するものだった。
 こうした意見があるのに、県は研究者側に立った予算を組み、誘致活動を継続させようとしている。前段で紹介した文科省や欧米の最新動向などは、われわれでも簡単に入手できるような資料。そのようなレベルの情報すら把握していないのか、それとも意図的に無視しているのか――とさえ勘繰ってしまう。何ゆえ、現実を直視して政策を実行しないのか。
 一般市民が日常生活において、根拠がない夢を抱くようなことはある。しかし、県民の税金を使う県の施策ならばエビデンス(証拠)がなくてはならない。ILC誘致を国が正式に決めたとか、欧米が国際協力事業として賛同し費用負担を決めたというような状況が必要であろう。
 県は「研究者が候補地を決めてくれれば、必然的に国も実行してくれる」とでも考えたのかもしれない。しかし、そうはならなかった。県は頭を冷やし、一緒に研究者らに踊らされた周囲の人たちに頭を下げ、振り上げたこぶしを降ろしたらどうか。

■誘致活動は“誰”のため?

 知事は一体“誰”のために2億円以上のお金を使おうとしているのだろうか。前述したネットニュースのコメントには、「裕福でない県が2億円もの予算を使うのであれば、他の政策に回すべきだ。背後に何かあるのではないか」という書き込みもあった。私も同感である。
 理学部のない県立大学では2015年以降、ILC推進母体である高エネルギー加速器研究機構(KEK)の機構長を歴任した研究者が学長を務めている。ILC誘致運動の旗振り役としても活躍しているようだ。
 本県で最も求められているのは、1次産業を活性化させるための農業生命科学や、首都圏から遠く広い県土ゆえの不利条件をカバーするための情報科学である。こうした分野を専門的にリードできる人、あるいは既存学部の分野に精通した人なら納得できる。県にとっては県立大の振興や発展うんぬんより、単純にILC誘致を有利に進めたいがための学長人事だったように感じてならない。
 講演会やセミナー開催における謝礼、国際会議での「おもてなし」なども含め、これまで関係研究者らにどれだけの公費が投じられたのかも不透明だ。

■罪深い出前授業、研究者にも責任

 ILC誘致は研究者をはじめ、被災地復興事業のように特需的な収入を得られる土木建設業者、経済界は歓迎するだろう。だが、つつましく日常生活を送っている一般県民にとっては無駄だ。
 そもそも研究者たちは、国や他分野コミュニティーに働きかけ、理解を得るのが先であったはずだ。しかし自分たちの味方を増やすため、地方自治体の予算を間接的に使い続けている。
 学術研究をすることの意義は素粒子物理学に限らず、どの分野にも等しく言える。その崇高さには敬意を表したいが、だからといって、研究者は何をしても許されるわけではない。ただでさえ失墜している科学への信用にもかかわる。そう考えると、研究者たちの責任も非常に大きい。
 研究者が地方自治体予算を間接的に利用し続けているのに加え、自治体などと連携して学校で行っている出前授業、ILCに特化した研究コンクールなどは最も罪深いことだと言わねばならない。前述のニュースコメントでも指摘されていた。
 科学に関心を持たせるならば、地域の自然に触れたり、化石や岩石の性質を学んでみたりするフィールドワークを実践するなど、既存の施設や環境を生かしたほうがよっぽどよい。
 小中学生や高校生、入学間もない大学生でさえ、専門的知識の土台である教養を身に付けている途中にある。大人の利益追求のために教育現場が使われ、出前授業で聞かされたこととは異なる現状を子どもたちが知れば、マイナスの影響は非常に大きい。無駄を通り越し「害」さえなす。こうした弊害は一刻も早くなくさなければいけない。周囲の教育関係者は早急に気付くべきだ。

■市町村や議会は何をしているのか

 県や研究者側の姿勢を指摘してきたが、一関市や奥州市など市町村おいても同様の構造がある。県や研究者側等の動きに追随して予算を投じ、今後も誘致活動を継続させるようだ。
 一関市においては、JR一ノ関駅東側に広がるNECプラットフォームズ一関事業所跡地を取得し、ILC関連も含めたオフィス施設などを設置しようと躍起になっている。ILC誘致が絶望的なのに、関連オフィスを作ってどうしたいというのだろう。地方自治体の潤沢でない予算を使い、誰に対する政策を進めようとしているのか。
 私たち県民、市民は首長たちや一部利害関係者らの自己満足、利益を中心とするような政策執行に対しては「ノー」の声を上げたい。首長たちには「李下に冠を正さず」の精神で、政策を練ることを望む。
 本来、ILCを巡る動きを監視し当局の姿勢を厳しくただす役割は、県議会や市町村議会が担うべきところだ。しかし議会も一緒になってILC誘致に賛同している手前もあって、問題点を指摘するような見解はあまりない。
 ILC計画が世間に知られるようになり、賛意を示した時とは状況は全く異なる。今月16日に県議会の2月定例会が招集された。会期中には新年度予算の審査がある。首長らと一緒になって研究者らに踊らされるのではなく、冷静になって状況を見つめ、ぜひ「暴走」を食い止めてほしい。

※…千坂氏の名前の漢字表記は、山へんに諺のつくりで「げん」、峰で「ぽう」
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tanko 2022-2-24 20:20


画像=上列は1.3cm、下列は7mmの波長によって観測した「いて座A*」。左は補正しない状態、右が補正後の姿で鮮明な円形になっている。円中心の明るい部分の中にBHがある (C)IAA-CSIC/国立天文台



 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の研究者らからなる国際研究チームは、地球から最も近く天の川銀河の中心に位置する巨大ブラックホール(BH)「いて座A*(エースター)」の詳細な構造を明らかにした。同観測所のVERA(天文広域精測望遠鏡)などを用いて5年前に観測したデータを基に、同観測所内にあるスーパーコンピューター「アテルイ?」を使用するなどして解析。22日付の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」=米国=に研究成果が掲載された。本間所長らが参加する国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」では、「いて座A*」のBH本体を画像化する作業を進めており、今回の成果はその前進に大きく寄与するという。
(児玉直人)

 EHTは2019年4月、地球から約5500万光年(1光年=約9.5兆km)離れた場所にある「M87銀河」にあるBH本体の画像を公開した。観測自体は2017年に行われ、北南米大陸とヨーロッパ、南極、ハワイに点在する電波望遠鏡8基を使用した。その際、もう一つ観測していたのが「いて座A*」。いて座が見える方向に位置することにちなんで命名された。
 二つのBHの本体撮影と並行するように、BH周辺の全体像を解明する研究も実施。その観測に使われたのが、水沢観測所のVERAをはじめ、日中韓3カ国計21台の電波望遠鏡で構成される「東アジアVLBIネットワーク(EAVN)」だった。BH本体の撮影とほぼ同時期に行われた。
 地球から「いて座A*」までの距離は約2万6000光年で、「M87銀河」よりはるかに近い。しかし、宇宙空間に漂うガスが邪魔する星間錯乱により、観測データをそのまま画像化すると、ぼやけた不鮮明な状態になってしまう。近くにありながら、本来の姿が見えにくい状態だった。
 スペインのアンダルシア天体物理研究所の逍壹濟(チョウ・イルジェ)氏が率いる研究チームは、過去の観測データを活用しながら星間錯乱の影響を除去。クリアな円形の画像を得ることができた。解析には、水沢観測所敷地内にあるスパコン「アテルイ?」も用いられた。
 BH周辺は円盤状にガスが渦巻いている。水沢観測所の秦和弘助教は「円盤に対し両方向垂直にジェットが噴出している。地球から観測してほぼ真円に見えるということは、こちら側に向かってジェットが吹いていることが予想できる」と話している。
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tanko 2022-2-16 11:10
 素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)計画に関する課題を検証してきた第2期文部科学省ILC有識者会議(座長・観山正見 岐阜聖徳学園大学長、委員14人)は15日までに、「議論のまとめ」の最終版を公表した。ILC準備研究所(プレラボ)の設置は「時期尚早と言わざるを得ない」と結論。海外でILC計画とは別の大型計画も検討されており、素粒子物理学や加速器科学全体の将来像、国際的な研究開発戦略を練り直す必要性を指摘した。このほか、奥州市など県内自治体で実施されているような小中学生を対象としたILC出前授業に関連し、科学教育とプロジェクト推進の取り組みは切り分ける配慮が必要との意見があったことも明記された。
(児玉直人)

 第2期有識者会議は昨年7月から今年1月にかけ、ILC推進研究者側から文科省に提出された課題対応状況やプレラボ提案書について、妥当性や問題点などを議論。その結果や提言も含めた「議論のまとめ」の文言修正が完了し、最終版の公表に至った。
 「まとめ」の内容は1月20日の最終会議で示された案から大きな変更点はない。プレラボへの移行については当初「困難」と表記されていたが、機が熟していないという意味合いを込め「時期尚早」と書き換えた。
 有識者会議では、研究意義や社会への波及効果といったメリットに理解を示す意見が出た。一方で国内外の厳しい財政事情や新型コロナウイルスに代表される社会情勢に変化が起きており、推進する研究者に対し「広い視野で社会の現状を理解し、現実的で実効性のあるプロジェクトの立案が求められる」と指摘。これまでのILC計画の進め方を再検討する時期に来ているとした。その作業に当たっては、ILCに限定した議論とせず、ヨーロッパの超大型円形加速器(FCC)計画の検討状況なども加味し、幅広く練り直す必要性があるとの考えを示した。
 国民理解醸成の進め方に関しては、「特定地域に偏らない取り組みが重要で、学術的意義や環境・安全面の課題も含めた丁寧な説明が基本となる」とし、一方的な理解増進ではなく、双方向的なコミュニケーションの実施に努めていくことが肝要だとした。関連して、小中学生らへの出前授業に対し「科学への興味関心の促進とプロジェクトの推進とは切り分ける配慮が必要」との意見が出たことも明記された。
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tanko 2022-2-8 10:10
準備研設置に有識者難色も姿勢変えず、前年度比960万円増

 岩手県は7日、総額7922億3600万円とする2022(令和4)年度一般会計当初予算案を発表した。前年度当初比で2.3%減。▽人口減少対策▽デジタル化の推進▽環境保護と経済活動を両立させる「グリーン社会」――の三つを重点テーマとした。コロナ対策は同比0.8%増の966億円。文部科学省有識者会議が準備研究所(プレラボ)設置に難色を示し、実現見通しが依然不透明な素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の推進事業費は、前年度比960万円増の1億1080万円とし、誘致推進の姿勢に変わりがないことを鮮明にした。同予算案は16日招集予定の県議会2月定例会に上程し、審議される。
(児玉直人)

 県は「コロナ禍を乗り越え復興創生をデジタル・グリーンで実現する予算」と名付けた。
 県予算は東日本大震災発生翌年の2012年度以降、一般的な行政運営や全県を対象とした事業に投じられる「通常分」と、震災復興に関連した「震災分」に大別。昨年度からは、通常分に含まれる「コロナ対応分」も規模を明示している。
 通常分歳入の自主財源のうち県税は1307億3800万円で、前年度比7.5%増。前年度は新型コロナの影響で個人所得や企業収益の減少を見込んでいたが、2022年度は改善すると予測した。
 通常分歳出は、人件費などの義務的経費が2791億6900万円(前年度当初比1.4%減)。普通建設事業費など投資的経費は843億1100万円(同比1.1%減)。補助費などを含むその他経費3810億6200万円(同比1.6%増)となっている。
 投資的経費のうち、災害復旧事業費は112億9700万円で、同比125.8%の大幅増。西和賀町の国道107号地すべり災害復旧関連費用が計上されたためだ。
 コロナ対策では、入院施設や宿泊療養施設の確保に211億1470万円、ワクチン追加接種体制の確保には41億170万円を計上。感染状況が長期化する中、総合支援資金等の特例貸付が終了した世帯の支援を目的に、生活困窮者自立支援金給付事業費3490万円を新たに盛り込んだ。
 三つの重点テーマのうち、人口減対策は出生や死亡に伴う「自然増減」、移住に伴う「社会増減」ごとに対策を強化。出会い創出や出産環境の向上、移住者の暮らしを支援する事業などを展開する。
 デジタル化では行政業務の効率化、暮らしや産業の利便性、生産性向上を図る。グリーン社会の実現に関しては、豊かな森林・海洋資源を有する本県の強みを生かし、地域経済活動と環境保全の好循環を生み出す取り組みを実施する。
 ILC推進局への予算配分は前年度比2.7%減の2億4030万円だが、ILC推進事業費は同比9.5%増の1億1080万円。文科省有識者会議はプレラボ設置に難色を示しているほか、日本誘致を前提とした現計画から建設地に関連する事柄をいったん切り離すべきだと提言している。しかし県は、まちづくりや機材搬送の検討など、北上山地建設を見据えた受け入れ態勢づくりを変わりなく進める考え。地域特産品を使用したPRグッズ作製、小中学校での出前授業、高校生向け研究コンテストなどといった理解増進活動も計画している。
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tanko 2022-2-5 9:10

写真=県ILC推進本部会議で、引き続き研究者の取り組みを支援すると述べた達増拓也知事(県庁3階第一応接室)

 県ILC推進本部の本年度2回目会議が4日、県庁で開かれ、本部長の達増拓也知事はILC(国際リニアコライダー)の国内誘致を進める素粒子物理学者らの取り組みを引き続き支援する考えをあらためて強調。県は新年度も、誘致実現に向けた国への働き掛けのほか、県が策定した「ILCによる地域振興ビジョン」に基づいた事業などを継続させる考えだ。
 会議には達増知事ら県幹部、県ILC推進局の職員ら24人が出席。ILC計画に係る国内外の動向や、関係する本年度の県事業について同推進局の担当者が説明した。
 県は本年度もILC実現に向け、政府関係者への働き掛けを実施。全国知事会による国への要望にも、初めてILCが具体的に盛り込まれた。講演会やイベント、企画展など県内外に向けた理解増進事業も展開した。しかし、新型コロナウイルスの影響を受け、中止や延期、オンライン対応を余儀なくされた事業も少なくない。
 施設の安全管理などについて研究者が説明する「ILC解説セミナー」は昨年12月26日に奥州、一関の2市で開催した。奥州市での開催は、同市ILC推進協議会からの依頼を受けたもので27人が参加。新型コロナ感染防止を理由に、一般市民への参加呼び掛けは行わず、同協議会に加盟する団体等の関係者に限定した。
 同推進局によると、解説セミナーは産学官で構成する「東北ILC事業推進センター」が研究者側と連携し開催。同センターが自発的に開催する例と、地域の団体等からの要請を受けて開催する例があり、奥州市でのセミナーは後者に当たるという。
 会議では、文部科学省ILC有識者会議の動向についても報告された。有識者会議ではILCの学術的意義や社会貢献度の大きさを重要視する意見もあった一方、各国の厳しい財政事情などを踏まえ、素粒子物理学者らが提案していた準備研究所の設置には慎重論も根強かった。会議の成果物として近く完成させる「議論のまとめ」の案文には、現状のILC計画の進め方を再検討するような提言も盛り込まれている。
 新年度の取り組みについては、非公開で協議。会議後、取材に応じた同推進局によると、引き続き政府主導の国際的な議論を続けるよう国に働き掛けるほか、県のILC地域振興ビジョンに基づき、加速器産業集積に向けた活動を進めていく方針が確認された。
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tanko 2022-2-2 10:50
 小沢昌記奥州市長は1日、北上山地が有力候補地とされている素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)誘致活動について、本年中とも見込まれていた準備研究所(プレラボ)設置の見通しが立っていない現状を認識しつつ「関係諸団体と連携し、時間がかかってでも北上山地への誘致実現に向け、引き続き取り組んでいく」との考えを示した。
 同日の市議会定例会一般質問で、佐藤郁夫氏(無会派)の質問に答えた。今月20日、文部科学省のILC有識者会議がプレラボ設置を時期尚早とする「議論のまとめ」の内容を示して以来、小沢市長がILCについて公式見解を述べるのは初めて。
 議論のまとめでは、素粒子物理学が果たす役割やILCで行おうとする研究の学術的意義は認められた。一方で、当該分野の研究者が提案しているプレラボの設置については、関係国が支出する経費分担の見通しなどが立っていない状況下で進めることに難色が示された。
 有識者会議は状況が進展しない理由について、日本誘致が前提で話が進んでいることがあるとし、サイト(建設場所)に関わる問題は切り離し、当該分野の技術開発を進めるべきだと助言した。
 さらに研究者のみならず、奥州市や経済団体をはじめとした誘致団体も関係する事柄として、国民理解や普及の在り方、手法についても見直すべきだとの指摘もあった。
 小沢市長は「さまざまな意見があるのは、これまでもこれからも同様だと思う。しかし、ILCを知れば知るほど人類発展に欠かすことができない施設であるとの思いを強くしている。運動を着実に進めていくことが何よりも大切だ」と述べた。
 議論のまとめは、文言等の修正を経て後日、最終決定版が報告される予定だ。
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tanko 2022-2-1 10:40

写真1=ILC絵画がラッピングプリントされたパッカー車

 奥州市内をくまなく走り回るごみ収集車やバキュームカー。その中に、地元小学生によるイラストが入っている車両があるのにお気づきだろうか。廃棄物や資源物の収集運搬事業を行う一般社団法人水沢環境公社は2018(平成30)年、創立50周年記念事業として清掃車9台をラッピングプリントした。モチーフは国際リニアコライダー(ILC)。起用されたのは、平成29年度ILC絵画コンクール(県南広域振興局主催)の入賞作品だ。
 電子と陽電子を正面衝突させるための直線型加速器を取り入れている絵が多いようだ。宇宙空間へ伸びていく加速器や岩手の豊かな自然と未来都市を加速器がつなぐ様子など、「未来への希望」や「科学と自然の調和」への思いが感じられる。
 ILC関連の絵画は看板にもなっている。市内中学校の生徒が描いたもので、多くはその学校付近に設置されている。地域の特色を盛り込んでいるのが面白い。
 東水沢中学校は、宇宙の中にたたずむ奥州藤原氏の建物を背景に、アテルイの里の物見やぐらや天文台、南部鉄器などを配置した。衣川中学校は、衣川地域内でよく見られる朱塗りの橋を中央に置き、自然環境と未来都市をつないだ。橋の上で電子と陽電子が衝突する、視覚的にもインパクトのある作品だ。水沢中学校の看板は日高火防祭の「お人形さん」と水沢三偉人を大きく取り上げ、優美さも感じさせるデザインに仕上げている。
 なお、水沢環境公社の高橋透常務理事によると、ラッピング車両は3月末までの運行は決まっているが、その後、模様替えが検討されているという。町で見掛けたら、ぜひじっくりとご覧いただきたい。


写真2=東水沢中生徒による絵画看板(同校前)


写真3=衣川中(右)生徒と江刺南中生徒による絵画看板(江刺藤里地内)


写真4=水沢中生徒による看板(同校前)
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tanko 2022-1-30 17:40

写真=「アストロノミカルジャーナル」1902年2月号に掲載されたZ項の論文。後に「Z」を用いて表現される数式(右の矢印部分)や、水沢緯度観測所の名前と執筆日(左の矢印部分)などが記載されている

 旧水沢緯度観測所の初代所長を務めた木村栄博士(1870〜1943)が、地球の緯度変化を示す数式に用いられる「Z項」を発見し、論文として公表してから今年で120年。緯度観測所の歴史を引き継ぎ、ブラックホールなどの研究を推進している国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長(50)は学術的意義に加え、国際的科学プロジェクトにおいて日本が初めて示した成果という点でも重要だと強調している。
(児玉直人)

水沢から発信された“日本初”国際的成果


木村栄博士

 1888年、国際(万国)測地学協会は、国際緯度観測事業(ILS=International Latitude Service)の実施を決定。当時、天文学や測地学の分野で最大の謎とされていた、地球の自転軸のふらつき(極運動)によって生じる緯度変化を詳細に調べるのが目的だった。北緯39度8分上に観測所を設置。日本で選ばれた場所が水沢だった。
 1889年に観測が始まるが、しばらくしてドイツのILS中央局から「水沢の観測結果は誤差が大きい」と指摘を受ける。落第点を押し付けられたような形となった木村博士だったが、やがて全観測地点の緯度が季節によって大きくなったり、小さくなったりしていることに気付いた。
 緯度変化を示す数式は「Δφ = x cosλ + y sinλ」とされていたが、そこに謎の緯度変化を示す値(項)を加え「Δφ = x cosλ + y sinλ + z」としたところ誤差が小さくなった。そればかりか、水沢の観測結果は他地点より精度が高いことも証明された。
 木村博士は1902年1月6日付でZ項発見の論文を執筆。翌月、アメリカの天文学専門雑誌「アストロノミカルジャーナル(Astronomical Journal)」で発表された。同じ論文は後に、独専門誌でも取り上げられた。
 ただ、論文を発表した時点では「Z」ではなく、未知数を表す際に用いるギリシャ文字14番目の「ξ(グザイ)」を当て、「φ − φ0 = ξ + x cosλ + y sinλ」としていた。
 木村博士の功績を象徴するZ項は水沢地域の誇りに。「Z」の文字は市立水沢小学校や県立水沢工業高校の校章デザイン、市文化会館や市総合体育館、市営バスの愛称などに用いられている。
 VLBI観測所の本間所長は「Z項は地球の内部が流体核(金属がとけた状態)であることに起因しており、その後の地球の内部の研究に道を開いた」と学術的な意義を説明。「明治期の日本が近代国家を目指す上で、国際的な科学プロジェクトにおいて初めて挙げた世界的な成果。現代に生きる私たちも、大先輩である木村博士に倣い、優れた研究成果を打ち出していきたい」と話している。
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tanko 2022-1-27 9:30
 北上山地が有力候補地とされている素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)計画について達増拓也知事は26日、県庁で開かれた定例記者会見で、文部科学省のILC有識者会議終了を受け「社会的好影響や社会・政府全体で取り組んでいくべきではないかという、前向きな意見もあった」と所感を述べた。
 有識者会議は今月20日に最終会合が行われた。昨年夏から実施してきた計画の進展状況や準備研究所(プレラボ)設置などに関する議論の成果物として公表する「議論のまとめ」の内容について意見を交わした。
 「議論のまとめ」では、研究意義や技術的課題に対する一定の成果は認めるものの、独仏英3カ国政府機関が財政的に難色を示しているなど、今後の見通しを明確にするような大きな進展が見られていないと指摘。研究者側が今年中にも設置するシナリオを描いていた準備研究所(プレラボ)について、時期尚早であるとの見解を示し、技術開発とサイト(建設地)が絡む問題をいったん切り離すよう提言した。日本の誘致前提にこだわった現状の推進方法や、地域住民を含めた国民理解の在り方についても再検討するよう求めた。
 県はILC計画を推進する素粒子物理学者らの意見を取り入れながら、経済団体、北上山地周辺自治体などとも連携し、北上山地誘致実現を前提とした取り組みを展開。専門部署である「ILC推進局」を設置し、関連事業を展開している。
 達増知事は「今現在、日本政府として何も正式に決めていないということを踏まえ、現状での対応という方向に話がまとまってきているが、その中でもILCの可能性やメリットが一定程度確認された。政府決定やその前提となる外国政府間とのやりとりが進んでいけば、それに沿った形で認識も変わっていくと思う。県としては、ILCが前進していく方向で努めていきたい」と述べた。
 「議論のまとめ」は、文言等の修正などを経て後日公表される見通しだ。
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tanko 2022-1-21 9:40
 素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)計画に対する課題を検証している文部科学省ILC有識者会議(座長・観山正見岐阜聖徳学園大学長、委員14人)は20日、計画を推進する研究者側が提案していた準備研究所(プレラボ)の設置について、時期尚早とする趣旨の「議論のまとめ」を大筋で了承。学術的意義を認めながらも、日本誘致を前提とした現状の推進方法、国民理解の在り方について再検討するよう求めた。「まとめ」は、文言修正などをした上で、後日最終版が公表される。同日の第6回会議をもって2期目となる同会議は役割を終えた。

 2014(平成26)年5月に発足したILC有識者会議は、当時示されていたILC計画に対する課題を指摘した「議論のまとめ」を2018年7月に公表。一度役割を終えた有識者会議だったが、2021年に入り推進研究者側が、指摘された課題の対応状況を文科省に自主報告したほか、プレラボ設置を提案。文科省は一連の動きを受け、2期目と位置付けた有識者会議を再開させた。推進研究者側と意見交換しながら、プレラボ提案書や課題回答の内容を精査し、議論を取りまとめた。
 有識者会議は、一定の技術進展や学術的意義を認めつつ▽各国政府の具体的な参画や経費負担に対する見通しが依然立っていない▽国民理解等が不十分――などの課題を列挙。研究者側が提案している日本誘致前提のプレラボ設置について時期尚早とする基本的な考えを示した。
 ただし、当該分野の振興や次世代研究者の育成などの観点から、国内外の研究機関が連携し技術開発などを着実に実施する道筋を模索すべきだと指摘した。そのために、どこに建設するかという要素が絡む立地問題(サイト問題)については、いったん計画から切り離すべきだとした。サイト問題は、国際費用分担などを巡る議論を硬直化させており、必要な技術開発や研究分野の振興発展をも鈍化させている大きな要因になっている――との見方によるものだ。
 同日示された「まとめ」の当初案では、プレラボ設置については「困難である」という強い表現が用いられていた。会議の中で中野貴志委員(大阪大学核物理研究センター長)が、当該分野の研究そのものを閉ざすネガティブな印象を与えないよう修正を提案。中野委員は「今はそういう環境、状況でもないという意味からも『時期尚早』と変えられないか」と述べ、他の委員から賛同する声があった。
 このほかにも文言や表現について、複数の委員から意見があった。会議は同日が最終回だったが、文科省は委員の意見を反映した修正を施し、再度電子メールで修正内容を委員に提示。確認の上、観山座長の一任で最終版を決定する。
 文科省素粒子・原子核研究推進室は「『議論のまとめ』を受け、研究者側がどのようにILC計画の進め方を再検討するのか注視していきたい」と話している。


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【解説】理解周知も見直しを


 文部科学省国際リニアコライダー(ILC)有識者会議は20日、研究者側が提案していた日本誘致前提の準備研究所(プレラボ)設置に待ったを掛けた。プロジェクトの推進方法に加え、国民理解を目的とした周知方法についても見直しを求めた。
 ILC計画最大のネックは、巨額予算や人的資源などの確保。日本政府は「欧米の費用負担の確約がなければ意思表明できない」。欧米政府は「日本の明確な意思表示があれば参加してもいい」という雰囲気で、腹の探り合いになっている。
 どっちが先か――で議論は堂々巡りし、一向に進展しない。有識者会議の中では、しばしば「ニワトリが先か、卵が先か」の話に例えられた。
 この議論に付き合い続ければ、素粒子物理や加速器科学の研究、技術開発も進まなくなる。有識者会議は、費用分担を巡る問題なども含め場所に関わる「サイト問題」をいったん切り離し、研究や技術開発は着実に進めるべきだとの道筋を示した。学術の継続的な振興と、厳しい財政状況などという現実問題を考えた末、絞り出した答えだった。
 ILC計画の存在が明らかになってから10年余り。当該分野の研究者たちは、北上山地周辺の産学官関係者と連携し「日本誘致、東北誘致の実現」を声高らかに訴え続けてきた。しかし、ここにきて「誘致」前提の活動が思わぬ足かせになった格好だ。
 有識者会議が正午前に終わってから1時間余り、偶然にも奥州市立広瀬小学校では市ILC推進室による出前授業が行われた。有識者会議の「議論のまとめ」では、このような一般住民や子どもたちを相手にした理解普及の在り方も問いただしている。出前授業や講演会のような一方的な情報発信、あるいは安全対策の繰り返し説明による説得など、従来の広報活動にありがちなスタイルではなく、「双方向的コミュニケーション」の実施に努めるよう求めている。科学技術社会論の分野で重視されている手法だ。
 有識者会議で、同論が専門の横山広美委員(東京大学教授)は「『理解増進』という言葉があるが、非常に古くて押し付けて決めたことを理解せよという雰囲気がある。今は双方向コミュニケーションが求められている」と強調する。
 県ILC推進局、奥州市ILC推進室の担当者は、文科省が今後公表する「議論のまとめ」の最終版をもとに、関係者と今後の取り組みについて検討するという。最先端の研究施設を切望する誘致関係者。その理解・周知方法も「最先端」であってほしいと願う。
(児玉直人)

写真=市立広瀬小で行われたILC出前授業。有識者会議では一方的情報発信ではなく、双方向コミュニケーションの実施を求めた

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