人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2015-8-24 19:20
現有施設や衣食住 活用を
 いわてILC加速器科学推進会議が主催し、7月25日に開かれたシンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」。県立大学の鈴木厚人学長をはじめ、胆江・気仙地域の首長らがILC(国際リニアコライダー)と地域社会の在り方について持論を展開したり、意見を交わしたりした。ILCの国内建設候補地が北上山地に一本化され、今月23日で丸2年。一般市民レベルの理解普及が不十分とも言われる中、地域の将来ビジョンにILC計画の存在をどう位置付けできるのか。基調講演とパネルディスカッションの要旨を5回に分けて連載する。

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 ILCは直線の地下トンネルの中で電子と陽電子を光速でぶつけ、新しい粒子を作る実験施設。宇宙誕生の謎などを探る。約30年前から構想が練られていた。35カ国2000人が携わっており、設計やコスト、必要な技術を考えている。
 建設期間と現在想定している実験期間を合わせた30年間に必要な総経費は、建設費と運営費合わせて約2兆円。これをどのように国際社会が分担するのかが問題だ。
 建設地となる国(ホスト国)が半分、残りは各国で対応すると考えられている。日本が約1兆円負担するとなると、年間約350億円の支出。ISS(国際宇宙ステーション)やKEK(高エネルギー加速器研究機構=茨城県つくば市)の運営費とほぼ同規模だ。
 30年の研究が終われば、ILCは使われなくなるのか――というと、そうではない。KEKはもうじき50周年。CERN(欧州合同原子核研究所、スイスとフランスの国境にある素粒子研究施設)は顴周年を迎えたが、さまざまな研究を計画している。
 こういう施設をいったん造ると、30年ぐらいで終わることはまずない。いわゆる「高度化」が進む。ILCが実現すれば、60年から100年という規模で、日本が素粒子研究の世界最前線基地となり、国際機関が存在し続けることになる。

 ILC実現後の都市の姿について、いろいろな構想が描かれようとしている。ただ、60年、100年続くかもしれない施設を受け入れるのだから、巨大建造物を最初から急ごしらえで建てても、すぐに時代に見合わないものになってしまう。
 KEKなど学術研究施設が集積するつくば市では当初、市内に研究者が集まる宿舎を造った。ところが、これでは地元の人たちと研究者らとの交流は生まれない。
 ILCでは、現有の施設や衣食住環境などを最大限活用し、それでも不足している部分を補充すればいい。少しずつやらないと、くたびれてしまう。
 言葉の問題に関しては、研究所内はどうしても英語がメーンになるが、地域では今まで通り日本語中心で構わない。つくば市でも、外国人の子は日本の子どもたちと同じように小学校や幼稚園に行っている。ただし、病気や災害など緊急時における多言語の体制は作らなければいけない。
(つづく)


 
写真上=鈴木厚人氏
写真下=東北ILC推進協議会作成のパンフレットに描かれている研究都市のイメージ画
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tanko 2015-8-1 9:10
 素粒子研究施設・国際リニアコライダー(ILC)の誘致を見据えた市のまちづくり像を描くビジョン策定委員会が31日、市役所本庁5階会議室で初会合を開き、ビジョンの考え方やスケジュールなどについて確認。意見を交わした。市が置かれている現状や課題、魅力などを抽出しながら必要な手だてなどを分野ごとに検討。ILC計画の存在も意識しながら、住みよい地域の実現につながるビジョンをつくり上げる。年内策定を目標に作業を進める。
 委員13人のうち8人が出席。会長に亀卦川富夫・いわてILC加速器科学推進会議代表幹事、副会長に田面木茂樹・市教育長を選んだ。
 同ビジョンは、ILCを市のまちづくりに生かすための将来像と位置付ける。委員会の下部組織に▽まちづくり・地域生活支援▽産業振興▽福祉医療・教育――の3分科会を設置。一般市民の意見を吸い上げるための「まちづくりワークショップ」は7月5日に開催済み。
 分科会では、分野ごとに課題の検討やワークショップで寄せられたアイデアなどの具体化、スケジュールなどを協議する。分科会と策定での協議を繰り返しながら10月ごろには案をまとめ、市民や議会に公表。寄せられた意見を反映させ、年内策定とする流れだ。
 複数の委員からは「スケジュール的に難しくないか」との指摘も。市ILC推進室は「既に県や東北のレベルでILC実現を見据えた将来像の協議が始まっており、奥州市としての考えを求められる場面も出てくる。市民の声を反映させた考えを示したい」と理解を求めた。
 このほか「一般市民の多くは、ILCのことをほとんど分かっていない。ILCは難しいと思ってしまうので、岩手や東北の将来と言われても漠然としかとらえきれない」「市の現状と身近な課題を捉え、市民も研究者の皆さんも住みよい地域を実現するには何が必要か、議論をしなければいけない。地に足が付いていない状態で大きなビジョンを描こうとすると、途中でつまずいてしまう」などといった意見も出た。
 同日はビジョン策定の支援業務を受託している?都市計画設計研究所=東京都新宿区=の三浦幸雄代表取締役が、市の現状や課題、ビジョンの構成案など議論のたたき台となる要素を説明した。
 亀卦川会長、田面木副会長を除く委員は次の通り。
 倉原宗孝(県立大学教授)佐藤剛(奥州市国際交流協会会長)千葉聡(水沢青年会議所理事長)平栗聡(江刺青年会議所理事長)成田晋也(岩手大学教授)千田ゆきえ(千田精密工業取締役)西山英作(東北経済連合会ビジネスセンター長)千田由美(農家レストランまだ来すた代表)半井潔(総合水沢病院院長)大江昌嗣(NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター理事長)大村千恵(奥州市水沢青少年育成市民会議事務局次長)
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tanko 2015-7-29 9:00
 前県知事の増田寛也氏(63)を講師に迎えた文化講演会(前沢商工会主催)はこのほど、前沢ふれあいセンターで開かれた。増田氏は「人口減少時代を乗り越えて ―地域から岩手の将来を考える―」と題して講演。地方の人口減少の要因を若者の大都市流出とし、少子化の現状と未来図を説明して警鐘を鳴らした。北上山地が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)誘致による地方活性化にも期待を込めた。
 増田氏は東京都出身だが、前沢区は父で元参院議員の故・盛(さかり)氏の故郷という縁がある。1995(平成7)年から県知事を3期12年、第1次安倍内閣と福田内閣で総務相を歴任。現在は日本創成会議座長や東京大学公共政策大学院客員教授などを務めている。
 講演会には市民ら約400人が来場した。
 増田氏は、地方の若い世代が進学や就職などで子育て環境の悪い東京圏に流出し続け、日本は「人口減少時代」に突入したと指摘。将来推計人口などを示して少子化を憂慮し、結婚・出産・子育ての希望をかなえる仕組み作りや、地方の安定した雇用創出の必要性を説いた。
 地方活性化の糸口として増田氏が期待しているのがILC。誘致が実現すれば研究者とその家族ら約1万人の居住が見込まれる。「地域にとってもちろん、大きな雇用の場につながる。岩手の子どもたちが科学を学ぶ絶好の機会にもなる」と期待した。

写真=講演する増田寛也氏
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tanko 2015-7-28 9:00
 奥州市は、県南広域振興局(堀江淳局長)との政策協議の要望項目をまとめ、27日の市議会全員協議会で報告した。要望は新規4項目を含む22項目で、本年度は公立病院の環境整備や、ILC(国際リニアコライダー)実現に向けた取り組み強化を重点要望に位置付けた。市は、市議の意見を必要に応じて反映させた要望項目を8月10日の政策協議で示す。
 市は例年、県と県を通じた国への要望活動を実施。22項目のうち、国道4号水沢東バイパスの整備促進や就学援助制度への財政支援など5項目は、県を通じた国への要望事項となる。
 公立病院の医師、看護師の確保や経営安定化に向けた財政援助を求める要望で市は、産婦人科、小児科、精神科医の充足と常勤化に必要な援助を行うことや、医師育成の奨学金制度に対する財政支援を拡充することなどを盛り込んだ。
 ILCに関しては、計画実現に向けての国や関係議員らへの働き掛けを強めるとともに、県全域がILCの恩恵を受けられるような広域的なまちづくりビジョンを県民に示すよう要請。「県全体で強力に推進できる体制を早急に構築してほしい」と求めている。
 同振興局との政策協議は8月10日に水沢区内で開かれ、市議会議長や奥州選挙区選出の県議らも同席する予定。個別県道の整備要望について市は、優先度を精査した上で県へ別途要望する。

市の要望項目
【新規】 ▽スクールソーシャルワーカーの配置▽医療費助成事業での現物給付に対する国保交付金のペナルティーの撤廃▽県営防災ダム管理事業費の確保▽農業経営基盤整備事業費の確保
【継続】 ▽公立病院の医師、看護師の確保および経営安定化等のための財政援助▽ILC実現に向けた取り組み▽胆江保健医療圏での県立病院の拠点化▽通学路の安全推進事業▽地域ぐるみの学校安全体制整備への財政支援▽工業団地等への企業誘致の促進に係る支援▽少人数学級▽指導主事の派遣▽養護教諭の複数配置▽スクールカウンセラーの配置▽一般県道玉里梁川線のバイパス整備▽生活バス路線維持対策▽松くい虫等の被害拡大防止▽一級河川徳沢川樋門閉鎖に伴う内水の排水対策▽就学援助制度への財政支援▽一般国道4号水沢東バイパス等の整備促進▽国民健康保険制度に国庫負担の増額を求める▽北上川での築堤等の整備促進
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tanko 2015-7-26 10:50

 国際リニアコライダー(ILC)シンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」(いわてILC加速器科学推進会議主催)は25日、水沢区の市文化会館(Zホール)で開かれた。パネリストとして地元の胆江2市町とILC建設候補地周辺エリアとなる気仙3市町の首長、前県知事で日本創生会議座長の増田寛也氏らが登壇し、誘致実現に伴う地域の将来像などについて意見を交わした。増田氏は「他地域の地方創生にはあり得ないもの」と述べ、地域振興に果たすILCが意義は大きく、高い価値を有していることを来場者に訴えた。

 同日は約320人が来場した。パネリストは増田氏のほか▽鈴木厚人県立大学学長▽戸田公明大船渡市長▽戸羽太陸前高田市長▽多田欣一住田町長▽高橋由一金ケ崎町長▽小沢昌記奥州市長──の6氏。吉岡正和東北大学客員教授がコーディネーターを務めた。ILCをめぐり、胆江2市町と気仙3市町の首長が意見を交わすのは初めて。
 増田氏は、ILC誘致をめぐる現状について「中国もILCに似たようなものをやる意欲があるなど、ILCの日本誘致にいくつかのハードルがある」と分析。その上で、「今から来ることを前提に取り組んでほしい」と呼び掛けた。
 戸田大船渡市長は、ILC実現による産業振興に期待。「地域の産業がレベルアップしていけるよう施策を講じなければならない。建設資材受け入れとして大船渡の港が使われるよう取り組みたい」と述べた。
 戸羽陸前高田市長は「小さいころからILCに接することで科学や国際交流などに必然的に関心を持ってもらえることになる」と、教育環境の充実につながると説いた。
 小沢奥州市長は「さまざまな国の文化を受け入れる上で、まずはわれわれの文化を見つめ直す、いい機会になる。ILCは素晴らしいチャンスを与えてもらう機会だ」と強調。高橋金ケ崎町長は「地域の文化を大切にしながら、外国人研究者と共生できる都市形成が必要になる。産業創出などで岩手、東北が連携していくことが大事」と述べた。
 基調講演では、高エネルギー加速器研究機構(つくば市、KEK)の機構長を今年3月まで務めた鈴木氏が登壇。岩手や宮城などで活動するさまざまなILC関連団体・組織が「早期にまとまって組織をつくるべきだ」と指摘。有識者と行政、地区(地域住民)が三位一体で動いていく必要性も論じた。

写真=ILCをめぐり意見を交わす胆江、気仙の5首長ら

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"Visions of the Future: Mayors in Tanko, Kesen Areas Gather for Symposium"

The ILC symposium “Realization of the ILC and Prospects for Local Community” (hosted by the Iwate ILC Accelerator Science Promotion Council) was held in Z Hall in Mizusawa, Oshu on July 25th. Panelists were mayors of the two Tanko area municipalities and three Kesen municipalities that are around the ILC candidate site, former Iwate governor and Japan Policy Council Chairman Masuda Hiroya, taking the stage to exchange opinions on a future vision of the local area accompanying realization of the ILC. Mr. Masuda stated that “[The ILC would bring about] things unheard of in revitalization of other regions,” impressing to listeners the ILC has great significance for regional development and is very valuable.

Around 320 people attended the event. Besides Mr. Masuda, other panelists were: President of Iwate Prefectural University Atsuto Suzuki, mayor of Ofunato City Kimiaki Toda, mayor of Rikuzentakata City Futoshi Toba, mayor of Sumita Town Kinichi Tada, mayor of Kanegasaki Town Yoshiichi Takahashi, and mayor of Oshu Masaaki Ozawa. Guest professor at Iwate University and Tohoku University Masakazu Yoshioka served as master of ceremony. This was the first time that mayors from the two Tanko municipalities and three Kesen area municipalities exchanged their opinions on the ILC.

Mr. Masuda gave his analysis on the current status of attracting the ILC, saying that “There are several hurdles for bringing the ILC to Japan, including that China also wants to do something similar to the ILC.” He called for “working from now under the assumption the ILC is coming.”

Mayor Toda of Ofunato City expressed his hopes for industry promotion due to the ILC. “We have to implement measures so that local industry can continue to improve. We want to work so that Ofunato port can be used for bringing in construction materials.”

Mayor Toba of Rikuzentakata explained the ILC would lead to enhancing the educational environment, saying that “With children in contact with the ILC from when they`re little, they`d necessarily be more interested in science and international exchange.”

Oshu mayor Ozawa said that “Welcoming cultures from various countries will become a good opportunity for us to first reconsider our own culture. The ILC gives us a wonderful chance.” Kanegasaki Town mayor Takahashi said that, “While continuing to value our own culture, we will need to form cities where we can coexist with international researchers. It`s important for Iwate, Tohoku to cooperate on industry creation and other issues.”

For the keynote speech, former Director General of KEK in Tsukuba until March Mr. Suzuki took the podium, pointing out that the various ILC-related groups active in Iwate and Miyagi “should promptly come together and form an organization,” also saying it was necessary for scientists, the government, and locals (local people) to come together and work as one.

Photo = 5 Mayors in Tanko and Kesen areas who exchanged an opinion about ILC


*Translation by Oshu city ILC Promotion Division.
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tanko 2015-7-25 6:30
 高エネルギー加速器研究機構(KEK)機構長を3月まで務め、本年度から県立大学学長に就任した鈴木厚人氏。25日の「ILC(国際リニアコライダー)シンポジウム」で基調講演するとともに、胆江・気仙5首長との意見交換にも臨む。
 鈴木学長は素粒子物理学界のリーダー的存在で、ILC計画に長年携わってきた。海外研究者にも名の知れた人物がILC候補地の地元の大学に学長として招かれたことのインパクトは非常に大きい。

 就任間もなく、学生向けにILCの話をした。素粒子を専門的に研究する理学部がない県立大だが、寄せられた感想からはILCに対する学生たちの関心の高さが伝わった。
 「自分たちも何らかの形でILCに関わりたいと願っているようだ。総合政策、看護、社会福祉、ソフトウエアの各学部を有する状況の中で、ILCとどのような関わり持つことができるか、私自身も考えたい」
 素粒子の専門家という実績を生かしつつ、地域とILCとの関わりなど、社会学的な分野に力を注ごうとしている鈴木学長。その中で留意しなければならないのは、「地域らしさ」を失わないようにすることだという。
 「ILCが実現すれば、地域と研究施設との関係は50年、100年と続くレベルになる。今すぐ新たな建物を次々に造ったところで、数年もすれば時代や実態に見合わないものが出てくる恐れもある」と鈴木学長。「現有資産の活用を前提にまちづくりをしないと、おそらく住民は拒絶反応を起こす。沿岸被災地での巨大防潮堤建設のように、受け入れてもらえないだろう」

 鈴木学長は政治・社会情報誌「ニューズウィーク」14年7月号に掲載された小泉秀樹・東京大大学院教授の「日本は欧米に比べて市民を話し合いに参加させる仕組みが極めて弱い」と、青山※(やすし)・明治大大学院教授の「住民説明会で意見を聞くと言うレベルの話ではない。市民が当初から計画に深く関わることで、建物が完成した後に続くコミュニティーが形成されることも大きな財産だ」という見解を引用しながら語る。
 「地域に一番長く暮らすのは、地元の皆さん。外国人研究者は確かに滞在するが、何年かすれば異動してしまう。つまり、地域の方々に何よりも理解してもらうことが大事だ」
 東日本大震災で津波被害を受けた宮城県岩沼市のまちづくりは、行政や有識者だけでなく、地区の人たちが最初から参加していたという。「いろんな人たちが新たなコミュニティーを築くために集まるのだから当然こと。ILCもそういう形にしないといけない。市民参加がとにかく大切。住民とじっくり、地道にやらないと」。

 住民参加のまちづくりとともに、東北全体のまとまりの必要性も訴える。
 「6県全体で事業の共同体みたいなものを築けないだろうか。例えば観光を考えてみても、観光客は県境など関係なく移動する。それなのに、なぜか一つの県だけで頑張ろうとする。今は温度差があるが、ILCをやるときに秋田や山形も何か手伝えるような態勢を整えたほうがよい。ILCを足掛かりに取り組めば、別分野でも広域的な事業や取り組みが必要になった際に生かせる」と主張する。
 誘致実現に向けての難関と言えるのが資金確保だ。新国立競技場建設や被災地復興事業費の一部地元負担など、予算の枠組みや規模の適切さなどが問題視される場面が続いている。財政に対する国民の目がより一層厳しくなっている中、1兆円規模のビッグプロジェクトであるILCに対し、理解を得るのは決して容易なものではない。
 ただ、金額の多寡や関心の有無という物差しだけで、プロジェクトの是非を判断するのは決して適切なことではない。鈴木学長は「ILCがもたらす医療やさまざまな産業への波及は計り知れない。他のさまざまな事業に投じられる予算規模とその効果などとも十分比較しながら考えなければいけない」と語る。
 建設コストだけでなく、「グリーンILC」と銘打ち、施設運営に係るエネルギー再利用の在り方も真剣に議論されている。「ヨーロッパで新しい研究施設を建設する際には、必ずエネルギー問題を議論する。ILCに対しては、推進ばかりでなく疑問を持っている人も実際にいる。そのような声がある以上、われわれ研究者は答えなければいけない。これはぜひやりたい」。長年携わってきたプロジェクトに対する新たな挑戦が始まる。
(おわり)

鈴木厚人氏(すずき・あつと) 1946年、新潟県生まれ。東北大大学院理学研究科博士課程を修了後、東京大助教授、東北大教授、東北大副学長などを経て06年から15年3月までKEK機構長を務めた。05年に紫綬褒章を受章。専門は高エネルギー物理学。

※文中の青山教授の名前の漢字は、にんべんに八と月
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tanko 2015-7-24 11:00
 各自治体がこれまで築いてきた地域の姿、そして将来構想の中に国際リニアコライダー(ILC)の存在をどう位置付けるか。市町村境、県境を越えた人の動き、波及効果などを見据えながら、さまざまな立場の“歯車”がしっかりかみ合った状態を築く必要がある。そのためにも、自治体間で共通認識を持てる環境づくりが欠かせない。
 県はILCを「大震災からの復興の象徴」と位置付けている。では、実際に沿岸被災地を含む周辺自治体の首長はILCをどう捉えているのか。
 25日に水沢区で開かれるシンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」には胆江、気仙5市町の首長らが登壇する。開催に先立ち、5首長にアンケートや直接取材でILC計画に対する考えを尋ねた。

 「子どもたちを含め、地域の方々に国際的な感覚も養成できる」と陸前高田市の戸羽太市長。長い目で見れば被災地復興にもつながるプロジェクトだと考えている。
 大船渡市の戸田公明市長は、大船渡港が資材の輸送基地として活用されることや、外国人関係者の来訪による市内経済への好影響などに期待を寄せる。
 とはいえ、両市ともILCに関連した目立った取り組みを展開しているわけではない。
 戸羽陸前高田市長は、津波被害からの復興に集中していることもあり、時間を割く余裕がないとその理由を挙げる。戸田大船渡市長も、震災復興を最優先に市政運営をしている立場。ILCに対する市民や議会の理解を現段階で得られるかどうかという懸念要素もあるなど、被災自治体ゆえの現実が垣間見られる。

 「森林・林業日本一のまちづくり」を掲げる住田町。独自に推進している英語教育も強みだ。多田欣一町長は「人口流出の低下や町内経済の活発化が図られるのでは」とILCに期待を込める。
 気仙3市町の中でILC候補地に近接する住田町。だが、陸前高田や大船渡同様、踏み込んだ行動は起こしていない。多田町長は「国が正式決定していない。組織にも人的余裕がないため、内陸との取り組みに温度差を感じる」という。
 自治体トップが責任を持って事に取り組むには、国の正式決定のような確かな“根拠”がほしい。
 多田住田町長と似たような思いを抱くのは、金ケ崎町の高橋由一町長。住田町と同様に候補地が近く、住民の日常生活を見ても、奥州市など周辺自治体との往来が活発だ。
 高橋町長は周辺自治体との連携に理解を示しながら、「『何となく』ではなく、入り口部分をしっかり整理し、具体的な話ができる環境を整えないと実際の行動につながらない。まずは国の正式な決定が必要だろう」と強調する。

 候補地の地元である奥州市は年内を目標に、ILC実現を想定したまちづくりビジョンを策定する。「『ILCが実現できなかったら、無駄なビジョンになる』という話を聞くが、そうではない。より良い地域をつくることがベース。そこにILCを載せるようなイメージだ」。小沢昌記市長は説明する。
 都市計画に詳しく、ILC立地評価会議・社会環境基盤専門委員を務めた中央大学理工学部の石川幹子教授も同じような見解を示す。「ILCが来る来ないに関係なく、地域の将来を考える取り組みは必ずやらなければいけない」
 小沢市長は「宇宙誕生の謎を解くという研究テーマの壮大さもあり、具体的にわが事として捉えきれない側面もあるが、きっかけさえあれば周辺自治体の取り組みは大きく前進する」とみる。その上で「自治体間の温度差を無くし、広域的な連携を進めるとすれば、やはり県がヘッドクオーター(司令本部)になるべきだ」と主張している。

写真=昨年完成したばかりの住田町役場庁舎は、林業のまちにふさわしく地元木材をふんだんに使用した。ILCを見据えたまちづくりに、地域が持つ「強み」や「特色」を反映させるためにも、周辺自治体が具体的な取り組みに着手できるような環境醸成が求められている
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tanko 2015-7-23 9:50
 いわてILC加速器科学推進会議(亀卦川富夫代表幹事)は今月25日、水沢区佐倉河の奥州市文化会館(Zホール)を会場に、シンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」を開く。ILC(国際リニアコライダー)の国内誘致実現に期待を寄せる有識者らは、候補地周辺地域が一体となり、将来像を考えるよう提言している。素粒子物理研究施設ILCの誘致と広域的なまちづくりとの関係について、あらためて考える。(児玉直人)

 奥州市国際交流協会が実施した高校生ILCアンケートや、市内中学校ILC出前講座の感想文には、「国際化によって日本文化が崩壊するかもしれない」「豊かな自然が破壊されないのか」などの声が記されている。学術的意義や経済効果といったメリットが強調されがちなILC計画にあって、子どもたちは素朴な疑問や不安も抱く。
 「地域の信頼とサポートを得ることは、大規模な科学施設実現の成功へと導く鍵となる。不安を取り除き信頼を構築するため、研究者は地域に出向くことになるだろう」。国際研究者組織リニアコライダー・コラボレーション(LCC)の広報担当者、バーバラ・ワームベインさん(ドイツ電子シンクロトロン研究所所属)は、高校生らの指摘に対する見解をLCCホームページを通じて世界中に発信した。
 今回のシンポジウムを主催する同推進会議の亀卦川代表も、「研究者側には『ILCは地域に溶けこむように』との思いがある」と語る。「環境保全や地域文化の継承はもとより、人口減少、地域経済の衰退といった課題は、もはや自治体単独ではなく、広域的な視点でやらなければいけない時代。こうした既存の地域課題の解決に、ILCのスケールメリットをどう生かしていくかという話だ」と強調する。

 シンポジウムでは、ILC関連としては初めて大船渡、陸前高田、住田の気仙3市町と胆江2市町の首長が顔を合わせ意見を交わす。胆江と気仙の東西ラインは、ILC建設想定エリアの北側に位置する。
 一方、南側の一関市周辺では、ILCを見据えた広域連携の下地が整えられようとしている。そのけん引役が同市の勝部修市長。県内外で開かれる関連行事に積極的に出席し、研究者らとのパイプも太い。自ら講師を務める市民向けILC講話は、2年で130回を超えた。
 県職員時代からILCに深く携わってきたが、そのことだけでILC誘致に力を注いでいるわけではない。今月上旬、盛岡市内で取材に応じた勝部市長は「県境を抱える自治体として、一つの危機感があった」と打ち明けた。
 千厩の公共職業安定所や法務局一関支局など、ここ数年で市内の国の出先機関が廃止され、県庁所在地に近いほうへ集約された。「国の縦割りのやり方で物事が進むと、地方創生にも影響を与えかねない。もう、県境を気にしないでやるしかない」
 今年4月下旬、隣接する宮城県栗原、登米両市の市長と懇談会を開いた。3市は同じ通勤・通学・通院エリアにある。文化も重なるなど、昔から県境を越え密接な関係にある。
 懇談会ではILCにとどまらず、子育てや婚活支援、医療、観光なども話題に上った。3首長は共通課題を認識し、連携の必要性を確認し合った。
 「当地域が恵まれているのはILCがあること。まさにアドバンテージ(優位性)だ。将来の地域発展の鍵を握る存在だと、3首長ともに一致した」。勝部市長は力を込める。

 勝部市長は3年前、宮城県気仙沼市にも連携を働きかけている。候補地の南端でもある気仙沼市は、港湾機能を生かした資機材の搬入拠点としても一目置かれている。今年1月、国際研究者組織リニアコライダー・コラボレーション(LCC)は気仙沼港を視察している。
 候補地南側で進む連携体制の構築。亀卦川代表は「われわれ民間誘致団体が呼び掛ける形となった今回のシンポジウムがきっかけとなり、一関周辺で進めているような連携の輪が広がってほしい」と希望する。
 「これは地域間競争ではない。文化や交通網でのつながりが深い地域がスタートラインにはなるが、最初のつながりがだんだんと大きな輪になるのが重要。今は奥州、一関で活発なILCの動きが、沿岸や宮城県北、さらには花北・遠野地域などを巻き込むような形で広がっていけば、やがて描く東北一円のビジョンはより中身の濃いものになるだろう」と話している。

写真=JR一ノ関駅東口に掲げられているILC誘致のPR看板。一関市は県境を越えた連携を図るため、首長レベルの懇談を始めている
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tanko 2015-7-20 15:30
 水沢区を拠点に活動する「ILCサポート委員会」(ビル・ルイス委員長)と達増拓也知事との意見交換会は18日夜、同区の水沢地域交流館(アスピア)で開かれた。外国出身の委員5人は、ILC(国際リニアコライダー)建設推進に伴う国際化や、本県に訪れる外国人へのサポートについて知事と意見を交わした。
 同委員会は県内在住の外国人を中心に構成。ILC誘致に向けた活動などを展開してきた。今回はILC完成後に多くの外国人研究者やその家族らが県内で居住するとみられることから、意見交換の場を企画した。
 ルイス委員長は、ILCが県内の人口減少への歯止めとなることを強調。「オリンピックは2週間で終わってしまうが、ILCは長く続く。その点から日本にも、岩手の国際化にも有益だ。県からも国に強く協力や理解を訴えてほしい」と呼び掛けた。
 このほか委員からは「県内でムスリムの女性が警察官にしつこく尋問を受けた」「多くの外国人が訪れるようになるので、さらに英語教育に力を入れてはどうか」などの意見が寄せられた。
 達増知事は「ILCの研究は少なくとも100年は続くと言われている。長い期間にわたりさまざまなものをもたらしてくれるはずだ」との見解を示し、「ムスリムの女性の件は、相手がどう感じるかという配慮に欠けた対応だと思う。ともに岩手に住む県民として尊重し合うことが大切」と、外国人に対する認識や生活環境も改善していく必要があるとした。

達増拓也知事(右)とILC建設による外国人居住などについて意見を交わすILCサポート委員会の委員

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"ILC Support Committee and Iwate Governor Tasso Opinion Exchange"
On July 18th, the ILC Support Committee which bases its activities in Mizusawa ward (Chairman Bill Lewis) had an opinion exchange with Iwate Governor Tasso at Aspia in Mizusawa ward. Five international resident committee members shared their opinions with the governor about internationalization of the area accompanying hosting of the ILC and support for foreign people visiting the prefecture.

The committee is composed of international residents of Iwate prefecture, conducting activities such as working to attract the ILC. The opinion exchange was planned because many foreign researcher and their families are expected to come to live in Iwate after the ILC is completed.


Chairman Lewis emphasized that that ILC will put the brakes on Iwate`s population decline. “The Olympics end after two weeks, but the ILC will continue for a long time. This is a beneficial point for Japan and for internationalization of Iwate. I would like the prefecture to strongly appeal to the central government for cooperation and understanding.”

The other committee members gave opinions like “A Muslim woman was intrusively questioned by a policeman in Iwate,” and “More foreign people will come to Iwate, so why not put even more effort into English education.”

Governor Tasso expressed the opinion that “Research with the ILC is said to continue for at least 100 years. It should bring about many positive things during that long a span.” “I think the treatment of the Muslim woman was lacking in consideration of her feelings. It`s important for us to respect each other as residents of Iwate,” saying that it`s necessary to improve the environment and people`s perceptions for foreign people.

Phot = Tasso Takuya governor (right) and members of the ILC support committee exchange views on such foreign residents by ILC construction

*Translation by Oshu city ILC Promotion Division.
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tanko 2015-7-15 15:10
 奥州市観光物産協会(菊池達哉会長)は、来日外国人観光客の増加を踏まえ、海外向けのプロモーションに本腰を入れる。宣伝活動の前段として市内に在住または勤務する外国人を対象にしたバスツアーを複数回開催。同協会は「市内の外国出身者が身近な名所旧跡を巡り、奥州の歴史文化の一端に理解を深めることで、海外への情報発信のヒントを得たい」としている。

 2020(平成32)年の東京五輪へ向け、全国的に外国人観光客の増加が予想される。奥州市内では国際リニアコライダー(ILC)誘致後の国際化を視野に入れ、「外国人が暮らしやすいまちづくり」も急務になっている。
 同協会は、海外への情報発信の一環で「市在住等外国人バスツアー」を市と共催。広大な奥州を東西南北に分け、年度内に複数回の実施を見込む。このほど行われた初回のツアーには、国外出身者ら10人が参加。水沢〜江刺方面の寺院と観光施設を巡った。
 水沢区大手町の市立後藤新平記念館(高橋力館長)では、先見の政治家後藤新平(1857〜1929)の足跡と偉業に触れた。「業績の数々は、現代社会の発展につながっている」と高橋館長。英語通訳を介して苦学した医学校時代、「大風呂敷」と言われた東京市長時代など71年の生涯を端的に伝えた。
 一行は江刺区のえさし藤原の郷、水沢区の古刹・正法寺と黒石寺も訪問。同区在住でルーマニア出身のシェルバン・ヨネラ・クリスチーナさん(27)は「来日10年になるが、初めて訪れる場所ばかり。奥州の歴史文化に触れるいい機会になった」と話した。
 第2弾ツアーは、秋ごろの開催を予定。同協会は参加者の意見を踏まえ、外国人観光客への「おもてなし」の方策、ホームページの多言語化などを進めるという。

写真=東京放送局(現NHK)にあった初代総裁・後藤新平の胸像に興味津々の参加者

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