人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2020-9-10 10:00
 茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK、山内正則機構長)が、北上山地が有力候補地となっている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の実現に関連した「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ(2020)」への計画申請を今年3月に取り下げていたことが分かった。KEKは今月8日、誘致推進で連携している東北や本県の関係先などのほか、報道機関に事実関係を通知。取り下げの理由について、国際協力体制が申請した時点から大きく進展したためとしている。

 文部科学省が策定するロードマップは、幅広い研究分野の意向を踏まえながら、大型プロジェクトの優先度を明らかにするもの。日本学術会議(山極寿一会長)の「学術の大型施設計画・大規模研究計画に関するマスタープラン」と関連性があり、いずれも3年ごとに策定している。
 KEKは、今年2月末に書面審査の申請書類を提出。書面審査やその後のヒアリング審査は3〜4月にかけて行われる予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で6〜8月にずれ込んだ。今月8日、文科省は素案を公表し意見募集(パブリックコメント)を開始した。
 ところが、文科省の素案公表と同日、KEKはロードマップへの申請を3月27日の時点で取り下げていた事実を明らかにした。取り下げによりILC計画は審査対象となっていないため、素案の中には記載されていない。
 KEK広報室によると、2月末の申請書提出とほぼ同時期に、国際将来加速器委員会(ICFA)などから新たな国際推進チームの立ち上げと、国際協力体制の枠組みの再構築に関する提言があった。申請書類では、国際協力体制の在り方が若干弱い表現だったが、新体制構築が明確になったことで、「申請書の内容と現状が異なる」と判断。取り下げたという。
 KEK広報室は「ロードマップの審査過程は非公開が原則だったため、報告が遅れた」と謝罪しながら、「国際推進チームが8月に設立され、新たな体制で活動を進めている。KEKは国際研究者コミュニティーと共に、引き続きILC実現に向け鋭意努力していく」とした。取り下げによるスケジュールへの影響はないとしており、「(3年後の)次期ロードマップへ再度申請するかどうかは、状況の推移によって判断することなので現時点では不明」と話している。
 申請取り下げについて、奥州市の小沢昌記市長は9日の定例記者会見で「事実を知ったのは今回の通知や報道を受けてだったが、後ろ向きな理由で取り下げたわけではないので、この時点での通知について特に遺憾に思うようなことではない。大きなハードルを乗り越えていく上で、(取り下げた)今回の判断は手法として良かったのでは」との見解を示している。
 県ILC推進局の高橋勝重局長は「6月の素粒子物理戦略により欧州も協力を表明しており、国際推進チームが立ち上がり動き始めている。その中でKEKが先を見据えて取り下げたと理解している」と話している。

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誤解招きかねない対応
 【解説】ロードマップ2020の審査テーブルに、そもそもILC計画はなかった――。審査委員が「NO」の評価を下したからではなく、KEKが自ら審査を受けずに退いたから「掲載されなかった」のである。一種の通過関門のような位置付けだったロードマップ審査から退いた事実を、5カ月以上も明らかにしていなかったのはなぜか。
 KEKは、審査過程が非公開だから取り下げた事実の公表を控えていたという。だが、そもそも取り下げた計画までも「非公開」の対象なのか。文科省研究振興局は本紙の取材に「『取り下げたことを当事者は明かしてはいけない』という決まりはない」と答えている。非公開はあくまで、KEKの判断にすぎない。
 「非公開」は、公費を投じた誘致活動を展開している候補地の地元自治体に対しても、である。「そんなつもりはなかった」としても、地元軽視や情報隠蔽と誤解されても仕方ないのではないか。
 「審査されているものだと思っていた」。奥州市ILC推進室や東北ILC推進協の職員は、本紙の取材に答えた。誘致に反対姿勢を示している市民団体「ILC誘致を考える会」共同代表の千坂げんぽう(※)氏(75)は、「結局、県も地元自治体もKEK任せ。住民の不安や問題点を指摘する声よりも、研究者側の指示を重視して動いているにすぎない。パターナリズム(父権主義)的構造だ」と指摘する。
 地域の姿が一変するかもしれないILC。そのさまざまな重要判断は、残念ながらわれわれ候補地近傍にいる人間には見えない遠い遠い舞台で行われている。それゆえ、地元対応はより一層丁寧であるべきだ。そして地元の誘致関係者は、時に研究者サイドの問題点を指摘するぐらいの、適度な緊張感と距離感を持つべきだ。
(児玉直人)

※…千坂氏の名前の漢字表記は、「げん」は山へんに「諺」のつくり。「ぽう」は「峰」
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tanko 2020-9-2 10:50

写真=ほうおう座銀河団の中心にある銀河から噴き出すジェットの想像図(国立天文台提供)

 国立天文台三鷹キャンパス=東京都三鷹市=に勤務する同天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)所属の赤堀卓也・特任研究員らは、銀河団内のガスと、ブラックホール(BH)から噴出されるプラズマ粒子「ジェット」との関係性について、有力説に疑問を投げ掛ける新たな研究成果を発表した。銀河団のガスは、ジェットによって温められていると考えられていたが、赤堀研究員らは冷え続けている銀河団の内部にジェットが存在していることを確認。『日本天文学会欧文報告』8月号に掲載された。
(児玉直人)

 銀河団とは、数多くの星が集まった銀河の集団。これまで確認されている銀河団の中には、水素を主成分とする1000万度を超えるガスが大量に閉じ込められているとされている。
 ガスは、強いX線を放射することにより熱と圧力を失う。圧力低下したガスは、暗黒物質(ダークマター)と呼ばれる正体不明の物質の重力で、銀河団中心部の銀河に引き寄せ集められる。さらにX線放射で冷却が進むと、爆発的に大量の星が作られる。
 一方、地球が属する天の川銀河近くの銀河団では、逆にガスが保温し続けられている例がほとんど。「超大質量BHから噴出されるジェットから熱エネルギーが供給されているため」とする説が有力とされてきた。
 赤堀研究員らの国際チームが今回、観測対象にしたのは、ほうおう座銀河団の中心部。地球からの距離は約59億光年。ほうおう座は南十字星などと同様、主に赤道付近や南半球で確認できる星座で、日本では鹿児島以南で見られる。
 赤堀研究員らはすでに、南米チリのアルマ望遠鏡によって、同銀河団のガス温度が例外的に低くなっている点を突き止めていた。有力説に基づけば「同銀河団にジェットは存在しない」となるが、「従来の観測は解像度や感度が不足しており、ジェットを確認できなかったのでは」との疑問を抱いた。
 そこで同銀河団の長時間観測に適した、オーストラリアの電波望遠鏡を使い観測を実施。その結果、同銀河団中心部の銀河でジェットの存在を確認した。さらに、噴き出した時期が異なっていると思われる、2組で構成されていたことも分かった。うち一つは、同銀河団の年齢よりも非常に若く、誕生から数百万年と推定された。
 赤堀研究員は、南半球に国際プロジェクトとして整備される電波望遠鏡観測網「スクエア・キロメートル・アレイ(SKA)」を活用した観測の継続を望んでいる。「さらに高感度・高解像度でこの天体を観測し、地球近傍の銀河団との違いがなぜ生じているのか解明したい」と抱負を語る。
 電波望遠鏡による天体観測は同観測所の「お家芸」で、本間所長らによるBH撮影などの成果にも表れている。同観測所が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA)は、赤堀研究員が活用を望むSKAプロジェクトの「科学技術に貢献する観測装置」として、国際組織のSKA機構から公式認定を受けている。
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tanko 2020-9-1 11:00
 岩手県は31日、奥州保健所管内(胆江地区)に居住する50代の男性が毒キノコを食べ、舌がしびれる症状を訴える食中毒(植物性自然毒)事案があったと発表した。男性は自ら採取した「カエンタケ」と推定される毒キノコを誤って食べたという。県内で毒キノコによる食中毒が発生したのは2018(平成30)年度以来。県環境生活部県民くらしの安全課は注意を呼び掛けている。
 同課によると、男性は8月27日に花巻市内の山を訪問。漢方薬や薬膳料理などに使われるキノコの一種「冬虫夏草」と誤認し、カエンタケと思われるキノコを採取した。同日、自宅で食べたところ深夜に発症した。28日、男性が受診した県央保健所管内の医療機関が奥州保健所に通報。奥州保健所は症状や潜伏時間などから、毒キノコによる食中毒と断定した。男性は31日現在入院中という。
 カエンタケは赤紅色で高さ8〜12cm程度の円柱または棒状。夏から秋にかけて、ブナやコナラなどの広葉樹林の地上に群生する。毒性が非常に強く、食後30分から発熱、悪寒、嘔吐、下痢、腹痛、手足のしびれなどが起こり、2日後に消化器不全、小脳萎縮による運動障害など脳神経障害により死に至るケースもある。
 今後、本格的なキノコ採りシーズンを迎える県内だが、同課は▽食用キノコと確実に判断できない場合は絶対に採らない・食べない・売らない・人にあげない▽食用に混ざって毒キノコが生えている場合があるので1本ずつよく確認する▽キノコにまつわる迷信や言い伝えを信じない――など、注意を呼び掛けている。
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tanko 2020-8-8 10:16

写真=大江昌嗣理事長(左)考案の水準器で傾斜の測定に挑戦する水沢第一高校の生徒たち(手前)

 水沢第一高校(大内誠光校長、生徒363人)の3年生3人は、胆沢扇状地の開拓史を語る上で欠かせない堰(農業用水路)の謎に迫る研究に取り組んでいる。水を流すのが困難な地形を400年以上前の人々はどのように克服し、農業用水を供給したのか――。当時、使われていたと思われる測量技術を用いながら、測地と研究を行い、扇状地の模型を粘土で製作。10月開催予定の同校文化祭での披露を目指す。
(松川歩基)

 6月に水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館(中東重雄館長)で開かれた、「サイエンスカフェ」に同校を運営する学校法人協和学院の伊藤勝理事長が出席したのがきっかけ。同館の指定管理者、NPO法人イーハトーブ宇宙実践センターの大江昌嗣理事長=国立天文台名誉教授=が「胆沢扇状地の昔」と題し講演。同扇状地の地形と農業用水整備の歩みについて、科学技術の観点から解説した。
 講演後、同校の生徒に当時の測量を体験させられないかという話に。偶然にも同校体育科の千田一馬教諭が、胆沢平野開拓の祖として知られる後藤寿庵(じゅあん)の意志を継ぎ、水路開削を進めた千田左馬(さま)の子孫に当たり、千田教諭の声掛けで生徒3人が集まった。
 今月5日には、胆沢若柳周辺の堰跡地や用水路を巡る調査が行われた。生徒3人は伊藤理事長、大江理事長、中東館長とともに胆沢扇状地に広がる水路網構築の秘密に迫った。
 生徒たちは大江理事長が考案した手作り水準器や、スマートフォンのアプリを使って堰周辺の傾斜や標高を調査した。大江理事長の水準器は、長さ130cmほどの細長い木製の筒の内部に水をためる構造。水平に設置した筒を望遠鏡のようにのぞき、離れた位置に置いた測定棒を見て傾斜を測る。大江理事長によると、水を使って水平基準を判断する技法は、胆沢平野の堰掘削が行われた約400年前にも使われていたと推察される。
 一般に水はけの良い扇状地は果樹園などの栽培に向くと考えられている。しかし、胆沢扇状地には水田が広がり、日本でも有数の穀倉地帯として知られている。
 現在の胆沢川は、同扇状地の北側を流れている。南にいくほど標高が高くなり、北側の胆沢川から普通に水を引くのは難しい地形にある。
 400年以上前の人々がどのように地面の傾斜を正確にとらえ、扇状地の南側にまで農業用水を届けたのか――。生徒たちは自ら測量しながら先人の知恵に触れ、研究成果を扇状地の模型という形で再現する。
 参加している生徒の一人、本間大輝君(17)は「実際歩いてみると大変な作業だということがよくわかる。当時はすべて手探りの状態だったと思うし、近くに整った道もなかった。それを考えると本当にすごい。模型で再現するのが楽しみ」と意欲を燃やしていた。
 大江理事長は「自分たちの足で歩き、具体的な数字を見ることで当時の人の苦労やその技術の高さを感じられる。若い子たちにとって少しでも何か感じるものがあればうれしい」と話し、真剣に測定する生徒たちを見守った。
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tanko 2020-8-8 10:09

写真=佐々木隆局長に要望書を手渡す小沢昌記市長(左)

 奥州市から岩手県への要望会は7日、市役所本庁で開かれ、小沢昌記市長が達増拓也知事宛ての要望書を佐々木隆県南広域振興局長に手渡した。要望内容は、国際リニアコライダー(ILC)実現に向けた取り組みなど28項目。小沢市長は「内容を十分検討し、一つでも実現してもらえるようお願いしたい」と求めた。
 市側は小沢市長や及川新太、新田伸幸両副市長、田面木茂樹教育長、各部長らが出席。要望書共同提出者の市議会から、小野寺隆夫議長ら市議6人が同席した。県南局側は佐々木局長のほか副局長や各部長らが参加し、奥州選挙区選出の県議も顔をそろえた。
 市の本年度県統一要望は、28項目のうち新規が6項目、継続が22項目。ILCをはじめ、▽地域医療の充実と公立病院における医師確保▽地方財政基盤の充実強化▽路線バス事業に対する支援事業の拡充――の4項目を重点要望に掲げた。
 小沢市長は医師確保について「県立病院でも厳しいことは承知しているが、市にとって極めて重要な課題。スクラムを組み、より良い方向へ進みたい」と述べた。バス事業に関しては「人を呼び込み住みやすい地域をつくるため、公共交通の整備は大きな力になる。特段の配慮を」と求めた。
 佐々木局長は「ILC実現に向けて関係機関との連携を強化し国へ働き掛けながら、受け入れ環境の整備などに取り組む」と強調。感染症病床を備える市総合水沢病院への呼吸器内科医の継続的な配置を市が要望していることから、「引き続き協議し調整に努める」と答えた。
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tanko 2020-8-7 11:20

写真=規約や本年度事業などを決めた東北ILC事業推進センターの総会(一関市内)

 素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)の受け入れ環境整備を具体検討する組織「東北ILC事業推進センター」が6日、発足した。胆江2市町を含むILC建設の有力候補地・北上山地周辺の16市町などで構成。センター代表には、岩手県立大学長で素粒子物理学者の鈴木厚人氏が就任した。今月2日には、素粒子分野の研究者組織・国際将来加速器委員会(ICFA)が「国際推進チーム(IDT=International Development Team)」を立ち上げている。同センターはIDTの動きと歩調を合わせながら、地元が主体となり有力候補地周辺の地質調査や研究者らの定住に対応したまづくり、ILC建設に対する地域住民の理解促進活動などを進める。
(児玉直人)

 同センターは、東北ILC推進協議会(共同代表=大野英男・東北大学総長、高橋宏明・東北経済連合会名誉会長)の内部組織だった東北ILC準備室(室長・鈴木学長)を発展解消し設立された。16市町のほか、岩手・宮城両県、東北大、岩手大、岩手県立大、岩手県ILC推進協議会(会長・谷村邦久県商工会議所連合会長)の22団体から成る。16市町の中には、宮城県栗原市など宮城県北の4市も含まれている。
 同センターが検討する事柄は?候補地周辺の環境整備など地域主導で取り組むべき課題?研究者や家族の定住に対応したまちづくり?地域住民の理解促進?自然環境や社会、経済への影響?地域資源の活用や振興?加速器関連産業の振興――など。
 研究者界からの助言を得られる組織体制とし、候補地の地元と研究者界が密接に連携しながら検討作業を進める。協議内容は候補地の地元に関する事柄が多くを占めるが、広域の受け入れに関して協議するため、東北6県に新潟県を加えた「東北七県ILC推進会議」を内部に設置する。
 一関市内のホテルで開かれた設立総会には、構成団体市町の担当職員ら36人が出席。設立経過や規約、本年度事業計画などを決めた。本年度は組織基盤強化のほか、早急に取り組むべき課題を整理し検討に入る。
 本年度の具体的事業と予算額は?候補地周辺の地形・地質調査(1300万円)?港湾活用による物流の研究・検討(200万円)?まちづくり、受け入れ環境に向けた検討(250万円)?地域住民の理解促進活動(230万円)?地域に人材を呼び込む方策の検討(100万円)?加速器関連産業の振興方策の検討(50万円)――などとなっている。費用は構成団体の負担金で賄う。
 総会後は、鈴木学長がこれまでのILC計画の流れについて講演した。
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tanko 2020-8-6 16:50


日中韓8局の電波望遠鏡で観測したブラックホールの「ジェット」の様子(写真上)。同じ観測データの中から日本の入来、石垣、小笠原の3局のデータを外し再構成した画像(写真下)。精度が大幅に落ちてしまうのが分かる=(C)EAVN collaboration

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の秦(はだ)和弘助教は、日中韓3国の国際観測で得られたデータを使い、予算が削減された場合に発生する研究への影響を検証した。本年度当初に削減された予算が追加されないままの観測体制では、観測レベルが10〜20年前に逆戻りするほど精度が悪化することが分かった。秦助教は「海外の研究者や大学院生は、高精度の観測データを期待して研究活用をしている。仮に日本の都合で急に運用停止となっていたら、研究の質は格段に下がり、国際的信用は大きく失墜していただろう」と指摘。120年以上にわたり水沢地域にあり続ける同観測所は、今なお世界の天文学研究で大きな役割を果たしていることを明らかにした。
(児玉直人)

 秦助教が検証に使ったのは、国際プロジェクト「東アジアVLBIネットワーク(EAVN)」によって撮影したブラックホールの画像。本間所長らが直接撮影に成功し話題となったのと同じブラックホールを観測している。日中韓の電波望遠鏡8局を連携させるEAVNは、より広い範囲を観測しており、ブラックホールから噴き出している「ジェット」という現象を捉えている。
 8局のうち4局は、水沢など同観測所が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA(ベラ))で構成。8局による観測データを基にした画像は、ブラックホールの中心部から帯状に噴き出すジェットの形や大きさなどが詳しく確認できる。
 秦助教は予算削減の影響を検証すべく、入来(鹿児島)、石垣(沖縄)、小笠原(東京)の3局のデータを意図的に除去し、画像を再構成。結果、ブラックホールがあると思われる部分は楕円形にぼんやり輝き、その周囲は薄いオレンジ色の幕が掛かったようになった。
 データを除去した3局は、追加予算措置がなければ6月末にも運用停止になる望遠鏡だった。秦助教は「人間の視力に当たる解像度が2倍以上悪くなり、ピンボケになったため、ブラックホールの中心部がぼんやりとした楕円形になった。感度の低下で雑音(ノイズ)が入り込み、周囲のもやもやとした幕のような形になった。これでは、ジェットの姿が分からない」と説明する。
 同観測所の施設名にもなっている「VLBI」は、離れた電波望遠鏡を連動させ同じ天体を観測する技法。「EAVN8局の中でも、VERAは東端と南端のほとんどをカバーしている。ここが抜けると大幅に観測の質が低下する」と秦助教。水沢を含めたVERA4局は、高精度な観測をする上で極めて重要な場所に配置されていると強調する。
 VERA観測網を運用する同観測所の安定的運用は、国内外の天文学者を育てる環境にも影響を与える。秦助教は「日本だけでなく海外の研究者、大学院生も観測データを使い研究を進めている。彼らのような存在を配慮せず、急に予算が減らされ運用停止の危機となれば、研究に生かす材料が失われる。まさに寝耳に水。特に大学院生たちのやる気は大きく失われる。信用問題に発展しかねない」と警鐘を鳴らす。
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tanko 2020-8-5 16:50

写真=ウェブ中継で水沢VLBI観測所の運用継続を要望する小沢昌記市長(左)と小野寺隆夫議長

 奥州市と市議会は4日、国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の活動継続に関する萩生田光一・文部科学大臣宛ての要望書を提出した。新型コロナウイルスの感染再拡大の状況を受け、要望書はすでに同省へ送付済み。同日は小沢昌記市長と小野寺隆夫議長がウェブ中継により、文科政務官の青山周平衆院議員(比例東海、自民)に要望趣旨を伝えた。
 青山政務官は冒頭、6月11日に胆江地区の天文愛好家らで組織する「VERA(ベラ)サポーターズクラブ」からも今回と同趣旨の要望を受けたことに触れ、「水沢観測所が地元の皆さんからたくさん応援を受けていると感じた」と述べた。
 小沢市長は、同観測所の前身、旧水沢緯度観測所の木村栄・初代所長が発見した「Z項」に由来する施設名などを紹介。「天文台と水沢地域は強く深く密着しており、なくてはならない存在。今回の問題は基礎科学予算全体の縮小によって起きたと思う。全体予算の拡大をお願いしたい」と訴えた。
 具体的なやりとりは10分余りにわたり、非公開で行われた。終了後、小沢市長は報道陣に「青山政務官はサポーターズクラブの要望を受けたこともあって、全体の流れを理解されているようだった。今後は地元選出議員をはじめ、基礎科学分野に造詣が深い国会関係者にも要望していく」と話した。
 同観測所は、国内4カ所に同一仕様の電波望遠鏡を配置し、高精度の天体観測を行うVERA(天文広域精測望遠鏡)観測網を運用。2年ほど前からは近隣諸国の電波望遠鏡も組み合わせた、より精度の高い国際観測事業を展開してきた。
 しかし、同天文台執行部から本年度当初予算の大幅削減方針が示され、観測網維持が困難な状況に追い込まれた。その後、予算が追加補正され年度内の観測網運用は可能になったが、来年度以降の見通しについては明確になっていない。
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tanko 2020-8-4 13:00

写真=本間希樹所長の案内で電波望遠鏡を見学する畑野君枝議員(中央)と高橋千鶴子議員(右)

 共産党の畑野君枝衆院議員(比例南関東ブロック)は3日、水沢星ガ丘町の国立天文台水沢VLBI観測所などを訪問。同観測所の本年度当初予算が大幅に削減された影響について、本間希樹所長から状況説明を受けた。畑野議員は「基礎研究が無ければ科学は発展しない。世界的にも貴重な研究をしている施設を維持できるよう、国としてもしっかり取り組んでいかなければいけない問題だ」との考えを示した。
(児玉直人)

 畑野議員は衆院の文部科学委員会、科学技術・イノベーション推進特別委員会に所属。5月28日の同特別委での質疑では、同観測所の予算削減に触れながら、日本の研究力低下に関する問題を指摘。「研究費の競争資金化や短期的に結果が出る研究が評価されている。いわゆる『選択と集中』が推進され、研究者の興味や創意に基づく自由な研究を行う環境が後退してきたのでは」と述べ、学術的な研究や基礎研究を充実させる必要性を主張していた。
 3日は、衆院比例東北ブロック選出で同党の高橋千鶴子議員や同党奥州市議団らも同行。同観測所では本間所長や同天文台の渡部潤一副台長が応対したほか、文科省の担当職員も同席した。
 本間所長は「やりたい研究はいっぱいある一方、経費削減の努力もしており、当初見込まれたコストの平均以下で運用している。われわれの研究は10年ぐらいの歳月をかけて取り組んでおり、安定して臨める環境が必要。『来年はどうなる、その次は……』という不安定な状況では観測現場は疲弊する」と訴えた。
 一行は観測所敷地内を見学後、市役所に小沢昌記市長らを訪問。小沢市長は「開所120周年、ブラックホールの撮影成功という快挙の後に、(予算削減は)何なのだという思い。未来に光を与えるためにも、基礎科学研究は必要なもの」と語った。
 畑野議員は報道陣の取材に「9月には来年度予算の概算要求が始まる。観測所が運用するVERA(天文広域精測望遠鏡)観測網4局が来年度以降も稼働できるよう、高橋議員と共に国会の場で求めていき、基礎研究予算の問題にもしっかり取り組んでいきたい」と述べた。
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tanko 2020-7-30 12:10

大質量原始星から噴出する高速ガスや水メーザーの存在をイメージした図(提供・国立天文台)

 日本の国立天文台と、韓国の天文研究院などは29日、誕生したばかりながら質量が太陽の25倍という「大質量原始星」に関する研究成果を発表。原始星から噴き出す高速ガスの複雑な構造などを解明した。原始星の観測には、同天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)が運用する天文広域精測望遠鏡「VERA(ベラ)」と、韓国の電波望遠鏡群「KVN」も活用。両国の観測網による大質量原始星関係の研究成果発表は初めて。
(児玉直人)

 太陽の8倍以上の質量を持つ恒星は「大質量星」といい、大質量原始星は誕生間もない大質量星のこと。大質量星の誕生を解明することは、重金属など身近な元素がどのように生成されたかを考える上でも、重要な研究対象という。
 今回の研究では「G25.82-W1」と呼ばれる大質量原始星を観測。いて座とわし座の間の方角にあり、太陽系から約1万6000光年離れた「天の川」の中にある。
 同天文台と同研究院はVERA4局と、KVN3局の計7局の電波望遠鏡を連動させるプロジェクト「KaVA(カバ)」によって観測したほか、同天文台などがチリに設置する「アルマ望遠鏡」による観測データも活用した。研究や観測には水沢VLBI観測所のキム・ジョンハ氏、広田朋也氏ら日本、韓国、中国の研究者5人が主に携わった。
 研究の結果「G25.82-W1」は、誕生間もない“赤ちゃん星”でありながら、その質量は太陽の25倍以上あることがアルマ望遠鏡による観測で分かった。また、アウトフローと呼ばれる高速ガスが噴き出す複雑な構造が解明された。さらにKaVAによる観測で「G25.82-W1」の近くに電波源(水メーザー)を複数確認。アウトフローの詳細を解き明かす上で重要な手掛かりになるという。
 同観測所の広田氏は「KaVAが大質量星の形成に関する詳細な研究に威力を発揮することを示した重要なステップだ。中国やタイなど、東アジアの電波望遠鏡を連動させた、より高感度の観測にも発展させたい」とコメントしている。

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