人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2021-3-2 20:00
 国立天文台教授で水沢VLBI観測所の本間希樹所長(49)が、日本天文学会(梅村雅之会長)の本年度「林忠四郎賞」を受賞した。同観測所を拠点に運用する天文広域精測望遠鏡「VERA(ベラ)」の立ち上げに寄与し、銀河系の構造解明を推進。VERAと同様の観測技術を用い、人類初のブラックホール撮影成功に導いた取り組みでは、観測データの画像化技術の開拓に努めた。独創性あふれる研究成果を進めながら、後進を育成するリーダーシップが高く評価された。(児玉直人)


写真=本年度日本天文学会「林忠四郎賞」を受賞した本間希樹所長


 同賞は、日本における宇宙物理学の先駆者として知られ、京都大学理学部長などを歴任した林忠四郎氏(1920〜2010)の第11回京都賞受賞を記念し1996(平成8)年に創設。年1回、同学会員の中から独創的で分野の発展に貢献する業績に対し贈られる。
 本間所長は、複数の電波望遠鏡を連動させ一つの天体を精測する超長基線電波干渉計(VLBI)を活用した銀河系構造の研究と、巨大ブラックホール撮影への貢献が評価された。
 VLBIの技術を使い、水沢など国内4カ所の電波望遠鏡で天体観測を行うVERAで本間所長は、プロジェクトの立ち上げ当初から中心的な役割を果たしてきた。観測所予算を巡る問題で揺れた昨年、太陽系が属する「天の川銀河」の回転速度や、同銀河中心部までの距離をより精密に観測できたとする成果も発表した。
 一方、ブラックホール撮影に挑む国際研究プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」の日本代表として、人類初となるブラックホールの影を撮影する取り組みにも貢献。観測データから画像化する際に用いる技術に、従来方法とは異なる手法を取り入れ、信頼性と精度を高めた。この技術は、当該分野に携わる研究者が使用する教科書にも、「観測研究の新たな可能性を切り開く技術」として紹介されている。
 VERAやEHTの各プロジェクトで成果を上げるとともに、多くの若手研究者の育成、国内外の観測ネットワークの形成にも貢献。日本の天文学発展に大きく貢献した点が高く評価された。
 同学会では今月19日、会員向けの受賞記念講演会をオンライン方式で予定している。今回の受賞に対し本間所長は「身に余る光栄。これまでの研究活動、特にもVERAやEHTの研究成果が認められたもので、双方の共同研究者の皆さんの協力なしには達成できなかった」と感謝。「これからもVLBIの技術を生かし、さまざまな研究に挑戦していきたい」とコメントしている。
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tanko 2021-2-26 12:40
 水沢龍ケ馬場の会社役員佐々木孝さん(65)は、市立水沢南小学校の校庭に反射板を設置し描いた直径30mほどの図形・六芒星を、人工衛星「だいち2号」に撮影させることに成功した。猛威を振るう新型コロナウイルスの早期収束、医療従事者への応援を込めた「地上の星」。子どもたちの健やかな成長への願いも乗せ、輝きを放った。(松川歩基)


写真1=水沢南小の校庭に輝く地上の星(JAXA提供の衛星写真)。矢印が差す部分が太陽光の反射で浮かび上がった六芒星

 東京都千代田区に本部を置く公益財団法人日本宇宙少年団のリーダー資格を持つ佐々木さん。コロナ下にあって自分に何かできることはないかと考えを巡らせていた時、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の企画「だいち2号にうつろう」に目が留まった。
 地域観測や災害状況の把握を狙いに2014(平成26)年5月に打ち上げられた「だいち2号」を使い、地上に描いた文字などを撮影しようという企画。佐々木さんは同少年団を窓口に申請し、1月18日と2月18日に同校校庭を使った撮影に挑んだ。
 反射パネルとしてアルミホイルを貼った1辺62〜78cmほどの板を使用。板3枚を1組として組み合わせたコーナーリフレクターという手法を使い、はるか上空の「だいち2号」に向けて効率的に光を反射するよう工夫した。


写真2=実際に撮影に使用した反射板「コーナーリフレクター」と佐々木孝さん

 1月の挑戦では校庭の7カ所(点)に板を設置し、同小のイニシャル「M」の撮影に挑戦。しかし、設置角度の微細なずれなどにより、文字を判別できるほどの撮影はできなかった。
 反省を生かした2回目のチャレンジでは、設置位置の測量を念入りに実施。理想の角度としてJAXAから指示を受けた「北から東側へ100度」を正確に測った結果、撮影に成功。18日午前11時42分ごろ、12点合計36枚の板を使用した六芒星(星形)が衛星写真に輝いた。
 六芒星は魔よけの意味がある図形として知られ、新型コロナの退散や医療従事者への応援を込めて選んだという。「小学校を会場にしたことで、当初は考えていなかった子どもたちの成長という願いも込めることができた。子どもたちが将来、地上で輝く立派な星々として活躍してくれたら」と佐々木さん。25日、同校を訪ね、撮影成功の報告と「だいち2号」が撮影した画像データを届けた。
 菅原文彦校長は「佐々木さんの活動の趣旨が、日ごろ児童たちに指導している『思いやり』の心に通じるものであったことから賛同し、協力させてもらった。天文台に近い学校であり科学教育に力を入れたいという思いもあった。児童たちに取り組みを知ってもらい、思いやりの心を育むとともに科学への興味関心にもつながってくれたら」と話していた。
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tanko 2021-2-23 12:20
 国立天文台と統計数理研究所(統数研)などの研究者チームは、同天文台水沢キャンパス=水沢星ガ丘町=に設置しているスーパーコンピューター「アテルイ?」を使い、宇宙のごく初期の様子を探る新手法を開発。この方法を活用すれば、宇宙の始まりを検証する作業時間が大幅に短縮できるという。(児玉直人)



再構築法により宇宙の始まりを解析する研究のイメージ図。右手前は現在の宇宙に分布する銀河の姿で、左奥に行くほど過去の宇宙の姿=(C)統計数理研究所


 研究チームが考案した手法は、「再構築法」と呼ばれる方法を利用。1980年代に別目的の研究のために考えられてきたが、宇宙誕生にまつわる理論の検証に見合った精度が得られるのか、明らかになっていなかった。
 今回の研究により、再構築法が宇宙の過去を知るのに十分に活用できる点が証明された。従来手法では、より多くの観測データが必要とされていたが、再構築法を用いれば、必要な観測データは10分の1程度で済む。これは「観測時間が10分の1に減る」という意味にもなり、観測や研究に費やす時間、経費の抑制にもつながる。
 再構築法の精度を確かめるため、研究チームは仮想的な「初期の銀河分布」のデータを4000種類用意。天体同士の重力作用などを反映させたシミュレーションにより、「現在の銀河分布」に進化させたデータを作成した。続いて「現在の銀河分布」のデータに再構築法を施し、「初期の銀河分布」の状態まで時間を逆戻しするシミュレーションを実施。一連のシミュレーションに用いたのが、天文学専用スパコン「アテルイ?」。シミュレーション前後のデータを比較すると、非常によく似た性質が得られた。
 宇宙誕生を解明する研究には、宇宙に直接行く探査や天体観測、北上山地に誘致しようとしている実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」のように、人工的に宇宙誕生時に近い環境をつくり、検証する方法などがある。ただ、現状の技術で得られる成果や予算的な面などから、いずれの手法にも一長一短がある。
 日本の基礎科学研究は厳しい財政事情などを背景に、低コストや効率性を意識した質の高い研究成果が求められている。既存装置を有効活用した今回の成果は、効率的手法の好例として注目が集まりそうだ。研究を主導した同天文台の白崎正人助教(33)=統数研出向=は「効率的に宇宙誕生の謎を検証できる“時短テクニック”を手にしたようなもの」と意義を強調している。
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tanko 2021-2-16 12:40
 奥州市立水沢中学校(千葉和仁校長、生徒466人)で15日、国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長(49)が「これからの中学生に期待すること〜一天文学者から〜」をテーマに講演。1年生156人が耳を傾け、本間所長自身の仕事への向き合い方を通し、失敗を恐れず夢に向かって挑戦する大切さを学んだ。(田中伸吾)


写真=中学生に「好きなものを見つけてほしい」とエールを送った本間希樹所長

 1年生は、総合学習の中で職業研究を実施。郷土への理解も深めてもらおうと、地元で活躍する人材による講演機会を授業の一環として設けた。
 本間所長は、自身の天文学者としての仕事について紹介。「天文学者は日本に1000人ぐらいいるが、もうからないから企業には天文学者はいない。いつか役に立つかもしれないし、宇宙の謎を解き明かしたいという気持ちでやっている」と話し、「好きという自分の思いがないとどんな仕事も続かない」と強調した。
 生徒からの「宇宙人はいると思うか」という問いに、「地球人がいるからいると思う」と答える場面も。同天文台やブラックホール研究についても解説し、宇宙科学の魅力を発信した。生徒へのメッセージでは「職業を選ぶのはまだ先なので慌てずに考えよう。好きなことを見つけいろいろ挑戦してほしい」と語り掛け、将来へ夢を広げる若者たちを激励した。
 生徒たちは、興味深げにうなずいたりメモを取ったりと本間所長の講話に夢中。美容師を目指している鈴木虎太郎さん(13)は、「あまり深く考えずに好きなことに挑戦してみることが大事だと感じた。ブラックホールについてもよく理解できた」と声を弾ませた。
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tanko 2021-2-9 12:10
 岩手県は8日、歳入歳出をそれぞれ8104億7700万円とする2021(令和3)年度一般会計当初予算案を発表した。前年度当初比で13.1%少ない。東日本大震災から10年目を迎えることもあり、土木・建設工事中心とした復興事業が大幅に減少。震災分予算は667億3900万円で、同比74.4%減った。対照的に新型コロナウイルスの感染防止や経済支援策に、震災分を上回る958億5100万円を計上した。当初予算案は17日招集予定の県議会2月定例会に提案され、審議される。(児玉直人)

 21年度予算は「命を守る幸福希望予算」と名付けられた。達増拓也知事は8日、県庁で行われた会見で「新型コロナ対策が大事だということ。加えて大震災直後の原点に立ち返ったつもりで、復興をさらに進めていこうとの思いから『命を守る』という言葉を掲げた」と述べた。
 県予算は12年度以降、一般的な行政運営や全県を対象とした予算を「通常分」、震災復興に関連した予算を「震災分」に大別している。21年度予算ではさらに、通常分の中に「コロナ分」の項目を設け、新型コロナ関連事業が予算全体に占める規模を明確化した。
 通常分歳入のうち、県税などの自主財源は3282億5900万円で通常分全体の44.1%に相当。地方交付税など依存財源は4154億7800万円で、55.9%を占める。
 自主財源は前年度当初と比べ593億8600万円(22.1%)増だが、県税収入は新型コロナの影響による県民所得や企業収益の減少を見込み、前年度当初より97億5400万円(7.4%)少ない1216億7200万円とした。
 自主財源増加の要因は、新型コロナ対策関連の制度融資事業費の増額によるもの。県が融資の取扱金融機関に預託した原資は、年度末に諸収入として戻される。自主財源に区分される諸収入額は、前年度当初の倍以上となっているが、預託額が計上される歳出の貸付金(その他経費に区分)もほぼ同じくらい増えている。
 通常分歳出は、人件費などの義務的経費が2832億5500万円(前年度当初比1.0%減)。普通建設事業費など投資的経費は852億6500万円(同比13.1%減)。補助費などを含むその他経費は3752億1800万円(同比30.7%増)となっている。
 震災分は、土木・建設などのハード系事業の多くが終了し、被災者の心のケアや起業支援、防災教育といったソフト面の充実に移行している。県は総務部総合防災室と大震災直後に設置した復興局を再編し、復興防災部を新設。三陸TSUNAMI会議(仮称)や、防災推進国民会議2021の開催などに取り組む。
 震災分を上回る規模の予算措置が講じられる新型コロナ対策では、入院施設の確保に134億9440万円、医療従事者への手当支給補助に1億6840万円計上。蔓延防止として、幼保施設や学校施設、介護施設などの改修や施設整備、生活困窮者の支援なども展開する。
 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」誘致に係る推進事業費は1億120万円(前年度当初比17.7%減)。平泉世界遺産登録10周年関連では、記念事業や交流人口拡大、ガイダンス施設管理運営に合わせて1億2210万円を計上している。
 新規にU・Iターン就職者や新婚世帯向けの新生活支援、若者が先輩・上司に助言する「リバース・メンター制度」を参考にした取り組みを導入するなど、人口流出対策につながる若者の定住や活躍支援策も展開する。
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tanko 2021-2-3 12:00

写真=金ケ崎町立図書館で7日まで開催中の宇宙×ILC企画展

 金ケ崎町立図書館(及川敏雄館長)で、企画展「宇宙×ILC」が開かれている。宇宙の奥深さや、北上山地が建設候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の魅力をパネルなどで分かりやすく紹介。関連蔵書約20冊も並び、来館者の宇宙に対する好奇心をくすぐっている。2月7日まで。
 県南広域振興局が国立天文台水沢VLBI観測所と連携して開催。同館も協力した企画展示で、町民らに宇宙への関心を高めてもらおうと催している。
 国立天文台水沢キャンパスや同観測所の歩みを紹介したパネルのほか、天の川銀河の星の動きを図で示した大型タペストリー3枚も掲げられ、来館者の興味を引いている。
 宇宙の仕組みやILCの意義を丁寧に解説した蔵書も展示。同観測所の本間希樹所長が執筆した論文に加え、小惑星探査機「はやぶさ2」が砂を持ち帰った小惑星リュウグウの3Dモデルなど関連資料も披露している。ILCの構造や、建設後に期待される周辺都市の変化をイラストを交えて説明したパネル5枚も並ぶ。
 国立天文台を含む国際研究チームが世界で初めて撮影に成功したブラックホールの画像を用いた顔出しパネルも置かれ、子どもらを楽しませている。
 同館の千葉哲係長は「宇宙への興味を深めていただけるいい機会。楽しく学んでもらえたら」と多くの来館を呼び掛ける。
 展示に見入っていた同町西根本町の高野二郎さん(69)は「展示を機に、北上山地へのILC誘致を望む機運が一層高まれば」と願っていた。
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tanko 2021-1-15 12:00
 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の実現に向け準備作業を進める「ILC国際推進チーム(IDT=International Development Team)」は、今年10月26〜29日まで、茨城県つくば市を会場に国際会議(ワークショップ)を開催する予定だ。ILC建設の有力候補地とされている本県の北上山地を研究者らが巡るツアーも予定されているという。
 IDTは昨年8月に立ち上げられた組織。ILC準備研究所(ILCプレラボ)の設立に向けた準備作業を約1年半の日程で行う。同市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK、山内正則機構長)に拠点を置き、議長はスイス工科大学ローザンヌ校の中田達也教授が務めている。
 IDTが管理するウェブサイトに掲載された情報によると、ILC実現に向けた新たなステップへの議論のほか、実験装置開発の最新動向などを取り上げるという。
 素粒子物理の研究者コミュニティーはこのほか、3月15〜19日の日程で国際会議「リニアコライダー・ワークショップ(LCWS)2021」を開催する。新型コロナウイルス感染症により諸外国との渡航が制限されている状況を踏まえ、ジュネーブ近郊の欧州合同原子核研究機構(CERN)を拠点にリモート会議方式で行う。
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tanko 2020-12-25 11:10

写真=小沢昌記市長(右)に水沢VLBI観測所予算削減の経過を説明するため市役所本庁を訪れた本間希樹所長(3月27日)

 「ブラックホール撮影成功」「創立120年」に水を差す事態が、国立天文台水沢VLBI観測所に降りかかった。同観測所の本年度予算大幅削減が明らかとなった。同観測所の電波望遠鏡「VERA(ベラ)」は運用休止の危機に直面した。
 「国立天文台コミュニティ間意思疎通推進委員会」は、国の財政難に適応した組織運営と、大規模プロジェクトの対応に天文台執行部が注力する余り、組織全体に目が行き届きにくくなったと指摘。結果、予算削減以外にもさまざまな問題が生じたとしている。
 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致では、地域との連携不足や不信増幅につながりかねない事案があった。
 高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、文部科学省に申請していた「ロードマップ2020」の搭載審査からILC計画を取り下げた。計画を取り巻く状況が大きく前進したためだが、取り下げた事実を約半年にわたり候補地の地元にすら公表していなかった。ところが、地元誘致推進派は研究者側を擁護するような姿勢を見せた。公式に遺憾を述べたのは、東北経済連合会の海輪誠会長ぐらいだった。
 この二つの問題に触れ、あらためて強く感じたのは子どもたちに身に付けてほしい「力」についてだ。
 輝かしい実績を収めている天文台水沢でさえ財政難、意思疎通問題という課題に直面した。この先の社会ではより複雑な課題対応が待ち構えている。そのような時代を生き抜くための力をさまざまな教科、行事を通じて身に付けるのが教育の場だと思う。対応一つで社会的信頼を失う恐れはいくらでもある。
 そう考えた時、教育現場でのILC普及活動の現状は、本当に適切なものであろうか。理科学習への興味関心を引き出すものではなく、特定事業への応援団育成になっていないか。理系や文系という系統に偏らない幅広い「教養」こそ求められているはずだ。
(児玉直人)
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tanko 2020-12-20 11:10

 「やはり天文学の仕事をしたい」。和歌山県内の自治体職員を辞め、縁あって国立天文台水沢VLBI観測所の広報担当の特任専門員として赴任したのは2018(平成30)年3月。一度は離れた組織に、形は異なるが身を置くことになった。
 生まれは東京都八王子市。幼少年時代、まだ周囲は田舎の風景が残っていた。根っからの理科好き。お年玉をためて天体望遠鏡を買い、夜中に友だちと星空観察に出掛けた。高校2年に上がる前の春休みには、ハレー彗星の接近を見るため、わざわざオーストラリアへ出掛けたほどだ。
 弘前大学大学院で物理学を専攻。修士課程を修了し、総合研究大学院大学へ。国立天文台で博士号取得を目指したが、道半ばで断念した。だが、その間に培った人脈、就職先の和歌山県内の自治体で任された公共施設管理業務などの多様な経験は、現在の仕事に生かせるものばかりだった。
 就任後、本間稀樹所長ら観測所スタッフに「ある程度の権限を持たせてほしい」と要請した。「何かするたびに全体の意見、了承を得ていたら時間がかかる。情報はタイムリーに発信されなければ、誰にも注目されない」
 昨年から今年にかけては、手腕が試される出来事の連続だった。ブラックホール撮影成功の発表を機に、取材や講演の依頼が殺到。観測所創立120周年にも対応する目まぐるしさだった。
 ほっとしたところに舞い込んできたのが、観測所予算の大幅削減問題。研究者界だけでなく地域に与える衝撃も大きいだけに、本間所長とタイミングや発信内容について何度も議論を交わした。
 組織広報でよくあるのは、トップダウン的に上層からの見解が内部通達され、その意向や指示通りに担当部門が情報発信する姿。しかし、ここでは広報もトップも対等の立場だ。
 都合の悪い話になると、トップが表に出ず担当者に説明させるケースも少なくない。だが「今はトップが前に出て自分の言葉で語る時代。プラスの話に限らず、マイナスの話であっても結果としていい形に働く。所長はその辺をものすごく理解している。なかなかいない研究者だ」。大きな信頼を寄せる。
 「電波望遠鏡の存続署名など市民の皆さんの温かい思い、応援したいという力に真っ先に触れることができるポジション。この喜びが仕事の原動力にもなる」とほほ笑む。
(児玉直人)
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 執務室の机の下には、弘前大時代に恩師・二間瀬敏史氏(宇宙物理学)の勧めで買った天体望遠鏡がある。「買ったというか、買わされたというか…」と笑う。休みはゆっくり自宅で過ごすか、ドライブがてらの食べ歩き。北上市在住。
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tanko 2020-12-20 10:10

写真=水沢図書館で開かれている企画展「宇宙×ILC」

 素粒子物理学研究施設「国際リニアコライダー(ILC)」について紹介する企画展「宇宙×ILC」(県南広域振興局主催)が、水沢佐倉河の市立水沢図書館で開かれている。ILCをはじめ、宇宙科学に関する本やパネル、県立水沢工業高校の生徒が作った模型も並び、科学的好奇心を刺激している。22日まで。月曜休館。
 建設の有力候補地として北上高地が挙げられるILCについて広く知ってもらおうと、県南局が国立天文台水沢VLBI観測所の協力を得て企画。管内の8市町を巡回している。
 子ども向けの解説パネルも用意。昨年同観測所の本間希樹所長らが貢献した、ブラックホールの観測を扱った図書も並ぶ。
 ILC推進モデル校でもある水沢工高の生徒が制作した模型は、赤と青の発光ダイオード(LED)を使い陽電子と電子が衝突し素粒子が生じる現象を表現。水沢佐倉河の小川原輝真君(11)は「ILCは聞いたことがある。宇宙船みたい」と興味を示しながら模型を眺めていた。

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