人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2021-11-30 14:40
米国は準備研設置に支持も“日本次第”

 北上山地が有力候補地とされている素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)の建設計画に対し、主要参加国として想定されているフランス、ドイツ、イギリスの欧州3カ国の政府が依然、参加に消極姿勢を示していることが29日、文部科学省のILCに関する有識者会議第2期第4回会議で明らかにされた。アメリカ政府は、ILC準備研究所(プレラボ)の設置を支持するとしながらも、「日本の誘致表明が前提」という条件を付けている。財政難や新型コロナウイルス対応などを背景に、ILCが最優先プロジェクトには位置付けられていない現状が鮮明となった。
(児玉直人)

 文科省は10月15日、欧米4カ国の政府機関と、ウェブ会議システムを使って意見交換を実施。各国のILC計画に対する姿勢を確認した。
 欧州3カ国からは、共通して国内の財政的余力がない状況が示された。フランスは、学術関連計画の改訂時期にあるが、ILCを記載する予定はなく、投資する考えもないという。ヨーロッパにおける超大型円形加速器計画(FCC)ですら「慎重に見ている」とした。ドイツとイギリスも、日本がILC計画への優先順位付けをしていない中、自国がILCに優先的に取り組むことは難しいという立ち位置で、消極的な見解が強くにじみ出た。
 これまでと同様、アメリカはILC計画に好意的な考えで、プレラボの設置提案も支持。ただし、日本の誘致表明を前提とした進展に期待をしている点は、欧州3カ国と同様だ。
 文科省の報告に対し、委員の神余隆博氏(関西学院大学理事、国際政治学)は「本来、この分野でリードするはずのドイツでは、物理学者だったメルケル首相が引退する。まして、コロナ禍からの経済回復などを考えると、ここ2、3年は新しいプロジェクトをやる余力はないと思わざるを得ない。もし、ILCをやるならヨーロッパに頼らず、日本が(経費の)6〜7割を負担するぐらいの覚悟を示さない限り、ついて来ない」と指摘。
 座長の観山正見氏(岐阜聖徳学園大学学長、天文学)は「日本の意思表示を期待しているようだが、コロナ禍や少子化、温暖化など日本が優先的にやるべき課題や現状を考えた時、国内の社会的な動きがない限り、日本政府は『やります』となかなか言えないだろう」と述べた。
 この日の会議では、計画を推進する研究者側から▽プレラボの位置付け▽国民や他の科学分野への理解──などに対する説明もあった。
 有識者会議では年内を目標に、プレラボ設置提案に対する見解などをまとめる予定。ただ、第4回会議を終えた時点で、委員の間ではプレラボの位置付けなどに対する疑問や、理解が深まっていない点も多い。
 他分野研究の予算に影響を与えないよう、新しい科学予算の獲得を目指すとする推進研究者側の説明に、その根拠や見通しが不明とする指摘もあった。素粒子物理学振興に対する思いの一方、コロナ対策など他の優先課題がある中、国民理解を得るのは難しいとの見方も。取りまとめは困難を極めそうだ。
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tanko 2021-11-29 14:40
一般向けは「年明けにも」(県推進局)

 素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)誘致に関し、施設建設の意義や安全管理などについて研究者らが説明する「ILC解説セミナー」が、12月26日午後2時から水沢大手町の市役所本庁3階講堂で開かれる。市ILC推進連絡協議会(会長・小沢昌記市長)が主催し、同協議会会員である商工団体や事業所関係者に対象を限定し行う。同セミナーは新型コロナウイルス感染防止を理由に、昨年の2月以降、約2年にわたり開催されていないが、県ILC推進局は年明けにも一般市民が参加できる形の同セミナーを開く方向で調整している。
(児玉直人)

 県内、特にもILCの有力候補地に近い胆江両盤地区では、各種講演会やセミナー、小学校等への出前授業などが活発に開かれている。その多くが、誘致機運醸成につながるPR色が濃い内容となっている。
 これに対し「解説セミナー」のタイトルで開催してきた取り組みは、リスク面の疑問や指摘に応えるもの。2018年、一関市民を中心にILCの安全性、誘致の妥当性を指摘する声が表面化したのを機に始まった背景がある。行政や企業などが実施する「住民説明会」のような性格が強い。
 東北ILC準備室(現・東北ILC事業推進センター)や、国内のILC推進母体である高エネルギー加速器研究機構(KEK)などが中心となり企画。今年10月18日に開かれた文部科学省のILC有識者会議の中で、KEKの照沼信浩教授は「11会場で延べ700人近い参加を得た」と報告している。
 取り上げるテーマは、施設から発生する放射性物質の管理体制、建設に伴う自然環境への影響とその対策などが中心。慎重論を唱える地元住民と当該分野の研究者らが直接顔を合わせ、対話形式で質疑応答する数少ない場だ。年に数回開催されていたが、新型コロナの感染拡大により、奥州市内では昨年1月日以降、実施されていない。
 12月に開催する同セミナーは、タイトルと説明する中身はこれまでと同じだが、市ILC推進連絡協議会が主催し市が共催。同協議会事務局の市ILC推進室は「協議会会員である商工団体や企業の関係者に限定したもの」と説明している。
 関係者に配布された資料によると、講師はKEKの照沼教授、道園真一郎教授、佐波俊哉教授、岩手大の成田晋也教授、東北大の佐貫智行教授。計画の意義や現状、安全面への配慮について語るといい、KEKなどが主催したこれまでのセミナーとほぼ同一の内容だ。30人定員で12月8日まで参加者を募集するという。
 一般市民も参加できる同セミナーは、年明けにもを開く予定で県ILC推進局が調整中という。同局の高橋毅副局長は「感染状況がこのままで推移していくようであれば、対話型で行ってきたセミナーの開催は可能だと思う」と話している。
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tanko 2021-10-27 10:30
 素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)に関する国際会議「ILCX2021」が26日、完全オンライン方式で始まった。29日まで。素粒子物理学以外の科学実験にも寄与する可能性などについて、議論を交わすとみられる。当初は茨城県つくば市で開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、オンライン方式に切り替え。参加研究者らによる北上山地の視察は中止となった。
 同会議は、ILC準備研究所(プレラボ)の開設作業を推進している国際研究チーム、ILCの国内推進母体である高エネルギー加速器研究機構(KEK)などが主催する。
 ここ最近になって、メインとなる「ヒッグス粒子の詳細研究」にとどまらず、さまざな実験装置をILC施設内に設置し、素粒子物理学以外の学術研究にもILCを活用するアイデアが提案されている。ILC計画に対する他分野研究者の理解と、支持を得る狙いがあるとみられる。
 国際会議開催に合わせ、本県南部の北上山地視察も予定されていたが、オンライン開催に伴い中止に。素粒子物理学者らと連携し、ILC誘致を進めている県は、国際会議参加者がアクセスするサイトに奥州市など候補地周辺の暮らしや観光名所などをまとめた情報などを提供。本県の受け入れ態勢をアピールしている。
 ILCを巡っては、国内外の素粒子物理学者らが中心となり、プレラボの設置を進めている。一方、文部科学省はプレラボ設置などを含む直近の動向について、他分野研究者らで構成する有識者会議の場で、計画の妥当性などを検証中。有識者会議委員からは賛否両論が出ている。
(児玉直人)
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tanko 2021-10-19 8:40
 素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)計画に関する文部科学省の有識者会議(座長・観山正見岐阜聖徳学園大学長、委員14人)の第2期第3回会議は18日、オンライン方式で開かれた。ILC準備研究所(プレラボ)創設を巡る討議の中で容認する意見があったのに対し、観山座長ら複数の委員は慎重論を主張。日本誘致を前提とする現状の推進方針を改め、技術開発や人材育成に優先して取り組むべきという折衷案的な考えも示された。
 今月14日の第2回会議に続き、ILC計画を推進する素粒子物理学者らが説明。今回は国民理解や安全対策、費用分担などをテーマに取り上げ、質疑応答を行った。
 研究者側が求めているプレラボの創設について、大阪大の中野貴志・核物理研究センター長は「プレラボを設置するだけでも、(ILC実現に向けた)歯車が回り始めているのを示せる点は大きい。費用もそんなにかからないので、やってみる価値はある」と述べた。
 その一方、総合科学研究機構の横溝英明理事長は「プレラボの容認は、日本がILCへの参加を表明することになる」。低炭素社会戦略センター研究統括の森俊介・上席研究員も「国際協力を得るというが、どの国も新型コロナ対応でそれどころではなく、医療などに資源を投じてほしいと思っているはず。有識者会議として、この道が良いと断言することは無理。むしろ引き返す道を選ぶべきだ。段階を踏んで、確実にゆっくりできる体制を取っては」と指摘した。
 東京大の岡村定矩名誉教授、同大カブリ数物連携宇宙機構の横山広美教授は、日本誘致など建設候補地に関わる取り組みを切り離すべきだと主張。横山教授は「ヨーロッパが検討している大型研究計画の状況など、素粒子の大型研究を巡る動向は流動的。建設地に関する検討や研究は後回しにして技術開発をしながら、この分野の研究が途絶えない状況をつくり、合意できるタイミングが来たら決断できればよいのでは」と述べた。
 次回会議の開催日は未定だが、有識者会議の見解を示す「まとめ」の内容などについて協議する。

誘致活動 再検証の時か
 【解説】ILC計画を推進する研究者らは「日本誘致に前向きな姿勢を」との表現で、日本政府に迫っている。もちろん最終決断ではない。しかし巨額な予算、目まぐるしく変化する国内外の情勢などもあり、文部科学省にとって態度を明確にすること自体「非常に重いプロセス」(坂本修一・文科省大臣官房審議官)というのが実情だ。
 第2期有識者会議で委員の中から浮上したのは、一連の取り組みから「誘致」の2文字をいったん切り離すという提言。素粒子物理学や高エネルギー物理学における技術開発、人材育成などの環境を確保する、いわば当該分野を守ることに重きを置いた案だ。
 このことは同時に、北上山地誘致に向け活動してきた本県自治体の取り組みについても、「再考」が求められてくることを意味する。生活に身近なさまざまな地域課題が山積し、財政事情の厳しさを抱える中、いつ実現するのか不透明なプロジェクトに、どこまで付き合うのか――。一度冷静に立ち止まり、今後の進むべき道を再検証する時期に来ていると言える。
(児玉直人)
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tanko 2021-10-15 10:10

写真=オンライン形式で行われた第2期ILC有識者会議の第2回会議

 素粒子実験施設、国際リニアコライダー(ILC)計画に関する文部科学省の有識者会議(座長・観山正見岐阜聖徳学園大学長)の第2期第2回会議が14日、ネット回線を通じたオンラインで開催された。同会議委員と、計画を推進する研究者らが意見交換。ILC準備研究所(プレラボ)の創設を直近の目標としている推進研究者サイドは、ILC計画に対して日本政府がより前向きな姿勢を示すよう、あらためて求めた。(児玉直人)

 およそ2カ月半ぶりの開催となる第2期会議。同日は、ILC計画の概要やこれまでの経緯、加速器と呼ばれる実験装置の技術成立性やコスト、プレラボの創設などについて、ILC計画を推進する素粒子物理学者らが説明。同会議委員と意見を交わした。
 計画を推進するカリフォルニア大バークレー校の村山斉教授は、日本政府が態度を明確にしない状況が続いていることを懸念。「日本が世界をリードできる、めったにないチャンス。ここでもたもたしていると、ILCが海外にさらわれてしまう」と危機感をあらわにした。
 有識者会議の中野貴志委員(大阪大核物理研究センター長)や横溝英明委員(総合科学研究機構理事長)は、プレラボが予定通り創設されなかった場合の進展や、研究者間合意のみでプレラボが創設できるのかについて質問した。
 高エネルギー加速器研究機構(KEK)の道園真一郎教授は「予算、マンパワーの面からも、国際協力で進めないと困難。プレラボを創設して進めるのが一番良い」とした。その上で「実験装置の量産に向けた実証には、ある程度の予算が必要。研究者サイドの合意だけで確保するのは、なかなか難しいと個人的には思う」などと述べた。
 道園教授によると、4年の設置期間を想定するプレラボの運営経費のうち、日本の負担見込み額は約60億円。うち約30億円は、茨城県つくば市のKEK敷地内に整備する装置の試験設備などに充てる考えだ。
 プレラボ創設の準備作業を進める国際研究チーム(IDT)の中田達也議長(スイス連邦工科大ローザンヌ校名誉教授)は、「日本政府の前向きな姿勢がない限り、プレラボは開設できず、予定している行程は実現できない」と強調した。だが、文科省はILC建設とプレラボ設置を一体的なものと捉えており、課題が山積する現状での誘致判断やプレラボ設置への投資は「国民理解を得るのは難しい」と、慎重な姿勢をみせている。
 東京大カブリ数物連携宇宙研究機構の横山広美教授は「高エネルギー分野の世界共同大型プロジェクトはILCかFCC(ヨーロッパの超大型円形加速器計画)ぐらいしかない。文科省の見解や予算面の厳しさがある中、当該分野の継続性を考える上では、誘致前提のプレラボ開設ではなく、技術開発と国際プロジェクトの継承という位置付けで取り組んでいけないものか」と提言。「(政府や他分野研究者との)温度差が埋まらないと、次のステップに行くのは厳しいと思う」と述べた。
 第3回会議は18日に行われ、国民理解や費用分担の見通しについて取り上げる。
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tanko 2021-10-5 11:40

写真=VERAと水沢VLBI観測所が特集された『国立天文台ニュース』最新号

 国立天文台(常田佐久台長)が発行する広報誌『国立天文台ニュース』の最新版(2021夏号)に、天文広域精測望遠鏡(VERA)と同天文台水沢VLBI観測所が特集された。研究に関する専門的な情報に加え、同観測所の歴史や地域とのつながりに関する話題も紹介している。
 同ニュースは今年4月まで毎月発刊されていたが、夏から季刊発行に移行。その初回が同観測所の特集で飾られた。
 水沢星ガ丘町の同観測所に勤務する研究者のほか、同観測所を拠点に運用しているVERAに携わる大学関係者ら計13人が記事を執筆。VERA20年の成果やブラックホール研究の現状、将来の観測計画について、図や写真を交えながら解説している。
 研究成果以外のテーマでは、亀谷收助教が今年3月に「日本天文遺産」に選定された眼視天頂儀1号機など、旧臨時緯度観測所時代の観測機器や建物について紹介。広報担当の小沢友彦・特任専門員は、地域における広報・教育活動について触れ、水沢菓子組合による「ブラックホールのお菓子」や、金ケ崎町立図書館での企画展などを取り上げた。
 同観測所の本間希樹所長は特集内で、複数の電波望遠鏡を連動させて高精度観測を実現させる「VLBI」において、VERAは20年間で大きな足跡を残すことができたと強調。「これからも国際協力を軸として、さらなる研究展開を進めていきたい」とし、VERAや観測所の取り組みに支援を呼び掛けた。
 『国立天文台ニュース』は、バックナンバーも含め同天文台ホームページ

https://www.nao.ac.jp/about-naoj/reports/naoj-news/

で閲覧できる。
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tanko 2021-10-4 11:30
 文部科学省が8月下旬に公表した来年度政府当初予算の概算要求に、国際リニアコライダー(ILC)の準備研究所(プレラボ)に要する経費が含まれていないことが、文科省やILCに携わる研究者らの話で明らかになった。研究者らのプランに基づけば、早ければ来年度にはプレラボが立ち上がるスケジュール。しかし文科省は、ILC計画そのものに慎重姿勢を貫いており、概算要求に盛り込まれている素粒子研究関連の予算についても、プレラボ経費として活用できるとの認識はないと強調する。研究者の一人は、プレラボ立ち上げに要する予算確保に向け「努力したい」と話している。(児玉直人)

 ILC計画を推進する国内外の研究者コミュニティーは昨年8月、国際推進チーム(IDT)を立ち上げ、プレラボの設置に必要な準備作業に着手。今年6月にプレラボ提案書を公開し、組織体制や作業計画などを明らかにした。ほぼ同時に、ILC計画を推進している高エネルギー加速器研究機構(KEK、山内正則機構長)と高エネルギー物理学研究者会議は、ILC計画の課題に関する対応などを「回答」として取りまとめ、文科省へ自主的に提出した。
 IDTの活動期間は1年から1年半程度。順調に進めば来年度にもプレラボは設立される見通しにある。
 一方、文科省は7月29日に一度役割を終えたILC有識者会議(座長・観山正見岐阜聖徳学園大学長)を再開。研究者コミュニティーと意見交換しながら、プレラボ提案書や課題回答の内容を精査し、年度内に審議結果を取りまとめる予定だ。
 しかし再開初日から2カ月経過した現在、意見交換の始まりとなる2回目の会合が開かれる気配がない。この間、文科省は来年度予算の概算要求を公表。素粒子研究関連として、米欧と共同で進める加速器の低コスト化共同研究(3億2000万円)と、KEKの運営費交付金(1億6000万円)を、21年度と同額で要求した。
 「ILC関連」とも報じられているこれらの予算だが、事業名に「ILC」と明記されているわけではなく、文科省ホームページで公表している概算要求の概要書にも記載されていない。
 文科省素粒子・原子核研究推進室は「加速器共同研究は、実験用のみならず医療用など汎用性のある加速器への応用も視野に入れ、技術開発を目指そうというもの。低コスト化や高度化が図られ、ILCがもし実現した場合にも、結果としてそれらの技術が活用されるであろうという意味で、問い合わせには“関連”として紹介している」と説明する。KEK運営費交付金をプレラボ運営費に充当できるかという本紙の質問に、同推進室は「そのような認識は持っていない」と否定する。
 このほど研究者コミュニティーが開催した報道機関向けのオンライン勉強会で、KEKの道園真一郎教授は「私が見た限り、今回の要求にはプレラボ関連の経費は入っていなかったと思う。今後もできる限りの努力は続けていきたい」と述べた。
 プレラボは「本番前」「準備段階」「以前の」を意味する英単語の接頭辞「プレ(pre)」と、研究所を意味する「ラボラトリー(Laboratory)」の略称を結び合わせた造語。ILC計画では「ILC準備研究所」の略称としてしばし用いられる。
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tanko 2021-8-23 9:50

写真=奥州市役所本庁舎に掲げられているILC誘致を訴える横断幕。北上山地周辺の自治体などは早期実現を求めているが、文科省は誘致に慎重な姿勢だ


3年ぶりにILC有識者会議、山積課題を審議
 文部科学省は7月下旬、素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議を3年ぶりに再開させた。ILC日本誘致に対し、文科省は慎重な姿勢を崩していない。誘致を推進する素粒子物理学者らは6月、ILC準備研究所(プレラボ)開設に関する提案を公表。本県自治体などと連携し、政府に前向きな姿勢を表明するよう働き掛けている。しかし文科省は、課題が山積する現状での誘致判断や投資は「国民理解を得るのは難しい」との考え。有識者会議では準備が整い次第、他分野研究者らを含む同会議委員と推進する研究者らの意見交換を行い、専門的見地から課題解決の進展状況を審議。本年度中に審議結果を取りまとめる。
(児玉直人)

 有識者会議は2014(平成26)年5月に発足。ILC計画に対する課題を指摘した「審議のまとめ」を2018年7月に公表し、一度役割を終えた。
 文科省は有識者会議のほか、日本学術会議からも寄せられた指摘を踏まえ、2019年3月にILC計画に対する公式見解を初めて発表。事務レベルの意見交換は実施するものの、日本への誘致表明をする段階にはないなどとした。
 一方、誘致を推進する研究者らは昨年、高エネルギー物理分野の組織「国際将来加速器委員会(ICFA)」などからの提言に基づき、国際推進チーム(IDT)を設置。プレラボ立ち上げに向けた準備を進め、今年6月には開設提案書を発表した。
 プレラボ提案書の発表とほぼ同時に、有識者会議や学術会議から指摘されていた課題への対応状況を自主的に文科省に報告。対応に当たった高エネルギー加速器研究機構=茨城県つくば市=は「課題解決の活動が進んでおり、残された課題を解決するにはプレラボにおいて、国際協力の下で対応していく必要がある点を関係者に理解してもらうため」と説明している。
 プレラボ開設の前提として、日本政府が誘致に前向きな姿勢を示す必要があると主張。だが文科省は、慎重な姿勢を堅持する。
 文科省は昨年2月、独仏英3カ国の政府機関と意見交換を実施。3カ国からは「ILCに参加する資金的余力はない」「建設コストが巨額で、仮に費用分担をしても(投資は)不可能であり現実的ではない」などの考えが示された。
 さらに今年2月25日の衆議院予算委員会第四分科会(文科省所管)で萩生田光一文科相は、フランスに建設中で日本も参画している国際熱核融合実験炉(ITER)において、当初計画通りの資金を拠出していない国があると答弁。「そういう現実を知っているので、仮に(ILCを)日本に造るとなり、万が一のことがあった場合、日本が全て責任を負えるのかと言われれば、とてつもない金額が後から付いてくることになる」と懸念している。
 推進する研究者サイドは、プレラボ設置によって主要国政府間の国際費用分担協議の体制が整うとの考え。しかし文科省は、プレラボ自体も明確な国際費用分担の下で設置されるべきだとの認識だ。同分科会で萩生田文科相は「極論を言えば、(プレラボは)日本単体の財力、能力でも設置できるが、やはり国際研究施設。欧米の協力見込みを明確にし、財政的裏打ちも含め確立していく必要がある」と述べている。
 3年ぶりに再開した有識者会議の委員14人は、座長を務めていた平野真一氏(名古屋大名誉教授)、学術会議会長に就任した梶田隆章氏(東京大宇宙線研究所長)が退任し、新たな委員2人を補充した以外は、これまでと同じ顔触れ。後任の座長には、元国立天文台長で岐阜聖徳学園大学長の観山正見氏が就いている。
 ILCは振動の影響を受けにくい地下への建設が最適とし、推進する研究者らは2013年に本県南部の北上山地を候補地に選定。岩手・宮城両県の自治体、経済界なども誘致実現を目指している。文科省は、候補地は政府として決定したものではないと強調している。


「誘致判断の状況にない」(ICFA議長へ文科相が書簡返信)
 文部科学省の萩生田光一大臣が今年5月、国際将来加速器委員会(ICFA)のスチュアート・ヘンダーソン議長に対し、現時点で日本がILC誘致を判断する状況にないことを伝える書簡を送っていたことが分かった。
 3月17日付でヘンダーソン議長から萩生田大臣宛てに届いた書簡がきっかけ。ヘンダーソン議長は、2月25日の衆議院予算委員会第四分科会での大臣答弁を「ILCを日本に建設することに好意的であり、必要性を十分理解している」と解釈。書簡には「ILC計画の実現に向けた約束の可能性を議論するため、大臣が外国政府関係者を招待することを期待しています」などと記されていた。
 萩生田大臣は、5月31日付で返信の書簡を送付。「一般論として日本に国際的な研究拠点が形成されることには意義があると考えている」とした上で、「しかしながらILC計画に関しては、国際費用分担や技術的成立性、国民理解などさまざまな課題がある。文科省は、現時点で日本への建設に関する判断をする状況にはない」と強調した。
 また同分科会での答弁は「見通しがない状況での準備研究所(プレラボ)への投資は、国民の理解を得るのが難しい」「プレラボの予算を検討する前に、明確な財政的裏打ちも含めて欧米等のILC本体への協力見込みを確認する必要がある」という考えを話したものだと念押しした。
 両者の書簡を和訳したものは、7月29日に開催されたILC有識者会議第2期の第1回会合で資料の一部として配布された。会議資料は一般公開されており、文科省のホームページ内から入手できる。

会議資料の掲載ページhttps://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2021/mext_00253.html
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tanko 2021-8-6 11:40

写真=県議会県政調査会で、地域と天文台との連携について述べる本間希樹所長(左)

 国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長は、基礎研究分野の担い手不足や財政問題、地域振興などの課題を解消する上で、産学官連携による人材シェア(共有)や技術協力の必要性などを提唱。地方を舞台とした基礎科学研究や人材育成の推進は、新型コロナウイルス感染拡大に見られるような、都市集中の問題を回避できるモデルケースにもなり得ると強調する。
(児玉直人)

 4日、県議会特別委員会室で開かれた第8回県議会県政調査会で講演した。本間所長は、旧水沢緯度観測所時代からの歴史、ブラックホール研究など現在の活動内容に触れながら、天文台と地域との今後の関わりについて自らの考えを示した。
 少子化や財政難の問題は、基礎科学の分野にも影響を与えており「人材をどう活用していくかが問われている」と強調。人材や技術を地域社会と共有する連携体制、地元大学との研究連携を検討しており、既に一部は実現している。
 人材の共有に関しては、博士号を持つ若手研究者を地元民間企業が雇用する取り組みを紹介。一般従業員の半分程度の勤務日数(時間)と給与を条件に採用してもらい、企業に勤務しない残り半分の時間を研究に費やしてもらう仕組みだ。
 企業にとっては、博士号を有する人材を低コストで雇用でき、学術研究や国際連携など研究者が得た高度なノウハウを製品開発や問題解決に生かせるメリットがある。著名スポーツ選手を雇用している企業のような立場になるため、企業ブランドのイメージアップにもつながる。
 研究者は、安定した収入の下で仕事と研究の両立、継続が可能になり、天文台など研究機関にとっては、研究者の新たな雇用形態を開拓できるという。これらの連携スタイルは、素粒子物理学者が検討し県などが誘致を進めている巨大実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の地ならしにもなるとした。
 このほか地元企業との技術協力、岩手大・県立大・天文台水沢の3者による研究センター設置の可能性なども模索している。本間所長は「都市部に行かなくても基礎科学研究に関する勉強、研究、仕事ができれば新たな魅力創出になる。新型コロナの感染拡大は都市に人が集まり過ぎていることを物語っているとも言える。地域活性化の道具に、天文台が貢献できたら」と自らの考えを述べた。
 議員からは、人材育成の一環として学校教育と天文台との連携の充実などに関する質問が出された。
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tanko 2021-8-5 12:10

写真=本年度事業計画などを決めた奥州市ILC推進連絡協議会の総会

 奥州市ILC推進連絡協議会(会長・小沢昌記市長)の総会は4日、市役所江刺総合支所で開かれ、本年度事業計画を原案通り可決した。昨年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止せざるを得ない事業もあったが、本年度は積極的な情報発信などでILC(国際リニアコライダー)建設実現に向けた機運を醸成していく。
 2020(令和2)年度事業報告も行われ、承認された。昨年度、同協議会はILC解説セミナーを中止。各会員団体についても、活動中止や事業の縮小などが目立った。小沢市長は「新型コロナの影響で開催できない事業もあったが、できる範囲で普及啓発に努めた1年だった」と総括した。
 同協議会は本年度、ILC計画の進捗を注視し、2016(平成28)年4月に策定した市ILCまちづくりビジョンに掲げる将来像や行動指針を会員が共有。関係機関と連携しながらそれぞれの取り組みを推進させ、建設実現に向けた支援や啓発活動を展開していく。
 機運醸成や受け入れ環境などを整えるため、会員の拡大策にも力を入れる。地域住民の疑問や不安解消に応じる解説セミナーは、12月にオンラインでの開催を予定している。
 総会後、岩手大学理工学部の成田晋也教授が「ILC計画と最新動向について」と題して講演した。

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