人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2012-12-28 19:40
 今月15日、都内で開かれた技術設計報告書完成発表会終了後の討論会で、ILC運営委員会委員長のジョナサン・バガー氏が「私たち物理学者には『変わり者』が多いが、日本の皆さんは受け入れてくれるか?」と語り、会場をわかせた。
 この日の発表会、討論会には国内外の素粒子研究者のほか、本県の大平尚・県首席ILC推進監(県南広域振興局副局長)や勝部修一関市長らも出席。インターネットによる動画中継も行われた。
 討論会では、日本創成会議座長の増田寛也氏(元岩手県知事)が、ILCの日本誘致が地方都市の活性化につながることなどを強調。これに対しバガー氏は「建設地には研究者らが家族同伴でやって来る。グローバル化した都市が形成されるだろう」と語った。
 日本人社会では、夫が家族と離れ遠隔地の職場に勤務する「単身赴任」が半ば当たり前のようになっているが、欧米社会はそうではない。スイスのジュネーブにある欧州原子核研究機構(CERN=セルン=)では、昼食時さえ自宅や研究所内のレストランで家族一緒に食事をとっているという。仕事だけではなく、家族と顔を合わせて過ごす時間も大切にする習慣が根付いているようだ。
 「変わり者が多いが……」とのバガー氏の問いかけに、増田氏は「心配ないですよ」と笑顔で回答。「むしろ、建設地に住む人たちにとっても、いい刺激になる。研究成果は医療や薬の開発などにも波及する。そのような話題を提供してもらえれば、皆さんの仕事への理解もより進む。ぜひ来てほしい」とラブコールを送った。
 このやりとりに、同席していた国際共同設計チーム(GDE)ディレクターのバリー・バリッシュ氏も「変わり者だが、面白い人たちがいっぱいいる」と応じた。

写真=討論会で意見を述べ合うジョナサン・バガー氏(左)と増田寛也氏=今月15日、東京・秋葉原UDXシアター
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tanko 2009-12-12 19:50
 政府の行政刷新会議による「事業仕分け」で、国立天文台水沢VLBI観測所(小林秀行所長)などが関係する観測事業の関連経費が縮減対象になっている。これを受け、同天文台(観山正見台長)は11日、予算縮減の方向性に対する国民意見の募集を開始した。観山台長は、「一方的な事業仕分けに基づく経費配分縮減の方向性には大きな懸念を抱く。学術推進に大きなマイナス影響をもたらす」と反発している。

 縮減対象になるのは、同観測所が担当している天文広域精測望遠鏡(VERA)の事業費をはじめ、ハワイ島に設置している「すばる望遠鏡」の運営費など。これらの経費は、国立大学運営費交付金に属する「特別教育研究経費」から配分される。事業仕分けでは、同研究経費に対し「予算要求の縮減」との結論が出た。
 同天文台広報室によると、仕分け作業の場では同経費に関する直接的な議論はなされなかったといい、「委員の採点結果で縮減が決定される事態となった」と説明。縮減規模は不明で、一部には3割減との見解も出ているという。
 経費が削減されると、国際的にも重要がある研究事業が停滞する恐れがある。同観測所にあるVERA観測用の電波望遠鏡(20mアンテナ)は、中国や韓国の観測施設と連動活用することもあり、相手国の研究者に対する大きな責任を背負っているという。
 観山台長は経費削減の危機に関するアピール文で、「内部でも経費節減の努力をしてきた。今回の一方的な仕分けに基づく縮減の方向性には大きな懸念を抱く」と主張。「予算縮減の方向性に対する率直な意見を寄せてほしい」と呼び掛けている。
 同研究費の削減に対しては、北上高地が有力候補地の国際直線衝突加速器(ILC)の国内推進母体である、高エネルギー加速器研究機構(KEK)などからも強い反発の声が上がっている。KEKも同天文台と同様、国民意見を募る取り組みを実施した。
写真=水沢VLBI観測所内にあるVERA観測用の20mアンテナ。観測事業の関連経費が縮減対象に――
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tanko 2009-11-27 19:50
 政府の「事業仕分け」で科学技術予算の削減が相次いだことで、学界などから異論が出ている。胆江地区の関係者も、こうした議論を注視。背景には、今年に入り素粒子実験施設である「国際直線衝突加速器(ILC=International Linear Collider)」の一候補地に、北上高地の名が浮上したことがある。市民向けのセミナーが開かれ、経済団体が計画実現に向けた啓発事業促進を提唱するなど、ILC構想に関心が高まっている。仕分け作業に一定の理解をしつつ、「将来的に必要な投資はあってしかるべきだ」との声が聞かれる。

 ILCは、あらゆる物質を構成する最小単位「素粒子」の研究をする大規模な地下実験施設。素粒子の一種、電子と陽電子を超高速で衝突させ、宇宙誕生の謎を解明する。市民生活との直接的関連が薄い「基礎科学」を扱う施設で、研究内容も専門性が高い。
 しかしながら、国際研究機関が立地することは、科学の進歩への寄与にとどまらない。施設建設に必要な技術の確立、人材育成、地域振興、企業立地など本県が受ける恩恵も大きい。
 今回の事業仕分けで、ILCについて直接言及した議論はなかったが、類似の科学技術事業の予算が無駄と判断されたことで、学界や経済界からは異論が相次いだ。
 25日夜には東京大学で、日本人ノーベル賞受賞者が緊急声明を発表。「将来に禍根を残す」と指摘した。
 昨年、ノーベル物理学賞を受賞した小林誠氏(素粒子理論)もILC事業に深くかかわりがある。緊急声明の会見で、「個別の事業のネガティブ面(負の面)だけを取り上げ、予算を縮減するという結論は短絡的では」と疑問を呈した。
 国立天文台名誉教授で、奥州宇宙遊学館館長を務める大江昌嗣氏=水沢区川端=は、「科学研究が軽視されれば、物づくりの基礎もなくなり、何もできなくなる。近隣国は逆にこの分野を強めてきている」と話す。
 奥州商工会議所(千葉龍二郎会頭)は、地元経済団体としてILC構想の実現を推進。菅原新治事務局長は、「ILCのような科学技術、研究部門への国の支援は推進すべきだ。たとえ研究がうまくいかなくとも、その過程で得られた成果や技術がきっかけとなり、さまざまな“副産物”をもたらすことも考えられる」と主張する。
 ただ、事業仕分けそのものについては否定的ではない。「実際、科学予算の中身や使途も、われわれに見えない部分が多い。必要なものと、そうでないものを分析するという点では重要な作業だ。仕分けの結果や激しい議論ばかりに関心がいってしまいがちだが、単純に『科学技術は無駄』という判断を下しているわけではないと思う」と話している。
写真=ILCに欠かせない重要装置「クライオモジュール」の性能テストの様子。ILC関連の装置や設備には、世界中の科学者、技術者、企業が関係しており、それらに携わる有能な人材を育てることにもつながる(ILC国際共同設計チームのパンフレットから)
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tanko 2009-11-20 19:50
 奥州市総合計画審議会(佐藤祐宏会長)は19日、市から諮問された国土利用計画奥州市計画案について、基本的に適切であるとし、相原正明市長に答申書を手渡した。
 同計画は、土地利用関係計画の指針になるもので、国土利用計画法に基づき策定。市町村のほか、都道府県も同様の計画を策定することになっている。
 市は17日、計画案を同審議会に諮問。内容については基本的に了承された。付帯意見として、各地域の将来展望に関連し、各地域の地域条件や経済条件などに係る記述の充実を求めた。
 また、市域の東部に位置する北上高地が、素粒子研究施設「国際直線衝突加速器(インターナショナル・リニア・コライダー=ILC)」の候補地の一つに挙がっていることから、公的研究機関・研究施設などの用地確保に関する記述を検討するよう求めた。
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tanko 2009-10-28 19:40
 奥州商工会議所(千葉龍二郎会頭)は27日、継続的な景気・雇用対策の実施などを盛り込んだ、地域振興および産業振興に関する要望書を相原正明奥州市長に提出した。景気、雇用対策は、事業所経営のみならず地域住民の暮らしにも直結する重要課題。同日、水沢区内のホテルで、要望に対する意見交換会が開かれ、相原市長は「新政権の政策にも期待できる部分もある。企業誘致、事業誘致も積極的に進めたい」と述べた。

 商議所による市への要望活動は旧水沢商議所時代に実施していたが、今回は4商工団体合併後初めての要望となる。要望項目も水沢だけでなく合併した商工団体地域にかかわる内容もある。
 旧水沢商議所時代にも提示していない、まったく新しい要望項目は▽景気・雇用対策への取り組み▽商議所への補助金の現状維持▽江刺中核・江刺フロンティアパーク・広表・胆沢東部の各工業団地への企業誘致促進▽東北横断道江刺田瀬インター(仮称)の連絡道路整備促進▽国際リニアコライダー(ILC)計画実現への啓発活動――の5件。継続要望は、国道4号水沢東バイパス整備や小谷木橋架け替えなど5件となっている。
 景気・雇用対策について商議所側は、特にも重要度の高い要望と位置付け。千葉会頭は「依然として厳しい状況。この部分は特に力を入れ、市独自の力強い政策を展開してほしい」と求めた。
 ILC計画について、同商議所の後藤新吉専務は「誘致に当たり、国際間競争に支障を与えない範囲で、地元の熱意を高める組織を行政と立ち上げてもいいのでは」と提言。相原市長は「ILC計画は地域振興の期待の星。ILCの道筋が立つようになると、小谷木橋整備などの問題も一気に解決できると思う」と述べた。海鋒守副会頭は「会議所役員も市幹部も一度、つくば市にある加速器施設を見て、それから議論したほうがいい」と提案した。
 要望書掲載事項とは別に、三田光男副会頭は胆沢ダム建設について、「新政権の方針により、見直しになるのではとの心配もある。90%も出来上がっているダムが中止になることはないと思うが、市側でも完成に至るよう後押ししてほしい」と訴えた。
写真=後藤専務(左)から要望内容の説明を聞く市幹部
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tanko 2009-7-3 18:50
 奥州市の第3回大学誘致検討懇話会は2日、奥州市文化会館(Zホール)理事長室で開かれ、大学誘致の基本方針について協議した。相原正明市長のマニフェストに基づき、高等教育機関の誘致を目指す市だが、出席した有識者らは長期休暇中の短期講習の場として活用していきながら、機運を高めていく手法を提言。「実績をつくらなければ、どんなに頑張っても大学は来ない」と指摘した。市は秋ごろに第4回懇話会を開き、方針をまとめる。

 懇話会には、既存大学の関係者や企業経営者ら有識者6人と相原市長、市担当者が出席した。
 市側は、▽全課程修了が可能な大学本体の誘致▽教養課程など分校機能の誘致▽一部学部の誘致▽大学院大学の誘致――を掲げている。学部分野別にみると社会科学系、農業系、理工学系、社会人対象の再教育(リカレント教育)など多岐にわたる。
 また、方針案には明示していないが、北上高地が有力候補地とされる素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」が仮に実現した際、理工学系の学生が多数集まる可能性があるとし、大学誘致に関連してくると説明した。
 しかし説明を受けた有識者からは、独自性が見いだしにくいとする趣旨の発言や、市の存在を知ってもらう身近な実践策を実施すべきではないかとする意見が相次いだ。
 千葉科学大学の高山啓子教授は、国内唯一だという同大学の危機管理学部を紹介しながら、「ここならではという魅力が必要。地元の人が気付かないすばらしい学習資源があるほか、空洞化した市街地など市の抱える課題もある。これらを題材に夏休み中のセミナーを市内で開催してみてはどうか」と提案した。
 辻・本郷税理士法人の本郷孔洋理事長も、高山教授の考えに同調。「奥州市を知らない人は多い。まずはセミナーをどんどん開催する中で市を宣伝し、その課程で大学誘致への機運を高めていってはどうか」とアドバイスした。
 このほか卒業生の市内定住を図るため、雇用情勢を良好に保つ必要があることに加え、子育て環境のさらなる充実も進めなければ、若者の定住や人口対策の解決につながらないという。雇用対策に関しては卒業生だけでなく、在学中の学生たちの生活資金を得るための、アルバイト先の確保も考えなくてはいけない。
 相原市長は「奥州市に来ていただく動機をつくる上で、セミナー開催などは誘致の第一歩だと思う」と語り、提言に理解を示した。
写真=セミナーの開催など「身近な実績づくりをまず実践すべきだ」との意見が相次いだ大学誘致検討懇話会(Zホール)
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tanko 2009-6-25 18:50
 市議会会派の奥州創政会(高橋勝司会長)の所属議員らは24日、江刺区伊手字阿原山の国立天文台水沢VLBI観測所・江刺地球潮汐観測施設を視察した。
 宇宙誕生の解明を目的とした国際研究施設「国際直線衝突加速器(インターナショナル・リニア・コライダー=ILC)」の整備計画の中で、北上高地が有力候補地の一つとされている。
 ILCと同観測施設の研究目的は異なるが、地殻変動を受けにくい地底環境に着目している点では共通。同会派は、既存の地底観測施設の概要を知ることで、ILC計画への理解を深めることにも関係するとの考えから今回視察した。
 同観測施設では、月の引力の影響を受けて起きる地球の伸縮について調査。直接観察が不能な地球内部の状態の研究に役立てている。また、東北大学の地震研究にも観測データが活用されている。
 この日は同観測施設を担当している、田村良昭助教が内部を案内。「私たちは感じることができない変化が毎日起きている。とても小さな素粒子を衝突させるILCも、こうした地球自体の変形による影響を考慮し、実験がなされるものと思われる」と、同観測施設とILCの関連性を解説した。
 高橋会長は「ILCの構想は明るい地域話題。一度は実際にある地底の観測施設を見ておき、理解しておく必要があると思った。観測施設の存在は市民にもお知らせしたい」と話していた。
写真=地球潮汐観測施設内部を視察する市議たち
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tanko 2009-6-7 7:40
 宇宙誕生の解明などを目的にした大規模実験施設「国際直線衝突加速器(ILC=International Linear Collider)」に関する講演会が6日、市文化会館(Zホール)で開かれた。茨城県つくば市にある、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の吉岡正和教授が、ILCの必要性や加速器の成り立ち、計画日程などを説明した。


 講演会は、社団法人国際経済政策調査会(岡崎久彦理事長)の第57回「加速器科学研究会」を一般開放する形で企画した。
 現時点でILCの建設場所は決まっていないが、江刺区などを含む北上高地の地下が有力候補地の一つとされている。素粒子の研究者や一部の行政関係者が10年ほど前から認知していた。しかし、学界の十分な議論や国際協調を必要とするため、今年に入るまで市民に周知される場面は皆無に等しかった。
 このため今回の講演は、有力候補地の地元で一般向けに開かれた最初の関連事業となった。研究が目指す壮大さに加え、建設事業やその後の地域振興に与える効果などに関心が集まり、会場の中ホール(500席)は満席。理数系に興味がある高校生も参加した。
 吉岡教授は加速器の役割や開発の歴史、ILCの概要、日本に建設する実現性などを解説した。2013(平成25)年までに、建設方法や機器の量産方法など詳細設計を固める予定で「ここ数年が大変重要な時期になる」強調。「何とかして日本に建設するためにも、国民や自治体の理解が欠かせない」と訴えた。
 会場からは「研究成果の応用はどんなことが想定されるか」。「なぜ北上高地の花こう岩岩盤が適しているのか」といった質問が寄せられた。北上高地については、「非常に小さなものを衝突させるため、地盤が不安定ではいけない。広く安定した地盤であれば、必ずしも花こう岩でなければいけないわけではないが、日本でそういう場所を探していたら、たまたま北上高地の花こう岩地盤があった」と説明した。
写真=ILC建設計画について市民らに解説する吉岡教授(Zホール中ホール)
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tanko 2009-6-6 9:50
 今年2月から、突如として報道され始めている国際直線衝突加速器、通称「ILC(International Linear Collider)」。一体、何を目的にした設備なのか。北上山地がILCの候補地になっているが、その理由は。素粒子物理学に関連する施設のため、物理学に関する一定の予備知識も必要となる話題。日常生活ではなじみの薄い分野でもあるため、ILCを知る「入り口部分」を解説してみたい。

■どうして宇宙はできたのか?
 「過去のこと」を知る方法はいくつかある。昨日の出来事は、新聞やテレビ。江戸時代のことなら古文書、1000年も前のことなら遺跡発掘などで調査可能だ。
 ……というように私たちは、どのような歴史を歩んできたかを常に探求してきた。やがて「人類、生物、水、地球はどうやって誕生したか」という次元にまでさかのぼる。その行き着く先は「この宇宙はどうやってできたか」というテーマだ。
 ILCは世界の素粒子物理学界で開発協議が進められている、国際的な巨大研究施設。あらゆる物質を構成する最小単位である素粒子の一種「電子」と「陽電子」を超高速で衝突させることで、宇宙やこの世に存在する物質の誕生起源を探る。

■宇宙を見て過去を知る?
 よく、天体までの距離を「1万光年」などと表現する。光の速さで進んでも、1万年かかる距離をいう。
 「光」には進む速度が存在する。光速または光速度といい、真空中では秒速約30万km。一般に「1秒で地球を7周半回る」と表現されている。地球から約1億5000万kmの位置にある太陽の光が、地球に届く時間は約8分。もし太陽が光を放たなくなったら、その事実を私たちが知るのは、それから約8分後のこととなる。
 この考え方を発展させると、地球から遠く離れた星の光は「過去に発生した光」である。天文台が遠くの星を観測することは、宇宙でその昔起きていたことを調査することになる。
 望遠鏡を通してみる世界は「今」ではなく「過去」である。そういう意味では、望遠鏡はタイムマシンなのだ。

■それでも限界がある
 では、もっと高性能の望遠鏡を作れば、宇宙誕生の手掛かりまで調べられるのではないか。だがそれは不可能で、望遠鏡が光を確認するには、光が直進できる環境が整っていなければいけない。その条件には原子の存在が不可欠だ。
 宇宙誕生直後は原子が存在せず、原子を形成している電子、陽子、中性子といったさらに小さな物体に分離していた。これを「プラズマ状態」という。
 原子の姿は、原子核の周りを電子がクルクルと飛び回っている。ところが、プラズマ状態の環境では、電子が勝手に飛び周り光を吸収するので、光は直進できない。よって、望遠鏡での宇宙誕生の探究には限界が生じる。

■地底に作る「お化けデジカメ」
 宇宙誕生時に近い環境は、「素粒子が高いエネルギーを持って飛び交っていた状態」を人工的に作ることで再現可能だ。ここで素粒子物理学の出番となる。原子や原子核を形成する、小さな物質の構造や性質を加速器(コライダー)を使い調べる。加速器に投入した素粒子同士を超電導技術により、光速に限りなく近い状態で衝突させればいい。
 今までは遠い宇宙の世界を調べていた。今度は逆に極小の世界を分析し、宇宙誕生の謎に迫る。
 加速器実験から派生し、日常生活に普及した「加速器の仲間」がある。蛍光灯、電子レンジ、お役ごめんとなりつつあるテレビのブラウン管などだ。がん細胞の早期発見に用いる「PET検査」にも使われる。
 ILCは加速器の最新鋭として開発される。世界各国が協力し、地球上のどこかに1カ所だけ作る。2020年ごろの稼働を目指しており2、3年後ぐらいまでに、技術的な設計を固めていく。
 衝突反応を解析する装置が「デジカメのお化け」の異名を持つILC検出器で、数多くのセンサーが取り付けられる。規模は5階建ての建物に相当する。
 ILCでは、素粒子の速度を最適な状態に維持するため、加速器を直線状に配備する。「直線」を意味する「リニア」の名が付いているゆえんでもある。

■北上山地が有力候補地の理由
 ILC設置場所は決定していないが、有力候補地が何カ所か挙がっている。その一つが江刺区を含む北上山地だ。
 ILC関連の機器は精密な機械で、地殻震動を受けやすい場所は残念ながら適さない。現計画では、標高100mぐらいの山腹に場所に整備する。このほか▽研究者の居住環境▽世界各国からのアクセス▽ILCのような基礎科学研究活動に理解がある――といった要素も勘案すると、候補地は絞られてくる。
 北上山地には、地殻震動を受けにくい花こう岩の岩盤が地底に広がっている。これが、ILCの整備計画で想定している直線最大50kmを確保できるくらいの規模がある。東北最大都市である仙台市からも近い。

■私たちに今できること
 「ILCの有力候補地が北上山地」と知り、この地域にどれだけの経済効果があるかと思った人も少なくないはず。夢は無限の広がりをみせる。
 幸いにして日本は小柴昌俊、南部陽一郎、小林誠、益川敏英の各氏のような、素粒子物理学界におけるノーベル賞受章者を相次いで輩出している。受賞者たちもILC計画に大きな夢を持って携わっている。壮大な研施設の実現に向け、関係する研究者たちは日夜議論を交わしている。
 ILC整備は国際社会との協調なしには進められない。政府間協議により、資金分担や場所選定といった作業が進められる。ILCによる研究は、宗教や人種などを越えた「人類共通の謎」に迫る作業なのだ。
 陳情や請願運動を繰り広げ、がむしゃらに北上山地に誘致する――という段階でもないし、状況でもないのである。今できることは、国際協調の最前線でILC実現に励む研究者たちの存在やその仕事を知り、応援の声を送ることである。

写真=素粒子を光の速度まで導く装置「クライオモジュール」。超電導状態を作るには極低温の環境が必要で、モジュール内部にマイナス271度の液体ヘリウムを満たす。外気との温度差の影響を防ぐため、魔法瓶のような構造になっている((C)Rey.Hori/KEK)
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tanko 2009-6-3 19:50
 【仙台市=報道部・児玉直人】 素粒子物理学研究機関・高エネルギー加速器研究機構(愛称KEK、茨城県つくば市)の吉岡正和教授=理学博士=は2日、仙台市の東北大学で講演し、宇宙創成期の状況を再現する大規模実験施設「国際リニアコライダー(ILC=International Linear Collider)」の日本国内設置について、「わが国に計り知れないメリットがある」と強調。ILCの設置は、国際協議等を経て、まずは「日本設置」を確実なものにする必要があるため、「学界、産業界、政界が一致協力していく必要がある」と呼び掛けた。

 日本国内の設置候補地には、江刺区などを含む北上高地地中にある花こう岩地帯が有力視されており、同日の講演には奥州市や岩手県の関係者も多数詰めかけ、「ILC設置によって何が解明されるのか」など、基礎学研究における日本の取り組み状況について理解を深めた。
 吉岡教授の講演は、先端加速器科学技術推進協議会、東北加速器基礎科学研究会が主催するシンポジウム「宇宙の謎に挑む 日本の貢献」の中で行われた。両団体とも、加速器を使った素粒子物理学研究など、次世代の科学技術開発を推進する産学官連携組織だ。
 ILCは世界の素粒子物理学界で開発協議が進められている、国際的な巨大研究施設。あらゆる物質を構成する最小単位である「電子」と「陽電子」といった素粒子の一種を超高速で衝突させることで、宇宙やこの世に存在する物質の誕生起源を探ることなどを目的にしている。
 素粒子を衝突させる実験装置「加速器」は、世界各地に点在。欧州合同原子核研究所(CERN)は、スイスのジュネーブに世界最大の加速器「大型ハドロンコライダー」を設置し、今年から稼働開始となった。日本では、つくば市のKEK敷地内に「KEKB」と呼ばれる加速器がある。
 しかし、いずれも円形に組まれた加速器で、導き出せる速度には限界がある。ILCは、円形加速器では再現できなかった超高速度による素粒子衝突を実現させる装置。人類が開発する「最も小さい物質を見る顕微鏡」ともいえる。
 吉岡教授は素粒子研究や加速器の開発の歴史を解説した。日本にILCを設置することが有利な理由について、精密機器である加速器本体を製造するのに必要な高品質素材を生み出す技術があることなどを列挙。「日本の加速器分野における実力は常に世界の先端を行っている」と語った。
 日本にILCを設置するポイントとして、吉岡教授は、「大型加速器を今年設置したCERNやジュネーブの姿勢を学ぶべきだ」と強調。「高い能力を持った人たちが、世界中から集まることに、わが国が投資することは極めてよいこと。そのためにもまずは、日本国民の理解を得ることが必要だ。学界、産業界、政界が一致協力していく体制が欠かせない」と訴えた。

写真=ILC計画について解説する吉岡教授(東北大学・片平さくらホール)

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