人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2014-8-27 9:16
 北上山地への誘致が期待されている国際リニアコライダー(ILC)に関する研究者らの会議が、27日から一関市で始まる。これを皮切りに、水沢区内でも9月6日から9日にかけ、国内外から約80人が集まる会合が予定されている。昨年8月、世界で唯一の候補地に事実上選ばれた北上山地。第一線の研究者が多数訪れ、現地の様子を直接目にする機会となる。関係者によると、同様の会議は今後も奥州市内をはじめ候補地周辺で数多く開催される可能性があるという。
(児玉直人)

 奥州、一関両市で開催される一連の会議は、ILCの装置や設備配置を検討する三つの国際研究者グループによるもの。各グループの会議は世界の主要地域持ち回りで開催しているが、今回は日本が開催地になったこともあり、候補地を実際に見る機会にもつなげようと、両市で相次ぎ開催されることになった。
 27日から29日までは、ILCの粒子衝突実験で使用する「陽電子」の発生装置について協議している「POSIPOL」の会合が、一関図書館で開かれる。9月4日から同6日までは、引き続き同図書館を会場に実験施設の配置などに関して協議する「MDI−CFS」と呼ばれるチームの会議が催される。
 一方、奥州市内では同6−9日の予定で水沢区東町の水沢グランドホテルを会場に「ILDミーティング2014」が開かれる。ILDは電子、陽電子の衝突現象を捉える巨大な測定器(検出器)の名称。日本を含む32カ国、約700人が開発に携わっている。
 水沢には日本をはじめフランス、スイス、ドイツ、カナダ、アメリカ、ノルウェー、スペイン、チェコ、ポーランド、オランダ、オーストリア、中国、イギリスの研究機関、大学に所属する研究者約80人が訪れる見通し。滞在中は北上山地や国立天文台水沢VLBI観測所などを視察する予定も組み込まれている。
 ILC計画は昨年8月23日、国内候補地を北上山地に一本化。その後、国際研究者組織「リニアコライダー・コラボレーション」(LCC)最高責任者のリン・エバンス氏が、北上山地に特化した詳細設計を行うと明言しており、事実上、世界唯一の建設候補地となっている。
 昨年10月にはエバンス氏らLCC幹部が、今年2月にはILCの広報事務を担当している国内外のスタッフ3人が視察に訪れている。同広報事務を担う高エネルギー加速器研究機構の高橋理佳氏は「今後もこのような国際会議が候補地周辺で開かれることになると思う」と話している。

写真=水沢で開催されるILC関連の国際会議で議論の中心となるILD測定器の完成予想図
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tanko 2014-8-24 10:00
 日本創成会議座長で前知事の増田寛也氏は23日、水沢区佐倉河の市文化会館(Zホール)で開かれた「先端加速器科学技術推進シンポジウム2014in東北 ILCの日本実現に向けて」で講演。自身が同会議で取り組んだ人口減問題について「少子化と東京一極集中問題は、国を挙げて本気で取り組まなければ解決できない」と指摘した上で、「ILCは特に東京一極集中の流れを切り替えるきっかけとなる。これからも地域の熱意を示してほしい」と強調した。
(児玉直人)

 同シンポジウムは、いわてILC加速器科学推進会議(亀卦川富夫代表幹事)や国際経済調査会(高橋佑理事長)、先端加速器科学技術推進協議会(西岡喬会長)などが主催。高エネルギー加速器研究機構(KEK)や胆江2市町、胆江日日新聞社などが後援した。一般市民や県内外の誘致関係者ら約1000人が聴講した。
 同日で、北上山地のILC国内候補地選定から丸1年を迎えた。この間、国際的な研究者組織による現地視察や文部科学省による有識者会議の設置などが進められ、胆江地区や一関市などを中心に市民や次代を担う子どもたちの理解醸成を狙う各種事業も繰り広げられてきた。
 一方、日本学術会議が今年6月に開催した学術フォーラムでは、科学的意義に対する評価の一方で、厳しい財政状況や地域づくりをめぐる諸課題の中で、どうILC計画を位置づけ、国民理解をどう得ていくのかなど今後取り組むべき課題も数多く出された。
 シンポジウムの講師に迎えられた3氏のうち、増田氏は少子化や東京一極集中などが招いた地方の人口減問題とILC誘致を絡めて持論を展開した。
 人口減に関するさまざまなデータを示し、「若い世代が大学進学や就職のため、一番出生率の低い東京に出て行く傾向が続いている。世界の都市を見ても、東京だけが特異な状況にある。若い人を地方から集めて労働力を確保するような構造は変えなくてはいけない」と指摘。その上でILC計画が、一極集中の流れを変えるきっかけになると主張した。
 増田氏は「誘致実現を目指す上で、地域の皆さんがもう一度ILCの意義を正確に理解する必要がある。政府間の交渉が進もうとする中、地域の熱意を示してほしい」と呼び掛けた。
 このほか、国内の素粒子研究者界のリーダー的存在であるKEK機構長の鈴木厚人氏は、ILCの科学的、社会的な意義について解説。「南極大陸に世界各国の基地があるように、ILCの周辺にも世界中の研究所が集まるような形になっていくべきだ。普通の国際都市とは違う都市になる」と訴えた。東京大学素粒子物理国際研究センター准教授の山下了氏は、ILC計画の現状と今後の見通し、素粒子研究を支える技術などを紹介した。
 
写真=人口減社会の中でILC計画実現の意義について持論を述べる増田寛也氏
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tanko 2014-8-23 9:50
文化的な意義強調せよ 地域・環境の観点から(石川 幹子氏)

 国内候補地の北上山地周辺は、急峻な場所が少なくなだからな丘陵地だ。いわゆる典型的な里山生態系が存在している。そこに奥州藤原氏の文化が誕生し、海岸地域の文化ともつながりをみせてくる。日本文化のオリジナルがこの地域に広まっていて、極めて高い潜在能力がある。
 東京やパリなど巨大都市はどんどん増殖していったが、北上山地は2万から3万人という人口規模で、ある意味で里山文化圏にふさわしいような規模だった。100万人都市ならそうはいかない。
 「普遍的なまちづくり」をする実験の場としても、北上山地周辺はふさわしい。科学技術も駆使し、現代社会に適応しうるモデルにしていくことができる。これは東京ではできない。自然と人間とが共存できる仕組みが北上山地周辺にはあると感じる。
 さてILC計画については、加速器装置だけで8300億円が必要だと言われている。これだけを示して、国民を納得させることは無理であろう。
 津波対策の防潮堤の予算は、5都府県で7000億円だと言われている。これを海岸林にすれば格段に安いのは分かるし、メンテナンスも違う。「海岸林は役に立たない」という意見もあるが、とんでもない。実際、1000年に一度とも言われたあの津波に耐えた海岸林もあるのだ。
 ILCで言われている8300億円は、日本だけでなく国際社会でさらに分担する。一方の防潮堤は、コンクリート製なので50年で寿命が来る。
 このように社会資本整備のコストという観点から、日本の国土全体を見つめ、いろいろな事柄と相互に比較した上で「高いか、安いか」を考えなくてはいけない。ILCのことだけを考えていたらだめ。国民の説得もできない。
 ILCには科学的な意義があることはすでにご承知の通り。しかし、最も欠落しているのは文化的意義だ。北上や東北の地域がはぐくんできた何世紀にもわたる知恵、文化を掘り起こして社会、国民にしっかり説明できなければいけない。もう一つ、人間的意義を挙げるならば、何よりも子どもたちへの夢だ。新しい世代に夢を与えるようなものは、大事にしていかなければいけない。

(未来へのアルピニズム・ILC誘致夢と現実は今回で終了します)

 
写真=北上山地の豊かな自然と里山が育んだ生活の営みと文化の中に、国際的な研究施設を迎え入れる意義をしっかり説明できなければ、ILC誘致に対する国民の納得や支持を得ることは難しい。理系、文系双方の有識者に一般市民も加わって開催された日本学術会議のILCフォーラムは、誘致に向けた課題や必要な取り組みをあらためて浮き彫りにさせた(コラージュ)
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tanko 2014-8-22 9:48
 国際リニアコライダー(ILC)誘致実現への機運を高める「先端加速器科学技術推進シンポジウム2014in東北・ILCの日本実現に向けて」は、23日午後1時半から水沢区佐倉河の市文化会館(Zホール)で開かれる。前知事の増田寛也氏ら3氏が登壇。主催者側は、特にも次世代の地域を担う子どもたちにも聴講してもらおうと、市内の中学・高校などにチラシを配布。理系、文系を問わず多くの若い世代にILC計画への関心を深めてほしいと願っている。入場無料。

 同シンポは、いわてILC加速器科学推進会議(亀卦川富夫代表幹事)や国際経済政策調査会(高橋佑理事長)、先端加速器科学技術推進協議会(西岡喬会長)などが主催。高エネルギー加速器研究機構(KEK)や胆江2市町、胆江日日新聞社などが後援する。
 講師は増田氏のほか、KEKの鈴木厚人機構長と東京大学素粒子物理国際研究センターの山下了准教授。このうち鈴木氏は、国内の高エネルギー物理学界のリーダー的存在で、奥州市内で講演するのは初めて。
 また、増田氏は自身が座長を務める日本創世会議・人口減少問題検討分科会でまとめた、人口減による地域崩壊や自治体運営の行き詰まりに関する調査結果を基に、ILC誘致が地域にもたらす意義を解説する。
 主催者側は当初、市内の産学官関係者らに同シンポの案内を出していたが、地域を担う次世代にも聴講してもらいたいと、中高校生向けの周知チラシも別途作成。市内の学校に配布した。
 ILCを核とした地域づくり、まちづくりを進める上では、衣食住や経済活動、教育・子育て、観光産業、環境保全など、あらゆる分野の力の結集が求められる。理系や工学系の生徒に限らず、商業や農業などさまざまな分野で学んでいる生徒たちにも、あらためてILCの意義を周知する狙いがある。
 当日、来場者には奥州市オリジナルのILCクリアファイルが配布されるほか、KEK作成の解説漫画やパンフレット、DVDなども数量限定で配布する。関連パネル展示も行う予定。
 聴講無料で、事前申し込みも不要。問い合わせは市役所ILC推進室(電話0197・24・2111、内線415)へ。
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tanko 2014-8-22 5:00
“地表の話”もっとしよう 地域・環境の観点から(石川 幹子氏)

 私はILCの国内候補地を選定する際に設置された「立地評価会議」で、研究者やその家族の暮らし、地域社会に与える影響について協議する社会環境基盤評価の委員を務めた。今回のフォーラムではあまり話題に上らなかったが、この分野の話は非常に大事な要素である。
 「どういう環境に住みたいか」という考えには個人差がある。にぎやかな都会的な場所に住みたい人もいれば、山里で静かに過ごしたい人もいる。これをどう評価したらよいのかも課題になった。
 東北と九州の両候補地を評価し、生活の質と文化については、顕著な差はなかった。将来的な都市構想を両地域とも作っていたが、私の視点から見ると、どちらも不十分な内容だった。生態系や景観、郷土の歴史や文化についての調査資料もほとんど出てこなかった。
 ILCは極めて重大な国際プロジェクト。それを迎え入れることは、どのような意味を持つのか。実験の舞台となる“地下の話”と同じぐらい、人々の生活や文化の営みに関わる“地表の話”についても真剣に考えなくてはいけない。
 かつて、都市と自然が共存するような世界が成立していた。しかし人口の増加や産業革命後の近代化によって、それは大きく崩れ「都市と田園とを画する道」と、「都市と田園とが交わる道」の二つに分かれ進むことになる。
 前者は少数派だが、イタリアのシエナという町で一例を見ることができる。都市の中に自然はないが、一歩外へ出ると、条例で厳しく守られた田園景観が広がっている。都市の付属物として農地があるのではなく、農業自体に自立した力を持たせ、「都市は都市、田園は田園」という関係を成立させている。これを「文化的景観」と呼んでいるが、ILC計画を進める上で大事なキーワードになると思う。
 一方、後者はパリや東京などの多くの大都市は、都市と田園が交わる道を選択した。果たしてこの手法が成功しているのかどうか、あらためて考えてみる必要がある。
(つづく)

 いしかわ・みきこ 1948年、宮城県出身。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。専門は環境デザイン、都市環境計画。慶応大学政策・メディア研究科教授などを経て、現在は中央大学理工学部人間総合理工学科教授。全国約200市町村の水と緑の計画・設計に携わっており、緑の都市賞・内閣総理大臣賞など数多くの受賞実績がある。郷里、岩沼市の災害復興会議議長も務める。
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tanko 2014-8-21 5:50
議論と覚悟は十分か 学術政策・行政の観点から見たILC(有本 建男氏)

 ILCは科学者と行政官、政治家だけで誘致を決められるプロジェクトではない。莫大な予算がかかる事業であり、日本政府は相当の覚悟で決断を下す必要がある。学術界はもちろん、一般の方々も含め各コミュニティーの中でしっかりと議論することが求められる。
 日本がこれまで携わってきた国際プロジェクトのほとんどは、冷戦の前にスタートしているか、冷戦構造の国際政治の中、アメリカがリードして行われてきたものだ。冷戦直後には、国際宇宙ステーション(ISS)のように国際社会の連携を図るために立ち上がった事業もある。そんなISSも最近のウクライナ情勢を受け、今後の動向が非常に不透明な状況だ。
 ISSも国際熱核融合実験炉(ITER)も政治の側が「やろう」と言い、そこに科学界が共鳴し現在に至っている。だが、ILCは冷戦構造とは違う世界体制の中で進めることになる。科学者サイドが相当な決意を持ってやらなければ実現しない。
 ビッグプロジェクトを進める時間軸は「揺籃期」「準備期」「運営期」と分けられる。今、ILC計画のステージは揺籃期にあり、行政も絡み始めた状態だ。
 各省庁の今までの経験から言うと、この段階の仕事が非常に難航する。ILCの場合、推進体制や組織の統治方法、人事についてはもう少し進んでから考えるだろうが、この種の話はISSでもITERでも必ずもめる。政治的駆け引きも絡む。
 ところが、科学のことが分かり資金調達策や予算のことも知っていて、国際交渉をタフにこなせるような人材は、日本にはほとんどいない。非難するわけではないが、途上国に比べ気丈夫さがない。
 理由は縦割り社会になっているからだ。科学者は自分のやりたいことをとにかく話す。一方で行政官は横を向き「持ち帰り相談します」と言う。これが繰り返されているから、日本に対する国外の信頼が下がるのだ。
 科学者だけでなく行政や政治、市民が対話を重ねていく上で、ILCだけに特化した話をしていたら何もならない。単純にILCが「いい」「悪い」だけの話になる。これは非常にまずいことだ。国内が分裂状態のままでは、安定的に経費を得ることも組織運営することもできない。若い研究者の育成にも影響を及ぼす。今動いている国際的なプロジェクト全体をじっくりと俯瞰的に把握した上で、ILCを巡る議論に臨むべきだ。
 日本の財政はものすごく厳しい。そのような状況下で人々を説得し、これだけのものを造るのは、相当の議論の積み重ねが必要だ。だが、内向きの話ばかりではなく、新しいことにもチャレンジしなくてはいけない。広い視野を持ってこの計画に臨んでほしい。
(石川幹子氏の講演につづく)

 ありもと・たてお 1948年、広島県出身。74年に京都大学大学院理学研究科修士課程修了後、科学技術庁入り。内閣府大臣官房審議官(科学技術政策担当)、文科省科学技術・学術政策局長、経済社会総合研究所総括政策研究官などを経て、12年4月から政策研究大学院大学教授。主な著書に「高度情報社会のガバナンス」(共著、NTT出版)など。
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tanko 2014-8-20 5:40
重点多い事前準備 ILC計画推進の国際体制(駒宮 幸男氏)

 素粒子物理学実験は冷戦時代から国際協力が日常的だった。わが国も多くのプロジェクトに参加し、多くの成果を上げてきた。この分野における国際協力の経験と実績は十分にある。
 さて、国際将来加速器委員会(ICFA)にはこれまで、「ある地域や国が素粒子実験のための加速器を建設した場合、他の地域や国が実験に参加するときは、運転経費などを強要してはならない」という規定があった。
 ところが、加速器の大型化や建設コストの巨額化に伴い、一国や一地域で資金調達能力をはるかに超える金額になっている。主要な加速器は地球規模の事業と位置付け、世界に1基のみ造り、重複を避けることが必須になってきた。
 とりわけILCの推進を考慮するため、ICFAは昨年、ガイドラインを変更した。すなわち「原則は自由に使っていいが、大型の地球規模の施設に関しては、事前に事業のパートナーとの間で運転経費の分担を決めるべきだ」とした。ILCは非常に大きな国際プロジェクトなので、運転、建設、運用の事前交渉は特に重要だ。
 世界は日本の動きに注目している。アメリカは最近、素粒子物理将来戦略(通称・P5)を発表し、ILCを重要なプロジェクトと位置付けた。今までアメリカは自国中心の考えが強かったが、P5ではグローバルな視点が強調されている。
 日本では現在、文部科学省においてILC誘致の是非を検討中だ。世界の研究者界では「リニアコライダー国際推進委員会(LCB)」が、ILC研究所の将来形式を検討する作業部会を作った。
 このILC研究所の運営と組織形態をどうするかという話は極めて重要だ。例えば、世界の物理研究所の機能をILCだけに一極集中させるわけにはいかない。各地の研究所の運営を担保しつつ、ILC研究所の組織運営をやっていくというバランスが必要になる。これまでのさまざまな大型国際プロジェクトの運営形態を精査し、ILCに適した姿を提案してもらう予定だ。
(有本建男氏の講演につづく)

 こまみや・さちお 1952年、横浜市出身。76年、東京大学理学部理学科卒。同部助手を務め理学博士号取得後、渡独。独ハイデルベルク大物理学研究所研究員、米スタンフォード線形加速器センター研究員、東京大学素粒子物理国際センター教授(CERN駐在)などを経て、99年帰国。00年から同国際研究センター長。専門は素粒子物理学実験。LCB委員長なども務める。
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tanko 2014-8-19 10:20
 市議会の「ILC誘致及び国際科学技術研究圏域調査特別委員会」(渡辺忠委員長、議長除く全議員27人で構成)は18日の会合で、ILC(国際リニアコライダー)誘致をめぐる国などへの要望活動を計画に追加することを決めた。
 奥州市議会だけでなく、ILC関係の特別委を設置済みの盛岡、一関両市議会をはじめとした関係団体などと連携し、必要に応じて要望活動を展開することにした。
 先月29日の前回会合で市議の一人が、今後の活動計画に国などへの要望行動も加えるよう提言。これを受け、同特別委の幹事会で追加の是非を検討していた。
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tanko 2014-8-19 5:10
大志抱きつつ現状も見よ 人文社会学の観点から(今田 高俊氏)

 核廃棄物の話に通じることでもあるが「核変換」という技術を生み出せないかという話もある。加速器技術を使い、放射性物質の半減期を縮小できる可能性を模索している。
 ILCの誘致を検討する上で、私は「夢」と「現実」双方から国民的議論をする必要があると考える。
 宇宙の謎を解明するのは、人類にとってまさに「夢」。一方で現実的な面に目を向けると、莫大な費用と多数の人材育成が必要。なかなか難しい問題だが、日本は先進国としてのプライドを持って、何とか合意形成を働きかけてほしい。
 合意形成の進め方はいろいろある。だが、お金で片を付けたり政治的な力を用いたりするやり方は、しばしば人々の心を踏みにじってきた。プロジェクトの素晴らしさや人類にとっての有益さを啓発し、説得する戦略の展開が必要だ。
 今回の学術フォーラムもその一環だろうし、各地ではサイエンスカフェや出前授業なども行われている。そうした取り組みの積み重ねでILC計画の意義はPRできる。しかもILCはリスク中心の話ばかりではなく、夢の話が多い。興味関心は抱きやすい。
 最後に、ILC計画の対立候補になりうるプロジェクトを紹介したい。アメリカ国立衛生研究所(NIH=National Institutes of Health)の日本版をつくろうという構想だ。
 少子高齢化が進み、健康医療問題が大きな関心を呼んでおり、財政的な問題も引き起こしている現実がある。そのような時、国や国民はILCと日本版NIHのどちらを選ぶだろうか。「自分たちの命と健康」なのか、それとも「基礎科学の夢を実現すること」なのか。
 余裕さえあれば両方実現できれば最高だ。しかし、今の状態だとせめぎ合いになってくるのではと感じる。何とか知恵を出し、両立可能な案を考えていくことも必要ではないかと思う。
(駒宮幸男氏の講演につづく)

写真=奥州市などでは、市民向けのILC講座や企画展などが繰り広げられている。今後は、科学的意義や経済効果などプラス面のみならず、費用や人材育成に関する問題、地域が抱える諸課題など現実面にも目を向け考え合うことが、ますます重要になってくる
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tanko 2014-8-18 5:10
国民賛同どう得るか 人文社会学の観点から(今田 高俊氏)

 私はもともと人文社会学を専門としているが、最近は文系と理系の間の仕事を日本学術会議の中でやることが多い。ILCのほか、原発から出る高レベル放射性廃棄物の処分について、考えを示すよう求められていた。これはとてもシビアな問題。生命のリスクにも関わるため、国民や地域住民の合意形成を得るのはなかなか難しい。技術的にもさまざまな課題を含んでいる。
 ILCの建設候補地では非常に高い期待が寄せられている。東北と九州の間で誘致合戦のような様相も起きるぐらいだった。
 ILCの建設費は10年間で約8300億円。関連施設を入れると約1兆円と言われ、このうち日本が約半分を負担すると想定されている。運営費は約360億円だ。「1桁違えば何とかなる」という声もあるようだが、われわれ社会学の人間の感覚からすると「2桁も3桁も違う」と感じるぐらい莫大な金額だ。それだけに、国民からどう賛同を得るかが大きな課題になっている。
 人材の面でも研究者が1000人規模で必要とされているが、日本で対応できるのは現在300人程度。700人はこれから育てるか、外国から来てもらうことになる。人材育成をしっかりやらないといけないのは確かだ。
 何はともあれ、まずはILC計画の意義を国民が知らなければいけないし、納得してもらう必要がある。
 意義の第一は基礎科学の発展。「日本や東北が宇宙の始まりを探求する研究拠点になる」という点だ。科学は社会に役立つだけでなく、真理の探究にも寄与する。「お金になるからやる」のではなく「お金にならなくても真理を知る、探求する」という姿勢は、科学技術を発展させる原動力にもなる。
 だが、単に基礎科学の発展だけでは国民の合意は得られにくい。何らかの役に立つ側面も考えなくてはいけない。それが第二の意義に当たる。
 現在、加速器関連技術を利用した工業製品の生産額は約70兆円。日本の工業製品全体の生産額が約300兆円だから、おおよそ4分の1は加速器関連産業で作り出している。
 ILCができると医療、生命科学、材料科学、環境エネルギー分野までの技術革新が起きると期待されている。実際に米国は、ロケット打ち上げなどの技術を応用し、いろいろな産業に生かしてきたという例がある。具体的にどのような産業や製品を生産できるか、ここ数年の間に詰めたほうがいい。
(つづく)

いまだ・たかとし 1948年、神戸市出身。1972年、東京大学文学部社会学科卒。東京工業大学助教授、同大教授などを経て今年3月まで同大大学院社会理工学研究科教授を務めた。現在は同大学名誉教授。専門は社会システム論やリスク学、情報社会論など。日本学術会議の「ILC計画に関する検討委員会」副委員長、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」委員長を歴任。2008年、紫綬褒章受章。

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