人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2022-5-31 9:00

写真=ILC誘致実現に向けた取り組み内容を確認した県推進本部会議(県庁第一応接室)

 岩手県ILC推進本部(本部長・達増拓也知事)の本年度第1回会議が30日、県庁第一応接室で開かれ、素粒子実験施設ILC(国際リニアコライダー)の北上山地誘致実現に向けた取り組み内容などを確認した。当初、ILC準備研究所(プレラボ)の設置が本年度中と見込まれていたが、文部科学省ILC有識者会議が時期尚早と結論。研究者コミュニティーは有識者会議の議論を踏まえ、研究開発と国内での支持拡大に取り組む新たな活動方針を固めており、県は要望活動や受け入れ態勢の検討、地域住民や子どもたちへの理解増進などの取り組みの継続により誘致活動を推進していく。
(児玉直人)

 ILC誘致を巡っては、素粒子物理学者らを中心とする研究者コミュニティーが本年度中にプレラボを設置し、4年程度の準備活動を経て約10年の建設期に入る――とのシナリオを描いていた。県当局や関係市町、地域経済界を主体とした誘致団体などは、研究者コミュニティーと歩調を合わせる形で、受け入れ態勢の検討や住民の理解増進などに努めてきた。
 しかし有識者会議では▽各国政府の具体的な参画や経費負担に対する見通しが依然立っていない▽国民理解等が不十分――などの課題があらためて浮き彫りに。ILC計画の進め方を再検討する時期に来ているとして、日本誘致を前提とするプレラボの設置案も「時期尚早」との考えを提示。素粒子分野の発展を閉ざすことは本意ではないという観点から、立地に関わる問題をいったん切り離し加速器の開発研究などは段階的に展開すべきだとした。
 一連の流れを受け、研究者コミュニティーで組織する「国際将来加速器委員会(ICFA)」は、プレラボ設置の準備作業をしていた国際推進チーム(IDT)の活動を1年延長。必要な開発研究をしながら、日本におけるILC実現に向けた幅広い支持拡大のため活動していく新たな方針を固めた。
 県は研究者コミュニティーの取り組みを引き続き後押しする姿勢を維持。東北ILC推進協議会など誘致関連団体との連携、研究者コミュニティーとの密接な情報交換を図りながら、▽日本政府主導の国際議論の進展▽2023(令和5)年度概算要求における関連研究開発費等の措置――を求めていく。ただ、実際の活動は政府関係者らへの要望、受け入れ態勢の検討など従来と同様の取り組みが目立つ。
 小中高生らに対するILC周知を目的とした出前授業、研究コンテストも継続する。子どもたち向けの機運醸成に関しては、有識者会議の中で「科学への興味関心の促進と、プロジェクトの推進とは切り分ける配慮が必要」との指摘も出ている。
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tanko 2022-5-14 8:40

写真=ブラックホール撮影に携わった日本の研究者ら。前列左が本間希樹所長、同2人目が森山小太郎さん(国立天文台提供)

 天の川銀河(銀河系)の中心部にある巨大ブラックホール(BH)の画像公開から一夜明けた13日、国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の地元関係者からもあらためて快挙をたたえる声が上がった。12日深夜に都内で開かれた会見では、同観測所に縁がある若手研究者3人が発表。本間所長(50)は最後に短く謝辞を述べ、将来有望な若手の今後に期待を寄せた。国の研究予算が頭打ち状態で、若手研究者の雇用体制や研究費確保が厳しくなっている中、本間所長は「彼らがさらに活躍できる環境を整えていきたい」と語る。
(児玉直人)

 3年前に別の巨大BHの画像が公表された際、水沢菓子組合(千葉亮組合長)はBHをイメージした菓子を会員店舗ごとに開発。現在も好評を得ている。同組合の高橋一隆副組合長(48)は「まさに吉報。早速会員に『これは再びチャンスになる』と伝えた。近く会議をする予定で、何ができるか考えたい」と話す。
 水沢羽田町の老舗鋳造業、(株)及富(及川一郎社長)は、BHをイメージした鉄瓶を商品化。同観測所が実施しているクラウドファンディングで、30万円以上の寄付者に贈られる南部鉄器製おちょこ(限定品)の製造も手掛けている。同社の菊地章専務(65)は「経済が冷え切っている中、熱い情熱を持って研究している皆さんの思いが、人々の心を温めているように感じる」と快挙をたたえた。
 倉成淳市長は「歴史的な快挙にとても驚き、感動している。地域をさらに明るくし、喜びや勇気を与えてくれるもので、感銘を受けた子どもたちのチャレンジ精神の高まりに期待したい」とコメントした。
 今回の研究成果の意義について本間所長は、「地球から一番近い巨大BHなので、精密にいろいろなことが分かる。相対性理論の検証など、非常に重要な実験場になるのは間違いない。私たちが住んでいる天の川銀河の中心に存在しており、人類誕生の壮大な絵巻物を描く時、非常に重要な役割を担っているかもしれない」と説明する。
 撮影を行った国際プロジェクトチーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」では、多くの若手研究者たちが活躍。12日深夜の会見で成果発表した森山小太郎さん(31)は、数多くの解析画像を最終的にまとめ上げる大役を担った。
 兵庫県出身の森山さんは、ドイツのゲーテ大学フランクフルトに博士研究員として在籍中だが、2018(平成30)年から1年間、同観測所で研究活動をしていた経歴がある。「街の中に大きな電波望遠鏡があり、のどかな雰囲気が漂うが、研究者間のディスカッションは非常に活発で刺激を受けた」と回顧。「自分がまとめ上げた画像をあのような大きな会見で発表した瞬間、まさに感無量だった」と話した。

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研究資金調達、目標金額に達成

 国立天文台水沢VLBI観測所が、若手研究者らの研究資金等を調達するために実施していたクラウドファンディングが12日夜、目標額の1000万円に到達した。現在は次の目標額2000万円を目指しており、引き続き寄付を受け付けいる。6月17日午前11時まで。
 銀河系中心部のブラックホール(BH)撮影に関する記者会見を2時間後に控えていた日の午後8時ごろ、目標金額1000万円に到達。その後も寄付が相次ぎ、日午後5時現在で1114万4000円が寄せられた。当初目標が達成したため、同天文台は最終的な寄付額を全額受け取ることができる。
 寄付額は3000円から最高300万円。金額に応じて返礼品が異なる。インターネットでの申し込みとなり、検索サイトで「国立天文台 レディーフォー」と入力。「国立天文台 水沢VLBI観測所 進むブラックホール研究にご支援を」などと表示されたリンクへ進む。入金はクレジットカードまたは、銀行振り込みで。寄付額にシステム使用料220円と、銀行振り込みの場合は手数料が別途発生する。
 問い合わせは同観測所(電話0197・22・7111)へ。
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tanko 2022-5-13 0:00
天文台水沢、困難な画像解析で貢献


画像=国際研究チームが撮影に成功した地球から最も近い巨大ブラックホール(右下)と、銀河系中心部と太陽系の位置関係図(EHTなど提供)

 天文学分野の国際プロジェクトチーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」は日本時間の12日深夜、地球から最も近い巨大ブラックホール(BH)の撮影に成功したと発表した。3年前に別の巨大BHの撮影成功を公表して以来、人類史上2例目の成果。困難な画像解析に時間を要したが、プロジェクトに参加する国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の研究者ら日本のメンバーが、可視化に大きく貢献した。
(児玉直人)

 EHTは日本の国立天文台など世界13の研究機関・大学が出資し運用。300人を超える研究者が参加しており、うち14人が同天文台など日本の研究機関に所属している。
 今回公表された画像は、太陽系が属する天の川銀河(銀河系)の中心部にある巨大BH。地球から見て、いて座の方向にあることから「いて座A*(エー・スター)」と呼ばれている。地球から2万7000光年(1光年=約9.5兆km)離れており、重さは太陽の400万倍に相当する。
 観測自体は2017年に行われた。南北アメリカ大陸とハワイ、ヨーロッパ、南極に点在する8基の電波望遠鏡を連動させ、一つの天体を精密観測する超長基線電波干渉計(VLBI)の技術を用いた。いて座A*のほか、おとめ座の方向にある「M87銀河」の巨大BHなど複数の天体を観測しており、3年前に公表された画像は、M87銀河の中心にある巨大BHだった。
 同時期に観測したBHの画像公表に数年の差が生じたのは、いて座A*の画像解析が非常に困難だったためだ。
 画像で明るく見えるリングは「降着円盤」と呼ばれ、BHに吸い込まれようとしているガスやちりが、高温となりさまざまな電波を発しながら周回している。その動きはBHが大きくなるほど遅く見える。
 いて座A*の約1600倍あるM87銀河のBHは、一晩中観測し続けても降着円盤の動きが静止した状態となる。一方、いて座A*は数分で形が変わるほど降着円盤の動きが激しく、そのままではブレた画像しか得られない。
 EHTの研究者らは、BHの強力な重力で降着円盤のガスなどがどのような影響を受けているのか正確に調べ、ブレの影響を観測データから除去。これらの解析には水沢VLBI観測所の研究者のほか、同観測所に所属していた研究者ら日本人の若手が大きく貢献したという。
 2020年、銀河系の中心に近い天体が非常に強い力の作用を受けている点や、BHが形成される理論を証明したとして、3人の欧米出身者がノーベル物理学賞を受賞した。銀河系の中心に巨大BHが存在していることを間接的に示した成果だったが、今回の撮影画像は間違いなく巨大BHが銀河系の中心にあることを直接的に証明した成果になる。
 EHT所属の研究者らは12日深夜、日本を含む世界7カ所で同時に記者会見を開き、人類史上2例目となるBH画像を一斉公開した。
 都内の会見会場では、水沢VLBI観測所に在籍歴がある森山小太郎さん(ゲーテ大学フランクフルト博士研究員)と小山翔子さん(新潟大学大学院自然科学研究科助教)、本間所長の指導を受けている小藤由太郎さん(東京大学大学院理学系研究科博士課程在学)らが登壇し、研究の意義などを説明。本間所長も会見に同席した。
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tanko 2022-4-21 10:00

写真=クラウドファンディングへの協力を呼び掛けている本間希樹所長

 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)は20日、若手研究者への支援を主目的に、一般市民や企業・団体等から資金を調達するクラウドファンディングを始めた。6月17日までの間、1000万円を目標に寄付を呼び掛ける。基礎研究に関する国の予算が頭打ち状態にあり、有望な若手を育てる環境の厳しさが背景にある。同天文台が公式にクラウドファンディングを実施するのは今回が初めて。
(児玉直人)

 同観測所では、複数の電波望遠鏡を連動させて、精密な天体観測を行う超長基線電波干渉法(VLBI)を活用した研究をメインに展開している。近年は、本間所長ら同観測所の主要メンバーが参加する国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」によるブラックホール撮影が大きな話題となった。
 歴史的な研究成果に貢献している同観測所だが、国の基礎研究に対する予算は頭打ち状態にある。研究の最前線に立つ若手研究者の育成にも影響。天文学に限らず基礎研究全体が、厳しい台所事情に悩まされている。
 「若い人たちが安心して研究に打ち込める環境づくりを進める上では、国だけに頼らない財源確保をしていかなければならない」と本間所長。地元企業の協力による若手研究者の支援対策もしてきたが、一般市民を含めた幅広い応援を得ようと、クラウドファンディングに初挑戦することとなった。
 クラウドファンディング支援するREADYFOR(株)=東京都千代田区=のサービスを活用。目標金額は1000万円で、目標金額に達した場合のみ支援金を受けられる「All or Nothing型」で実施する。期限まで達成できなかった場合は、寄付者に返金される。
 支援コースは寄付金額や記念品の有無によって15種類ある。最も手軽なのは3000円で領収書とお礼メッセージのみ。最高額は300万円で、同観測所敷地内の木村榮(きむら・ひさし)記念館の芳名板に名前が掲げられ、特別感謝状が贈られる。300万円で記念品ありを選択すると、オリジナル南部鉄器風鈴や本間所長による観測所案内ツアーやオンライン講演会などが体験できる。
 支援申し込みは、インターネットで「国立天文台 レディーフォー」と検索。「国立天文台 水沢VLBI観測所 進むブラックホール研究にご支援を」などと表示されたリンクへ進む。寄付金の支払いはクレジットカードまたは、銀行振り込みで。寄付額にシステム使用料220円が加算されるほか、銀行振り込みの場合は手数料が発生する。
 問い合わせは同観測所(電話0197・22・7111)へ。
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tanko 2022-4-14 9:50
 北上山地が有力候補地とされている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の実現を目指している素粒子物理学者らの組織は、「国際推進チーム(IDT=International Development Team)」の活動を1年間延長する見直しを図った。IDTはILC準備研究所(プレラボ)の設置に向けた事前準備を進めてきたが、文部科学省ILC有識者会議はプレラボ設置を「時期尚早」と指摘。早ければ本年度中にもプレラボを設置する予定だったが、IDTの体制を維持したまま利害関係者の支持拡大を図る。
 今回の修正は、このほど開かれた国際将来加速器委員会(ICFA)で協議され、今月10日付でICFAが公式ホームページ(HP)で明らかにした。
 ICFAは素粒子物理実験を行っている世界の主要加速器研究所の代表らで構成する国際組織で、一昨年8月にプレラボ設置を見据えてIDTを立ち上げ。昨年6月にはプレラボ提案書を公表した。政府等の理解を得て、早ければ本年度中にもプレラボを開設し、ILC建設への大きな弾みにする――という趣旨のシナリオを描いていた。
 しかし文科省の有識者会議は、研究意義は認めるものの、IDTが示した提案に基づくような形でのプレラボ設置は「時期尚早」と結論。ILC計画のみならず、素粒子物理学や加速器科学全体の将来像、研究開発戦略を再構築する時期に来ていると指摘した。
 有識者会議の結論を受け、ICFAは当初1年から1年半程度としていたIDTの活動期間を延長。「研究機関や研究室間の国際的な連携をさらに強化し、日本におけるILC実現に向けた幅広い支持拡大のため活動していく」とした。
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tanko 2022-3-19 11:10
近代和風建築の先駆け

写真=江戸時代の武家住宅の雰囲気を残す旧安倍家住宅。二階座敷は風雅な造りになっている。臨時緯度観測所の事務所が置かれるなど地域史的にも重要な建物

 水沢日高小路の旧安倍(あべ)家住宅の建物5件(主屋、板蔵、土蔵、表門、庭門の計5棟)が、国の登録有形文化財(建造物)に登録される見通しとなった。18日に開催された文化審議会(佐藤信会長)で、登録妥当と答申された。江戸時代の武家住宅の系譜を引く近代和風建築として、貴重な現存遺構であることを評価。今後の官報告示をもって、正式登録となる。登録されれば県内で100件目、市内で13件目の同文化財となる。市教育委員会は4月30日に一般公開を予定している。
(宮本升平)

 安倍家は江戸後期から水沢要害の領主・留守氏に仕えた家柄。同住宅は明治初期に建立され、国重要文化財「旧高橋家(高萬家)住宅」=水沢大畑小路=の主屋を建てた丹野源六が棟梁を務めた可能性があるという。2度の明治天皇巡幸の際に「立退所(たちのきじょ)」とされたほか、1899(明治32)年には「臨時緯度観測所」の事務所も一時置かれた。大正時代には、当主が同住宅で医院を開業していたという。
 中心となるのは、一部二階建の主屋。平屋建入母屋造りの座敷と、二階建寄棟造りの建物を鉤型になるよう合わせている。3本のマツの老木をメインとした表庭「翠松園(すいしょうえん)」を生かすために施された配置だといい、このような配慮は江戸時代にはない近代和風建築の特徴とされる。
 「茶の間」にあるはめ込み箪笥の上に戸袋を設ける形式も、近代和風建築らしい構造。戸袋の襖絵は近代水沢を代表する絵師の一人・佐藤耕雲(1854〜1920)が手掛けている。
 二階座敷は化粧屋根裏の「船底天井」を持つ数寄屋造りで、風雅さが漂う。床の間が輝くアワビの貝殻片を混ぜて塗られた土壁になっているなど、旧高橋家住宅に共通する意匠が見られる。
 市教委歴史遺産課の高橋千晶・上席主任学芸員は「安倍家住宅のうち、特に主屋は当時最先端だった折衷様式の近代和風建築の特徴がよく分かるもの。それが仙台などよりも早く建てられていることに驚かされる。水沢には先取の気風があったのではないだろうか。一方で江戸時代の武家住宅の雰囲気も残るこの住宅の価値を認めてもらえたことは喜ばしい。市民への公開、活用を含めて長く守り伝えていきたい」と話す。
 高橋勝・市教育長は「旧安倍家住宅は武家住宅の系譜を引く近代和風住宅で、屋敷は表門を日高小路に面して構え、北国特有の板蔵などが配されている。主屋は部分的に改築されているが、当時の姿をほぼ今に残している。これからもこの貴重な財産を守り続けてきたい。地域の皆さんには、郷土の宝として末永く慈しんでいただきたい」と呼び掛けた。
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tanko 2022-2-27 8:10
 高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市、山内正則機構長)などは26日までに、昨年6月に提案した内容に基づく素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の準備研究所(プレラボ)設立を断念した。当面は実験装置の開発研究を進めるほか、世界的な素粒子研究戦略も練り直す。一般社会や経済界、他分野研究コミュニティーに向けては、ILCが果たす学術的意義などを周知する活動を強化。今月14日に文部科学省ILC有識者会議が公表した「議論のまとめ」の指摘事項にほぼ沿った対応を取る考えだ。
(児玉直人)

 ILCに関する研究者側の活動はここ最近、KEKのほか、日本の高エネルギー物理学研究者会議のもとに作られた「ILCジャパン」、世界の加速器研究所代表者らで組織する国際将来加速器委員会(ICFA)のもとに立ち上げた「国際推進チーム(IDT)」の計3団体が連携し進めていた。
 2020年8月に発足したIDTは、プレラボ提案書を昨年6月に公表。▽加速器施設の技術設計書作成▽土木工事やインフラ整備に向けた設計検討、環境影響評価▽国際研究所設置に向け、日本の自治体への情報提供▽広報周知活動の調整――などを行うとした。
 IDTの活動期間は1年から1年半程度。順調に事が進めば2022年度中にプレラボが立ち上がり、4年後にはILC研究所へ移行、約10年の建設期間に入るというシナリオも描かれていた。
 しかし同省ILC有識者会議は、研究の意義は認めるがプレラボの設置は「時期尚早と言わざるを得ない」とした。背景には国内外の厳しい財政事情、新型コロナウイルスに代表される社会情勢に変化などがある。また、ヨーロッパで計画されている別の大型加速器計画も検討されており、ILC計画のみならず素粒子物理学や加速器科学全体の将来像、国際的な研究開発戦略を再構築する時期に来ていると指摘した。
 有識者会議の結論を受け、KEKは「プレラボに代って当面必要な加速器の開発研究を行う枠組みを設け、開発項目を再整理した上で、共同研究を行うことをICFAに提案する」と、今後と取り組み方針を明らかにした。昨年6月に提案した方法によるプレラボ設置は、事実上断念したことになる。
 有識者会議は、国民や他分野研究者に対する理解・普及の在り方に関しても改善を求めている。KEKは対外的コミュニケーションを図る組織を構築し、対応していく考え。「将来のILC実現につながるように、関係者間の信頼関係を保ちながら、これらの活動を進めていく」とコメントしている。
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tanko 2022-2-25 8:00
千坂 げんぽう(76)=一関市萩荘、僧侶= 

 私が属する「ILC誘致を考える会」は、県や一関市、奥州市などがILC(国際リニアコライダー)誘致のメリットだけを吹聴している点に疑問を抱いた人たちが集まり、2017年に発足した。ILCのリスクやデメリットを独自に調査研究した結果を踏まえ、2019年には「ILC誘致に反対する」と宣言した。  私は会の活動を通じていろいろなことを学んだ。

■真逆の解釈をする誘致関係者

 日本学術会議の報告書(ILC計画見直し案に関する所見)、文部科学省の発言などを詳細に検証しただけでなく、欧州合同原子核研究所(CERN)が2020年に公表した「欧州素粒子物理戦略」も原文を入手し分析した。戦略に記載されていたのは、CERNは日本がILCを主体的にやる意向なら「ドアを開けておく」と、単にリップサービスで1行程度付け加えたに過ぎない表現であることが分かった。
 県や県ILC推進協議会などは、戦略の記載内容を前向きな表現だと非常に好意的に受け止めた。しかしそれは独自に翻訳や検証したものではなく、ILCを推進する素粒子物理学者(以下・研究者)のミスリーディングな発表をそのまま引用しただけではないかと感じた。このように、自主性もなく研究者側の意向にそのまま従い、我田引水的なコメントを発表するスタイルは今も続いている。
 日本政府はILCの建設候補地を「東北」「岩手県」「北上山地」だとは言っていない。ましてや「日本に誘致する」とも言っていない。北上山地を候補地に決めたのは、あくまで研究者コミュニティーである。
 文科省が欧米の政府機関と意見交換したところ、特に独仏英は資金提供の意向がないことを明確にした。同省有識者会議は今月、これらの実情を踏まえ「日本誘致を前提とするサイト問題をいったん切り離し、技術課題等をまずは着実に実施するアプローチを展開していくべきだ」とのまとめを公表した。

■ニュースコメントで相次ぐ指摘

 こうした直近の経過を見て、もはやILCの日本誘致は絶望的だと感じた。
 ところが県は2022年度当初予算案で、ILC推進局に2億4030万円を配分し、その中の「ILC推進事業費」に関しては、前年度当初比9.5%増の1億1080万円とした。これにはあきれた。新型コロナウイルス禍で困っている人が多い昨今なのに増額とは、まさにドブにお金を捨てるようなものだと憤慨した。
 今月4日、県ILC推進本部会議が県庁で開かれた。その様子を報じた複数の地元テレビ局のニュースがネット検索サイト「ヤフー!ジャパン」に掲載された。
 「ヤフー!」のニュースの一部には、ネット利用者が意見を書き込めるコメント欄があるようで、その中身を知人が届けてくれた。見ると、投稿者のほとんどが県の姿勢に疑問を投げ掛けている。
 「いいかげん、実現可能性が限りなくゼロに近い夢をヨイショし続けるのはやめたほうがよい」
 「誘致は曲がり角に来ていると認識して、ILC以外の振興策にかじを切る時期に来ているのではないか」
 「ILC出前授業もいかがなものかと思う。科学技術への興味関心を高めるというよりは、子どもを使って特定事業の応援団を作ろうとしているのではないか。一方的な押し付けに等しい」
 およそ20件ぐらいの書き込みがあったが、すべてILC誘致運動の非実現性を指摘するものだった。
 こうした意見があるのに、県は研究者側に立った予算を組み、誘致活動を継続させようとしている。前段で紹介した文科省や欧米の最新動向などは、われわれでも簡単に入手できるような資料。そのようなレベルの情報すら把握していないのか、それとも意図的に無視しているのか――とさえ勘繰ってしまう。何ゆえ、現実を直視して政策を実行しないのか。
 一般市民が日常生活において、根拠がない夢を抱くようなことはある。しかし、県民の税金を使う県の施策ならばエビデンス(証拠)がなくてはならない。ILC誘致を国が正式に決めたとか、欧米が国際協力事業として賛同し費用負担を決めたというような状況が必要であろう。
 県は「研究者が候補地を決めてくれれば、必然的に国も実行してくれる」とでも考えたのかもしれない。しかし、そうはならなかった。県は頭を冷やし、一緒に研究者らに踊らされた周囲の人たちに頭を下げ、振り上げたこぶしを降ろしたらどうか。

■誘致活動は“誰”のため?

 知事は一体“誰”のために2億円以上のお金を使おうとしているのだろうか。前述したネットニュースのコメントには、「裕福でない県が2億円もの予算を使うのであれば、他の政策に回すべきだ。背後に何かあるのではないか」という書き込みもあった。私も同感である。
 理学部のない県立大学では2015年以降、ILC推進母体である高エネルギー加速器研究機構(KEK)の機構長を歴任した研究者が学長を務めている。ILC誘致運動の旗振り役としても活躍しているようだ。
 本県で最も求められているのは、1次産業を活性化させるための農業生命科学や、首都圏から遠く広い県土ゆえの不利条件をカバーするための情報科学である。こうした分野を専門的にリードできる人、あるいは既存学部の分野に精通した人なら納得できる。県にとっては県立大の振興や発展うんぬんより、単純にILC誘致を有利に進めたいがための学長人事だったように感じてならない。
 講演会やセミナー開催における謝礼、国際会議での「おもてなし」なども含め、これまで関係研究者らにどれだけの公費が投じられたのかも不透明だ。

■罪深い出前授業、研究者にも責任

 ILC誘致は研究者をはじめ、被災地復興事業のように特需的な収入を得られる土木建設業者、経済界は歓迎するだろう。だが、つつましく日常生活を送っている一般県民にとっては無駄だ。
 そもそも研究者たちは、国や他分野コミュニティーに働きかけ、理解を得るのが先であったはずだ。しかし自分たちの味方を増やすため、地方自治体の予算を間接的に使い続けている。
 学術研究をすることの意義は素粒子物理学に限らず、どの分野にも等しく言える。その崇高さには敬意を表したいが、だからといって、研究者は何をしても許されるわけではない。ただでさえ失墜している科学への信用にもかかわる。そう考えると、研究者たちの責任も非常に大きい。
 研究者が地方自治体予算を間接的に利用し続けているのに加え、自治体などと連携して学校で行っている出前授業、ILCに特化した研究コンクールなどは最も罪深いことだと言わねばならない。前述のニュースコメントでも指摘されていた。
 科学に関心を持たせるならば、地域の自然に触れたり、化石や岩石の性質を学んでみたりするフィールドワークを実践するなど、既存の施設や環境を生かしたほうがよっぽどよい。
 小中学生や高校生、入学間もない大学生でさえ、専門的知識の土台である教養を身に付けている途中にある。大人の利益追求のために教育現場が使われ、出前授業で聞かされたこととは異なる現状を子どもたちが知れば、マイナスの影響は非常に大きい。無駄を通り越し「害」さえなす。こうした弊害は一刻も早くなくさなければいけない。周囲の教育関係者は早急に気付くべきだ。

■市町村や議会は何をしているのか

 県や研究者側の姿勢を指摘してきたが、一関市や奥州市など市町村おいても同様の構造がある。県や研究者側等の動きに追随して予算を投じ、今後も誘致活動を継続させるようだ。
 一関市においては、JR一ノ関駅東側に広がるNECプラットフォームズ一関事業所跡地を取得し、ILC関連も含めたオフィス施設などを設置しようと躍起になっている。ILC誘致が絶望的なのに、関連オフィスを作ってどうしたいというのだろう。地方自治体の潤沢でない予算を使い、誰に対する政策を進めようとしているのか。
 私たち県民、市民は首長たちや一部利害関係者らの自己満足、利益を中心とするような政策執行に対しては「ノー」の声を上げたい。首長たちには「李下に冠を正さず」の精神で、政策を練ることを望む。
 本来、ILCを巡る動きを監視し当局の姿勢を厳しくただす役割は、県議会や市町村議会が担うべきところだ。しかし議会も一緒になってILC誘致に賛同している手前もあって、問題点を指摘するような見解はあまりない。
 ILC計画が世間に知られるようになり、賛意を示した時とは状況は全く異なる。今月16日に県議会の2月定例会が招集された。会期中には新年度予算の審査がある。首長らと一緒になって研究者らに踊らされるのではなく、冷静になって状況を見つめ、ぜひ「暴走」を食い止めてほしい。

※…千坂氏の名前の漢字表記は、山へんに諺のつくりで「げん」、峰で「ぽう」
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tanko 2022-2-24 20:20


画像=上列は1.3cm、下列は7mmの波長によって観測した「いて座A*」。左は補正しない状態、右が補正後の姿で鮮明な円形になっている。円中心の明るい部分の中にBHがある (C)IAA-CSIC/国立天文台



 国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の研究者らからなる国際研究チームは、地球から最も近く天の川銀河の中心に位置する巨大ブラックホール(BH)「いて座A*(エースター)」の詳細な構造を明らかにした。同観測所のVERA(天文広域精測望遠鏡)などを用いて5年前に観測したデータを基に、同観測所内にあるスーパーコンピューター「アテルイ?」を使用するなどして解析。22日付の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」=米国=に研究成果が掲載された。本間所長らが参加する国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」では、「いて座A*」のBH本体を画像化する作業を進めており、今回の成果はその前進に大きく寄与するという。
(児玉直人)

 EHTは2019年4月、地球から約5500万光年(1光年=約9.5兆km)離れた場所にある「M87銀河」にあるBH本体の画像を公開した。観測自体は2017年に行われ、北南米大陸とヨーロッパ、南極、ハワイに点在する電波望遠鏡8基を使用した。その際、もう一つ観測していたのが「いて座A*」。いて座が見える方向に位置することにちなんで命名された。
 二つのBHの本体撮影と並行するように、BH周辺の全体像を解明する研究も実施。その観測に使われたのが、水沢観測所のVERAをはじめ、日中韓3カ国計21台の電波望遠鏡で構成される「東アジアVLBIネットワーク(EAVN)」だった。BH本体の撮影とほぼ同時期に行われた。
 地球から「いて座A*」までの距離は約2万6000光年で、「M87銀河」よりはるかに近い。しかし、宇宙空間に漂うガスが邪魔する星間錯乱により、観測データをそのまま画像化すると、ぼやけた不鮮明な状態になってしまう。近くにありながら、本来の姿が見えにくい状態だった。
 スペインのアンダルシア天体物理研究所の逍壹濟(チョウ・イルジェ)氏が率いる研究チームは、過去の観測データを活用しながら星間錯乱の影響を除去。クリアな円形の画像を得ることができた。解析には、水沢観測所敷地内にあるスパコン「アテルイ?」も用いられた。
 BH周辺は円盤状にガスが渦巻いている。水沢観測所の秦和弘助教は「円盤に対し両方向垂直にジェットが噴出している。地球から観測してほぼ真円に見えるということは、こちら側に向かってジェットが吹いていることが予想できる」と話している。
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tanko 2022-2-16 11:10
 素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)計画に関する課題を検証してきた第2期文部科学省ILC有識者会議(座長・観山正見 岐阜聖徳学園大学長、委員14人)は15日までに、「議論のまとめ」の最終版を公表した。ILC準備研究所(プレラボ)の設置は「時期尚早と言わざるを得ない」と結論。海外でILC計画とは別の大型計画も検討されており、素粒子物理学や加速器科学全体の将来像、国際的な研究開発戦略を練り直す必要性を指摘した。このほか、奥州市など県内自治体で実施されているような小中学生を対象としたILC出前授業に関連し、科学教育とプロジェクト推進の取り組みは切り分ける配慮が必要との意見があったことも明記された。
(児玉直人)

 第2期有識者会議は昨年7月から今年1月にかけ、ILC推進研究者側から文科省に提出された課題対応状況やプレラボ提案書について、妥当性や問題点などを議論。その結果や提言も含めた「議論のまとめ」の文言修正が完了し、最終版の公表に至った。
 「まとめ」の内容は1月20日の最終会議で示された案から大きな変更点はない。プレラボへの移行については当初「困難」と表記されていたが、機が熟していないという意味合いを込め「時期尚早」と書き換えた。
 有識者会議では、研究意義や社会への波及効果といったメリットに理解を示す意見が出た。一方で国内外の厳しい財政事情や新型コロナウイルスに代表される社会情勢に変化が起きており、推進する研究者に対し「広い視野で社会の現状を理解し、現実的で実効性のあるプロジェクトの立案が求められる」と指摘。これまでのILC計画の進め方を再検討する時期に来ているとした。その作業に当たっては、ILCに限定した議論とせず、ヨーロッパの超大型円形加速器(FCC)計画の検討状況なども加味し、幅広く練り直す必要性があるとの考えを示した。
 国民理解醸成の進め方に関しては、「特定地域に偏らない取り組みが重要で、学術的意義や環境・安全面の課題も含めた丁寧な説明が基本となる」とし、一方的な理解増進ではなく、双方向的なコミュニケーションの実施に努めていくことが肝要だとした。関連して、小中学生らへの出前授業に対し「科学への興味関心の促進とプロジェクトの推進とは切り分ける配慮が必要」との意見が出たことも明記された。

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