人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2015-10-7 18:50

 岩手県立大学の鈴木厚人学長は6日、奥州市水沢区龍ケ馬場の県立水沢高校(安藤泰彦校長、生徒722人)で講演。北上山地への誘致が期待される素粒子実験施設・国際リニアコライダー(ILC)について、「素粒子研究以外の分野でも活躍できるチャンスがある。ぜひ貢献してほしい」と呼び掛けた。
 同校が文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けていることで実現した講演会。ILC計画を推進するリーダー的存在の鈴木学長の話に、生徒たちはじっくりと耳を傾けた。
 鈴木学長は、物質の最少単位である「素粒子」を調べることが、巨大な宇宙が誕生した謎を探ることにつながる点など、素粒子物理学が目指していることを解説。5日からノーベル賞の各賞が順次発表されているが、「素粒子分野ではこれまで36人が受賞しており、そのうち6人は日本人」と述べ、日本の素粒子研究が世界トップクラスであることを紹介した。
 「ILCが東北、岩手に来れば『地域からの開国が進む』と言える。素粒子研究以外にも、いろいろな仕事に関与できるチャンスが出てくる」と強調。「研究施設を迎える上で、近代的な建物を次々設置しても40年、50年と持たない。ILCは100年も続くプロジェクト。今あるインフラを十分に生かし、不足分を作る程度にしないといけない」と指摘した。
 このほか、地中深度や構造などからILC施設が核廃棄物処分施設に転用される心配がない点や、加速器運転で生じる熱を有効利用する「グリーンILC」と呼ばれる取り組みが進められていることも紹介した。
 生徒からは「研究者にとって大切なことは何か」との質問も。鈴木学長は「今ある課題をどんどんこなすことで、失敗したとしても自信が付いてくるし、達成感も味わえる。徹夜の作業や研究もあるので、体力もぜひ付けてほしい」とアドバイスした。
 
写真=県立水沢高校で講演する県立大の鈴木厚人学長
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tanko 2015-9-24 13:10
 北上山地への大規模素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」誘致機運を高める「先端加速器科学技術推進シンポジウム2015in東北」は、10月17日午後1時半から水沢区佐倉河の市文化会館(Zホール)で開かれる。高エネルギー加速器研究機構(KEK)の機構長に今春就任したばかりの山内正則氏がILC候補地を訪れ、初めて一般向けに講演。将来の地域を担う中高生を中心に、数多くの市民の聴講を呼び掛けている。

 ▽いわてILC加速器科学推進会議(亀卦川富夫代表幹事)▽岩手県ILC推進協議会(谷村邦久会長)▽東北ILC推進協議会(里見進代表、高橋宏明代表)▽国際経済政策調査会(高橋佑理事長)▽先端加速器科学技術推進協議会(西岡喬会長)――の5団体が主催。KEKや県、胆江2市町、胆江日日新聞社などが後援する。
 講師の一人、山内氏は鈴木厚人氏(現・県立大学長)の後任として今年4月、KEK機構長に就任。専門分野は素粒子原子核実験で、長年にわたりKEK素粒子原子核研究所で研究活動を続けてきた。�o年には、優れた研究業績を挙げた研究者を顕彰する平成基礎科学財団の「折戸周治賞」を受賞している。
 ILC候補地の地元で講演するのは今回が初めて。「加速器で解き明かす四つの謎」と題し、素粒子研究の意義などを説明する。このほか、東京大学准教授の山下了氏が「ILC計画の現状と将来に向けて」、日本創成会議座長で前県知事の増田寛也氏が「ILCが築く豊かな未来」と題し講演する。
 いわてILC加速器科学推進会議の亀卦川代表幹事は「当日は未来を担う地元の中高生たちを中心に聴講を呼び掛けている。また、地域の基幹産業である農業分野の方々にもぜひ聴いてもらいたい」と希望している。
 入場無料。聴講の申し込み、問い合わせは奥州市ILC推進室(電話0197・24・2111、内線415)へ。
 
写真=山内正則氏(C)KEK
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tanko 2015-9-23 13:00
 前沢区の千田精密工業(千田伏二夫社長)は本年度、前沢工場を増築し精密洗浄事業部を立ち上げる。22日、同区五合田の現地で上棟式が行われ、関係者が工事の安全を祈った。増築建屋は11月中旬にも完工予定。千田社長は国際リニアコライダー(ILC)誘致を見据えた形で新事業に乗り出すとし、「社員の技術力を磨き、いつでも対応できるようにしておきたい」と話す。
 本社と併設の同前沢工場は、本杉工業団地内に立地。増築に向け同社は今年3月、同工場に隣接する約4700平方メートルを市から買い入れた。現工場の南側に増築する建屋は、鉄骨造平屋で延べ床面積776.56平方メートル。精密機械用のクリーンルームとし、大型精密洗浄装置など関連設備を備える。
 同社は現在、自社製の半導体製造装置部品を関東や関西方面に運び洗浄しているが、今回の事業部新設に伴い、製造から洗浄までの工程を自社で一貫して行えるようになる。経費削減に加え、品質管理の徹底を図る。
 先月17日に着工しており、11月20日の完成を目指す。設備投資を後押しする県の補助を受け、同社の投資額は土地購入費を除き約2億円。精密洗浄事業部の新設で、従業員5、6人の新規雇用も検討している。
 上棟式には、工事関係者や従業員ら約60人が出席。神事後に千田社長が「新事業で幅を広げ、夢のILCが来たなら自社の仕事を結び付け、安定した形で社員の生活を守れる企業に成長したい」とあいさつした。

写真=関係者約60人が出席した千田精密工業前沢工場の増築工事上棟式
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tanko 2015-9-10 10:00
 文部科学省の「国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議」が今年6月、「これまでの議論のまとめ」と題し、ILC誘致をめぐる提言や諸課題を公表したのを受け、「国際将来加速器委員会(International Committee for Future Accelerators=ICFA(イクファ))」は、「まとめ」に対する見解を文書にし、年内にも有識者会議に送付する意向だ。東京大学素粒子物理研究国際センター長の駒宮幸男教授が今月3日、研究者組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」のホームページに掲載した解説記事(英文)の中で伝えた。
(児玉直人)

 ICFAは、高エネルギー物理学界で影響力のある世界主要加速器研究所の所長や研究代表者で構成。ILCのような高エネルギー加速器の建設や運用に関する国際協力体制などを協議している。2009〜2011年までは、当時、高エネルギ加速器研究機構(KEK)の機構長だった鈴木厚人・県立大学学長が議長を務めた。
 駒宮教授によると、8月19日にスロベニアの首都リュブリアナで開かれたICFAの会合後、ヨアキム・ムニック議長=ドイツ電子シンクロトロン研究所理事=は、有識者会議の平野真一座長(名古屋大学名誉教授)宛てに手紙を書いたという。
 手紙では、今年6月25日に同会議が示した「これまでの議論のまとめ」の内容をICFAとして協議した旨を報告。「ILCコミュニティーにとって励ましになる」などと、謝意を伝えた。
 有識者会議は「まとめ」の中で、(1)国際的な経費分担と、巨額投資に見合う科学的成果への見通しを得ること(2)LHC(欧州合同原子核研究機構が運営する実験施設)が2017年末まで計画している実験の結果に基づき、ILCの性能や得られる成果を見極め、技術課題の解決やコスト面のリスク低減を明確にすること(3)国民や他の学術界の理解と合意形成を図ること――の3点を提言している。日本語版のほか、英訳版も作成され公表している。
 提言は文科省に対するもので、ICFAが公式に回答を求められたわけではない。ただ、英訳版が作成されたことなども踏まえ、指摘された課題の整理や必要な解決策をICFAとして明確にすることで、有識者会議の議論にフィードバックを掛ける狙いがあるとみられる。
 ムニック議長は、ICFAの見解を文書にまとめ、年内に送付する用意があると伝えた。さらに、有識者会議で必要な情報があれば、ICFAは随時応じることも付け加えた。
 解説記事の中ではこのほか、駒宮教授が「まとめ」が意図することなどを説明。「(ホスト予定国の)日本がゴーサインを出さない限り、各国が参加表明できないのは分かる。しかし、今必要とされているのは参加の確約ではなく、各国の政府高官がILCの重要性や研究者界の熱意を理解しているという点だ」とし、日本政府に各国の動きが見えるよう、海外の研究者が自国の政府担当者に積極的な情報提供をするよう呼び掛けた。
 駒宮教授は胆江日日新聞社の取材に「ILCのような国際プロジェクトは、国内だけでなく他国の研究者との協力が当初から必須となる。他国政府や関係省庁がILC計画をきちんと認識し、国際交渉に参加できる基礎固めをしなければいけない」と話している。

写真=ムニック議長と駒宮幸男教授
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tanko 2015-9-7 10:50
 6日投開票が行われた岩手県議選奥州選挙区(奥州市、金ケ崎町)の投票率は61.17%で、4年前の前回選を6.46ポイント下回った。定数5に8人が立候補する激戦区となったものの、有権者の関心は高まらず大幅低下につながった。知事選が無投票となり、県議選の陣営関係者を中心に「投票率は落ち込む」との観測が広がっていた。県全体の投票率は52.81%で、前回選の60.60%から7.79ポイント低下し、過去最低を更新した。

 胆江2市町をエリアとする奥州選挙区の当日有権者数は11万3528人。投票者数は6万9445人で、棄権者数は4万4083人に上った。
 胆江各地の投票所では6日、朝から家族連れらの姿が見られた。投票をするのは「国民の義務」「参加しない選択肢はない」「私たちの代表を選ぶのだから」との意見がある一方、午後から雨となった天候も少なからず影響し、投票率は伸びなかった。
 「何をやっても変わらないと諦めているのではないか」。投票率の低下には有権者の無力感があると推し量るのは、前沢区山下の会社員男性(40)だ。有権者の中には「県議に期待しても仕方がない」(水沢区の60代男性)、「具体的に期待することはない」(金ケ崎町の40代女性)とのつぶやきも漏れた。
 医療や社会保障、少子・人口減対策をはじめ、国際リニアコライダー(ILC)誘致や環太平洋経済連携協定(TPP)など地域住民の暮らしに直結する課題が山積する。
 江刺区の団体職員女性(34)は、少子化とILCを今回選の“重点項目”と捉え、「争点が見えにくい中で公約に自分の願いが重なる候補者に票を入れた」。水沢区高屋敷の会社員男性(60)は「地域医療体制の充実を望む」と期待した。
 前回選より1人多い8人が攻防を繰り広げた選挙戦に、「こんなに迷った選挙はなかった」との声も。同区上町の保護司女性(74)はそれぞれの公約を吟味し、「子や孫の代まで平和な暮らしが続くように」との願いを1票に託した。
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【補足】
 任期満了に伴う岩手県議会議員選挙は、6日投票が行われた。奥州選挙区(定数5)には現職5人、新人3人の8人が立候補した。
 人口問題や医療福祉など身近な問題に加え、ILC候補地の地元ということでILC誘致実現や関連産業の参入、教育の質向上などを公約に掲げた候補者も目立った。
 奥州選挙区開票結果は次の通り。

当選 千田 美津子(ちだ・みつこ)    61歳 共産・新人 10,767票
当選 佐々木 努 (ささき・つとむ)   50歳 県ク・現職   10,341票
当選 郷右近 浩 (ごうこん・ひろし)  50歳 生活・現職  9,971票
当選 渡辺 幸貫 (わたなべ・こうかん) 69歳 無所属・現職 8,482票
当選 菅野 博典 (かんの・ひろのり)  38歳 生活・新人  8,114票
   後藤  完 (ごとう・まこと)   69歳 生活・現職 7,865票
   菅原 勝一 (すがわら・しょういち)49歳 自民・新人  6,753票
   及川 幸子 (おいかわ・さちこ) 68歳 生活・現職  6,403票
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tanko 2015-9-4 9:20
 胆江2市町(奥州市・金ケ崎町)の有権者を対象にした県議選世論調査では、争点として高齢者福祉や社会保障、地域医療、子育て支援への対応を求める声が上位を占め、国際リニアコライダー(ILC)誘致実現は下位にとどまった。人口減少社会が進展し、地方経済全体に明るい兆しが見いだしづらい不安要素が多い中、安心して古里で暮らしたいという有権者の願いが表れた。
 このほか、争点で上位に挙がったのは震災復興で、早期対応を求める意見が目立つ。
 政府の安全保障法制に対しては反対が多く、賛意を示す声は少数だった。環太平洋経済連携協定(TPP)では、締結によって営農への悪影響を懸念する声が圧倒的だった。
 前回選を1人上回る8氏が立候補し、激戦となっている今回選。投票する際の基準は「同じ区に住む候補者」が最多の3割を占め、「候補者の人柄」を含めると5割を超えた。
 「政策」を基準に挙げたのは2割を割り込んだ。複数の陣営は「農業振興、人口減少対策、福祉充実などのスローガンだけみると、候補者ごとの違いは見えてこない」と認めつつ、「時間がない中、有権者に政策の細部まで訴えるのは難しい」と悩む。
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tanko 2015-8-26 17:30

写真=(左から)多田住田町長、戸羽陸前高田市長、戸田大船渡市長、高橋金ケ崎町長、小沢奥州市長、鈴木県立大学長、増田日本創世会議座長、吉岡岩手大・東北大客員教授

 シンポジウム第2部では、胆江・気仙5市町の首長と有識者によるパネルディスカッション「わがまちの未来絵図とILC」が行われた。

【パネリスト】
戸田公明(大船渡市長)、戸羽太(陸前高田市長)、多田欣一(住田町長)、高橋由一(金ケ崎町長)、小沢昌記(奥州市長)、増田寛也(日本創生会議座長)、鈴木厚人(県立大学長)
司会・進行 吉岡正和(岩手大・東北大客員教授)

吉岡教授
 まずは、各自治体の現状や抱えている課題などを話してもらいたい。
戸田大船渡市長
 震災前は年間240人ぐらいの人口流出があったが、今は復興事業ということで流出は止まっている。経済も非常に元気だ。
 しかし、復興事業もあと数年で終わってしまう。再び人口流出が始まるが、これをストップさせるのはしんどい。ILCは地域発展のため非常に大きなパワーを秘めている。地域の将来像を一緒になって考えていきたい。
戸羽陸前高田市長
 復興計画の中では、無駄な造成区画をつくれない。津波で建物を多く失ったため空き家もない。一方で県からは「ILCで訪れる研究者のための居住スペースはあるか」と聞かれる。何か、ちぐはぐな印象を受ける。
 陸前高田市としては(ILCの誘致で)交流人口を増やし、にぎわいをつくることができるかもしれない。海外の方をどう迎えられるか考えていきたい。
多田住田町長
 全国の町村は、人口だけでなく、産業や教育、医療、福祉、交通も負のスパイラルに陥っている。歯止めもかからない。
 今まで触れたことがない科学と言う分野によって、課題解決のきっかけが生まれればと期待を込めている。住田の90%は山林。林業資源をぜひ価値あるものにしたいと願っている。ILC関係者の住まいにはぜひ町産木材を利用してほしい。
高橋金ケ崎町長
 農業は米価下落で大変な状況。担い手の高齢化も進んでいる。工業団地は重要な雇用の場ではあるが、生産の安定維持という課題を常に抱えている。
 ILCは産業や地域の生活を変える大きな要素となる。地域経済や産業振興、コミュニケーションの課題に新たに取り組まなければいけないだろう。総合的な対策をしないと人口減の歯止めや地域活性化には結びつかない。
小沢奥州市長
 多文化共生とは、互いの文化を認め合うこと。ILCを迎えるには、さまざまな文化を受け入れる準備をしないといけない。同時に、この地が世界に自慢できるものを見つめ直すきっかけにもなる。
 奥州、一関、気仙沼だけで物事は成り立たない。岩手、宮城、東北、オールジャパンという立場で、それぞれの価値観を高める意識づくりをしていかなければいけない。

吉岡教授
 5人の首長の発言に対し、鈴木さんや増田さんにコメントをお願いしたい。
鈴木学長
 基調講演で「なぜ今、地方創生か」という話をしたが、もう一つ「なぜ子どもが少ないのか」を考えたとき、やはり「不安だ」ということがある。
 私が東北大学にいた10数年前に、キャンパス内に学内保育所を作った。初めて子育てに臨む人への施策も大事だが、今子育て中の人が2人目、3人目の子を産めるような環境をつくらないといけない。今できることの中から、安心して子育てができる環境を構築しないといけない。
増田座長
 人口減問題は、全体で若い夫婦の出産が少なくなっていることが本質。「結婚したい」「子どもは2人以上」と願う若者は決して少なくないが、子ども数が減っている。「所得が少ないから子どもの数を控える」ということが絶対にないよう、できる限りの支援を国が講じていくのは当たり前のことだ。必ずしも経済的理由だけでもないが、若い人の不安を取り除くために、知恵を出さないといけない。
 地域でせっかく育てた子どもが、進学を機によそに行ってしまう問題もある。だがILCが実現できれば、こうした課題のほとんどは解決できる。それくらい影響が大きいプロジェクトだ。

吉岡教授
 ILCの説明がまだまだ不足しているという課題もあるが、ILCをどう地域に生かしていけるか、再び5首長に答えてもらいたい。
戸田大船渡市長
 市内の産業が大きな刺激を受け、レベルアップしていくと思う。輸入資材の受け入れ基地としても本市は頑張れる。積極的に参加していきたい。
 外国人を含む研究者の方々が訪れることで、国際化マインドがアップされるし、小中高生の教育は大きな刺激をうけるだろう。関連施設見学で、最先端の科学技術の成果を見て感動するだろう。研究施設で活躍する地元出身者が出てくるかもしれない。考えるほど夢が膨らんでくる。
戸羽陸前高田市長
 震災を機に、全世界から多くの外国人が支援のために陸前高田を訪れ、子どもたちとも交流した。ILCが岩手に来れば、そういう機会がさらに増え、文化交流に興味を持ってくれるだろう。
 地域の良さを大事にしながら、世界のスタンダードを取り入れていく。若い人たちが「こんな田舎は嫌だよ」と嘆くのではなく、「自分の故郷にはいいものがあるし、グローバルの新しさもある」という状態がまちの存続にも役立つ。
多田住田町長
 1次、2次産業が主体の地域にアカデミックな研究都市ができることは、大きな地域振興の起爆剤になる。地域の歴史の中でそうあることではない。岩手は80%が山林。この資源を生かす方法をやらないといけない。地域全体でILCを生かした地域づくりが必要になる。
 英語教育も当町は力を入れている。言葉が通じ合えば、ホスピタリティーにもつながる。これからの子どもたちは、自由に英語を話せるよう育てたい。
高橋金ケ崎町長
 多面的な検討をしなくてはいけない。異文化と交流できる受け入れ態勢の構築も一つ。英語もそうだし、風習や文化の違いを理解し、互いに共生できる都市形成が求められる。田舎文化を大事にしながら共生できる道をつくらないといけない。
 子どもたちに夢を与えることも大切。科学教育が日常生活や学校の中でも進むと思う。
 奥州、一関、気仙沼だけでなく、周辺地域みんなで議論し「ILCと共に」という熱意と決意が必要だ。
小沢奥州市長
 岩手県や日本だけでは絶対にできないチャンスを与えられた。
 現在、当市はILCをオプションと位置付けたまちづくりを考えている。奥州らしさを一番大切にし、「ILCが来たらこのような発展ができる」という計画にしたい。
 ILCさえ来れば、勝手に何かいいことが起きるというわけではない。ILCを大きなばねとし、どのような挑戦ができるか考える時だ。皆さんの力を借り、岩手や東北に光が当たればと思う。
増田座長
 本日は、いろいろな考えが示された。ILC実現には、いくつか大きなハードルを乗り越えないといけないが、着実に来ることを前提に、どうしたら心地よい研究環境が築けるか議論してほしい。
 ILCは多様な成果をもたらすが、中でも岩手の財産になるのは「若い人たちが残る」という点。勉学意欲をかき立てる励みになり、良い人材が育つ。国内他地域の地方創生にはあり得ない規模のことを、この地域ではできる。隠し玉のようなものだ。
鈴木学長
 北上山地の周辺を見ると、山と海、川があり、おいしい魚や農産物、そして温泉、お酒もある。こんなに多くの魅力が一つの地域にそろっている場所は、世界にはない。
 産業や雇用といった1次波及効果だけでなく、この地域が世界中の人たちが集まる保養地にもなり得るという「2次波及効果」を考えてもいい。

吉岡教授
 客席の皆さんのご質問は。
男性聴講者1
 一般市民が今できることは何かあるか。
小沢奥州市長
 ILCが目指す学問について、少しでいいので理解する作業をしてみてはどうか。いよいよ決定し施設建設が始まれば、さまざまな市民レベルの活動が動きだすと思う。
鈴木学長
 今の質問に関連するが「ILCご意見箱」を作ってみるのはどうか。やはり、いろんな疑問がある。われわれは一つ一つ答えていかないといけない。

男性聴講者2
 ILCを知らない人が多い。認知度を上げるためには、他分野との連携が必要だ。
吉岡教授
 岩手、宮城と候補地地元3市、東北大学で、まちづくりの作業を進めている。作業に携わっている関係者はこのような声を地道に吸い上げてほしい。

男性聴講者3
 ILCの建設候補地に北上山地が選ばれた理由を再認識したほうがいい。北上山地は、日本で一番安定した岩盤。ILCにとどまらず、半導体や精密機械工場の誘致も進めてはどうか。
増田座長
 岩手は非常に地盤が良い。全体で努力すれば地方創生にも役立つだろう。

〈この連載は児玉直人が担当しました〉
 ※新聞紙上では、8/26〜8/28の3回に分けて掲載しましたが、ネット上では一本化して掲載します。
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tanko 2015-8-25 10:20
住民交えて将来構想を
 よく、ILCが実現すれば「イノベーションが起きる」と言われている。イノベーションという事象の捉え方について、東京大学名誉教授の生駒俊明氏は「基礎研究から応用研究へのシフトととらえる人が多いが、これは間違い。単なる技術革新ではない。もっと大きなインパクトを期待して言われるもの」と指摘している。
 入り口と出口が最初から分かっていると、それ以上の発展はない。イノベーションは本来、爆発的に発展するもので、そうめったに起きるものではない。
 一例として挙げられるのがインターネット。CERN(欧州合同原子核研究所)で誕生した。最初は研究者間の情報共有がスムーズにできればいい――という程度だったが、今日のような発展を遂げている。
 CERNには研究者が77人、技術者が1959人いる。この技術者は日本で言う技官、エンジニアとは違い、教員や研究者と給料体系は同じ立場。中には教授よりも高い給与を得ている人もいる。
 日本にはそういう体系が存在しない。これまでとは違った体系で研究や技術開発をしないとイノベーションは出てこない。
 また、企業の求めに応じて大学が研究や技術提供するのではなく、同じ場所で一緒に需要と研究・開発を考えないといけない。企業の設備投資が難しい状況にあるので、企業が参画できるような研究施設がILC周辺には必要だ。
 ◇  ◇  ◇
 1970年代の日本は、工業製品の大量生産が進められた。生活様式の均質化が図られたと同時に、伝統的な協働性が喪失。生活の空虚感が生まれ、少子高齢化も深刻になった。地域のアイデンティティー(独自性)が失われようとしている。安全や安心の持続性も危機的な状況にある。近年「地方創生」が言われるようになったのはこうした背景があるからだと思う。
 これまで生じたマイナス点をカバーするのは、機械ではなく人間だ。人間が主体となり、協働体制を基礎とした共同性の再発見をちゃんとしなければ地方創生はできない。「現代版村社会の構築」が必要だ。
 東日本大震災で津波被害を受けた宮城県岩沼市の玉浦西地区では、新しいまちづくりをする際、住民、有識者、市の3者が一緒になって考え合った。3者の誰も抜けることはなかった。ILCとまちづくりを考える上では、こうした体制が大切だ。地域のコミュニティーがしっかりないと、ILCがある地域を良好な状態で保っていけない。
 ILCを誘致するため、さまざまな組織がある。これらの誘致組織を一つにまとめ、次のステップに向けて動いていくべきだと思う。現在、有識者と行政との連携は行われているが、地域や住民レベルの枠組みが連携の中に入って来ていない。県立大学や岩手大学の先生などと一緒になって、住民の方々を交えながらILCと地域の将来をどうつくっていくか、ぜひやっていきたい。
(基調講演要旨おわり。パネルディスカッション要旨につづく)

写真=江刺区伊手の産直「源休館」前にある「ウェルカムILC」の看板。地域住民を交えた連携がILCを迎える上では欠かせない
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tanko 2015-8-24 19:20
現有施設や衣食住 活用を
 いわてILC加速器科学推進会議が主催し、7月25日に開かれたシンポジウム「ILC実現と地域社会の展望」。県立大学の鈴木厚人学長をはじめ、胆江・気仙地域の首長らがILC(国際リニアコライダー)と地域社会の在り方について持論を展開したり、意見を交わしたりした。ILCの国内建設候補地が北上山地に一本化され、今月23日で丸2年。一般市民レベルの理解普及が不十分とも言われる中、地域の将来ビジョンにILC計画の存在をどう位置付けできるのか。基調講演とパネルディスカッションの要旨を5回に分けて連載する。

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 ILCは直線の地下トンネルの中で電子と陽電子を光速でぶつけ、新しい粒子を作る実験施設。宇宙誕生の謎などを探る。約30年前から構想が練られていた。35カ国2000人が携わっており、設計やコスト、必要な技術を考えている。
 建設期間と現在想定している実験期間を合わせた30年間に必要な総経費は、建設費と運営費合わせて約2兆円。これをどのように国際社会が分担するのかが問題だ。
 建設地となる国(ホスト国)が半分、残りは各国で対応すると考えられている。日本が約1兆円負担するとなると、年間約350億円の支出。ISS(国際宇宙ステーション)やKEK(高エネルギー加速器研究機構=茨城県つくば市)の運営費とほぼ同規模だ。
 30年の研究が終われば、ILCは使われなくなるのか――というと、そうではない。KEKはもうじき50周年。CERN(欧州合同原子核研究所、スイスとフランスの国境にある素粒子研究施設)は顴周年を迎えたが、さまざまな研究を計画している。
 こういう施設をいったん造ると、30年ぐらいで終わることはまずない。いわゆる「高度化」が進む。ILCが実現すれば、60年から100年という規模で、日本が素粒子研究の世界最前線基地となり、国際機関が存在し続けることになる。

 ILC実現後の都市の姿について、いろいろな構想が描かれようとしている。ただ、60年、100年続くかもしれない施設を受け入れるのだから、巨大建造物を最初から急ごしらえで建てても、すぐに時代に見合わないものになってしまう。
 KEKなど学術研究施設が集積するつくば市では当初、市内に研究者が集まる宿舎を造った。ところが、これでは地元の人たちと研究者らとの交流は生まれない。
 ILCでは、現有の施設や衣食住環境などを最大限活用し、それでも不足している部分を補充すればいい。少しずつやらないと、くたびれてしまう。
 言葉の問題に関しては、研究所内はどうしても英語がメーンになるが、地域では今まで通り日本語中心で構わない。つくば市でも、外国人の子は日本の子どもたちと同じように小学校や幼稚園に行っている。ただし、病気や災害など緊急時における多言語の体制は作らなければいけない。
(つづく)


 
写真上=鈴木厚人氏
写真下=東北ILC推進協議会作成のパンフレットに描かれている研究都市のイメージ画
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tanko 2015-8-1 9:10
 素粒子研究施設・国際リニアコライダー(ILC)の誘致を見据えた市のまちづくり像を描くビジョン策定委員会が31日、市役所本庁5階会議室で初会合を開き、ビジョンの考え方やスケジュールなどについて確認。意見を交わした。市が置かれている現状や課題、魅力などを抽出しながら必要な手だてなどを分野ごとに検討。ILC計画の存在も意識しながら、住みよい地域の実現につながるビジョンをつくり上げる。年内策定を目標に作業を進める。
 委員13人のうち8人が出席。会長に亀卦川富夫・いわてILC加速器科学推進会議代表幹事、副会長に田面木茂樹・市教育長を選んだ。
 同ビジョンは、ILCを市のまちづくりに生かすための将来像と位置付ける。委員会の下部組織に▽まちづくり・地域生活支援▽産業振興▽福祉医療・教育――の3分科会を設置。一般市民の意見を吸い上げるための「まちづくりワークショップ」は7月5日に開催済み。
 分科会では、分野ごとに課題の検討やワークショップで寄せられたアイデアなどの具体化、スケジュールなどを協議する。分科会と策定での協議を繰り返しながら10月ごろには案をまとめ、市民や議会に公表。寄せられた意見を反映させ、年内策定とする流れだ。
 複数の委員からは「スケジュール的に難しくないか」との指摘も。市ILC推進室は「既に県や東北のレベルでILC実現を見据えた将来像の協議が始まっており、奥州市としての考えを求められる場面も出てくる。市民の声を反映させた考えを示したい」と理解を求めた。
 このほか「一般市民の多くは、ILCのことをほとんど分かっていない。ILCは難しいと思ってしまうので、岩手や東北の将来と言われても漠然としかとらえきれない」「市の現状と身近な課題を捉え、市民も研究者の皆さんも住みよい地域を実現するには何が必要か、議論をしなければいけない。地に足が付いていない状態で大きなビジョンを描こうとすると、途中でつまずいてしまう」などといった意見も出た。
 同日はビジョン策定の支援業務を受託している?都市計画設計研究所=東京都新宿区=の三浦幸雄代表取締役が、市の現状や課題、ビジョンの構成案など議論のたたき台となる要素を説明した。
 亀卦川会長、田面木副会長を除く委員は次の通り。
 倉原宗孝(県立大学教授)佐藤剛(奥州市国際交流協会会長)千葉聡(水沢青年会議所理事長)平栗聡(江刺青年会議所理事長)成田晋也(岩手大学教授)千田ゆきえ(千田精密工業取締役)西山英作(東北経済連合会ビジネスセンター長)千田由美(農家レストランまだ来すた代表)半井潔(総合水沢病院院長)大江昌嗣(NPO法人イーハトーブ宇宙実践センター理事長)大村千恵(奥州市水沢青少年育成市民会議事務局次長)

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