人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2013-4-13 9:50
 金ケ崎町は、25日午後3時から町中央生涯教育センターで国際リニアコライダー(ILC)講演会を開く。申し込み不要で、誰でも聴講できる。
 町がILC講演会を主催するのは初めて。本年度の施政方針演説で高橋由一町長は、町民向けの講演会や勉強会の開催など町内の機運醸成を図る姿勢を示し、既に役場庁舎に誘致実現を訴える看板を掲示。町村レベルで初めて、産学官連携の東北ILC推進協議会にも入会し誘致を後押ししている。
 講演会では、計画の基本的な概要や誘致活動の状況などを町民に伝える予定。講師は県の千葉彰ILC推進監。町総合政策課は「町主催はもちろん、おそらく町内でILC関連の行事を開くのも初めてとなるのではないか」と話し、多くの町民の参加を呼び掛けている。問い合わせは同課(電話0197-42-2111、内線2314)へ。
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tanko 2013-4-12 9:10
 野村総合研究所顧問や日本創成会議座長を務め、公共政策の観点からさまざまな提言をしている増田寛也さん(61)。岩手県知事を退いて6年経過した今でも、県民の間には一定の知名度がある。そんな増田さんの公式ホームページを開くと「夢」の文字が表示される。「ILCにはノーベル賞クラスの学者が家族と共に集まる。彼らと交流することで、地域の若者たちも国際的な感覚を自然と養い、やがて世界で活躍できる人材となる。そんな夢を描けるプロジェクトがILCだ」と語る。
 増田さんが最初にILCを知ったのは、知事就任間もない1995年。「県北の安比で素粒子物理学の学会があり、そこで初めてILCの前身計画である『JLC』のことを知った。これが日本に実現できたら、地域の発展に寄与するだろうと感じた」
 心の底から湧き上がる期待。しかし、それを公言できなかった。「情報が流出して、自治体間の誘致競争が過熱化するのを防ぐためだった」と増田さん。学術的根拠ではなく、地域都合や政治的駆け引きによって建設地が決まるのを避けたかった。
 そこで、県庁内のごく一部の職員だけに情報収集させた。その任務に携わった一人が勝部修・現一関市長(62)。3月25日、同市主催のILCセミナーで勝部市長は“水面下時代”の話に触れた。「『科学技術振興室』という部署にいたが、PRポスターを作ることも誰かに話すこともできずつらかった。別の事業構想を前面に出し、カムフラージュしたぐらいだ」
 セミナーに同席していた東北大学研究推進本部の吉岡正和客員教授は「一定の敷地に収まらないような規模の施設だし、国も認めていない。文部科学省も『勝手にそんな話を打ち出されては困る』という感じだった」と明かす。
 今はもう水面下の話ではない。ILC誘致への動きは日増しに活発化する。最新の情報では、海外候補地への立地の可能性が低くなっているといい、日本実現の期待がより一層高まっている。
 そんな状況を見つめながら増田さんは、日本がこれまで関わった国際プロジェクト推進方法に問題があると指摘する。
 「日本は、国民の合意形成を得られてから行政手続きを済ませ、その上で各国に参加意思表明をするスタイルを取ってきた。これは確実な方法だが、当然時間がかかり、『やります』と意思表示したときには、もう時間切れになっている」と増田さん。「国際交渉と国内対応を並行させて進める必要がある。そのためには前例主義に縛られずに、リーダーシップを発揮できる人材が必要だ」と強調する。
 建設資金については、「近年は単に利益の追求ではなく、社会的貢献に投資するという動きがある。国も地方自治体も財政は非常に厳しい状況にあり、公的負担は多少なりとも抑える必要がある」と、民間投資の活用を提唱する。
 ILCを通じ、自身にとって縁が深い東北、岩手を見つめ、考える場面が多くなった。増田さんは地域経済や雇用へのメリットとともに、子どもたちの育成に大きな期待を寄せる。
 「ILCにはノーベル賞クラスの頭脳を持った5000人規模の人たちが集結する。これらの頭脳と交流することで、地域の科学、文化、産業レベルが向上し、地方から世界に通用する人材を輩出できる。外国人研究者の家族との交流も、地元の若者が国際的な間隔を自然と養うことに結びつくだろう。ILC誘致に取り組むことで、こんな夢のようなことを具体的な設計図として描ける。実現に向け、候補地周辺の皆さんの支援を一層いただければ」と呼び掛けている。

写真=スイスの素粒子研究施設「CERN」を視察する増田寛也さん(日本創成会議事務局提供)
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tanko 2013-4-12 9:00
 ILC誘致に向けた活動が活発化する中、水沢区内のホテルで11日に開かれた本年度県市議会議長会(会長・村田芳三盛岡市議会議長)定期総会で、「ILC誘致推進市町村議会議員連盟」立ち上げに向けた提案が全会一致で了承された。今後の対応は村田議長に一任。町村議会議長会との協議などを進め設立を目指す。ILCの国内誘致を巡っては、国会や県議レベルの誘致議連が発足しており、12日には岩手県議会などが省庁要望する。研究者や一部関係自治体を中心に進められていた誘致活動は、全県の市町村レベルにまで広がる勢いをみせている。

 市町村議会級の誘致議連の立ち上げは、ILC建設候補地周辺の一関、奥州、陸前高田、金ケ崎、平泉の5市町議会の間で検討されていた。
 定期総会の議案審議終了後、一関市の菅原啓祐議長は出席者に、5市町議会での協議経過などを説明。「国内候補地の一本化については、7月ころに決定する見込み。誘致活動は、今まさに正念場を迎えている。東北の将来が大きく左右される重大な局面を迎えており、県内の市町村議会議員が結集して、北上高地への誘致実現に向け、その一翼を担っていきたい」と考えを述べ、全県的な組織の立ち上げに理解を求めた。
 その上で、会長を務める盛岡の村田議長に対し、県町村議会議長会(会長・田村繁幸一戸町議会議長)との協議などを要請。村田議長は「趣旨は賛成。市議会議長会はまとまっており、町村議長会長と話す機会をつくっていきたい。一任してほしい」と話し、全会一致で了承した。
 町村議長会との協議は今月23日に行われる予定で、発起人的な立場にある5市町議長も出席し趣旨を説明。賛同が得られれば、全県の市町村議会議員に参加を呼び掛け、誘致推進に向けた動きを広げていく考えだ。
 一関の菅原議長は取材に対し「全県の議員に賛同してもらえるとありがたい」と話した。

写真=「ILC誘致推進市町村議会議員連盟」の設立に向け、経過説明する一関の菅原啓祐議長
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tanko 2013-4-12 9:00
 県南広域振興局(遠藤達雄局長)は、県南広域圏に属する市町村に広くILC計画を周知しようと、同局独自のPRポスターとのぼり旗を作製した。管内8市町や関係する団体などに配布している。
 局独自予算である地域経営推進費を活用し、ポスター300枚とのぼり旗120枚を用意。管内市町や奥州地区合同庁舎、産業技術短期大学校水沢校、奥州宇宙遊学館のほか、水沢区や一関市の商店街組織にも配った。
 ILC計画の住民周知を推進するため、建設候補地の地元である奥州、一関両市では官民連携の誘致団体や市独自によるポスターや横断幕、看板などを掲げPRしてきた。同振興局独自の広報物が加わったことで、奥州、一関両市にとどまらず花北、遠野地区などでも計画の周知と誘致の機運を高めることにつながりそうだ。
写真=県南広域振興局が作製したポスター
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tanko 2013-4-11 14:40
 7月中にも結論が出るとされる国際リニアコライダー(ILC)の国内候補地一本化に向け、市の誘致活動が熱を帯びている。小沢昌記市長は11日から3日間にわたってスイス、ジュネーブの欧州合同原子核研究機構(CERN)などを視察し、現地の研究者らに東北誘致への熱意をアピールする。市はILC専用のホームページ(HP)を開設したほか、一関市と共同で広報用の小冊子も作製した。

 素粒子物理学の大規模研究施設のILC建設をめぐっては、今夏にも北上山地(北上高地)か北九州の脊振山地に国内候補地が絞り込まれる見通しとなっている。
 小沢市長は、県国際リニアコライダー推進協議会(元持勝利会長)の視察団の一員として、フランスとスイスの2国にまたがるCERNなどを訪問。陽子同士の衝突現象を捉える巨大な測定装置「アトラス測定器」の見学や現地の日本人技術者らとの情報交換、ILCを核とした国際学術都市形成のモデル自治体である仏・フェルネーボルテール市も視察する。
 小沢市長は10日の定例会見で、現地の都市整備状況や研究施設の運営実態を重点的に視察するとし、「東北がILCの最適地であるという熱意を伝えたい」と話した。
 視察団には小沢市長のほか、胆江地区からは奥州商工会議所の千葉龍二郎会頭、鎌田卓也副会頭、菅原新治専務理事、NPO法人イーハトーブ宇宙実践センターの大江昌嗣理事長らも参加する。
 大江理事長は「ジュネーブのような国際都市を見るのは初めて。そこで暮らす人たちの意識や、必要とされる都市機能なども含め学んできたい」と意欲をみせる。
 市は、東北誘致を目指す地元の機運を盛り上げようと、専用HP開設や小冊子作製など広報面も強化している。
 HPにはILCの完成予想図、市内の中高生や主婦、科学者ら6人のインタビューに加え、誘致に伴う新たなまちづくりなど市が描く将来像も盛り込んだ。HPの文章は日本語が基本だが、英語にも切り替えられ、市のHPから閲覧できる。
 小冊子のタイトルは「希望の光」。国内外に地元自治体の連携の度合いをアピールするため、一関市に共同作製を持ち掛けたという。「ILCは東北復興をけん引します」との副題を掲げ、日本語版と英語版を1000部ずつ発行。両市を訪れたことがない国内外の研究者のほか、希望する市民には市役所本庁4階のILC推進室で無料で配る。CERNを訪問する小沢市長も小冊子を数部持参し、現地で科学者らに配布する。
 小冊子には、北上山地の地理的特徴や世界の主要11都市からの所要時間のほか、江刺区から気仙沼市までの全長約50kmに及ぶ建設候補地と周辺の公共施設を地図で紹介。両市の観光地や特産品も写真で示し、衣食住を絡めた両市の魅力を発信する。
 このほか、官民組織の市国際リニアコライダー推進連絡協議会(会長・小沢市長)は「国際リニアコライダーを東北に!」と記したステッカー3000枚を今月中に作製。市民らの車の車体に張り付けてもらい、誘致活動の盛り上がりを後押しする。
(若林正人)

写真=奥州・一関両市が共同作製した小冊子
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tanko 2013-4-7 13:40
 公益社団法人経済同友会(代表幹事・長谷川閑史武田薬品工業社長)はこのほど、国際リニアコライダー(ILC)国内誘致実現に向けた提言を発表。「国内中小企業の活躍の舞台になり得る」と期待を込めた上で、政府の日本誘致表明を求めている。
 同友会は企業経営者が個人として参加する団体で、業種の垣根を越えて経済社会の諸問題について議論し、その成果を政策提言の形で公表している。ILCに関する今回の提言は、科学技術・イノベーション委員会(委員長・野路國夫コマツ取締役会長)でとりまとめられた。
 ILCがもたらす効果について「創薬・医療分野、環境・エネルギー分野をはじめ幅広い応用分野で新たなイノベーション(技術革新)を創出できる。高度な技術力を持つ日本の中小企業にも大きな活躍の舞台となり得る」などと評価した。
 建設候補地として日本が有力視されている実情を踏まえた上で、「日本政府は早急に日本誘致を表明し、実現に向けての議論の開始を関係諸国に提起すべきである」と主張。また、外国人研究者の居住環境整備や研究施設の民間利用、関連産業集積の検討など多岐にわたる課題に対処するため、省庁横断のプロジェクト・チーム設置も求めた。
 このほか、7月の参院選後になるとみられる国内候補地の一本化については「今後のオールジャパン体制構築のためにも、公正な選定プロセスで進めることが重要。専門家が進めている地質・地形等の技術面の調査結果に基づき、公正に判断されるべきである」とも訴えている。
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tanko 2013-4-5 15:19
 ILC誘致に向けた北上山地の地質調査のうち、江刺区米里(よねさと)地区の人首(ひとかべ)川沿いで実施していた作業が2日までに終了した。
 同調査は、東北大学が高エネルギー加速器研究機構(KEK)から事業委託を受け実施。米里地区では、主要地方道水沢米里線の和山バス停近くの人首川河岸で地表から45m付近の岩盤を採取した。また、周辺ではダイナマイトを使った弾性波探査も行った。
 今回の調査は米里地区のほか一関市の▽大東町興田(おきた)川周辺▽同町大原・早麻山(はやまやま)周辺▽室根町室根山西側・JR矢越(やごし)駅北部――の計4カ所で実施された。県政策推進室によると、早麻山のボーリング作業だけが残っているという。
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tanko 2013-4-4 15:10
 北上山地への誘致が期待される国際リニアコライダー(ILC)について安倍晋三首相は、2日に開かれた衆議院予算委員会で「政府としては研究者レベルでの国際的な設計活動の進捗状況を見定めながら検討したい」と述べた。今夏にも国内候補地が北上山地か脊振山地(北九州)のいずれかに一本化されるが、関係者によると政府の正式表明はそれ以降になる見通しだ。

 同委員会では、民主党の原口一博元総務相(比例九州)が「ILCについては国際社会から大きな期待が寄せられている。政府が腰を据えてやるという決断をこの内閣でやってもらいたい」と政府側の見解をただした。
 安倍首相は「(ILCを)日本に置くことによって、多くのトップレベルの物理学者、科学者が集まる。それだけでも、そこからさまざまなイノベーション(技術革新)が生まれる。他方、巨額な経費が必要になることもあり、留意する必要がある」と述べた。現時点では研究者レベルの設計活動などを見定めながら対応を検討する考えを示した。
 約8000億円とされるILC建設費用のうち、建設国はその半分を負担することが現時点で見込まれている。ILCを推進する科学者レベルでは、日本での実現を求める雰囲気が高まってきているが、費用負担などについては関係国との政府間交渉が必要となる。
 この点について、県政策地域部副部長の大平尚・首席ILC推進監は「研究者間のスケジュールでは、今年末までに意思表示をしてもらえればいいという方針。まずは国内2つの候補地を絞り込むことが必要で、政府の正式表明はそれ以降の話になるだろう」と説明。国内候補地の決定は、7月の参院選後になると予想されている。
(児玉直人)
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tanko 2013-3-30 11:20
 国際リニアコライダー(ILC)が実現した際に予測される地域の国際化に対応するため、市国際交流協会(佐藤剛会長)は29日、外国人市民だけで構成する「インターナショナル“ILC”サポート委員会」を立ち上げた。初会合では現状で考えられる課題を協議したほか、委員長に米ジョージア州出身で水沢区の英語講師ビル・ルイスさん(44)を選出した。外国人のニーズが高い生活サービスや地域住民の一員としての受け入れ対策など、必要とされる取り組みは多岐に及ぶため、行政提言なども視野に活動を進める方針だ。

 水沢地域交流館(アスピア)で開かれた初会合には、市内や住田町などに住む外国人市民6人が出席。前段、自身が移住し始めた直後に困ったことを発表し合った。
 日常会話にとどまらず「賃貸住宅を貸してくれない」「鉄道の案内アナウンスは日本語だけ」「クレジットカードが使えない店が多い」といった、さまざまな障壁があったことを明かした。
 このほか「自分が箸を使って食事をしていることに対し、いちいち驚いた反応をしてくる」「体育館や運動場はたくさんあるが、学校の部活動などに使われている。一般の人が余暇に自由に使っていいのか分からない」など、日本人住民には気付きにくい事柄も取り上げられた。
 後半はILC実現後に必要な対策について協議。外国人も使いやすい交通網の整備や町内会行事参加への呼び掛け、英語以外の言語にも対応した案内設備や医療環境など挙げられた。中には、大柄な体系の人が多いことから「サイズの大きな服や靴を購入できる店がほしい」という意見もあった。
 まとまった意見や提言は小沢昌記市長らに示し、誘致実現後のまちづくりに活用してもらう考えだ。
 ILC誘致が実現した場合、周辺地域にはピーク時で研究者と技術者だけでも3000人以上が集まると予想。その中には外国人が数多く含まれると見込まれ、一家そろって地域に中長期滞在することも考えられている。
 市国際交流協の渡部千春事務局長は「先輩外国人市民である彼らが、このような形でILC計画に携わることは意義あること。今までは、ILCの施設概要や経済効果などに関する講演会が多かったが、むしろ一般住民が深く関係し考える必要があるのは、こうした地域の国際化への対応や一人一人の心構え的なところだと思う」と話している。

写真=外国人市民だけで構成する、インターナショナル“ILC”サポート委員会で、地域に必要な機能を話し合うメンバーたち
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tanko 2013-3-29 5:40
 「ILC」という言葉が新聞紙面などに登場したのは、少なくとも4年前のこと。それ以前は一部の人しか知らない、“水面下扱い”のプロジェクトだった。
 「平成21年6月6日。あれはまさに解禁日だった」。社団法人国際経済政策調査会(PSG)の常務理事を務める高橋佑(たすく)さん(80)=一関市出身=は声高に語る。
 この「解禁日」とは、奥州市文化会館(Zホール)で開かれたPSG主催の第57回「加速器科学研究会」のこと。高エネルギー加速器研究機構(KEK)名誉教授の吉岡正和氏(現・東北大学研究推進本部客員教授)が、ILC計画の概要を説明。研究会は一般市民にも公開された。研究関係者が直接、有力候補地周辺の一般住民にILCの詳細を語ったのは初めてだった。
 高橋さんは、本紙を含むILC報道のスクラップを手にしながら、長年にわたるPSGとILCとの関係について語り始めた。
 PSGはそもそも、世界情勢や社会問題などに関する調査・研究を目的に1978(昭和53)年6月に発足した団体。初代理事長は衆参両議員を務めた水沢に縁がある故・椎名素夫氏だが、PSG設立時は政界入りする前だった。
 政治や経済、メディア関係者らを招いたセミナーを数多く開催。その記録を見ると、国内外の学識経験者、閣僚、政財界関係者が講師として名を連ねている。
 そのPSG内部に設けられているのが「加速器科学研究会」。国内外の幅広い情勢を研究対象にしているPSGが、ILCに力を入れることになったきっかけは、椎名氏の元を西沢潤一氏=工学者=が訪問したことだった。
 東北大総長や岩手県立大学初代学長を務めたことで知られる西沢氏。国内に大型加速器を誘致する構想があることを椎名氏に伝え、支援を要請した。
 西沢氏が加速器の最適地探しに動いていたのには、同じ宮城県出身でKEK初代機構長の菅原寛孝(ひろたか)氏(現・沖縄科学技術大学院大学教授)が携わっていたという背景がある。後に菅原氏も椎名氏に面会し、協力を求めた。ちなみに、このころはまだ「ILC」というプロジェクト名ではなく「JLC」だった。Jは「Japan=日本」のことだ。
 政界屈指の外交通として知られた椎名氏。実は、物理学者としての一面もあり、名古屋大学理学部物理学科を卒業し米・アルゴンヌ国立研究所に入所したという経歴がある。西沢、菅原両氏が繰り広げる専門的な話もすぐに理解し、事の重要性や考えられる国内効果も想像できた。「そばにいた私らは、何のことかさっぱりだったけど……」と高橋さんは笑う。
 「誘致実現には時間がかかる。まずは内々に勉強会を進めていこう」と椎名氏の声で1999年3月、研究会を立ち上げた。
 わずか数年のうちに一般市民に知られるようになった「リニアコライダー」「ILC」だが、関係者は10年以上も前から誘致の可能性を模索していた。過激な誘致合戦に発展し、客観的観点で候補地選びができなくなるなどの理由で、長年にわたり水面下扱いだった。このことについての詳細は、次回の当連載でも触れることになる。
 いずれにしても、ようやくILC実現への動きが目に見えるようになってきた。高橋さんは今後の動向についてこう分析する。
 「ILCは政府にとっては重たい仕事。つまりお金がかかる。(建設国が日本になった場合の負担額とされる)約4000億円の予算をかけて一つのプロジェクトを立ち上げた例がなく、主担当になる文科省の官僚も慎重だ。この額を全部政府が負担できるはずがない。民間の力が必要だ」
 その民間を理解させるための立役者として、元岩手県知事の増田寛也氏の名を挙げる。「ILC誘致を地域創造や経済再生とうまくリンクさせてくれる。彼(増田氏)の存在は民間活力を導入する上では大きい」
 ILCの北上山地誘致が決まった際、高橋さんは実行したい夢がある。
 「雇用面への効果が期待されているが、建設工事や何らかのサポート的な職業をイメージしている人が多いかもしれない。もちろん、周辺の関連作業で働く人たちも大切だ。だが、限りない可能性を秘めた子どもたちには、ぜひILCの中枢部で活躍してもらいたい。そういった願いもあって、人材育成に寄与できたらと考えている。何も東京や海外に出ていかなくても、自分の故郷で世界的な大発見に貢献できる仕事ができるのだから」

写真=長年にわたりILC計画を見つめてきたPSG常務理事の高橋佑さん(東京・赤坂のPSG事務所内で)

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