人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2023-1-24 13:00

写真=聴講者の質問に答える吉岡正和氏

 北上山地が有力候補地とされている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」に関する講演会(県ILC推進協議会主催)は23日、盛岡市内のホテルで開かれた。ILCを推進する研究者の栗木雅夫氏(広島大学大学院教授)と、吉岡正和氏(岩手県立大・岩手大客員教授)の2氏が講演。吉岡氏は施設建設に際しては、二酸化炭素排出量を減らし吸収量を増やす「グリーンILC」の取り組みが大切だと力説。本県の農林水産業関係者との連携が重要になると強調した。
 会場参加のほか、オンラインによる聴講も合わせて実施。開会に先立ち、同推進協会長の谷村邦久・県商工会議所連合会会長は「一日も早く(日本誘致に対する)国の意思表示が求められる。ILCの理解をさらに深めていただき、誘致実現に向けてさらなる支援をお願いしたい」と、参加者やオンライン聴講者に呼びかけた。
 講演前半は、栗木氏が素粒子実験の基礎知識やILCの概要をあらためて解説。「技術的成熟性が非常に高い。しかし、基本技術はできているからと言って、すぐ建設できるわけではない。性能や信頼性の向上をさらに目指すほか、国際協力をどのように進めるかという組織設計も必要。サイト(建設地)に関する検討では、岩手の皆さんの協力も必要になる」と述べた。
 後半は吉岡氏が、大型国際研究機関を日本に誘致する意義と、グリーンILCについて講演。素粒子実験を行うための加速器の研究に関しては、中国も国を挙げて力を入れているとしながら「個人的見解になるが、国際機関や国連機関の存在は、民主国家の象徴であり社会的地位を示すようなもので、強権国家には向かないもの」と持論を述べた。ILCのような国際研究機関を誘致することに、コストがかかるという意見もあると認めながら、「数千人規模の高度人材が超長期的に常駐する文化的波及効果は計り知れない」などと語った。
 二酸化炭素の排出量と吸収量を等しくするのを目指す「カーボンニュートラル」とILC建設を絡め、持続可能なエネルギー源の開発や廃熱回収技術の推進、二酸化炭素吸収量増加の取り組みには、地域協力が必要だと強調。「ILCと岩手の農林水産業の連携を深めるのが必然だ。県内の林業関係者らと折衝をしているが、地域の中で先進的に取り組んでいる企業体がいることは心強い」と述べた。
 同日は仙台市内のホテルで岩手、宮城両県議会の「ILC建設実現議員連盟」による講演会も行われ、高エネルギー加速器研究機構の山内正則機構長が「ILC計画の現状」と題し講演した。
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tanko 2023-1-21 9:00
 北上山地が有力候補地とされている素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致活動に携わっている素粒子物理学者の山下了氏が今月、岩手県立大学研究・地域連携本部特任教授に就任した。東京大学素粒子物理国際研究センター特任教授の任期が、昨年12月末で満了したことによるもの。県立大特任教授の任期は1年。県立大の鈴木厚人学長も同分野の研究者でILC誘致を推進している関係にあり、山下氏は引き続き誘致に関する業務に専従するという。

 山下氏は千葉県出身。京都大学大学院修了後、同センター助手、准教授を経て、2016年に同センター特任教授に就任していた。ILC戦略会議議長、高エネルギー物理学研究会議ILC推進パネル委員長なども歴任し、講演や誘致関係者との会合のため、本県をたびたび訪れていた。
 県立大の鈴木学長や同センター長の浅井祥仁教授らによると、山下氏は昨年12月末で特任教授の任期が終了。次の長期的な就任先が決まるまでの間、県立大特任教授を務めることになった。業務は、滝沢市の県立大キャンパスではなく、県東京事務所=東京都中央区=を拠点にILC誘致活動に携わる。鈴木学長は「月に何度か県庁や滝沢のキャンパスに来て対面の業務をすることはある」と説明する。
 一方同センターでは今月27日まで、ILC計画の推進や人工知能(AI)研究を駆使した物理研究手法の開発に携わる特任准教授を募集中。浅井教授は、山下氏の後任募集という趣旨ではないとした上で「大学が行う本来の活動は研究。新しいAI技術を投入した検出の方法など、分野内の課題解決につながる研究に従事する人材を確保するのが目的」と説明している。
 県立大は公立大学法人のため会計処理は県会計から独立しているが、県一般会計から「運営交付金」として、本年度は約38億円支出されている。これに授業料や各種研究交付金、寄付などを合算して人件費や研究費用、一般管理費などに充てている。21年度決算に基づく教員人件費は24億1574万6000円となっている。
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tanko 2023-1-12 9:00

臼田観測所の電波望遠鏡がFRBの電波をとらえるイメージ図=(C)東京大学

 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士課程の池邊蒼汰さん(24)=兵庫県出身=や国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長(51)らは、地球から約13億光年離れた宇宙から届く電波信号「高速電波バースト(FRB)」の検出に、日本で初めて成功した。池邊さんは同観測所にも所属し、本間所長らの指導を受けながら研究を進めてきた。本間所長は「FRBは天文学界で注目を集めている謎の多い天文現象。今後は水沢の電波望遠鏡も使って研究を進めることができたら」と願っている。研究成果は12日付の天文学専門紙「PASJ」に掲載された。
(児玉直人)

指導教官の本間希樹所長「学界が注目する現象」

 FRBは1秒に満たないが非常に激しい電波信号が突然届く現象。2007年に初めて発見された。爆発を意味する「バースト」の呼び名が付けられているが、発生源が銀河系の外にあるため、地球に届いても人体や日常生活、通信環境に影響を与えるようなものではないという。どのような天体が発生源になっているか分かっておらず、ブラックホールなどと同様「謎」のベールに包まれており、天文学の世界で注目されている現象だ。これまで100個以上の検出例があるが、いずれも海外の電波望遠鏡によるものだった。
 池邊さんらが観測したのは、おうし座の方向にある天体から発せられたFRB。昨年2月18日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用する臼田宇宙空間観測所=長野県佐久市=の電波望遠鏡(直径64m)を用い、日本初の検出に成功した。
 池邊さんや本間所長によると、FRBには同じ天体(発生源)から1回だけバーストが検出される「単発型」と、複数回検出される「リピート型」がある。過去の観測結果では、単発型のほうがリピート型より明るいという傾向が示されていた。しかし、池邊さんらが観測したリピート型のFRBは、単発型並の非常に明るい信号を発していることが判明。本間所長は「今まで言われていたシナリオが変わるかもしれない」と語る。
 池邊さんは水沢観測所が運営している天文広域精測望遠鏡(VERA)を使った研究にも取り組んできたが、今年で大学院を修了予定。「研究一筋ということはできないが、FRBの解析に必要なソフトウエアの開発など、何らかの形で今後も携わり、FRBの正体を解明したい」と意気込みを見せている。

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