人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2022-5-31 9:00

写真=ILC誘致実現に向けた取り組み内容を確認した県推進本部会議(県庁第一応接室)

 岩手県ILC推進本部(本部長・達増拓也知事)の本年度第1回会議が30日、県庁第一応接室で開かれ、素粒子実験施設ILC(国際リニアコライダー)の北上山地誘致実現に向けた取り組み内容などを確認した。当初、ILC準備研究所(プレラボ)の設置が本年度中と見込まれていたが、文部科学省ILC有識者会議が時期尚早と結論。研究者コミュニティーは有識者会議の議論を踏まえ、研究開発と国内での支持拡大に取り組む新たな活動方針を固めており、県は要望活動や受け入れ態勢の検討、地域住民や子どもたちへの理解増進などの取り組みの継続により誘致活動を推進していく。
(児玉直人)

 ILC誘致を巡っては、素粒子物理学者らを中心とする研究者コミュニティーが本年度中にプレラボを設置し、4年程度の準備活動を経て約10年の建設期に入る――とのシナリオを描いていた。県当局や関係市町、地域経済界を主体とした誘致団体などは、研究者コミュニティーと歩調を合わせる形で、受け入れ態勢の検討や住民の理解増進などに努めてきた。
 しかし有識者会議では▽各国政府の具体的な参画や経費負担に対する見通しが依然立っていない▽国民理解等が不十分――などの課題があらためて浮き彫りに。ILC計画の進め方を再検討する時期に来ているとして、日本誘致を前提とするプレラボの設置案も「時期尚早」との考えを提示。素粒子分野の発展を閉ざすことは本意ではないという観点から、立地に関わる問題をいったん切り離し加速器の開発研究などは段階的に展開すべきだとした。
 一連の流れを受け、研究者コミュニティーで組織する「国際将来加速器委員会(ICFA)」は、プレラボ設置の準備作業をしていた国際推進チーム(IDT)の活動を1年延長。必要な開発研究をしながら、日本におけるILC実現に向けた幅広い支持拡大のため活動していく新たな方針を固めた。
 県は研究者コミュニティーの取り組みを引き続き後押しする姿勢を維持。東北ILC推進協議会など誘致関連団体との連携、研究者コミュニティーとの密接な情報交換を図りながら、▽日本政府主導の国際議論の進展▽2023(令和5)年度概算要求における関連研究開発費等の措置――を求めていく。ただ、実際の活動は政府関係者らへの要望、受け入れ態勢の検討など従来と同様の取り組みが目立つ。
 小中高生らに対するILC周知を目的とした出前授業、研究コンテストも継続する。子どもたち向けの機運醸成に関しては、有識者会議の中で「科学への興味関心の促進と、プロジェクトの推進とは切り分ける配慮が必要」との指摘も出ている。
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tanko 2022-5-14 8:40

写真=ブラックホール撮影に携わった日本の研究者ら。前列左が本間希樹所長、同2人目が森山小太郎さん(国立天文台提供)

 天の川銀河(銀河系)の中心部にある巨大ブラックホール(BH)の画像公開から一夜明けた13日、国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の地元関係者からもあらためて快挙をたたえる声が上がった。12日深夜に都内で開かれた会見では、同観測所に縁がある若手研究者3人が発表。本間所長(50)は最後に短く謝辞を述べ、将来有望な若手の今後に期待を寄せた。国の研究予算が頭打ち状態で、若手研究者の雇用体制や研究費確保が厳しくなっている中、本間所長は「彼らがさらに活躍できる環境を整えていきたい」と語る。
(児玉直人)

 3年前に別の巨大BHの画像が公表された際、水沢菓子組合(千葉亮組合長)はBHをイメージした菓子を会員店舗ごとに開発。現在も好評を得ている。同組合の高橋一隆副組合長(48)は「まさに吉報。早速会員に『これは再びチャンスになる』と伝えた。近く会議をする予定で、何ができるか考えたい」と話す。
 水沢羽田町の老舗鋳造業、(株)及富(及川一郎社長)は、BHをイメージした鉄瓶を商品化。同観測所が実施しているクラウドファンディングで、30万円以上の寄付者に贈られる南部鉄器製おちょこ(限定品)の製造も手掛けている。同社の菊地章専務(65)は「経済が冷え切っている中、熱い情熱を持って研究している皆さんの思いが、人々の心を温めているように感じる」と快挙をたたえた。
 倉成淳市長は「歴史的な快挙にとても驚き、感動している。地域をさらに明るくし、喜びや勇気を与えてくれるもので、感銘を受けた子どもたちのチャレンジ精神の高まりに期待したい」とコメントした。
 今回の研究成果の意義について本間所長は、「地球から一番近い巨大BHなので、精密にいろいろなことが分かる。相対性理論の検証など、非常に重要な実験場になるのは間違いない。私たちが住んでいる天の川銀河の中心に存在しており、人類誕生の壮大な絵巻物を描く時、非常に重要な役割を担っているかもしれない」と説明する。
 撮影を行った国際プロジェクトチーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」では、多くの若手研究者たちが活躍。12日深夜の会見で成果発表した森山小太郎さん(31)は、数多くの解析画像を最終的にまとめ上げる大役を担った。
 兵庫県出身の森山さんは、ドイツのゲーテ大学フランクフルトに博士研究員として在籍中だが、2018(平成30)年から1年間、同観測所で研究活動をしていた経歴がある。「街の中に大きな電波望遠鏡があり、のどかな雰囲気が漂うが、研究者間のディスカッションは非常に活発で刺激を受けた」と回顧。「自分がまとめ上げた画像をあのような大きな会見で発表した瞬間、まさに感無量だった」と話した。

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研究資金調達、目標金額に達成

 国立天文台水沢VLBI観測所が、若手研究者らの研究資金等を調達するために実施していたクラウドファンディングが12日夜、目標額の1000万円に到達した。現在は次の目標額2000万円を目指しており、引き続き寄付を受け付けいる。6月17日午前11時まで。
 銀河系中心部のブラックホール(BH)撮影に関する記者会見を2時間後に控えていた日の午後8時ごろ、目標金額1000万円に到達。その後も寄付が相次ぎ、日午後5時現在で1114万4000円が寄せられた。当初目標が達成したため、同天文台は最終的な寄付額を全額受け取ることができる。
 寄付額は3000円から最高300万円。金額に応じて返礼品が異なる。インターネットでの申し込みとなり、検索サイトで「国立天文台 レディーフォー」と入力。「国立天文台 水沢VLBI観測所 進むブラックホール研究にご支援を」などと表示されたリンクへ進む。入金はクレジットカードまたは、銀行振り込みで。寄付額にシステム使用料220円と、銀行振り込みの場合は手数料が別途発生する。
 問い合わせは同観測所(電話0197・22・7111)へ。
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tanko 2022-5-13 0:00
天文台水沢、困難な画像解析で貢献


画像=国際研究チームが撮影に成功した地球から最も近い巨大ブラックホール(右下)と、銀河系中心部と太陽系の位置関係図(EHTなど提供)

 天文学分野の国際プロジェクトチーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」は日本時間の12日深夜、地球から最も近い巨大ブラックホール(BH)の撮影に成功したと発表した。3年前に別の巨大BHの撮影成功を公表して以来、人類史上2例目の成果。困難な画像解析に時間を要したが、プロジェクトに参加する国立天文台水沢VLBI観測所(本間希樹所長)の研究者ら日本のメンバーが、可視化に大きく貢献した。
(児玉直人)

 EHTは日本の国立天文台など世界13の研究機関・大学が出資し運用。300人を超える研究者が参加しており、うち14人が同天文台など日本の研究機関に所属している。
 今回公表された画像は、太陽系が属する天の川銀河(銀河系)の中心部にある巨大BH。地球から見て、いて座の方向にあることから「いて座A*(エー・スター)」と呼ばれている。地球から2万7000光年(1光年=約9.5兆km)離れており、重さは太陽の400万倍に相当する。
 観測自体は2017年に行われた。南北アメリカ大陸とハワイ、ヨーロッパ、南極に点在する8基の電波望遠鏡を連動させ、一つの天体を精密観測する超長基線電波干渉計(VLBI)の技術を用いた。いて座A*のほか、おとめ座の方向にある「M87銀河」の巨大BHなど複数の天体を観測しており、3年前に公表された画像は、M87銀河の中心にある巨大BHだった。
 同時期に観測したBHの画像公表に数年の差が生じたのは、いて座A*の画像解析が非常に困難だったためだ。
 画像で明るく見えるリングは「降着円盤」と呼ばれ、BHに吸い込まれようとしているガスやちりが、高温となりさまざまな電波を発しながら周回している。その動きはBHが大きくなるほど遅く見える。
 いて座A*の約1600倍あるM87銀河のBHは、一晩中観測し続けても降着円盤の動きが静止した状態となる。一方、いて座A*は数分で形が変わるほど降着円盤の動きが激しく、そのままではブレた画像しか得られない。
 EHTの研究者らは、BHの強力な重力で降着円盤のガスなどがどのような影響を受けているのか正確に調べ、ブレの影響を観測データから除去。これらの解析には水沢VLBI観測所の研究者のほか、同観測所に所属していた研究者ら日本人の若手が大きく貢献したという。
 2020年、銀河系の中心に近い天体が非常に強い力の作用を受けている点や、BHが形成される理論を証明したとして、3人の欧米出身者がノーベル物理学賞を受賞した。銀河系の中心に巨大BHが存在していることを間接的に示した成果だったが、今回の撮影画像は間違いなく巨大BHが銀河系の中心にあることを直接的に証明した成果になる。
 EHT所属の研究者らは12日深夜、日本を含む世界7カ所で同時に記者会見を開き、人類史上2例目となるBH画像を一斉公開した。
 都内の会見会場では、水沢VLBI観測所に在籍歴がある森山小太郎さん(ゲーテ大学フランクフルト博士研究員)と小山翔子さん(新潟大学大学院自然科学研究科助教)、本間所長の指導を受けている小藤由太郎さん(東京大学大学院理学系研究科博士課程在学)らが登壇し、研究の意義などを説明。本間所長も会見に同席した。

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