人類史上初ブラックホール撮影に貢献した国立天文台水沢VLBI観測所は、120年の歴史を誇り今もなお世界とつながっている観測拠点。奥州市東部が候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の話題とともに、岩手県奥州市、金ケ崎町における科学やそれに関連する地域の話題(行政・産業経済・教育・まちづくり・国際交流など)を随時アップしていきます。(記事配信=株式会社胆江日日新聞社)
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tanko 2021-2-26 12:40
 水沢龍ケ馬場の会社役員佐々木孝さん(65)は、市立水沢南小学校の校庭に反射板を設置し描いた直径30mほどの図形・六芒星を、人工衛星「だいち2号」に撮影させることに成功した。猛威を振るう新型コロナウイルスの早期収束、医療従事者への応援を込めた「地上の星」。子どもたちの健やかな成長への願いも乗せ、輝きを放った。(松川歩基)


写真1=水沢南小の校庭に輝く地上の星(JAXA提供の衛星写真)。矢印が差す部分が太陽光の反射で浮かび上がった六芒星

 東京都千代田区に本部を置く公益財団法人日本宇宙少年団のリーダー資格を持つ佐々木さん。コロナ下にあって自分に何かできることはないかと考えを巡らせていた時、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の企画「だいち2号にうつろう」に目が留まった。
 地域観測や災害状況の把握を狙いに2014(平成26)年5月に打ち上げられた「だいち2号」を使い、地上に描いた文字などを撮影しようという企画。佐々木さんは同少年団を窓口に申請し、1月18日と2月18日に同校校庭を使った撮影に挑んだ。
 反射パネルとしてアルミホイルを貼った1辺62〜78cmほどの板を使用。板3枚を1組として組み合わせたコーナーリフレクターという手法を使い、はるか上空の「だいち2号」に向けて効率的に光を反射するよう工夫した。


写真2=実際に撮影に使用した反射板「コーナーリフレクター」と佐々木孝さん

 1月の挑戦では校庭の7カ所(点)に板を設置し、同小のイニシャル「M」の撮影に挑戦。しかし、設置角度の微細なずれなどにより、文字を判別できるほどの撮影はできなかった。
 反省を生かした2回目のチャレンジでは、設置位置の測量を念入りに実施。理想の角度としてJAXAから指示を受けた「北から東側へ100度」を正確に測った結果、撮影に成功。18日午前11時42分ごろ、12点合計36枚の板を使用した六芒星(星形)が衛星写真に輝いた。
 六芒星は魔よけの意味がある図形として知られ、新型コロナの退散や医療従事者への応援を込めて選んだという。「小学校を会場にしたことで、当初は考えていなかった子どもたちの成長という願いも込めることができた。子どもたちが将来、地上で輝く立派な星々として活躍してくれたら」と佐々木さん。25日、同校を訪ね、撮影成功の報告と「だいち2号」が撮影した画像データを届けた。
 菅原文彦校長は「佐々木さんの活動の趣旨が、日ごろ児童たちに指導している『思いやり』の心に通じるものであったことから賛同し、協力させてもらった。天文台に近い学校であり科学教育に力を入れたいという思いもあった。児童たちに取り組みを知ってもらい、思いやりの心を育むとともに科学への興味関心にもつながってくれたら」と話していた。
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tanko 2021-2-23 12:20
 国立天文台と統計数理研究所(統数研)などの研究者チームは、同天文台水沢キャンパス=水沢星ガ丘町=に設置しているスーパーコンピューター「アテルイ?」を使い、宇宙のごく初期の様子を探る新手法を開発。この方法を活用すれば、宇宙の始まりを検証する作業時間が大幅に短縮できるという。(児玉直人)



再構築法により宇宙の始まりを解析する研究のイメージ図。右手前は現在の宇宙に分布する銀河の姿で、左奥に行くほど過去の宇宙の姿=(C)統計数理研究所


 研究チームが考案した手法は、「再構築法」と呼ばれる方法を利用。1980年代に別目的の研究のために考えられてきたが、宇宙誕生にまつわる理論の検証に見合った精度が得られるのか、明らかになっていなかった。
 今回の研究により、再構築法が宇宙の過去を知るのに十分に活用できる点が証明された。従来手法では、より多くの観測データが必要とされていたが、再構築法を用いれば、必要な観測データは10分の1程度で済む。これは「観測時間が10分の1に減る」という意味にもなり、観測や研究に費やす時間、経費の抑制にもつながる。
 再構築法の精度を確かめるため、研究チームは仮想的な「初期の銀河分布」のデータを4000種類用意。天体同士の重力作用などを反映させたシミュレーションにより、「現在の銀河分布」に進化させたデータを作成した。続いて「現在の銀河分布」のデータに再構築法を施し、「初期の銀河分布」の状態まで時間を逆戻しするシミュレーションを実施。一連のシミュレーションに用いたのが、天文学専用スパコン「アテルイ?」。シミュレーション前後のデータを比較すると、非常によく似た性質が得られた。
 宇宙誕生を解明する研究には、宇宙に直接行く探査や天体観測、北上山地に誘致しようとしている実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」のように、人工的に宇宙誕生時に近い環境をつくり、検証する方法などがある。ただ、現状の技術で得られる成果や予算的な面などから、いずれの手法にも一長一短がある。
 日本の基礎科学研究は厳しい財政事情などを背景に、低コストや効率性を意識した質の高い研究成果が求められている。既存装置を有効活用した今回の成果は、効率的手法の好例として注目が集まりそうだ。研究を主導した同天文台の白崎正人助教(33)=統数研出向=は「効率的に宇宙誕生の謎を検証できる“時短テクニック”を手にしたようなもの」と意義を強調している。
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tanko 2021-2-16 12:40
 奥州市立水沢中学校(千葉和仁校長、生徒466人)で15日、国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長(49)が「これからの中学生に期待すること〜一天文学者から〜」をテーマに講演。1年生156人が耳を傾け、本間所長自身の仕事への向き合い方を通し、失敗を恐れず夢に向かって挑戦する大切さを学んだ。(田中伸吾)


写真=中学生に「好きなものを見つけてほしい」とエールを送った本間希樹所長

 1年生は、総合学習の中で職業研究を実施。郷土への理解も深めてもらおうと、地元で活躍する人材による講演機会を授業の一環として設けた。
 本間所長は、自身の天文学者としての仕事について紹介。「天文学者は日本に1000人ぐらいいるが、もうからないから企業には天文学者はいない。いつか役に立つかもしれないし、宇宙の謎を解き明かしたいという気持ちでやっている」と話し、「好きという自分の思いがないとどんな仕事も続かない」と強調した。
 生徒からの「宇宙人はいると思うか」という問いに、「地球人がいるからいると思う」と答える場面も。同天文台やブラックホール研究についても解説し、宇宙科学の魅力を発信した。生徒へのメッセージでは「職業を選ぶのはまだ先なので慌てずに考えよう。好きなことを見つけいろいろ挑戦してほしい」と語り掛け、将来へ夢を広げる若者たちを激励した。
 生徒たちは、興味深げにうなずいたりメモを取ったりと本間所長の講話に夢中。美容師を目指している鈴木虎太郎さん(13)は、「あまり深く考えずに好きなことに挑戦してみることが大事だと感じた。ブラックホールについてもよく理解できた」と声を弾ませた。
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tanko 2021-2-9 12:10
 岩手県は8日、歳入歳出をそれぞれ8104億7700万円とする2021(令和3)年度一般会計当初予算案を発表した。前年度当初比で13.1%少ない。東日本大震災から10年目を迎えることもあり、土木・建設工事中心とした復興事業が大幅に減少。震災分予算は667億3900万円で、同比74.4%減った。対照的に新型コロナウイルスの感染防止や経済支援策に、震災分を上回る958億5100万円を計上した。当初予算案は17日招集予定の県議会2月定例会に提案され、審議される。(児玉直人)

 21年度予算は「命を守る幸福希望予算」と名付けられた。達増拓也知事は8日、県庁で行われた会見で「新型コロナ対策が大事だということ。加えて大震災直後の原点に立ち返ったつもりで、復興をさらに進めていこうとの思いから『命を守る』という言葉を掲げた」と述べた。
 県予算は12年度以降、一般的な行政運営や全県を対象とした予算を「通常分」、震災復興に関連した予算を「震災分」に大別している。21年度予算ではさらに、通常分の中に「コロナ分」の項目を設け、新型コロナ関連事業が予算全体に占める規模を明確化した。
 通常分歳入のうち、県税などの自主財源は3282億5900万円で通常分全体の44.1%に相当。地方交付税など依存財源は4154億7800万円で、55.9%を占める。
 自主財源は前年度当初と比べ593億8600万円(22.1%)増だが、県税収入は新型コロナの影響による県民所得や企業収益の減少を見込み、前年度当初より97億5400万円(7.4%)少ない1216億7200万円とした。
 自主財源増加の要因は、新型コロナ対策関連の制度融資事業費の増額によるもの。県が融資の取扱金融機関に預託した原資は、年度末に諸収入として戻される。自主財源に区分される諸収入額は、前年度当初の倍以上となっているが、預託額が計上される歳出の貸付金(その他経費に区分)もほぼ同じくらい増えている。
 通常分歳出は、人件費などの義務的経費が2832億5500万円(前年度当初比1.0%減)。普通建設事業費など投資的経費は852億6500万円(同比13.1%減)。補助費などを含むその他経費は3752億1800万円(同比30.7%増)となっている。
 震災分は、土木・建設などのハード系事業の多くが終了し、被災者の心のケアや起業支援、防災教育といったソフト面の充実に移行している。県は総務部総合防災室と大震災直後に設置した復興局を再編し、復興防災部を新設。三陸TSUNAMI会議(仮称)や、防災推進国民会議2021の開催などに取り組む。
 震災分を上回る規模の予算措置が講じられる新型コロナ対策では、入院施設の確保に134億9440万円、医療従事者への手当支給補助に1億6840万円計上。蔓延防止として、幼保施設や学校施設、介護施設などの改修や施設整備、生活困窮者の支援なども展開する。
 素粒子実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」誘致に係る推進事業費は1億120万円(前年度当初比17.7%減)。平泉世界遺産登録10周年関連では、記念事業や交流人口拡大、ガイダンス施設管理運営に合わせて1億2210万円を計上している。
 新規にU・Iターン就職者や新婚世帯向けの新生活支援、若者が先輩・上司に助言する「リバース・メンター制度」を参考にした取り組みを導入するなど、人口流出対策につながる若者の定住や活躍支援策も展開する。
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tanko 2021-2-3 12:00

写真=金ケ崎町立図書館で7日まで開催中の宇宙×ILC企画展

 金ケ崎町立図書館(及川敏雄館長)で、企画展「宇宙×ILC」が開かれている。宇宙の奥深さや、北上山地が建設候補地となっている国際リニアコライダー(ILC)の魅力をパネルなどで分かりやすく紹介。関連蔵書約20冊も並び、来館者の宇宙に対する好奇心をくすぐっている。2月7日まで。
 県南広域振興局が国立天文台水沢VLBI観測所と連携して開催。同館も協力した企画展示で、町民らに宇宙への関心を高めてもらおうと催している。
 国立天文台水沢キャンパスや同観測所の歩みを紹介したパネルのほか、天の川銀河の星の動きを図で示した大型タペストリー3枚も掲げられ、来館者の興味を引いている。
 宇宙の仕組みやILCの意義を丁寧に解説した蔵書も展示。同観測所の本間希樹所長が執筆した論文に加え、小惑星探査機「はやぶさ2」が砂を持ち帰った小惑星リュウグウの3Dモデルなど関連資料も披露している。ILCの構造や、建設後に期待される周辺都市の変化をイラストを交えて説明したパネル5枚も並ぶ。
 国立天文台を含む国際研究チームが世界で初めて撮影に成功したブラックホールの画像を用いた顔出しパネルも置かれ、子どもらを楽しませている。
 同館の千葉哲係長は「宇宙への興味を深めていただけるいい機会。楽しく学んでもらえたら」と多くの来館を呼び掛ける。
 展示に見入っていた同町西根本町の高野二郎さん(69)は「展示を機に、北上山地へのILC誘致を望む機運が一層高まれば」と願っていた。

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